「ねぇねぇ、あの噂知ってる?」 「ちょっと前からあるやつ?知ってる知ってる」 「怖いよね〜」 「授業で使う事になったらやだね」 「そうかなぁ。私は確かめてみたいけどな」 「本気!?」 「すごい、勇気あるね」 「私こうゆうの好きだからさ」 たまたま昼休み教室でお弁当を食べ終わり片付けていたら桂さん達が話しているのが聞こえた。盗み聞き、というのは気が引けるがその噂を知らない私はとても気になった。話している内容から推理すると、少し前からあり、学校の中の事で、勇気が必要という事か。これだけじゃよくわかんない。と、ちょうどそこに祐巳さんが薔薇の館から帰って来た。 「祐巳さん」 何か知ってるかなと思い声をかけた。 「なに?由乃さん」 「あのね。少し前から流れてる噂って知ってる?」 「…あぁ、あの噂かな。ホント困るよね」 表情を曇らせて言う。 「知ってるんだ?」 「うん。桂さんに聞いた」 「それってどんな噂?」 「いわゆる怪談みたいなものだよ。なんかね、夜中に出るらしいよ」 「そりゃ昼間には出ないわよ。どこに出るとかは?」 「家庭科室。夜中になると白い着物を着た幽霊が出て家庭科室を少しだけ荒らしてかえるんだって」 「少しだけ?変な幽霊だこと」 「うん、前の日と物の位置が変わってたり、水道周りが濡れてて、使われてたり」 ますます変だ。何かありそう。そう私の第六感が言っている。 「それって誰か見たの?」 「見たんじゃない?誰かは桂さんも知らないらしいけど」 見た人がいたっていうのもおかしい。なんで夜中に学校にいたのだろう。 「令ちゃんは幽霊信じる?」 帰り道ふと思いつき聞いてみた。 「何?急に。まぁ信じられないけどいるとは思うよ。もしかして家庭科室のやつ?」 「ん〜、まぁね。じゃあ学校の噂はどう思う?」 「デマじゃない?だって噂の元が誰か分からないんでしょ?信憑性ゼロだよ」 「だよね。そこがおかしいのよ…」 う〜ん、噂の元が誰か分からないのにこれだけ広まってるのは何かあるのか。一度実際に行ってみるかな―――「…まさか何か企んでる?」 「ま・まさか!ははハハハ」 やばい。不意をつかれて渇いた笑い声になっちゃった。 次の日。 噂を少し信じるようになる。朝生徒が二人外で倒れているのが見つかったのだ。外で一晩過ごして凍え死ぬという季節ではないけど、年頃の女の子にとっては厳しいだろう。そして二人はまず生活指導室に連れていかれしっかり怒られたらしい。その後何があったのかを聞かれた、と何故か新聞部部長築山三奈子さまが言っていた。 ちょうどその時、当の本人達が新聞部の執拗な追跡を撒いてきた様な格好で出てきた。肩で息をしているのは走っていたのだろう。二人は特に友達ではなかったがやっぱり気になったので聞いてみた。 「ごきげんよう二人とも。お疲れみたいね」 「!?」 二人ともいきなり何もないと思ってたところから声をかけられて驚いている。 「‥ごきげんよう、黄薔薇のつぼみの妹。確かにお疲れよ。なんていったって外の硬い地面で寝てたんだから」 「それに先生達からはたっぷりお説教だしー。その次には新聞部部長からインタビューという名のいやがらせだしー」 「それは疲れたでしょうね。じゃあインタビューではなく興味で聞いていい?」 「まぁ由乃さんならいいかな」 「ありがと。では昨日何が起きたの?」 「簡潔でいいねー。新聞部部長はいちいち分けて聞きすぎなんだよー」 「ハイハイ、愚痴は後で。‥で、昨日の事だっけ。昨日は御察しの通り噂の検証に行ったのよ」 「何時頃に行ったの?」 「多分12時位かな。まずちょっとした方法で学校に入ったの。家庭科室って一階にあるでしょ?別に校舎の中か らより外からの方が見やすいと思って近くまで行ったのよ。そしたら家庭科室の電気は付いてないのよ。‥でもね。電気じゃなくてろうそくみたいな物が付いてたの。窓が少し空いてたから風で光が揺れててそれでろうそくかなって。それでよ〜く中を見てみるとね‥いたの。噂通り白い着物を着た幽霊が。さすがに怖くなって写真も撮らずに帰ろうとしたの。そしたら急に変な匂いがして意識が飛んじゃった。それで今日の朝になるって事。」 「ほんとに幽霊だったの?」 「そうだと思うよー。生きてる感じしなかったしー」 「そう。‥じゃあありがとう。そろそろ危険だと思うからこれ位にするね」 「?危険って?」 「ポニーテールの人が走ってるのが見えた」 「…え?……わっ!逃げるわよ!…ってもう逃げてるし!」 私も三奈子さまから何を聞いたの、とか問いつめられるのは御免なので逃げることにした。 後ろの方から、二人とも待ちなさ〜い!由乃さんも待ってちょうだいよ〜!という声が聞こえたけどこの状態で待てと言われて待つ人はいないので無視。二兎を追うものは一兎をも得ず、って事を知らないのかな♪ 「――って事らしいわよ」 令ちゃんにさっき聞いた事を話した。ここは令ちゃんの部屋。新作ケーキができたという事でお呼ばれした。まぁ 言うまでもなくそのケーキは最高だった。 「へー」 「…『へー』って何?そうですね、令ちゃんには興味のない話でしたねー。もういいですよー」 思わず膨れてしまう。 「い・いや!そんな事ないよ!わ・私もそれ見てみたいな!……それ?…」 焦って口が滑ったね、令ちゃん。 「『見てみたい』?ふ〜ん。じゃあ見に行こっか」 「……」 絶望。今の令ちゃんを表している言葉。令ちゃんは中身はすごい女の子っぽいからこうゆうのは苦手な方だと思うし。 「…行くって、まさか夜の学校に?」 「自分でそう言ったわよね?」 「あ・あれは口が滑ったというだけで‥私は行きたくないな〜、なんて――」 ヒュッ。 クッションが令ちゃんめがけて飛ぶ! スカッ。 不意打ちだったはずなのに令ちゃんよける! ‥それから私のいつもより三割増しのヒステリーで渋々幽霊検証を了解してくれた。 「やっぱりやめようよ…」 「もうすぐそこなんだからぐだぐた言わない」 早速今夜に行く事にしてもう学校の敷地内に入った。のに令ちゃんは今更そんな事を言っている。 「…。でも昨日の今日だし先生達に見つかったらまずいよ」 ‥確かにそれはまずいかもしれない。まぁここまで来たらもう遅い。 「大丈夫。万が一そうなった時に言い訳は考えてあるから!」 もちろん嘘。要は見つからなければいい。それにあの二人みたいに外でおやすみ、なんて事にはならない自信がある。根拠はない。けどそうゆうのは必要だと思う。 「本当に?」 「本当に」 話してる間に家庭科室の側まで来ていた。リリアンは結構古いし出そうな感じは十分すぎる程する。 私はハンカチを取り出した。 学校での話の中で気になった事があるからだ。変な匂いがして気を失ったっていうのは明らかに何かの薬物によってだと思う。でも幽霊騒ぎで薬物なんておかしいし、そもそも幽霊か、って話。 「令ちゃんもハンカチ口元に当てといた方がいいよ」 「うん」 家庭科室から10メートル位離れた木の陰から見てみると―――――ろうそくの灯りが数個。そして白い服のモノ。着物にも見えるけど普通の服の様にも見える。灯りが少ないのと多少遠いせいではっきりと見えない。二人が言っていた通りソレからはあまり生きてる感じがしない。ソレはその場で動かずずっと立っていた。 「よ・由乃…あれって…」 「噂の幽霊かな?それにしてもなんで動かな―――」 ん?ゆらゆら揺れてる? いや。揺れてるのは私の方だ。幽霊に気をとられて匂いに気付かなかったのか?でもハンカチで口元を押さえていたし令ちゃんは普通そうだ。でも…やばい、倒れる。 「令‥ちゃん」 「由乃!?大丈夫!?」 「もう‥危険。帰ろう…」 帰ろう、とは言ったものの私は立ってられない位眠くて結局は令ちゃんにおぶってもらった。 そしてもちろん、二人を見ていたモノに気がつかなかった。その視線の先にいたのは人間だったのか幽霊だったのか ―――でもその時に。眠くなんてなっていなかったらあんな事は防げていたのに――― 雨が降り始めていた 「…由乃もう平気なの?」 「平気よ。何か眠気を起こすだけの物だったのよきっと。それより何で昨日令ちゃんは平気だったの?」 「ん?よく分かんない。強いて言うなら鼻がつまってて匂い分かんないって事位かな」 鼻がつまってただけで平気か…? 「そう。でも令ちゃんのおかげで助かったわ。そうだ、昨日私を連れて帰る時まわりに何か変な物とかなかった?」「まわりを見る余裕がなかったけど‥多分何もなかったと思うよ」 「そっか‥じゃもし何か思い出したら教えて」 「まさか‥まだ追う気?」 「当然」 「…由乃。昨日は眠くなるだけの物だったかもしれない。けど今度はもっと危険な物かもしれないんだよ?まぁ…でも私は今の由乃を止められないと思う、でもこれだけは覚えていて。私は由乃が心配なの。昨日だって急に倒れて本当に驚いたんだから…」 …ありがとう令ちゃん。 心配してくれて。 でもごめん、やっぱりやられたままではいられないよ。 「…分かった。無茶はしない。ありがと令ちゃん」 その後学校に行く道を少し遠回りして令ちゃんとゆっくり歩いていった。 2つある傘を1つだけ一緒に使って。
黄薔薇放送局 番外編 由乃 「♪〜♪」 令 「♪」 二人 「♪♪♪」 乃梨子「今日のお二人はなんだか輝いていますね……」 江利子「まぁ、メインで登場なんていう機会がここではほとんど無いからね。 音符言語で会話したくなる気持ちも分からなくはないわ。乃梨子ちゃんもうらやましい?」 乃梨子「先日登場できましたし……」 江利子「……それに将来のシリーズでメインを張れる可能性があるから? まぁ、最近の若い娘ったら言うことが違うわね! でも強気な娘も好きよ(笑)」 乃梨子「ッッ!? 誰もそんなこと言っていませんって!」 江利子「いいえ、あなたの心が言っていたわ!」 乃梨子「人の心が読めるんですか!?」 江利子「だって私はここの『女神さまっ』だから〜」 乃梨子「『女神さまっ』って……」 …… …… 由乃 「令ちゃん…… 私今とっても幸せよ」 令 「私もだよ、……由乃」 由乃 「令ちゃん……」 黄薔薇の園の中、二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ まる