非日常的な日常

第三話

嫌な予感は当たるもの

 …朝?目覚ましが鳴らなかったような気が…
 七時半!?
 寝坊だ寝坊!目覚ましは無意識に消しちゃったのか。それにしても誰か起こしてくれてもいいじゃない!
「今日は朝御飯はいいや!」
「ちゃんと食べなきゃ駄目よ」
 ‥よく言う。なら起こしてほしいものだ。
「食べてたら遅刻しちゃうよ」
「あら、そういえば言い忘れてたわ。今日は学校休みらしいわよ」
「え?」
「緊急連絡網が朝きて、休みになったって言われたの。理由は詳しくは聞かされてないって」
「あ〜もっとゆっくりできたのか」
「早起きは体にいいわよ」
 もう目が覚めてしまったので二度寝はできなそう。
 パン食べよ。パンをかじりながらぼーっとテレビを見ていると昨日の事件が流れてた。あれだけ派手な事件なら当たり前か。
『―――現場からお送りします。昨日午後五時頃ここで非人道的な事件が発生しました。なんと犯人は女子高生を刃物で切りつけて最後は爆弾を至近距離で爆破させたのです。―――』
 女子高生だったのか…可哀想に。一言で片付けるのはそれこそ可哀想だが。
 何か殺される程の理由があったのか。
 いや、人を殺してもいい理由なんてあってはいけない。それはまだ世界を知らない子供の考えだ、と言われてもいい。そんな世界と私は無縁なのだから。
 ―――その時彼女はそうだと疑いもしなかった                      

 令ちゃんは学校が休みになったという事で家の道場で練習していた。特にする事がなかったのでそれを私は眺
めていた。
 う〜ん、竹刀を振るってる時の令ちゃんはかっこいい。なんて妹馬鹿な事を考えてると令ちゃんがこっちに来た。「どうしたの?」
「タオル頂戴」
「はい」
 持っていたタオルを手渡す。令ちゃんはそのタオルで顔をふき、ふひぃ〜なんてちょっとオ〇ジっぽい事を言ってまたタオルを返した。
「そういえば今日なんで学校休みになったのかな?」
「そうだね。別に台風が来てる訳でもないのに」
「学校が爆破されたとか」
「…不謹慎な事言わない」
 そんな真面目につっこまれても。
「じゃ生徒が事件に巻き込まれたとか」
「不謹慎だって言ってるでしょーが」
 ツンと頭を小突かれた。
「でもありえなくはないじゃない」
「それは可能性はあるけど…」
「じゃあさ、学校に行ってみな――」
「嫌」
 早っ!
「まだ言い終わってないじゃない!」
「最後まで聞かなくてもわかる。行ったって何もわかんないよ。先生達に聞いて教えてくれるような理由なら連絡網で流れるはずだし」
「でももしかしたらパトカーがあるかもしれない。それで事情聴取とかしてるかも。そうしたらやっぱり何か事件だって
分かるわよ!」
「そんな奇跡みたいな事が…―――」
 フフッ。いばらの森の時を思い出したわね。あの時も奇跡を起こしたんだから!
「奇跡というのは案外起こる事かもよ?」
「…じゃあ外から見るだけよ?」
「うん!令ちゃん大好き!」
「な!な・何を急に‥」
 顔真っ赤だし♪      


 お昼。
 さっき令ちゃんと学校に行ってきた。お昼をご馳走してくれると言うのでお言葉に甘えた。
 てゆーか気を使ってくれたのか。そう、結果から言うと奇跡は起きなかった。何度も何度も奇跡が起きるようではそんなの奇跡とは言わない。う〜、でも何か予感はあったんだけどな…
「はい、どうぞ」
「すごい令ちゃん、やっぱり中華も作れるんだ」
 運ばれてきたのは芳ばしい匂いのする焼きたて餃子に、本格的なレタス炒飯。
「料理は練習すれば誰でも美味しくできるよ」
「これほどは無理よ。まさに天武の才ね」
「そんなにホメても何もでないよ」
 そんなに毎度毎度、裏があるわけないじゃない、失礼ね!と言おうとしたら電話が鳴った。
「あ、電話だ。は〜いちょっと待って」
 …若き女子高生がそうやって電話に向かって喋るのはいかがなものか… 

 数分経って戻ってきた。
「連絡網だった」
「ふ〜ん、で?」
「今日の休みの理由をたまたま聞いたんだけど、私達の一つ下の子が亡くなったらしいよ」
「一つ下って私と同学年よね」
「…その亡くなった子は私は知らないんだけど昨日起きた女子高生爆殺事件の被害者らしいよ。私の連絡網の前の人の妹がその子の友達で聞いたんだって」
「…名前聞いた?」
 何故だろう。
「いや、聞いてない」
 何故だろう。
 嫌な予感がする。  


「あ、由乃さん」
 次の日は学校があった。
「なぁに祐巳さん?」
「昨日休みになった理由知ってる?」
「事件でうちの生徒が亡くなったんでしょ?」
「…誰だか知ってる?」
 声をひそめて言う。いや、と答えると
「千冬さんらしいよ。前に由乃さんと話してた」
 …予感はしていた。こんな日がくるような予感が。
「何で千冬さんが‥明るくていい人があんな酷い事に…」
 身近な人の死とはだいぶ堪える。
「うん…そうだね」
「しかも犯人まだ捕まってないよね」
「ニュースではそう言ってたね」
「‥私が捕まえる」
「相手は連続爆破事件の犯人かもしれないんだよ?危険だよ…」
「そうなの?」
「まだはっきりそうとは判らないけど今までと同じ種類の爆弾なんだって。でも昨日の事件だけは今までと違う系統だからはっきりとは言えないってさ」
 これは桂さんが言ってた、って桂さん。あなたの情報網は警察並ですか。
「捕まえるって言ってもいまいち情報も少ないんだよね」
「いや、だから危険だって…」
「まずは千冬さんの周りを調べないと」
「…もしもし?」
「桂さんに聞くのもいいかも。まだ情報持ってそう」
「……はぁ」                  

 千冬さんをいろいろ調べたが調べていくうちにどんどん分からなくなっていった。調べてもそんなに怪しいところなんかないし、あったとしても小さな事だったら分からないだろう。
 でも何かがあるはずだ。千冬さんが鍵だと思う。  
 千冬さんを調べて分かった事をもう一度考えてみよう。
 千冬さんは一人っ子だから兄弟がいない。
 母親は結構有名なデザイナーでキャリアウーマン風、父親は警視庁に勤めている。家では一人でいる事が多くよく友達を泊めたりていた。また、リリアンにはめずらしく彼女は前から付き合っていた彼氏がいたらしい。しかし約一ヶ月前に急に別れた。別れる前位から千冬さんは少し変わった気がするって言っていた。
 ‥まぁ強いて言うならこれ位か、少し怪しいのは。
 その後幽霊騒動のとき二人で学校に侵入し、私にもわかる位に変わっていった。
 そして…事件。一ヶ月前に彼女に何かがあった、そのせいで事件に巻き込まれた。これが妥当なところかな。
 じゃあ何があったの?プライベートな事か学校での事か。‥学校で一ヶ月前といえば―――                            



「ねぇ令ちゃん、連続爆破事件の犯人の似顔絵に似た人見たんだよね?」
「見た気がする、くらいだけどね」
「その人誰か思い出した?」
「いや。なかなか思い出せないね…あ、何か飲み物持って来るね」
 そう言って私の部屋から出て行ってしまった。もしこの犯人が千冬さんを殺した犯人と同じだったら、令ちゃんが犯人を思い出すのが一番早い。
 …でも私には心辺りがある。それを確認するためにも思い出してほしい。決定的な何かがないとその人だと信じられないからだ。
「お待たせ」
 はい、と紅茶を持ってきてくれた。
「ありがと。…ん〜、美味しい!」
 にっこり。
「そう?よかった」
 微笑む。
「ところで令ちゃんに頼みたい事があるんだけど」
 微笑みが少しひきつる。
「一生のお願い!」
「な・何?」
「最後にもう一度夜に学校に行こ?」
「何でまた…幽霊の噂は最近は聞かないじゃない」
 ついに呆れた顔になってしまった。
「それはもう見に行く人がいなくなったからか、皆が飽きたから。私はでも結構重要だと思うの。だから一生のお願い!」
「由乃の『一生のお願い』って今までに何回あったかな…」
「お願い令ちゃん、何でもするから」
 上目使いで令ちゃんを見つめる。…落ちろ!
「な・何でも…?」
 顔が赤くなってる。
「あ、変な事考えたでしょ。例えば私でコス――んんっ!」
 両手で口を塞がれた。
「……まあ仕方ないね、じゃ本当に最後だよ?」
「早口…やっぱり図星だったのね」
「だから違うってば!」
 そうやってむきになると、逆にそうだって言ってるのと同じなのに。ま、令ちゃんらしくていいか。
「もう分かったから。学校には今夜行こ。善は急げってね」
「全然善じゃないよ…」
 令ちゃんは少しサムイ事を言って、今夜に備えるため自分の家に帰った。                              


「…」
「じゃあ行くよ」
「…令ちゃん。それ何?」
 その細長い袋に入ってる物ははやっぱり――
「木刀だよ。この前は薬を使ってきたけど今回は違うかもしれないからね。由乃と自分を守るためよ」
「…そう。いいけど危ない人と間違えられないでね」
  ただでさえ見た目が男の子っぽいんだから不良少年と間違えられたら大変だ。そんな事で補導でもされたら二人とも荷物をまとめるしかない。
「大丈夫よ。それよりこの木刀お父さんのなんだけど凄いんだよ!これで何人の泥棒やらひったくり犯やらを捕まえた事か。そうゆう縁起のいい木刀なの」
 『凄いんだよ!この木刀は何人の血を吸った事か』なんてね。
「段持ちなんだから誰が来たって平気でしょ。剣道三倍段っていうし」
「油断大敵」
「…わかりました」
 悪いけどちょっと面倒くさくなってきた。
 学校はもうすぐ。                        

「あれ、由乃どこ行くの?」
 と言い呼び止めた。
「家庭科室の逆」
「はい?」
「私の推理聞きたい?」
「うん」
「私には家庭科室の幽霊の噂は囮だと思うの。まず大抵の人を学校から遠ざけて、興味を持って学校に来た人を家庭科室に寄せる。そうすると家庭科室以外には誰もいなくなる」
 前に女の子達が話してたのが参考になった。
「それで他の教室で誰かが何かしてるかもしれない、と」
「そう。でも家庭科室に近いと誰かに見られるかもしれないから駄目。…一番くさいのは化学室かな」
 なるほど、と令ちゃんが相槌をうつ。
「でも化学室は二階だよ、どうする気?」
「ぬかりはないわ。トイレの窓の鍵が壊れてる所があってそこから行くの。…ほら、ここよ」
「…これって明らかに不法侵入じゃ…」
「捜査よ!」
 外から入ろうとすると窓って結構高い。やっとの思いで中に入った。
 …うぅ…最近令ちゃんの美味しいお菓子食べ過ぎたかも。体が思っていたより重かった。はぁ…
「どうしたの?ついに入ったのに」
「いや、自分に失望してた」
「は?」
「…さ、もう行こ」
 令ちゃんは訳が分からないようで困ってたけど、もうこれ以上この話題に触れたくなかった。失望が絶望に変わりそうだったから。 

 夜の学校というのはどこか不気味。体感温度がいつもより五度低い。‥こんなこと考えて自分を怖がらせてどうする、なんて一人つっこみしているうちに化学室の側まで来た。
「ビンゴ。どうやら当たりね」
「うん、中に誰かいるね。でも普通の先生だったらどうする?」
「普通の先生はこんな時間にいないよ。令ちゃん、万が一のために携帯に警察の番号を押しといて。通話ボタン押すだけで繋がるように」
「うん」
 さぁ、鬼が出るか蛇が出るか… 


「やぁ、待っていたよ。君達が来るのを」
 廊下で会った時のように普通に話してくる。
「待っていたんですか?氷室先生」
「あぁ、そうだよ。君達が来るっていうのは分かっていたからね。知り合いに『先見』を趣味とする悪趣味な奴から聞いたんだ」
「サキミ?」
「未来予知みたいなのかな。そんな事はどうでもいい。君達は何しに来たのかな?」
 ん?令ちゃん怒ってる?
「知り合いに聞いたんじゃないんですか?」
「聞いたよ。この後どうなるかも知ってる」
「…なら聞く必要ないでしょう」
「警察が出す犯人の似顔絵って結構似てるんだね」
 急に令ちゃんが割り込んできた。
「令ちゃん?」
「そうですよね、爆弾魔?」
「爆弾魔とはひどいな」
 …やっぱりそうだったか。携帯に残してあったメッセージは何かを入力した訳ではなかったのだ。147*、456、369#と血で携帯に『H』、つまり『氷室』の『H』を残したという事を昨日考えていた。
「私達が来るのを知ってて何で逃げなかった?」
「面白いからじゃないか」
「え?」
「幽霊の噂を流したのだってそうさ。面白くなりそうだったからだよ。あの白い着物を着た幽霊ってなかなかうけたろ?あれ、人体模型にただ白衣を着せただけだったんだよ。ま、ただ命令で革命の為の破壊活動していたって飽きる。すでにこの国は腐っている。だからあの方がこの国を救うために、今表の世界でで上ににいる奴らを消さないといけないんだ。君達はこの世界の深くて暗い部分を知らない。信じられないような事が当たり前のように通っている。そこはさながらもう一つの国のよう。統べる国が表から裏に変わるんだよ。……って、何か話がだいぶそれたね。つまり暇潰しってとこかな」
 どこまで本気で言ってるんだ?
「自分の狂気の言い訳にしてはちゃちですね。まあ面白くするためだったって言うのは分かりました。でも‥千冬さんを殺したのは何故ですか!?」
「千冬…?あぁ、あいつか。あいつも面白くするための駒だったよ。そのおかげで君達に会えた。彼女は初め俺を脅してきたんだよ。それが人生の最大の失敗だっただろうけどね。どうやら警察のおえらいさんのはずの父親は口が軽かった。彼女は父親からまだ未公表の俺の似顔絵か何かを見た。それで警察に捕まりたくなかったら金を出せ、だもんな。お嬢様学校が聞いて呆れるよ。ま、最終的にはあいつの家や実家、近所とかに爆弾をつけたって言って逆に利用したけど。学校で寝かしておいて噂に色付けしたりさ。でもあいつはまたやってくれたよ。『何か匂いがして意識がなくなった』とか言ったんだよ。それじゃ幽霊じゃなくて人間が犯人だ、みたいになるだろ?その時はまだ噂は幽霊が犯人でないといけなかった。家庭科室以外に学校に人を寄せたくなかったからな。それなのに『匂い』だぜ、そもそもあれは知り合いに作らせた即効性のある無臭の薬だ。匂うはずがない。このおかげで君達に会うのが早くなって、こっちも急がなくちゃいけなくなったよ。…う〜ん、さっきから話がそれるな。つまりこれから邪魔になりそうだったからさ」
「それだけであんな…あんな残酷な殺し方をしたっていうの!?」
「それだけでって、かなり重要なんだよ。なんたって商売道具だからね。まぁあんな殺しになったのは自分が悪い。あ
る物を作っただけじゃなくそれを隠したから。…はは。拷問に強い女ってのもいるんだって初めて知ったよ」
 こいつ何笑って言ってんのよ!今までの会話は全て録音したから、もう警察を呼ぶ事にした。自分達も危険な立場なのだ。
「‥令ちゃん、けいた」
「この下衆が!」
「令ちゃん!」
 木刀を一瞬で取り出し一直線に向かった。
 間は4,5メートル程あったが次の瞬間には令ちゃんの間合いになっていた。普通の人間には反応できない速さだろう。
 …そう。間違いは相手が普通の人間ではない、というかこの先を知っていた事。知り合いから先見とやらでこの後どうなるかを聞いていたのだった。
「令ちゃん駄目!」
 それに相手は一歩も動かず迎撃体勢。
 無駄のない動きで懐から拳銃を取り出した。
 何の躊躇いもなく機械のように照準を合わせる。  
 パン―――。
 空気に響く乾いた音。
 
 …私はこの暴の音を一生忘れる事ができないだろう 


 
黄薔薇放送局 番外編

秘書 「リリアンでの計画が失敗しました」
○○○「あら、存外氷室先生も使えなかったわねぇ」
秘書 「このあとはいかがしましょう?」
○○○「おもしろいわ、由乃ちゃん、とやらがどこまでやるのか見てみることにしましょう」
秘書 「承知しました」
○○○「フフ、ハハ、アハハハハハ!」

秘書 「……」
○○○「……」
秘書 「……」
○○○「……」

秘書 「もう止めません? 江利子さま(ため息)」
江利子「あら、せっかくのってきたところだっていうのになんてこというの、乃梨子ちゃん!」
乃梨子「……私たちに黒幕役は似合わないのでは?
	(江利子さまは実によくお似合いかもしれませんが)」
江利子「含みが気になるわねぇ……。まぁ良いわ。
	でも由乃ちゃんが少年探偵、令がとらわれの令嬢なんて言うのは面白そうね」
乃梨子「令さまが泣きますよ」
江利子「この点に関しては由乃ちゃんも賛成するだろうし動かないところよね」
乃梨子「(令さま……本当に不憫な)」
江利子「うん、今度実践してみようかしら♪
	とらわれの令嬢を追う少年探偵、しかしさらったはずの謎の伯爵に恋をしてしまう令嬢!
	二人の間で揺れ動く彼女の心はいかに!? そして結末は悲劇か喜劇か!? 以下次号まで待て!!」
乃梨子「……ご満足ですか?」
江利子「……本当っにノリが悪いわねぇ乃梨子ちゃんたら〜」
乃梨子「それよりも結びをお願いします。 ……伯爵さま」
江利子「♪ この白熱した展開の続きが気になる方は是非ファイさまに感想を送って差し上げてね」
二人 「それではごきげんよう」