「令ちゃん!大丈夫!?」 「ぐっ‥」 「おいおい、ここってホントにお嬢様学校かぁ〜?千冬とかいう奴といい今の子といい。命を大切にね東〇電力、なんつって」 こんな時にもくだらない事を言って、こいつは人間的にどうかしてる。 それに拳銃の腕もどうかしてる。さっきのあのスピードの中で木刀を撃ったのだ。木刀は砕け散り、その衝撃で令ちゃんは手が痺れたようでうずくまっている。 「…由乃。合図したら廊下に走って逃げて。どうにかならなくても足止め位はできるから」 「何言ってるのよ!無理よそんなの!あいつはこの先の事を知ってるんだよ!?それにそんな事したら令ちゃんは…危険なんだよ!」 「私はね、由乃。あなたの笑顔をずっと見ていたいと思った。ずっと側で見たい、この笑顔を守りたいと思った。だから最後まで守らせて。その結果私が死んでも悔いはない。あるとするなら由乃には幽霊の私が見えない位かな、あはは‥ でもきっと側にいるから。私の分も精一杯笑って生きて。…できる事なら私の知ってる由乃のままでいてね」 令ちゃんが遠くを見ながら言う。 「嫌!絶対嫌!令ちゃんがいなくなったら笑顔になれる訳ない!だからお願い…死ぬなんて言わないで…一緒に」「さっきから何を話してるのかな?」 拳銃を持て遊びながら言う。 「…じゃ由乃、行くよ。3…」 「待って令ちゃん!」 待ってよ!そんな事したら…絶対に許さないんだから! 「2…」 「そろそろメインイベントといこうか」 「1…」 「令ちゃん!」 「由乃走って!」 「――動くな!銃を下ろせ!」 いきなり誰かが入って来た。ハッと振り向くと警官が4,5人立ってみな拳銃を構えていた。 「!?くそっ、あの野郎肝心なことを教えねーな。…はいはい、わかった。銃を置くよ」 「…令ちゃん警察呼んだ?」 「いや、呼んでないけど…」 携帯を見る。すると通話中となっていた。警察ではなく何故かあの人に。 「二人とも無茶ね〜。由乃ちゃんはともかく令までとは。でもなかなかスリルあって面白そうね」 「黄薔薇さま!?」 「お姉さま!?」 警官の後ろから出て来た。 「元黄薔薇さま、元お姉さまよ。祐巳ちゃんから相談受けててね、今回の事いろいろと。そしたら急に令から電話がかかってきたのよ。でも電話がかかってきたのに話さないから切っちゃおうかと思ったら男の声が聞こえてね。話の内容が面白そ…いや尋常じゃなかったから警官を引っ張ってきたの」 …相も変わらず面白そうだったから来たのか‥ 「でもどうしてここがわかったんですか?」 「なんとなくね。あなた達の事なら分かるわ。まぁ、警官連れ出しといて誰もいませんでした、なんてならなくて良かったけど。…あら令どうしたの?」 「いえ、お姉さまの顔を見たら安心しちゃって」 ひざが笑っているのか立てないようだった。 「安心しなさい、もう平気だから。電話を聞いた時は本当に心配したわ。私の妹は令しかいないんだから。さぁ令、おいで」 「お姉さま…」 「―――って何やってんのよー!令ちゃんも何『お姉さま…』とか言って!」 「お・落ち着いて由乃」 「あら由乃ちゃん。私はお姉さまとして当たり前の事をしただけじゃない。妹が不安な時姉が優しく接してあげないと。はぁ‥こういう事は現妹がやってあげてもいいのにね、由乃ちゃん」 な・何ー!?…落ち着け由乃。落ち着いて。 「確かに私が危険な目に遭わせてしまったから私がするべきでしたね。でも元お姉さまと言ったあなたは優しくする必要がないでしょう」 「私の妹は令しかいない、とも言ったわ」 …落ち着け。オチツイテ…ワタシ。 「あっ、こらお前!」 「歓談中失礼〜」 警官を引きずって氷室が来た。・・なんて力だ、見た目はひょろひょろのくせに。 「‥あ〜もうお前ら行くからちょっと待てって。えっとメインイベントを言い忘れてた。これで俺は終るがまた新たに始まる。…もし今回生き残れたら、要注意人物だね。キミは。そう見られちゃうかもね」 「……生き残る?」 じゃ、と言って今度こそ連れていかれた。 「やっとこれで終わったんだよね」 「そうだね」 「さて、私はそろそろ帰るわ」 「ありがとうございました。お姉さまが来てくれなかったらどうなってたか分かりません。…ほら由乃もお礼言いなさいよ」 「えぇ?…ありがとうございました」 そりゃ確かに私達は助けられたと言えるけど‥ 「ふふ、由乃ちゃん無理しなくていいのよ。じゃあまた何か面白そうな事があったら教えてね。ごきげんよう」 …別に今回の事を『面白そうな事』だなんて教えた覚えないんですけど。 「お姉さまのごきげんようって久しぶり」 「卒業しても癖になるのかな」 「やっぱりお姉さまのごきげんよう、って何だかいいな…そうだ、由乃何か食べたい物ある?精神的に疲れちゃったからさ」 う…食べたい物はあるけどこんな夜中に食べたら絶対太る。 「…いや、今は寝たいわ」 「そうか、そんな時間帯だったね」 あ〜、明日は学校か…起きれるかな。 その朝は最悪の朝になった。睡眠時間が四時間位足りなくて頭が痛いし、目の下にくまができてる。でもそんな事はまだいい。 テレビのニュースが一番問題だ。氷室が連れていかれた警察内で自爆したのだ。もちろん本人死亡、近くにいた警官三人のうち二人重傷、一人軽傷だという。本当に他人の命を何だと思っているんだ。最後まで周りに迷惑をかけている。でも…軽傷って何で? それにおかげで連続爆破事件は犯人死亡という形で終わった。氷室はいろんな場所を転々としながら犯行して いた。今回は学校に勤めながら化学室で爆発物を作ったが工場等でも働いていたらしい。一ヶ所に留まれないためホテル暮らしで、昨日までいたホテルの部屋からは爆弾や火薬だけが見つかった。 …そう、だがそれだけなのだ。服や鞄、財布、パソコンや携帯等も何もなかった。自爆した時財布や携帯を持っていなかったので誰かが盗んでいったとしか考えられない。だからほとんど氷室自身、いや名前も偽名かもしれないが、判っていないとテレビでやっていた。 あー、朝から気が重い。 テレビの星座占いでも最下位だったし。運命の決断を迫られるでしょう、だって。しかもその決断を誤れば…なんてテレビで流していいのか、とも思ったけどとりあえずラッキーカラーが白だったので、白いハンカチをポケットに入れた。あんまり占いとか信じてないけど最下位だったし… そういえばこの時計、耐水性だったから良かったけど外れないんだよね。壊れてるのかな。今日にでも時計屋に行ってみよう。―――でも時計屋なんていまどき聞かないな。 「ねぇ令ちゃん、ニュース見た?」 「昨日の事?見たよ」 眠そうに目を擦りながら言う。 「死んだってね」 「少し寝覚め悪いね…」 「うん…でもこれで事件は終わったよね」 「最後に言ってた事が気になるけど、とりあえず平気だよ」 そうだった。昨日最後に変な事を言い残していったんだった。生き残るとか何とか。本人がもういないから確かめようがない。でも本人がいないなら何か起きる可能性も低いだろう。…ま、わからない事を憶測だけで考えてもどうしようもないしいいか。 「祐巳さんだ」 校門を入って少ししたところで歩いていた。 「祐巳ちゃんのおかげで助けられたね」 「そうね。…祐巳さん!」 「由乃さんに令さま、ごきげんよう。ところでニュース見た?氷室先生が連続爆破事件の犯人でしかも自爆したっていうの」 「うん。てゆーか捕まえたの私達。ね、お姉さま」 祐巳さん口空きっぱなし… 「あれは捕まえたといえるのかな。だってあのまま二人だけではどうなってたか…」 「えー!?令さまも行ったんですか!?」 「いやぁ、まあ‥成り行きで。でも祐巳ちゃんのおかげで助かったよ」 「へ?」 「そうそう。祐巳さん元黄薔薇さまに相談してたんでしょ?それでいろいろあって助けに来てくれたの」 「よかった。やっぱり元黄薔薇さまも心配だったんだね」 …いや、それはどうだか。 「でも助かったって言う位だから危険な目に遭ったんだよね…由乃さんと令さまが無事で本当に良かったよ」 「心配かけてごめんね」 「ううん!それよりよかったら昨日の事教えてほしいな」 「そうだね、祐巳さんにも話さないとね」 薔薇の館に行くまでに話し終わらなかったので続きを薔薇の館で話した。そこには志摩子さんと乃梨子ちゃんもいて話に加わった。三人とも違う反応をしていて面白かった。祐巳さんは、えー!?とか激しい反応で志摩子さんは、常に冷静沈着受けとめてるって感じ。乃梨子ちゃんはちょうど間、志摩子さんみたいに静かに聞いていたけど興味が湧いてきてからは祐巳さん寄り。 う〜ん、でも聖さまとは端から見ると冷めた姉妹だった志摩子さんが、今では乃梨子ちゃんと大抵一緒にいる。この二人ならありえないと思うけど、どっちにも聖さまと栞さんのようにならないでほしい。こんな言い方すると聖さまと栞さんに悪いけど。 でももし自分の命よりも大切に思ってた人と離れる事になったら普通堪えられないだろう。私も令ちゃんと離れなくてはいけない、って事になったら周りの全てを切り捨ててでも令ちゃんと逃げようとするかもしれない。それでも聖さまが平気になれたのは蓉子さま達のおかげだった。 そう、志摩子さんが聖さまのようになってしまった時、私には自信がない。 志摩子さんを繋ぎ止めておく自信が。 できる事全てをやっても上手くいかず志摩子さんがいなくったら… 「どうしたの?そんな考え込んじゃって」 一人こんな深刻な事を考えていたらみんなに見られてしまった。 「いや、何でもないわ。そろそろ予鈴が鳴るし戻らない?」 時計を見ながら言った。するとその時計が急に鳴りだした。アラーム?そんなの設定してないはず… 「由乃、もうすぐ予鈴だっていうのは分かったからアラーム止めて」 「待ってお姉さま。これ私が設定したわけじゃないんです」 「え?」 このうるさい音を止めようと四苦八苦していると、デジタル画面が全部消えてしまった。 「あっ…」 「どうしたの?」 「消えた」 音もついでに消えた。壊れたのかな?しかし、いろいろいじっているとまた元に戻った。 「ふぅ…壊れたのかと思った」 「じゃあ元に戻ったところで行こ、由乃さん」 「うん。…あれ、何コレ?」 時計がまた全部消えてメッセージのような物が出てきた。‥カタカナで書いてあって読みづらい。 「ヤ、ァ、シ、マ、ヅ、サ、ン―――」 「何言ってるの?」 「時計に出てきた文字を読んでるのよ。えっと―――」 『やぁ島津さん。氷室だよ。これを見ているって事は僕は何とか間に合ったようだね。さあ突然だけど、君はいろいろ気付いてしまったようだ。いや、この頃には全て終わってるか。』 これを貰ったのはだいぶ前だから大した予知だ。この時計の機能も大した物だけど。 『とりあえずいろんな事に首を突っ込むとリスクがあるんだよ。お仕置きタイムってやつ。…というのは嘘で、ある事に参加してもらう。拒否権はない、強制参加ね。まず僕の仕事は知ってるよね?』 仕事?教師なんて事は絶対にないし…爆破? 『そう、ハナビ。それをこの学校の敷地内に二つ仕掛けた。』 はっ!? 「ハナビって何?」 祐巳さんの頭の中で大きな花火がとんでそう。 「…この場合空に飛ぶ綺麗なやつじゃないだろうね」 令ちゃんが冷静に答える。でもうんざりした感じだ。あいつには借りがあるとか思ってたりして。怒ってるみたい。『まぁ威力自体は中の上って所かな。近くに誰かいたら確実に助からない。…こんな事を言われても信じられないなら薔薇の館の机の下と椅子の下を見な。』 令ちゃん達は一斉に机の下を見た。何か小さな物が付いていて同じ物が各椅子の下から見つかった。 『これはかなり小型だけど爆弾だよ。威力は低いけどそれだけ集まれば二階は吹っ飛ぶね。』 「えっ!?わわわ私達吹っ飛ぶの?」 祐巳さんが半パニック状態で言う。いや、叫ぶ。 「とりあえず感知式のタイプじゃなかったから、時限式だと考えて逃げればいいと思いますよ。感知式だったらも う吹っ飛んでますから」 さりげなーく乃梨子ちゃんがすごい事を言った。 「そうね。でも時限式ではなくて遠隔操作…というよりリモコン式の可能性はないの?」 「ないと思いますよ、志摩子さん。犯人はすでにこの世にいないんですから」 こういう時人間性が見える、と思う。 『でも安心して。その爆弾は爆発しない。信じてもらうためだけに置いといたから時間はセットしていない。ついでに言っておくと学校に仕掛けたやつは時限式だから解除しないとダメだよ。あと………』 「あと?」 「…あ!?いや、何でもないよ」 …やっかいな事になった。 さすが運勢最悪。
黄薔薇放送局 番外編 前回までのあらすじ 愛の逃避行を遂げた江利子と令。 しかし由乃率いる山百合会特殊部隊により古代遺跡の一郭に追いつめられてしまった! 由乃 「フフ、無様なものですね。 かつての薔薇さまともあろう方がそんなみすぼらしいローブを身にまとっているとは」 江利子「……」 由乃 「裏切り者の令ちゃんともどもこの場で始末、と言いたいところだけど。 令ちゃん、ひざまずいて命乞いをすればあなたの命だけは助けてあげるわ」 令 「由乃……」 江利子「(ひざまずく)令だけは助けてちょうだい、由乃ちゃん」 令 「お姉さま!!」 江利子「いいのよ、令(微笑み)」 由乃 「(拍手)本当に美しい姉妹愛ですこと。……へどが出そうだわ!」 令 「……」 由乃 「三分だけ時間をあげるわ、せいぜい名残を惜しむことね!」 江利子「ごめんなさいね、令。あなたまで巻き込んでしまって」 令 「そんな! お姉さま、そんな悲しいことを言わないでください」 江利子「でもいいの? あなただけでも生き残って……」 令 「(遮って)私を置いていくのは抜きですよ、お姉さま」 江利子「ありがとね、令。 由乃ちゃんには悪いけどあなたは最高の妹にして最愛の……」 由乃 「1分!」 令 「私も……」 江利子「令、二人であの言葉を言いましょう」 令 「えっ!?」 由乃 「時間よ! そろそろ話は付いたかしら?」 二人は手を握りしめる。 それを見て歯ぎしりをする由乃。 ぼろぼろのローブを脱ぎさり、今 江利子のおでこがあらわになる! 二人 「凸!!」 江利子の額に凸の紋章が浮かび上がりまばゆい光を放つ!! 由乃 「へぁぁぁーー、はぁぁ、目がぁー! 目がぁーーぁぁぁぁぁぁぁ」 江利子「今よ!」 逃げ出す。崩れゆく遺跡。 丘の上から眺める二人。 スタッフロール。 …… …… 由乃 「……デ、コレハナニ?」 令 「(ひぃ)な、なにってその……」 由乃 「ラピュタのパクリはおいておいてどうして私がムスカなのよ!! 髪型からしたって私がシータでしょ!! 令ちゃんがパズーなんだし!! ムスカこそ黄薔薇さまがふさわしいはずでしょ! ねぇ、どうしてよ!」 江利子「あらあら由乃ちゃん、八つ当たりは良くないわぁ〜」 由乃 「(自分がヒロインだったからって!)」 江利子「あら、私だっておでこからってのは不満なのよ、でも適材適所ってやつ?」 由乃 「…………そんなの納得できるかー!!」 令 「よ、よしのぉ〜 これ以上暴れないでぇ〜(泣)」 乃梨子「年明け一回目の放送局からこんな無茶やって良いのでしょうか?」 江利子「なにいってるの、年明けだからこそ許されるのよ、乃梨子ちゃん」 乃梨子「はぁ……」