やっと午前の授業が終わって昼休みになった。昨日の夜学校に来たせいで睡魔に何度も襲われた。まぁ自業自得なのだけど。 そしてゆっくり時間をかけてお弁当も食べ終わったので寝不足な体を無理矢理動かしあそこに向かった。 「やぁ島津さん」 「あ、氷室先生。何か用でしょうか?」 昨日の所に向かう途中に英語の教育実習生の氷室先生に会った。最近来たばかりでうちのクラスでも授業をした。おそらくまだ大学生だと思うけど親父ギャグを連発してみんなになかなか人気があった。私もこの先生は結構好きな方だ。 「いや〜、特に用ってわけではないんだけどね。最近流行ってる噂知ってる?あの『かてーイカ』のやつ」 「『かてーイカ』?硬いイカですか…?」 「かてーイカ・・かていイカ・・かていいか・・家庭科!」 「……」 あはは・・でました。 「いやーそういう反応も面白いね」 「…家庭科室のですね。ええ、知ってますよ。白い着物を着た幽霊が出るって話ですよね」 「そうそう。そういえばそれを確かめようとした二人が朝学校で倒れてるのが見つかったよね」 「そうですね。でも二人は別に幽霊に襲われたわけではないんですよね。先生はその事どう思いますか?」 この先生なら何かいい考えを出してくれそうな雰囲気。…親父ギャグの可能性もあるけど。 「なぜ幽霊に襲われたわけではないと言いきれるのかな?」 「え?だって二人は何か変な匂いをかいで意識を失ったって言ってました」 「…へぇ」 驚いたような声を出す。 「それにここだけの話ですけどね、昨日の夜私もお姉さまと一緒に行ったんですよ。お姉さまは平気だったんですけど私が匂いをかいだらしくって意識を失ってしまったんです。昨日思ったんですけど幽霊なんかじゃなくて人間がいると思うんです。これは勘ですけどね」 「‥いい推理してるね」 「え?」 「いや、そうゆう推理もありだねって。じゃあ人間がいたとしてその理由は?」 私が質問してたのになんで質問されてるんだ? 「そこまではちょっと…」 「あはは、ごめんね。色々と変な事聞いちゃって。でも島津さんはすごいね、行動力もあるし。尊敬しちゃいそう。じゃ呼び止めてて悪かったね」 「いえ。先生と話せて楽しかったです。では用事があるので」 「あ、そうだ!最後に1つ」 去り際にちょうど思い出したように聞かれた。 「何色が好き?黄薔薇のつぼみの妹だし黄色かな?」 「?好きな色ですか?やっぱり黄色ですね」 何で今こんな事を聞くのだろう。 「やっぱりか〜。ちなみに僕は紅なんだ。なんでかっていうと元紅薔薇さま、水野蓉子さんのファンだったからねー。ファンというより憧れかな。尊敬とも言う。ま、先生の立場でこんな事言うのはだいぶ問題あるからこれもここだけの話ね《笑 じゃ今度こそさようなら」 「はい」 元紅薔薇さまは大人うけする女性だし。私も男だったらあんな女性に憧れちゃうな。 先生との会話が終わって昨日の夜来た所に来た。もし私が昨日感じた様に人間が関わっているなら何か残ってるかもしれない。 …とも思ったけど無理そう。昨日から降り始めていた雨は今では大雨になっていた。 戻ろ、と思い校舎に向き直ろうとした時もう一人傘をさしてる人を見つけた。 その人は…あれ?名前聞いてない。 「ごきげんよう。昨日はどうも、え〜っと…」 「千冬よ、雷堂千冬」 「ごめんなさい千冬さん」 「いいわよ。それよりこの雨の中こんな所で何してるの?」 ごもっともです。 「ちょっと調べものを、と思ったんだけどこの雨を忘れてたの。千冬さんは何してるの?」 「私?私ねぇ…何してるんだろね。ホント‥」 心ここにあらずって状態。 「どうしたの?昨日とちょっと変わってるよ?」 「あ、いや。なんでもないわ。気の迷い…かな」 「??」 「…さ〜て、急がないと五限目始まっちゃうな〜。由乃さんも急がないと遅れるわよ」 時計に目をやる。 …あと三分!? 「本当だ!じゃ行くね、千冬さん」 「うん、じゃあね…気を付けて」 走ると泥がはねちゃうし、もうどうしよ! 「失敗はあるよね、人間だもの…―――」 ん?何か聞こえた気がする。 ま、この雨で聞こえるわけないか。 雨はまだ止まない。 次の日、昨日の雨は?って位の快晴。 青い空に雲一つ…位はあるけど。 マリア様にお祈りを終えて校舎に向けて歩いているとき後ろの女の子達の会話が頭に残った。 「もう家庭科室なんて誰も近寄らないよね」 「もう幽霊が怖いって歳でもないけど〜。でもオカルト好きにはたまんない話題じゃない」 「そうそう、逆に近寄る人達もいるわ」 「みんなが行ったら他の教室誰もいなくなるね」 「でもそれはなくなるんじゃない?二人学校で倒れてたって噂だし」 ―――という会話。 何かひっかかる。 何処かひっかかる。…ま、考えても仕方ないか。 昼休みに薔薇の館にお弁当を食べに行こうと歩いていたら、また氷室先生に呼び止められた。 「やぁ島津さん」 「先生、今日はどうしましたか?」 「いや〜、島津さんにご褒美をあげようと思って。英語の小テスト満点取った人にはご褒美をあげるって言ったじゃ ん?」 言ってたっけ?…言ってないような気がするけど、聞き逃してたのかな。 「私満点だったんですか?」 「そうだよ。だからこれをあげよう」 と言いポケットから小さな箱を取り出した。 「はい、時計だよ」 「こんな高価な物いただけません!」 たかが小テスト満点でこれはまずいだろう。 「いいからいいから。島津さんにはお世話になったし。それにもうすぐ実習期間終わっちゃうから思い出に」 「でも…」 「もらえるものはもらっとくに限るぞ〜。…ほら、似合ってるよ!」 箱を開け私の腕に付けた。その時計は長針はアナログだが秒針の代わりに、秒がバックにデジタル表示されるという少し変わったものだった。聞くと長針に見える物も実はとてもリアルなデジタル表示らしい。全く言われても判らない位リアルだ。ここまでされて断るのは失礼だ。 「…ではお言葉に甘えて」 「いやいや」 「じゃ私お弁当まだなので失礼します」 「うん」 とりあえず今まで付けてたのは外そっかな。両手に一個ずつ付けるなんてみっともないし。 ギシギシと言わせながら薔薇の館の階段を上がる。一人で上がる時はそれほど思わないが大勢で上がる時はホントいつ崩れるか、と思う。まぁ無理な事をしない限り私が卒業するまではもつだろう。 扉を開けると令ちゃんの他にも一人いた。 「あら、祐巳さん」 …あれ?令ちゃんと話してて気付かなかったのかな? 「ごきげんよう二人とも」 「あ、由乃さん!」 「今会話してた内容は私に気付かない程の内容なんですよね?お姉さま」 ちょっといやみっぽく言う。 「え‥いや、まぁ。それ程じゃないけど。最近よくニュースでやる事件についてだよ」 「事件?」 「そう。連続爆破事件。その犯人の似顔絵に似てる人を見た気がするんです、って令さまに言ったら令さまも見た気がするって言ってたからさ」 「うん、どこかで見た気がするんだよね…」 「ふ〜ん、気になるね」 連続爆破事件。恥ずかしながら初耳だった。爆破を連続でするなんて世の中も物騒である。 二人に聞いたところによると、犯人は日本各地で政治的な建物や大使館の破壊、政治に関わっている人の暗殺なんて事をしているらしい。 それも全て爆弾を使っているため建物は簡単に破壊される、建物が簡単に破壊されるという事はつまりどこにいても安全でないという事。家の中にいてその家もろとも吹っ飛ばされた事件もあったとか。 ちょっと想像して食欲がなくなってしまった。 祐巳さんとクラスに帰っていると千冬さんがいた。千冬さんは何か昨日からぼーっとしている。 「ごきげんよう千冬さん」 「あー、由乃さんに祐巳さん」 やっぱりどこか気のない返事。 「大丈夫?」 「何が?」 「昨日から少し変だなって思って」 「そう?私は平気だよ!あ、その時計かわいいね」 明らかに無理して言っている。本当にどうしたのだろう。 「この時計実は貰い物なのよ」 「もしかして男〜?」 「え!?由乃さん男の人に貰ったの!?」 祐巳さんたらすごい声を出した。 「‥まぁ男の人といえばそうね。でも氷室先生だけど。小テストで満点とったご褒美だって」 「‥そう」 また元気がなくなってしまった。 「千冬さん?」 「由乃さんちょっと待ってて」 そう言って自分の教室に行った。 「ねぇ由乃さん、千冬さんは氷室先生が好きだったのかな?」 「う〜ん…」 好きだったのかな?まずい事しちゃったかも。 「ごめんごめん!はい由乃さんこれ」 「何?これ」 小さな御守りをもらった。 「見た通り御守りだよ」 「うんそうね。…じゃなくて何で私に?」 「由乃さんは見かけによらずイケイケでしょ」 ニヤリとして言う。…うっ。 「だから御守り。由乃さんにはきっと必要だよ。できるなら常に持っててね。そうじゃないと余り意味がないから。本当に困った時に助けてくれる効果があるんだって」 「そう。ありがとう。いつも持ってるね」 「うん、じゃごきげんよう」 「由乃さん並に彼女も鋭かったね」 「ははは‥」 な〜んか雲行が怪しくなってきた。 また雨かな? ソレが何なのか最初は判らなかった。 辺り一面に広がっているソレ。 辺りを染める色は真紅。鼻の粘膜を刺激するきつい匂い。 …気付かなければよかった。 ソレが元人間であるのに気付くのに数十秒かかった。 家に帰って、ふと思い立って本屋に出かけたが、残念ながらめぼしい本が見つけられず帰る事にした。その帰り道、ボロボロになった廃屋の庭にソレを見つけた。 すぐに警察を呼んだ。間もなくして警察が来て周りをシートで覆った。あまりにも現場が酷いときにそうするって聞いた事がある。…確かに酷かった。あれでは身元なんて判らないのではないだろうか。 野次馬に混じって少し様子を見ていく事にした。 よ〜く聞いていたら警官達の声が聞こえた。それによると爆殺されたのだがその前にも刃物で死なない程度に切られていたらしい。あと死体の右手には携帯が握られていて、もしかしたら何かを残していないかと調べたが、爆破の衝撃で画面が壊れていた。 しかし何も残さなかった訳ではない。携帯の『1345679*#』の所に血が付いていた。今のところそれ位しか手掛りは残ってないらしい。 あまり長居していても悪いので帰る事にした。 …その時は死体が誰だったのかなんて考えてもいなかった。
黄薔薇放送局 番外編 由乃 「私が真犯人を必ず暴き出す! じっちゃんの名にかけて!!」 令 「由乃のおじいちゃんって探偵だったっけ?」 由乃 「……団体職員だったはず」 令 「(ため息)」 由乃 「な、何よ、そのため息は! また始まったよ、とか思っているんでしょ!!」 令 「じゃぁその足下に落ちているコミックは何?」 由乃 「こ、これは…… っていいの! 令ちゃんは助手として私に付いてくればそれでいいの!」 令 「はいはい、分かりましたよ。言われなくても付いていきますとも。 (そんな危ない現場に由乃だけを行かせる事なんてできるわけがないじゃない)」 由乃 「ふふ〜ん♪ 令ちゃん大好き!」 令 「(苦笑) 私もだよ♪」 由乃 「さぁ、犯人を見つけ出すわよ!」 令 「ところで何か目星はついているの?」 由乃 「……」 令 「……」 由乃 「…………」 令 「…………」 由乃 「………………」 令 「………………」 由乃 「支倉助手、あなたの出番よ!」 令 「へ、私?」 由乃 「そう、怪しい手がかりを私の所に持ってくるの。 そうすればそれを私が灰色の脳細胞でもってパパッと解決!」 令 「(なんにも分かっていないのね…… おまけに作品混じってるよ、由乃)」 由乃 「さぁ、何ぼんやりつったっているの令ちゃん! 早く探しに行く!」 令 「はいはい……(泣)」 由乃 「(くるりと振り返って)皆さんも何か手がかりがあったら私のもとに届けてくださいね♪」 二人 「ではごきげんよう〜」