騎士と妖精と熾天使の幻像
 
序章 第3話.天位
 
 
 
十数年の時が流れた。
 
世界は変わらず、ただどこまでも紅い世界が広がっていた。
ただ、以前のサードインパクト直後とは明らかに違うところがあった。
今のこの世界にささやかながらも人の気配が強くなっていた。
それは・・・・・
 
紅いLCLに包まれた世界で二人の剣士が剣を交えていた。
片方は長大な太刀を振るう美女と見間違うような美しい青年。
もう一人は、白銀の髪に真紅の瞳を持つ幾分若い中性的な顔立ちの少年
 
青年の方は明らかに余裕を持って相手をしているようであった。
対して少年の方は全力で相手をしていると言うような雰囲気であった。
実際、少年・碇シンジはこれまで一度も師匠である青年・マキシマムの体に剣をかすらせたこともなかった。
マキシマムが剣の稽古を初めてはや10年以上の時が流れた。
最初の一年間、剣はおろか生身での戦闘の経験すらないシンジにとって毎日が地獄であった。
いかに神として超越的な力を持っていても、肉体本体は今までに対して筋力や反射神経がよても所詮人間のレベルで騎士のレベルとはほど遠かった。
唯一大きな違いがあるのは、どのような怪我でも再生してしまう凄まじい再生能力だけであった。
 
しかし、そんな肉体であったからこそマキシマムの訓練は地獄であった。
訓練開始の初日だけでシンジは100回以上も死を体験した。しかし、その再生能力は致命傷を負った肉体までも蘇生させる程であるが、そのたびに凄まじい苦痛に苦しめられた。
そして不完全ながらも使徒の自己進化能力によって、蘇った時にはその肉体が成長していく。日々この繰り返しであった。
幾度と無く挫けそうになる度にシンジはこの紅い世界を目にして、そして立ち上がった。
その甲斐もあってか既にシンジの肉体は騎士としての力を持っており、既にいくつかの天位剣技を拾得していた。
 
キィン、
マキシマムの死角から剣が襲いかかる。しかし彼はそちらも見ずに剣ではじき返す。
 
「遅い!」
 
バシッ、ザッシュ
今度は目に見えない衝撃波と真空波が襲いかかる。しかし彼は素手でそれらをかき消す。
 
「どうした、ショックブレード(仁王剣)とメイデンブレード(真空剣)の連撃にしては間が有りすぎるぞ!」
「くそっ、これならどうだ!」
 
グォォォォン
巨大なストームウェーブが襲いかかるが、またもや彼は自分の生み出した衝撃波によってかき消す。
 
「ほう、やっとソニックブレード(真空切り)をマスターしたか、少しは進歩したか?」
「これでもだめか、それならこうだ!」
 
ザンッ、ザンッ、ザンッ
シンジの姿がかき消えたかと思うとその場に三人のシンジが現れた。
高速移動により自分の分身を作り出したのだ。
 
「ほう」
「いけ!」
 
ブォン、ブォン、ブォン
今度はその3人のシンジから同時にストームウェーブが襲いかかる。
マキシマムを直撃したかに見えたが。
 
「なるほど、三つ身分身からのソニックブレードか、独学でそこまで来たのか。だが、威力が落ちているな、それにもう少し工夫すればもっと強力になるのだがな。」
 
彼は涼しい顔をしてその場に立っていた、まるで何もなかったかのように。
 
「うそ、これでもだめなの。」
「いや、考え自体は悪くない。よし良い機会だおまえにこれから剣聖剣技の一つをみせてやろう。」
「え、剣聖剣技?天位剣技じゃないんですか?」
「ああそうだ、一度しか使わんその身で受けて自らのモノにしろ。 行くぞ!」
「ちょ、ちょっとまってくださ・・」
「問答無用!」
 
グォォォン、ザンザンザン、
さっきのシンジと同じようにマキシマムの体が3つに分身する、そして3つのソニックブレードが放たれる。
だがシンジの時とは違いソニックブレードが放たれた瞬間マキシマムが衝撃波と共につっこんでくる。
 
バシッィィィ
「うわぁぁぁぁ」
 
シンジは瞬間的にソニックブレード同士の間に飛び込みマキシマムの斬撃をぎりぎりで回避する。
しかし、いくら直撃を免れたとはいえソニックブレードの余波は凄まじくシンジの体は全身傷だらけであった。
 
「ほう、うまく受け流したか、なかなかやるな」
「ちょ、ちょっと師匠今のは洒落になんないですよ。避け損なったら僕、三枚に下ろされてたじゃないですか。」
「いや、こういった剣技は実際受けてみた方が身に付きやすいのだ。第一、私も師匠からこの方法で剣技を学んだのだ。それに手加減ならしたぞ、いつもの私ならこの倍は打ち込むぞ。」
「な、なんて非常識な。僕ならともかく失敗したら死んじゃいますよ。」
 
相変わらずこの師匠の非常識さには呆れかえる。全く人が不死身だから全く手加減しない。文字通り死ぬまでしごかれる
シンジはこんな風にマキシマムを育てたその師匠に恨み言を言いたくなった。
 
「この程度で死ぬようなら死んでしまえ、生半可な腕で戦場に立っても無駄死にするだけだ。」
「そうかもしれませんけど、それにしても今の技・・・」
「どうだモノにできそうか?」
「はい、まさか三つ身分身から連続衝撃波と一緒に飛び込んでくるとは思いませんでした。」
 
シンジはさっきの技を回避するために必死で観察していた。その甲斐もあって今の技の仕組みを完全に理解していた。
 
「ふむ、どうやらモノに出来そうだな。どうだ工夫次第ではこういった風に相手に回避させにくいようにすることも出来る。」
「はい、確かに僕の仕掛け方じゃかわされたらおしまいですから。」
「そうだ、パラレルアタック(分身攻撃)やディレイアタック(残像攻撃)のたぐいは攪乱や牽制に使った方がいい。そうして相手の動きを限定させる。」
「そして必殺の一撃を加えるんですね。」
「そうだ、だがそこで満足するな。今のおまえのように回避するモノもいるかもしれん、そういったときの為に常に次の行動を予測し準備しておくものだ。」
「とても勉強になりました。」
 
どうやらシンジはマキシマムにとっても優秀な弟子のようだ。
なぜならシンジは師の期待に必ず応えているからである。
たとえ、どれほど時間がかかろうとも必ずやり遂げる、それを見て続けてきたマキシマムはシンジは将来自分に匹敵する騎士になる。そう確信していた。
 
「うむ、今の技名はブレイクダウン・タイフォーンといいソニックブレードと同じく剣聖剣技の一つだ。」
「さっきも言ってましたけどソニックブレードって何ですか?」
 
マキシマムの言葉にシンジが不思議そうな顔をする。
しかしその一言によってマキシマムもまた不思議そうな顔になる。
 
「なんだソニックブレードも知らずにさっきの技を使ったのか?」
「はい、ただショックブレードの衝撃波をメイデンブレードに乗せて打ったですけど。あれソニックブレードって言うんですか?」
「はっはっは、そうか、そうか。いや、それで正しいのだ。」
 
マキシマムは不思議そうな表情から非常に嬉しそうに笑い出した。
シンジには信じられなかった今まで幾度となく師匠に笑われることはあったが殆どが嘲笑とよべるものであり、これほど嬉しそうに笑う姿は初めてであった。
 
「これでおまえも天位を名乗るのにふさわしくなったな。」
「本当ですか!」
「ああ、何も知らずに自らソニックブレード編み出すとは天位どころか小天位を与えても良いところだ。」
 
にわかには信じられなかった、これまでシンジは誉められたことなど殆ど無かったが、これほどしようが誇らしげに嬉しそうに誉めてくれることなど初めてだった
今日はシンジにとって驚くことばかりであった。
 
「さて、それではそろそろ戻るか姉上も待っていることだろう。」
「はい、きっとお腹をすかせて待っていると思います。」
「よし、では早く戻るとしよう。」
 
足下に巨大な影が現れ二人の姿を包み込む、そして影が消えると共にその場に人の姿は消えて無くなる。
そして、時を同じくして遙か遠く離れた地に同じ影が現れる。そして影の中から二人の姿が現れる。
ディラックの海、かつて感情の高ぶった時にしか使えなかった使徒の力の全てをシンジは完全に制御していた。
 
「おかえりー、今日はいつもより早いんだね。」
 
それほど大きくない一軒家の中から一人の女性がでてきた。
女性は少し驚きながらも二人を出迎えた。
 
「ただいま戻りました。姉上」「ただいま、姉さん」
「ねえねえ、どしたの今日はなんだか蒔子がとっても嬉しそうなんだけど、シンジなんかあったの?」
「姉上、今日シンジに天位を与えました。」
「うそっ、もう天位あげちゃったのかなり早かったわね。蒔子一体どうしたの?」
 
ラキシスは珍しさから問いかけたが、マキシマムの答えはさらに驚かせる物だった。
 
「今日シンジは独学でショックブレードとメイデンブレードからソニックブレードをを編み出したのです。」
「すごいじゃない!独学でソニックブレードを組み上げるなんて!」
 
ソニックブレード、それはジョーカー太陽星団の騎士達の間ではもっとも有名な剣聖剣技であった。
実際には天位クラス以下の騎士でも使うことが出来るが、そういった者の殆どが有る程度の予備知識を持っているのに対して、シンジは全くのゼロの状態から編み出したのである。
いくら下地になる二つの技が使えると言っても、そこまでたどり着くのは並の者には出来ない。
しかし、常に実戦にさながらの訓練の中で育てられた感と生まれ持ったセンスもあって今のシンジはまさに天位を持つにふさわしかった。
 
「ええ、そういうわけです。シンジ今日からおまえは天位騎士だ、明日からは他の天位剣技や剣聖剣技を教えてやろう。」
「は、はい、でもお手柔らかにお願いしますよ。さすがに今日みたいなのはちょっと・・・」
 
マキシマムの一言によってシンジの顔が一気に青ざめる。
そりゃそうだ、今日のような方法ではいくら天位級の騎士でも命がいくつ会っても足りない。
ましてや破壊力の高い天位剣技やさらに強力な剣聖剣技ばかりでは今日のようにうまくいくとは限らない。
 
「うーん、たしかに蒔子の技はどれ破壊力の大きいのばっかだからね。」
「たしかに、今日のはちょっときびしかったです。」
「何があったの?」
「ブレイクダウン・タイフォーンと言う技でしたけど・・・問答無用でいきなり本番でしたから。」
「うーん、それはまた最初っから厳しいわね。」
「姉上。シンジなら何とかモノにすると思っていました。それに手加減もしていました。」
 
ラキシスにまでこき下ろされてはさすがのマキシマムの不機嫌である。
 
「うーん、まいいか。でも、そうなると何かお祝いがいるわねー・・・・うん、少し早いけどもう良いかな。」
「姉上まさか、もう?」「姉さん何の事?」
 
マキシマムは何か心当たりがあるようだが、シンジには何の事だか解っていないようである。
しかし、ラキシスを見るととても嬉しそうである。
 
「うん、蒔子には解ったみたいだね。二人とも付いてきて。」
 
ラキシスに導かれ二人は家の地下に導かれた。
実はこの家、外見上は小高い丘の上に立つそれほど大きくない一軒家だが実は地下には巨大な空間がある。
もちろん元々あったモノではなく、ラキシスとKOGの手によって作られた空間である。
本来はKOGの修理用の整備場として作ったが、実際にはその3倍以上の空間が有り、ラキシスや蒔子が何かをやっているようである。
もちろん二人が導かれたのはこれらMHの整備場ではなく、全く別の施設である。
 
三人の入ったその部屋は薄暗く、辺りには人間が入るくらいの大きさのカプセルがいくつか設置され各種コンピュータ端末などと接続されている。
シンジはこの部屋が何となくセントラルドグマとにた雰囲気を持っていると思った。
 
この施設はファティマ工房であった。それも、ファクトリーと呼ばれる大量生産設備などではなく。
マイトと呼ばれる最上級のファティマ製造者たちの物と比べてもなんら遜色のない物だった。
ラキシスはかつて自分の生まれたDr.バランシェの工房をもとに作ったのである。もちろん目的はファティマを作るためである。
 
「ここは?いったい何なの?」
 
シンジは不安を隠せない。なぜならシンジ自身この施設に関しては全く知らなかったからである。
ここにはラキシスの他には蒔子が少し入るだけでシンジは一度も入ったことがない。
 
「ここはファティマ工房だよ。もっとも父様のとこの施設の真似してみたんだけど、結構本格的なんだよ。」
「ファティマ工房?一体何をするの?」
「何を分かり切ったことを聞いているんだシンジ、ファティマ工房でファティマ以外何を作ると言うんだ。」
「ファ、ファティマを!いったいどうするの?」
 
シンジもファティマに関しては二人から詳しく聞かされていた。
だが、二人がなぜ自分にに黙ってファティマを作っていたのかが解らない無い。
 
「もーシンジったら鈍いんだから、もちろんシンジのパートナーだよ。」
「ぼ、僕の?」
「そうだ、天位を取れるほどの騎士にファティマがいないと言うのでは様にならんのでな、姉上と二人でおまえが騎士として相応しくなった時におまえにパートナー与えようという事にしていたのだ。」
 
ラキシスとマキシマムから次々と驚くべき事を伝えられシンジの頭は既に混乱状態であった。
 
「うん、予定より大分早いけど一応この子も成人してるんでいつでも培養槽からは出せるんだよ。」
「このカプセルの中にいるんですか?」
 
ラキシスの示す先には長身のマキシマムですらゆったりと入れるような大きなカプセルがあり、傍らには47の数字の刻印があった。
 
「この数字は?」
「うん、この子にはまだ名前がないんだ。それで一応蒔子の妹になるんでバランシェファティマNo47っていうことにしてたんだ。」
「名前がない?どうしてですか、かわいそうじゃないですか」
 
シンジには理解できなかった。自分たちの妹として生み出してなぜ、名前を与えないのか。
 
「早とちりするなシンジ。姉上は妹の名付け親にお前を選んだのだ。」
「ぼ、僕?」
「うん、まあ実際会ってもらった方がいいと思うの。どんな娘か解らないのに名前なんて付けられないよね。」
 
そういうとラキシスは端末装置を操作し始めた。そうするとしばらくするとカプセルの中から一人の少女が現れた。
年はシンジと同じくらいで、髪は腰に届くぐらい長い黒髪で華奢な体つきをした全裸の少女だった。
少女の裸を見て顔を背けようとしたシンジであったが、その少女の顔を見て表情が驚愕に凍り付いた。
しかし、少女の口から発せられた言葉は
 
「騎士様、どうか私をパートナーにお選びください。 マスター  」
 
シンジからはその問いの答えとは全く違った言葉が発せられた。
 
「あ、綾、綾波!?」
 
 
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
あとがきもどき
 
ふぇいです。どーもです
逆行物と言いつつも全然逆行せずにまるで異世界者になっています。
自覚はしているんですがどうしてもこの辺のことはハッキリさせていたかったんです。
なぜなら、2話のあとがきに少しヒントが書いていましたが、この時間はシンジが過去に戻ったときに本来のシンジと違っている説明のようなものです。
本来はすっ飛ばしておいて外伝として書くのが筋かもしれませんが、それをするときっと本編が完結した段階で手を付けずに放りっぱなしてしまうか、忘れてしまうと思ったので無理矢理序章として割り込ませました。
おかげで滅茶苦茶長くなっています。
でもここら辺はぜひ書きたかったことなのですみませんがしばらくおつきあいください。
 
謝りついでにもう一つ、実はこの序章は第5話で終了し第6話から第1章第1話となる予定でした。そしてあの日(もちろんアニメ第一話のあの日です)に帰る予定でしたが急遽寄り道が決定しました。
理由は断罪を全て読んだからなんですが、あんまり話すとネタばれになるのでやめときます。
でも、この1章はそんなに長くはしない予定です。(予定は未定?)
そして第2章から使徒戦に入っていきますので、そちらの方を楽しみにしている方は今しばらくお待ちください。
 
それではまた合いましょう
 
おまけの一言:
実は次の4話は今までに比べるとかなり短いです。(下書きは既に7話目に突入)
そんなわけでなるべく早めに仕上げるようにします。そして、次の5話を早めに出す予定です。
 
ここからはFSSに詳しい方々に対するお詫びと説明をさせてもらいます。(FSSを知らないもしくは解らないと言う方は読み飛ばしてくれてもかまいません)
 
まず、ソニックブレードを使えたぐらいでは天位はもらえません。
でも今回はマキシマムが認めたと言うことで特別です。
もう一つ、最後に登場した彼女(名前は次までお待ちください)はラキシスやマキシマム・シンジの遺伝子情報を元に作られたファティマです。
しかし彼女は既に生物的にはファティマではなくなっています。
そりゃあ、シンジやラキシスはファティマじゃないからそんな遺伝子情報を元にしたらファティマとはいえないでしょ。
ということにしましたどうぞお見逃しの程を・・・
 
それと気が付いた方がいるかもしれませんけど第一話の中でいい加減な数字を答えていたところがありました。
実はKOGの全長ですが手元に正確な資料がなかったため全高が似ているレッドミラージュと同じぐらいと言うことにしました。
ちなみにKOGの全高15メートル対するLEDが全高15.2メートルで全長が18.7メートルですから大体同じぐらいと言うことにしました。 
それに、3巻のジュノー戦でもテレポートして来たLEDとKOGの全長が同じぐらいでしたから今後も一応この数字で通させてもらいます。
 
とまあ、解る人にしか解らないでしょうが詳しい方につっこまれると答えようがないのであらかじめ謝らせていただきます。おそらく今後しばらくの間はこのお詫びと説明が続くと思いますがよろしくお願いします。