〜1〜 『悲しい兆しと哀しい祈り』 あぁ、私は何か悪い事をしてしまいましたか? 今まで私はみんなに優等生と呼ばれ、校則を破るような事もした事がありません 私は何か悪いことをしてしましいましたか? マリア様どうかこの私に教えてください・・・ それは新年になってしばらくたった頃に起きた。家で勉強してるときに急に胸が苦しくなり意識を失ってしまったのだ。そのときはすぐに意識が戻ったので私は、疲れやストレスがたまってるんだな位にしか思っていなかった。 しかし、後から振り返ってみるとそのときにはもう私に「病」という悪魔が忍び寄っていたのです。 そして次の日私は普通に学校に行った。 「ごきげんようお姉さま」 「ごきげんよう祥子。そういえばあなた達もうすぐ生徒会選挙よね。私が言うのもなんだけど志摩子大丈夫?祥子や令は二年生だけど志麻子は一年生だし、今年はロサ・カニーナなんて呼ばれてる子も立候補するんでしょ?」 「相変わらずですねお姉さまは。志摩子は私が見た感じでは今のところ何も心配はないと思います」 と少しクスッと笑って言った。 「私も志摩子なら大丈夫だと思うけどね。それでロサ・カニーナはどうなの?」 「正直に申し上げますとあまり彼女について分かっていません」 「そう・・それなら私が少し調べてあげましょうか?」 「お姉さまはもう三年生なのですし勉強の方も大事でしょうからそこまではしてもらえませんわ。それに薔薇さまにお手伝いしてもらうのは反則でしょう」 相変わらず真面目である。自分も大変だろうに、私の心配をしてくれるなんて本当に嬉しい。 「そうだったわね。三年生はこの選挙に口出ししてはいけないものね。つい私のお節介が・・・」 「お節介だなんて。お姉さまにそんなに心配されるなんて少し羨ましいですね」 「あら、妬いているのかしら?」 「そっ・そんな事ありませんわ。ただの感想です。ではもうすぐ教室ですので、ごきげんよう」 お、逃げるか。もう少しからかってみようかな。 「ふふ、いじっぱりね〜。でも私は本当はいつもあなたの事を心配していたのよ?信じてくれるかしら?」 と言い祥子の髪を撫でた。すると祥子は真っ赤になって黙ってしまった。こういう所裕巳ちゃんにちょっと似てる気がする。 「そうだわ、祥子今日薔薇の館に行く?」 「・・今日は選挙の準備をしたいのでいけません」 「そう。呼び止めて悪かったわね。じゃあごきげんよう」 「ごきげんよう」 そう、もうすぐ私たちも卒業する。寂しい気もするけどこれはどうしようもない。後は祥子たちに任せましょう・・ 「選挙、ロサ・カニーナか・・・あっ」 昨日倒れたこと祥子には話してみようかと思ったのだけど忘れてしまった。まあ平気よね今はなんともないのだし。 そして放課後になり私は久しぶりに薔薇の館に向かった。そこにはなぜか聖しかいなかった。 「あれ〜蓉子なにしてんの?」 「あなたこそどうしてここにいるのよ?」 「ん〜暇だから?」 ものすごい事をさらっと言った。 「あなたね・・・暇って・・・受験生でしょ?それだから推薦入試だって――」 「あーはいはい分かった分かった。推薦できないからそれなりに頑張ってるわよ」 私がこれから説教すると分かって途中で中断したな?まあ頑張ってるならいいか。 「それは良かったわ。じゃあそんな頑張ってる聖に紅茶でも入れてあげようかしら?」 「・・私は紅茶より蓉子からのご褒美もらえたらもっと頑張れるんだけどな〜」 そんな事をいいながら聖は私の後ろから抱きついてきた。 「せーいー?」 「はいっ!ごめんごめん冗談だよ〜」 と言いながらパッと離れた。そういえば聖がこんな事を私にするなんてめずらしい。そう思うと自分で聖を離しておきながらなぜか少し後悔した。 「・・そういえばちょっと聞いてほしいのだけど」 「なぁに蓉子?」 「昨日家で勉強してたときのことなんだけどね、急に胸が苦しくなって気を失っちゃったのよ。どう思う?」 「・・・もう平気なの?」 聖は私が真剣に話してるのを見てまじめに聞いてくれた。いつもこうならとってもいい子なのに、なんて思ったりもしてしまった。いけない、こんな事考えてる場合じゃない。 「もう今は平気よ」 っっ!!? また昨日と同じ胸の苦しみがきた。なぜ急に!? あぁ聖がなにか言ってる・・・ごめんね心配かけちゃって・・・ 今日は帰って勉強する気分じゃないし久しぶりに薔薇の館にでも行ってみるか。・・お、あそこにいるのは裕巳ちゃんだ。ではこれまた久しぶりにいい抱き心地でも味あわせてもらおっかな〜。 「ゆ〜みちゃん!」 「ぎゃう!」 きたー。さすが裕巳ちゃん。 「いつでもいい反応してくれるね〜」 「ロ・白薔薇さま離して下さいよぉ、今は構ってる暇ないんですよ〜」 「よよ〜、私なんかにはもう構ってくれないのね〜。お婆ちゃんは寂しく卒業しますよ・・・」 と言い裕巳ちゃんから離れた。 「あっ、いやそうゆうわけじゃないです!ご、ごめんなさい!ただもうすぐ祥子様が生徒会選挙でお手伝いできないかと探してる所なんですよ」 「う〜ん祥子ならきっと一人で全部終らせちゃうと思うな」 「そうですよね・・・私なんかがお手伝いするような事ないですよね・・・」 と目を伏せながらいった。 やっぱり裕巳ちゃん可愛いなぁ。祥子がちょっと羨ましいな。・・まぁちょっとだけだからね、志摩子。 「・・・そんな事ないよ。側にいるだけでいいときだってあるよ。さぁ、探してる邪魔して悪かったわね、いってらっしゃい」 裕巳ちゃんは再び抱き寄せられポンポンと頭をなでられて元気になったようだ。 「はい!!ありがとうございます白薔薇さま!ごきげんよう!」 パタパタと走り去ってしまった。 「ふぅ、リリアンの生徒はスカートのプリーツを乱さずに、ってすっかり忘れてるなこりゃ」 ま、私が言う資格ないな。などと考えてるうちに薔薇の館に着いた。中には誰もいなかった。 「紅茶でも飲みながら誰か来るのを待つか」 しばらくして階段を上ってくる足音が聞こえた。この丁寧な歩き方は・・・やっぱり蓉子だ。 「あれ〜蓉子なにしてんの?」 「あなたこそどうしてここにいるのよ?」 「ん〜暇だから?」 「あなたね・・・暇って・・・受験生でしょ?それだから――」 はぁまたお節介が始まる・・・ここは早めに謝るか。 そして蓉子に紅茶を入れてもらって珍しく相談された。どうやら真面目な事らしい。 ・・・ん!?急に蓉子が倒れかかってきた! 「どうしたの!?蓉子大丈夫!?ねぇ!!」 蓉子は完全に意識を失っていた。ヤバイと一瞬で判断し蓉子を保健室に運び、すぐに救急車を呼んだ。 私は蓉子が心配で病院まで行った。だがなんと蓉子は途中意識をとりもどしたらしい。そして今検査を受けている。何かとても嫌な予感がする。 「どうか何も起こらないでっ・・・」 私には祈る事しかできなかった。 だがこの数十分後に聖の感じた嫌な予感が、もっとも残酷な形で現れるなんてマリア様でも思っただろうか 〜2〜 『タイムリミット』 あら?ここはどこ?なんで私は寝てるのかしら。 ・・そうだ、たしか聖と話しててその後倒れてしまったのだ。ということはこのサイレンの音からして救急車の中? 「意識が回復しました!!」 「君大丈夫かい?喋れるかい?」 「はい。お騒がせして申し訳ありません。もう体のほうも治ってしまったようなのですが・・・」 「はっはっは!でもまぁ病院まで行くぞ?一応倒れてしまったのだしな。それに救急車を呼んだ手前治りました、なんて帰れないもんな!」 「・・・はい。お願いします」 私は今どれだけ真っ赤な顔をしているだろう。昔数学の時間延々と黒板に書いた答えが間違ってたときも恥ずかしかったわね。あのときくらいかしら? そして病院に着き精密検査を受けた。私はもう体が治ったから全然検査の結果を心配してなかった。そんなことより聖が病院まで心配して来てくれたという事を聞き、とても嬉しいなんて事を思っていた。聖には悪いけど意外だったから嬉しかったのかもしれない。 でも、もしかしたら聖だったからこんなに嬉しかったのかもしれない。 検査の結果が出て私は部屋に連れて行かれた。そこには両親がいた。ドラマとかではこの後レントゲンとか見せられて実はガンですとか言われるわね、なんて考えていた。 「・・水野さん。どうか落ち着いて聞いてくださいね。順に説明していきますから」 「はい」 なんだろう。深刻な雰囲気だ。・・・そういえば母親の目が少し腫れているような・・ 「まずあなたの心臓です。あなたの心臓は今だんだんとその機能が失われていってます」 「え!?・・そ・それはどういう・・・」 一瞬何を言われたのか分からなかった。・・祥子くらいの家ならこれをドッキリでするほどの権力があるだろう。 だけどそんなこと祥子がするわけないし、する理由がない。 ということは・・事実? 「機能が失われていっているというのは、だんだん心臓が小さくなっていっているのです。心臓とは筋肉です。その筋肉が徐々に縮小していっている、それもまったく原因不明なんです。・・・いままでこんな事例は世界でも初めてな事でしょう」 「原因不明というのは・・その・・・治るのでしょうか?」 「・・・申し上げにくいのですが現代の医療技術では・・・」 「っっっ!?・・・それでは私はどうなるんですか!?」 この人に怒っても仕方ないのはわかっているけど、この気持ちは・・何かにぶつけないと壊れてしまいそうだった。 私が。 「・・・あともって三ヶ月ですね」 『あともって三ヶ月。』 その言葉が頭から離れない。卒業式は出れそうだな、なんて変な事を想像していた。卒業したらみんなと別れてしまうのだけれど、私は卒業したらみんなと永遠に別れてしまわなければならないかもしれない。 「・・・そんなのは嫌よ・・・」 私何か悪い事したかしら。なぜ私なの? 「どうしてよ・・・」 独り言がでてきてしまう。ふと顔を上げたら入口に聖が心配そうな顔をして立っていた。 どうやってここまで来たのか全く分からない。 「・・蓉子?蓉子だよね?大丈夫?顔色悪いよ?」 聖が心配そうに声をかけてくる。 「私・・・わたし・・・」 聖にさっきのことを言おうか迷った。 でも聖は親友だ。いや、親友よりもっと大きな存在かもしれない。聖にだけは話しておこう。 「聖。大事な話があるの・・・ついてきて」 「?・・うん」 この季節もうとっくに日は落ちている。休憩所にはだれもいなかった。 そこはいつもいる人達がいなく、とても温かみというものがなかった。広く四角いそのスペースは休憩所とはかけ離れたものを連想させる。 「はい。コーヒーだけど。暖まるよ」 「ありがと聖。ほんとに・・ありがとう」 聖のこんな普通の優しさがとても身にしみる。まだ何も話してないに涙が出そうだった。 「まだ私も信じられないのだけど事実らしいのよ」 「何が?」 「どうやら私・・病気なの。それも原因不明の」 聖はとても驚いていた。持っていたまだ開けていない缶コーヒーを落とした。カラカランと空しい音が響いた。 無理もないわね。私だって同じ顔をしていたでしょう。 ・・昔聖に栞さんの将来を話したときもこんな顔をしていたかしら。 「本当・・・なのね。原因不明っていうのは・・その・・・治るよね?」 「・・ふふ、治らないでしょうね。なんせ余命三ヶ月って言われちゃったからね」 少し自嘲気味だった。現実逃避していただけなのかもしれない。 聖はさっきより驚いている。というより泣きそうな顔か。 「・・蓉子。辛いね・・・大変だね・・・」 私をそっと抱きしめてくれた。 ・・暖かかった。聖の温もりが私に泣いていいんだよ、と言っているように思えた。私は聖の腕の中で泣いた。人前で声をあげて泣くなんて初めてだったかもしれない。聖、祥子や江利子、みんなと別れてしまうのはとても辛い。 でもね・・・今初めて分かった。私はあなたと別れるのが一番辛いという事にね・・ 蓉子が病気。 しかも余命三ヶ月。 昨日打ち明けられた事実。 蓉子はみんなと今までの関係でいたいから、秘密にしておいてちょうだいと言われた。でももし蓉子に何かあったとき、みんなが知っていた方がいいんじゃない?と言ったのに、その時は聖が来てくれるでしょう?なんて言われちゃったからなぁ。こりゃぁこれから蓉子をストーキングかな? 「蓉子と一緒にいられるのが本当に後三ヶ月か・・・」 「どうしたの聖?朝から独り言なんて。蓉子がどうかしたの?」 スっというよりヌっと横に江利子がでてきた。 「江利子!?あっ、いや〜別に何でもないよ!ただ卒業したら会えなくなっちゃうなぁってね・・」 「・・・」 「何よその疑った顔わ〜」 「いいえ、何でもないわ。ではごきげんよう」 「???」 いつもの江利子ならしつこい位聞いてくるはずなのに、どうかしたのかな?ちょっとは真面目になったのかな〜あのでこちんも♪ さぁて、それよりこれから蓉子はどうするのかな。きっと蓉子の事だから学校は最後まで行くだろうけど、何かやりたい事とかないのかなぁ。私だけが知ってるんだしお手伝いできることはしないとね。 でもなんで蓉子は私だけに教えたんだろう。こんな私でいいならとても嬉しい事だけど・・ ん〜これはどうやら私の知らない所で何か起こっているようね。それが面白いかはまだ分からないけど、聖と蓉子が関係してるとなれば調べないわけにはいかないわ〜。 まずは蓉子に会ってみようかしら。可能性は低いけど何か分かるかもしれないわね。 手強ければそれ程落としがいがあるってものね♪ 私これからどうしようかしら。余命三ヶ月と言われたけど実感ないわね。 でも後悔しないように生きようかしら・・・ 「あら蓉子、顔色悪いわね。どうしたの?」 「江利子・・そんな事ないでしょう。私はいつもと同じよ」 江利子にこんな嘘をつくのは気がひけるわね・・でも江利子は受験勉強とか忙しいでしょうから余計な事に気を使ってほしくないし。江利子、ゆるしてね。 「そお?ならいいのだけどね。でもさっき聖が・・」 「聖が!?」 聖には言わないでって言っていたのに!動揺してしまった。 ・・・しまった。今気付いた。江利子の誘導だった。 私としたことが・・頭の働きが鈍ってる。江利子はニヤニヤしてるし。 「・・・聖がどうしたのかしら?」 無理だと思うけど取り繕ってみようとした。 「ふふふ〜、もう無理よ蓉子ちゃん♪あなたらしくないわね、さぁ私に何隠してるのかしら?」 ・・こうなった江利子は止められない。 「はぁ・・分かったわ。話すからついてきてちょうだい」 「は〜い」 ものすごい明るい声を出しながらついてきた。 こんな状態の江利子にあの話をするのはいろんな意味で疲れそうだ・・・
黄薔薇放送局 番外編 乃梨子「黄薔薇放送局番外編、前回までのお話は……」 祐巳 「手術の拒否が元で症状が進行する由乃さん」 志摩子「ついにはベッドから離れられない体になる」 祐巳 「そんな由乃さんに毎日のように付き添う令さまに由乃さんは……」 …… …… 由乃 「(淡い微笑み)令ちゃん、今日も来てくれたんだ……」 令 「当然じゃない。私は由乃がいる所ならどんな所だっていくよ」 由乃 「たとえ天国で……」 令 「由乃!」 由乃 「クスッ 冗談よ。でも令ちゃんと一緒ならどこに行っても良いかな」 令 「由乃……」 由乃 「あのね、令ちゃん。自分の体のことはよく分かるの。 みて、窓の外の木に葉が残っているでしょ、あれが全て散った時、私は……」 令 「由乃ぉ〜、お願いだからそんなこと言わないでよぉ(泣)」 由乃 「ありがと、令ちゃん。(弱く咳き込みながら)でも私は……」 (木の揺れる音、盛大に落ちる葉っぱ) 由乃 「……」 令 「……」 ○○○「あと一息かしらねぇ〜。 さぁ頑張るわよ!」 由乃 「(窓の下を見て、手近にあった果物ナイフを投げつける)」 江利子「(頭に目があるかのように避ける)あら、由乃ちゃん(さわやかな笑顔)」 由乃 「何してんですか、アンタは! この人殺し!」 江利子「(果物ナイフをもてあそびながら) こんなものを投げてくる人に言われたくないわねぇ〜」 由乃 「鬼! 悪魔!」 江利子「まぁ、ひどい。私は由乃ちゃんの苦しむ姿が見ていられなくて…… ならばいっそこの手で、とがんばって振り落としていたっていうのに!」 由乃 「誰もそんなことは望んでません!」 江利子「あ、令のことは心配しなくても私が面倒みてあげるから」 由乃 「なんの話だぁ〜!」 令 「(呆然)」 …… …… 祐巳 「ねぇ、乃梨子ちゃん」 乃梨子「なんですか?」 祐巳 「志摩子さんと私って最初のナレーションのためだけに呼ばれたの?」 乃梨子「そのようですね。まぁ、あの方のすることですから」 祐巳 「は、はは、ハハハハハ(苦笑)」 志摩子「続きの気になる方は是非ファイさまに感想を送って差し上げてくださいね」 三人 「それではごきげんよう」