騎士と妖精と熾天使の幻像
 
序章 第4話.命名 
 
 
シンジは凍り付いていた。
 
「どしたの?」「どうしたシンジ」
 
ラキシスとマキシマムにはどうなっているのか解らない。
目覚めた自分たちの妹はシンジをマスターとして認めた、実は二人にとっての最大の心配事は妹がシンジをマスターとして認めるかどうかと言うことだった。
どれほど腕の立つ騎士でもファティマはパートナーとして選ばないことがあるからだった。
しかしシンジは無事にマスターとして認められた、だがそのシンジの様子がおかしい。
まるで、喜怒哀楽全ての感情が入り交じった様な複雑な表情のまま凍り付いていた。
 
「どうか私をお選びください、マスター」
 
再び少女の口から紡がれた、しかしシンジはまだ凍り付いたままだ。
シンジには答えられなかった。あの綾波レイによくにた少女が自分の目の前にいる。
自分の弱さのせいで死なせてしまった。そして、そればかりか拒絶して傷つけてしまった。あの彼女が目の前にいる。シンジには言葉がかけられなかった
 
「あの、騎士様。私の事がお嫌いなのでしょうか。」
 
その口調がわずかながら悲しげな響きを帯びた事に気づき、少女を見ると彼女の表情は今にも泣き出しそうだった。
そしてその表情にシンジはやっと反応する。
 
「え、ええ、僕のこと?」
「何をやっているシンジ早く認めてやれ、何時までも妹を待たせるな。何か言いたいことがあるのなら後で聞く。まずは妹をパートナーとして認めてやれ。」
「は、はい、あ、あの、その、ぼ、僕は碇シンジですよろしく。」
「はい、シンジ様ですね、まだ生まれたばかりで何も出来ない私ですがこれからよろしくお願いいたします。」
「あの、様なんてつけなくて良いから、その、シンジでいいよ。」
「ですが・・・」
 
あくまで低姿勢な少女に対してシンジはとまどっていた。
そこにラキシスの助け船が入った。
 
「ハーイそこまで、この子も何時までも裸で居るわけにも行かないんで蒔子とシンジは先に上に行っててもらえる?そうだシンジはこの子の名前でも考えててね。」
 
ラキシスの一言でシンジは少女が裸のままであることに気づき顔を真っ赤にする。
大慌てでマキシマムを引っ張って退出し、地上の家へと戻る。
そして、応接室でシンジはマキシマムに先ほどからの疑問を問いかける。
 
「師匠、彼女は一体・・・・」
「あれは私たちの妹だ、姉上の言ったように名義上バランシェファティマのナンバー47を与えているが実際にベースとなる遺伝子情報は私と姉上の物を元にしたファティマだ。
もっとも身体的特徴にはお前の遺伝子情報を使用したがな、そのおかげで大抵の検査では遺伝子上のお前たちの違いを見つけられないようになっている。」
「それじゃあ、彼女が綾波ににているのは僕の遺伝子情報を使ったからなの?」
「さっきもその名を口にしていたな、その綾波という人物とはどういう関係なのだ?」
「実は・・・・」
 
シンジは綾波レイに関する全てを話した。内容的にはかつてラキシスに語ったのと同じ物だが、懐かしい綾波の顔を見た今にシンジには個人的な感情を抑えれきれなかった。
そのせいでシンジはかつて綾波にどういった感情を抱いていたかマキシマムにばれてしまった。
 
「そうか、そうだったのか、それであれほどお前が動揺していたのか。」
「はい、でもよく考えてみると彼女、顔立ちは綾波よりも母さんにそっくりなのにどうしても綾波のように思えてしまうんです。」
「ふむ、お前の中にある潜在的な願望だろうな。お前はその女性に対して著しい負い目と恋心を感じていたんだろう。だからこそもう一度彼女に会いたいという強い思いがお前の心の奥底にあるため、何となく似ている彼女にその影を重ねているのだろう。」
「はあ、そうかもしれませんね。」
 
確かに綾何と母ユイはよく似ていた。それも仕方のないことだった、元々綾波はユイをサルベージする段階でユイの遺伝子をベースに初号機によって作り出された存在だからだ。
そして、彼女の顔立ちは明らかに綾波よりもユイの若い頃と似ていた。
しかしシンジは彼女の顔を見てユイよりも綾波を思いだしてしまった。
それこそがシンジが綾波に片思いのままであることの証拠だった。
 
応接室に重苦しい空気が漂いつつあったが、しばらくすると扉の向こうからそれを吹き飛ばす元気な声が届いた。
 
「二人とも入るよー」
「ええ、どうぞ姉上」「姉さんどうぞ」
 
 
二人は一瞬で気持ちを切り替えた。そしてラキシスにこの雰囲気を気づかれないようにハッキリとした声で返事をした。
二人の返事を聞いて扉が開くとそこにはラキシスと先ほどの少女が立っていた。
しかし少女は先ほどと違いラキシスのファティマスーツによく似た白いスーツを着ていた。
 
「はーい、シンジ、おまたせー、どう?かわいいでしょ、似合ってるでしょ」
 
たしかにとても似合っていたラキシスのスーツに似ているものの金属等のアクセサリ部分が少なく文字道理、純白のスーツであった。
しかし、その姿はシンジにとって綾波レイの面影をより一層強くさせる物であった。
 
「綾波・・・・」
「シンジどしたの・・・具合悪いの?」「マスター大丈夫ですか。」
 
二人が心配してかけよる。そのとたんシンジは涙を流し彼女に謝り続ける。
 
「ごめん君は綾波じゃないけど、けど、けど、ぼくは・・・・」
「あの、マスター気が済むのでしたら・・・好きなようになさってください。私はマスターのためだけに存在するのですから。」
 
彼女は優しくシンジを抱きしめた、シンジもまた彼女の腕の中だ静かに涙を流し続けた。
 
「うん、なかなかいい具合じゃない。」「そうですね、結構お似合いですね姉上。」
 
二人の何気ない一言にシンジは我に返る、そして工房の時と同じく顔を真っ赤に染める。
 
「ご、ごめんなさい」
「いえ、よろしいのです。私はマスターの為に何か出来ることが嬉しいのです。」
「え、えーと、そうだ君の名前って、うーんごめんすっかり気が動転してて何も考えてないんだ。」
 
「アヤ、綾というのはどうだ。」
「師匠」「蒔子」「兄様」 
 
マキシマムの一言に三人振り返る。
 
「姉上、シンジに先ほど聞きましたが妹は「綾波レイ」と呼ばれていた女性によく似ているそうなので、そこから一字を取って「綾」というのはどうでしょうか?確かシンジお前も彼女のことを「綾波」と呼んでいたな?」
「ええ、彼女は、その、よく似ているんです。」
「ならどうだ、妹よ」
「はい、マスターの大切な方から名前をいただけるなんて・・・」
 
シンジは複雑な気持ちながらもそれで良いと思っていた。
かつての綾波とは違う存在だが、その姿はあまりにも彼女を思い出させる物であった。
だからこそ、かつての彼女とは違うとはいえ名前を一部とはいえ与えたかったのだろう。
 
「うん!なかなか良いんじゃない。京姉様達みたいでいい感じだよ。
綾、貴女ははこの名前気に入った?シンジも良いって言ってるみたいだし。」
 
「はい、すてきな名前をありがとうございますマキシマム兄様。
マスター、私の名前は綾と言います。あらためてよろしくお願いいたします。」
「うん、こちらこそよろしく。」
 
どうやら、シンジや綾だけでなくラキシスもその名前を気に入っているようだ。
この日、新しい家族が一人増えた。
そして彼女は、シンジの永遠のパートナーとなった。
 
そしてシンジは心の中で誓った。
(僕は絶対に綾を悲しませない、泣かせたりしない)と、そして(綾波もう一度君に会えるかどうか解らなけど、もう一度出会えたときには君をきっと人間にしてみせるから)
それはシンジの中でハッキリとした目標の一つとなった。
 
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あとがきのかけら
 
ふぇいです、またもやすいません。短いと言っておきながら修正の段階でかなり加筆しちゃいました。
おまけに、これ直しているおかげで第8話の執筆遅れちゃいそうです。
すいません完全にペース配分ミスったわたしの責任です。
 
そんなわけで第4話です。
一人前になったシンジにラキシス達からの贈り物、なんと綾波そっくりの美少女(それも裸)
その名は綾です。
実はこれFSS内でもラキシスの姉たちの中に時、京、町、静といった名前があるので、それなら綾波の名前から一字取って「綾」という風に決めました。本文でマキシマムが言ってましたよね。
最初はレイ(零、玲、麗)を考えていましたが、後でレイが出てきたとき紛らわしいのでこっちにしました。
何だか綾波の時と似ている点が多いですね、こちらの方が感情という面では人間らしいです。
人形のような人間綾波と、人間のような人形(妖精)綾、ある意味全く対照的ですね。
かつては片思いだった綾波に対する思いが今度はどっちに傾くことやら?
最後の決意も意味を取り違えると修羅場になりそうです。
全くシンジは責任取れるのでしょうか?作者の私自身解りません。
しまいには第2話のあとがきで言ってたサイコロ、シンジの分も振ってみようかなんて思いました。でも振りません、こいつが何処へ行くか解らなくなったらそれこそ話が進まない&終わらない。
と言うわけですが、一応もう少しこの異世界編ともいえる序章に今しばらくおつきあいください。次でラストの予定です。
 
FSSファンへのお詫びと説明
綾のファティマスーツに関する説明ですが、プラスチックスタイルではありません。
デザイン的にはラキシスの白のデカダンスタイルのスーツよりもミラージュ用の京のファティマスーツにクローソのスーツのような肩パーツが着いています。