「ナゼ、ワタシヲ トメル? ワタシハ、ツレアイヲ サガシテイルダケダ!」
ユイはふと、あの時に、光に包まれながら聞いた声を思い出していた。
「そう、そうなのね。
カヲル君、あのときに生まれたのが、あなただったのね。」
今まで、すっかり忘れていた。
碇 ユイ。
惣流・キョウコ・ツェッペリン。
そして、
蓮華 カグヤ。
キール・ローレンツが、チルドレンを生むように薦めた女性は、3人いたのだ。
苗字が異なるために、すぐには気付かなかった。
だが、渚カヲルが蓮華カグヤの息子ならば、彼がここに来た理由も説明がつく。
おそらくは、復讐__。
1997年7月、ドイツのとある片田舎のレストラン__。
キール・ローレンツは、特別室で人払いをした上で、ゼーレの若い3人の女性を前にしていた。
ユイ、キョウコ、カグヤの3名である。
ユイは、亜麻色のショートカット。
知的な印象を受ける。
キョウコは、金髪の同じくショートカット。
活発な感じである。
カグヤは、長い黒髪と太い眉。
物静かだが、勝気な雰囲気を漂わせていた。
キールは、3人をそれぞれ一瞥すると、語り始めた。
「知ってのとおり、裏死海文書は、単なる予言書ではなく、繰り返し行われる史実を綴ったものだ。
それによると、人類が増長を極めたとき、必ず【裁きの日】が来ることとなっている。
世間では、ノストラダムスの予言などと称して、2年後に人類が滅亡するのではないかと騒いでいる。
だが、これまでのところは、【裁きの日】は、決して【滅びの日】ではなかった。 」
「私の予感では、2年後ではなくて3年後です。」
カグヤが口をはさんだ。
ユイもなんとなくそのような予感はしていたが、カグヤほど具体的な数字を言えるほどではなかった。
仮にわかっていたとしても、カグヤのように話の途中で割り込む気はなかった。
「・・・そうか。聖母候補の筆頭である君がいうのなら、間違いないだろう。
ともかく、【裁きの日】の後、しばらくは混乱の日々が続く。
われらゼーレは、その中で良き指導者たらねばならん。
そして、その混乱を鎮めるのがチルドレン・・・【仕組まれた子供】,【適格者】と呼ばれる者たちだ。
君たち、聖母候補は、チルドレンの母親となる可能性が、もっとも高い者として集められた。
そのことは既に知っていよう。
だが、さらに重大なことが二つある。
一つは、次回の世紀末の【裁きの日】はこれまでと異なり、人類の存続にかかわる未曾有の災厄が起きることが予想されることだ。
まだ裏死海文書の未読部分を解析中だが、インパクトと呼ばれる最初の裁きの日と同等の事態が起きるやも知れぬ。」
「何が起きるのでしょうか」
ユイが尋ねる。
「わからぬ。 記録によれば、インパクトのときには、【使徒】と呼ばれる異形の物たちが現われたとある。
適格者たるチルドレンに与えられる使命も、これまでと大きく変わってくるだろう。
もう一つは、裏死海文書によると、チルドレンの中で真の救世主となれるのは、【祝福の光】に包まれて生まれた一人だけだということだ。
その名を、リアルチルドレン,【真の適格者】という。
そして、【祝福の光】は、【裁きの日】に降り注ぐこととなっている。
言い換えれば、裁きの日に生まれたチルドレンは、真の救世主、この世の王になれるということだ。
君らの中で、そのときに合わせて伴侶を見つけ、子を設けたものが、救世主の母親となるのだ。」
「それはつまり、これから約2年の間にいい人を見つけて結婚しろ、
そして3年後には子を産め、ということですか。」
尋ねたのは、キョウコである。
「まあ、そういうことだ。結婚については強制はしないが。
また、そのためにゼーレを退職しなければならないのであれば、自由にしてもらっていいし、生活も保障する。」
ユイも尋ねる。
「家庭に入った後も、研究を続けることは可能ですか。」
「もちろんだ。」
さらに、結婚、退職に関する細かい応答をした後、キールは用があるからと、退席した。
「ふうん、面白いことになってきたわね。」
キョウコは楽しんでいるようだ。
「そうかしら。私は大学を卒業してもこのまま、今の研究を続けたいわ。
【裁きの日】は面白いテーマだし。
でも、チルドレンのことや、その母親になるなんてことは、あまり興味ないなぁ。
それに、今日の話は、無理に結婚させられるみたいで、いやだわ。
いい人でもできれば、別だけど。」
その一方で、カグヤは真剣な顔をして考え込んでいた。
1999年10月、京都__。
「今回のレポート、読ませてもらったよ。
2,3疑問は残るが面白い着眼点だ。」
その研究室で冬月は、白衣を着たユイを前にして言った。
「ありがとうございます。」
「君はこの先どうするつもりかね?
就職か?
それともここの研究室に入るつもりかな?」
「まだそこまで考えていませんが、第3の選択もあるんじゃありません?」
「え?」
「家庭に入ろうかとも思っているんです。いい人がいればの話ですが。」
(六分儀さん、あなたにその気があればですけど・・・)
ユイは、ゲンドウのことを思い浮かべていた。
そして、2000年9月13日、南極__。
「やめてぇぇぇぇぇ!!」
葛城調査隊の基地を蹂躙する光の巨人を前にして、ミサトの絶叫が響き渡った。
「ナゼ、ワタシヲ トメル? ワタシハ、ツレアイヲ サガシテイルダケダ!」
光の巨人の動きが止まっていた。
「ワタシヲ、フウインスルキカ?」
巨人は身じろぎした。
しかし、既に動きは封じられている様だった。
「オ、ノ、レ、・・・。」
巨人の体から、光る煙が天空高く立ち登った。
そして、それは瞬く間に世界中に広がっていった。
同日、ドイツのとある病院__。
その産婦人科病棟に、カグヤとキョウコはいた。
カグヤとキョウコは、ほぼ同時に、出産していた。
カグヤは、男女の双子を無事出産したところだった。
少し前に、キョウコは男子を出産していたが・・・死産だった。
配下でもある助産婦からそれを聞いて、カグヤはほくそ笑んだ。
「子供を、抱かせてください。」
カグヤは半身を起こして、助産婦に言う。
「無理は、なさらないで下さい。」
そう言いながらも助産婦は、男女の赤子をカグヤに渡す。
「ふふ、あなたがカヲル。あなたがサクヤよ。
私の予感では、もうすぐ【祝福の光】が届くわ。
キョウコの出産日も今日だったことが、それを裏付けている。
気の毒に、死産だったけどね。」
カグヤは、両の手に抱いたわが子に、それぞれ頬ずりした。
「あなたたちの、どちらが救世主になるのでしょうね。」
そのとき__。
病室の窓の外が、急に明るくなった。
「来たわ・・・。」
光のシャワーが、窓の外で降り注いでいるのが見える。
やがて、光の矢の一つが病室の天井を貫くだろう。
そして、カヲルかサクヤの体を光で包むのだ。
・・・その、筈だった。
だが、そこまでだった。
何事も起こらないまま、光のシャワーは、間もなく止んだ。
「どうして?」
カグヤは茫然とした。カヲルとサクヤは、選ばれなかったのだ。
「なぜ、なぜなのよ!何が足りなかったというのよぉ!」
カグヤの絶叫に、二人の赤子も泣き始めた。
「カグヤ様・・・。」
助産婦も、かける言葉が見つからなかった。
そして、
ドドドドドドォ〜ン・・・
セカンドインパクトの大音響が、病院全体を揺るがしていた。
同日、日本の箱根の、とある研究施設__。
後に人工進化研究所と呼ばれるが、そこの宿舎にユイとゲンドウはいた。
時刻は深夜であり、ユイはゲンドウとともに、眠りについていた。
ふと、ユイは目を覚ました。
「何、この感じ?」
腹部に違和感を感じて、起き上がる。
そのときだった。
突然、夕立のように、窓の外を光のシャワーが激しく降り注ぐ。
窓から入り込む光が、昼間のように室内を明るく照らす。
「ん、どうした?」
ゲンドウも目を覚ました。
「葛城博士たちが、パンドラの箱を開けてしまったようですね。」
ユイが応えた。
「そうか。」
S2理論の検証を急ぐあまり、巨人を目覚めさせてしまったのだろう、
ゲンドウはそう考えていた。
「これから先、何が・・・。」
ゲンドウが言いかけたそのときだった。
一条の光が、天井を貫いたのは。
光は、ユイの腹部を射抜いていた。
「ユイ!」
ゲンドウは、駆け寄ろうとしたが、体が動かない。
「く、くそ!動けん。 ユイ、大丈夫か!」
天井から差し込む光は、まだユイの腹部に注がれている。
「だい・・・じょうぶ・・・です。」
ユイは、途切れ途切れに答えた。
ユイも体が動かず、それだけ言うのがやっとだった。
そしてユイは、その声なき声を聞いたのだった。
「ナゼ、ワタシヲ トメル? ワタシハ、ツレアイヲ サガシテイルダケダ!」
不思議に、苦痛はなかった。
むしろ、暖かいものが流れ込むのを、ユイは感じていた。
やがて、天井から注がれる光は消え、窓の外の光のシャワーも止んだ。
再び、夜の闇が訪れる。
その中で、ユイの腹部の一点が、淡い燐光を発していた。
「ユイ・・・。」
心配そうに、声をかけるゲンドウに、
「大丈夫です、あなた。」
ユイは明るく答えた。
「あなたの子を、受胎しました。」
「な、なに! そんな、馬鹿な!!」
ゲンドウは、いつもの冷静さを欠いていた。
いくら身に覚えがあるとはいえ、それは昨日のことだったのだ。
2001年3月。
ユイのもとに、ドイツのキョウコから手紙が届いていた。
いっとき、死産のショックでふさぎ込んでいたとこもあったが、今は救世主でなくていいから、せめてチルドレンだけでも生み育てようと、日々はげんでいらっしゃるとのことである。
カグヤについては、母子ともども、あれ以来消息不明とのことであった。
ユイのお腹は、かなり大きくなってきている。
「祝福の日が、誕生の日でなく、受胎の日だったなんてね・・・。」
自分が望んだ結果ではない。
それに、チルドレンのこと、聖母のことは、まだゲンドウには言っていない。
いずれ、言わなければならないときが来るだろう。
「名前のこと、考えていただけました?」
ユイは、ゲンドウに尋ねた。
「ああ。
男だったら、シンジ。 女だったら、レイと名づける。」
『レイ・・・ 零かしら。 霊じゃないわよね。
シンジは・・・ 真児・・・ リアルチレドレン?
この人は、私たちの子が【仕組まれた子供】であると、知っているのかしら。
まさか、ね。
でも、よりによって、その名前がシンジ・・・リアルチルドレンとは。』
3ヶ月後の2001年6月6日_。
碇シンジ(慎治)は、最強の適格者として、この世に生を受けた。
そして今、その最強の適格者は、徹底的に罵られていた。
「そうじゃないって! ああ、何度言ったらわかるのよ!」
「え? ここじゃないの。」
場所は、ミサトのマンションである。
シンジは、壁に額縁の絵を掛けようとしていたところだった。
「そこじゃ、照明の光をもろに反射して、せっかくの絵が見えないでしょうが。」
アスカが苛々した口調で説明する。
「だから、ソファの位置を確認しなさいって言ってんのよ!
まず、自分たちがどこに座るのかを把握して、その視点で調度品のレイアウトを考えんのよ。
まったく、半年余分に生きてるんだから、それくらいのこと気づきなさいよね。」
「じゃあ、ここかな。」
「そう・・・そうね、そこならいいわ。じゃ、次はレイの部屋の小物ね。」
「それは、やめた方がいいよ、アスカ。」
と、シンジがとめる。
「どうしてよ。あんたも、レイの病室見たでしょ。
調度はおろか、窓もないなんて絶対に不健康よ!
この際、健康で文化的な暮らしってものを教えてあげなきゃ。」
シンジは、本来のレイの部屋が、あの病室程度のもんじゃないことを知っていたが、さすがにアスカには言えなかった。
「その意見には賛成だけど、小物ひとつにしても、綾波が自分で選ばなければ意味がないよ。
本当は、一緒に買い物に行くとかできればいいんだけど、それはまだ無理だから、カタログを見せて一緒に考えるとか、徐々にやってかなきゃ。」
「ふうん、そう。
じゃあ、二人でよろしくやりなさいね。」
「ちょ、ちょっと待ってよ。アスカも一緒に考えてはくれないの。」
「だって、あたしがいると、お邪魔だろうし〜ぃ。」
「アスカがいなきゃ、困るよ。ぼくに女の子の部屋のことなんか、わかるわけないじゃないか。」
「しょうがないわね、わかったわよ。」
レイの退院/引越しは、明後日に迫っていた。
ユイは、リツコとともに初号機の格納庫にやってきていた。
「ユイさん、やはり、私・・・。」
初号機を前にして、リツコは気後れする素振りを見せた。
ゲンドウが初号機に取りこまれたのは、もとはと言えばリツコが仕組んだことだ。
その妻であるユイが了解しているとはいえ、ゲンドウ本人(初号機)を前にすれば気がひけるのは当然であろう。
「気にすることはないのよ、リッちゃん。」
ユイはやさしく言い聞かせた。
「それに、レイが負傷したとき、あなたも駆け寄ってきてくれたじゃない。
今回が、初めてではない筈よ。」
「あのときは、ただ夢中でしたから・・・。
でも、司令は私を許してくださるでしょうか。」
リツコが自責の念にかられているのは、既にゲンドウへの恨みがなくなっているからだ。
ここで、ゲンドウ,リツコ双方のこだわりを捨てさせることが、再出発への第一歩であるとユイは考えていた。
「大丈夫よ、さあ。」
ユイはリツコの手を引くようにして、初号機の前まで連れてきた。
『来てくれたか、ユイ。』
ゲンドウはユイの来訪に気づいた。
そして、身の置き所がないといった感じのリツコにも。
『赤木君・・・。』
「司令、申し訳ありませんでした。」
意を決して、初号機(=ゲンドウ)に頭を下げるリツコ。
その姿を見て、ゲンドウは本当に申し訳なかったと思った。
そこまで、リツコを追い込んだのは、他ならぬ自分なのだから。
ゲンドウは、ユイを見た。
ユイは、何かを期待するかのように、初号機を見上げている。
『わかった。赤木君に伝えてくれ、ユイ。』
ユイに届くように、強めの思念を発するゲンドウ。
「あの人が、あなたに何かを伝えてくれと言ってるわ。」
ユイの言葉に、はっとして顔をあげるリツコ。
「わかるのですか!」
「少しならね。コアの中から発せられる思念だけは、読み取れるの。
エヴァの中に、長くいたせいかも知れないわね。」
「司令は、何と・・・。」
リツコの問いに、ユイは促すように初号機を見上げた。
『赤木君、本当に・・・』
「赤木君、本当に・・・」
ゲンドウの思念に復唱する様に、ユイが声に出して続ける。
だが、ゲンドウの思念は、いったんそこで途切れた。
「本当に?」
ユイが促す。
『本当に、すまなかった。』
ユイは、少し深呼吸してから、続けた。
「本当に、すまなかった。」
『もう少し、早く言ってくださいな、あなた。』
ユイは、そういいながらも、リツコが隣で嗚咽し始めたのを見て、
『これで、よかったのよね。』
『ああ、すまなかったな、ユイ。』
今更ながら、自分が初号機に幽閉されているのは、当然の報いだと思うゲンドウであった。
「渚カヲル君のことだけど・・・。」
初号機の格納庫を出て、並んで歩きながら、ユイはリツコに尋ねた。
「はい?」
物思いに沈んでいたリツコは、ユイの横顔を見て緊張する。
「あなたの、率直な感想を聞かせてくれる。」
「おそらく、最後の使者ですね。」
リツコは冷静な科学者に戻っていた。
「使者?」
「はい、このところの使徒は、アダムを目指すというよりも、チルドレンを狙っているようでした。
アラエルの場合は、アスカを。
アルミサエルの場合は、レイを。
委員会が、補完計画をシナリオどおりに進めようとするならば、
既に最終段階に入っているのかも知れません。
そうだと仮定すると、2つのことが推測されます。あくまで、推測ですが。」
「かまわないわ、続けて。」
「ひとつは、委員会が使徒をある程度制御できるようになったこと。
攻撃目標を指示するくらいまで、使徒を誘導できるようになっているのかも知れません。」
「そうね。」
「もうひとつは、チルドレンを個々にターゲットにすることで、シンジ君を追い込んでいること。
理由はわかりませんが、シンジ君を追い詰めることが彼らの補完計画の要(かなめ)のような気がします。」
ユイは、背筋が凍る思いがした。
自分の予感と、リツコの推測が、ぴったりと一致する気がした。
「ここまでの仮定が全て正しいとすると、そこから導き出される結論は一つです。
『渚カヲルは使徒であり、そのターゲットは、シンジ君の精神そのものである。』と」
「カヲル君が、使徒?」
その可能性を考えないではなかったが、あらためてリツコの口から聞くと、ユイは聞き返さずにはいられなかった。
冷たい汗が、背中を流れるのを感じていた。
「ご存知なんですか、彼のことを。」
「いえ・・・。」
リツコは、ユイの反応を不審に思ったが、続けることにした。
「使徒はいろいろな形態で現れましたが、それぞれに独自の合理性がありました。」
「それぞれが、理にかなっていたと。」
「はい。ですが、その攻撃パターンが物理的である限り、アダムと同質の力を持つエヴァンゲリオンによって、撃退は可能でした。
唯一の例外はイロウルでしたが・・・。」
「そうだったわね。」
「アラエル以降の使徒は、チルドレンの精神自体への攻撃、あるいは同化を試みています。
そして、人間の精神に対して、もっとも効率的にダメージを与えることができるのは・・・。」
「同じ、人間と、いうわけね。」
「もともとは、人間の姿をしていたわけではないかも知れません。
ですが、彼らに学習能力があるとするならば、人の姿に化けるか、人体を乗っ取ろうと考えるでしょう。」
「でも、それでは誤魔化しきれないものがあるわ。」
「そうなんです。ブラッドタイプが、パターン青である限り、第3新東京に侵入した時点でMAGIに発見されるでしょう。
どんな方法を使ったのか、それとも、私の推測自体が間違っているのか、そこがよくわからないのです。」
「カヲル君が使徒であるなら、【人の姿への擬態】でも、【人の体を乗っ取ったもの】でもないということね。」
「はい。」
「そうか・・・。」
もうひとつの可能性に、ユイは気づいていた。
渚カヲルが、蓮華カグヤの息子ならば、少なくとも生まれたときは人間だった筈なのだ。
病室のドアをノックする音を聞いて、レイは半身を起こし、返事をした。
「はい。」
ドアの叩き方が、アスカやミサトのようにがさつでない。
『碇君・・・。』
期待に胸が膨らむ。
「やあ、お邪魔するよ。」
しかし、入ってきたのは見たこともない少年だった。
銀髪で長身。しかも、レイと同じ紅い瞳をしていた。
「あなた、だれ?」
不思議と、警戒心は湧かなかった。
「ぼくは渚カヲル。
フィフス・チルドレンとしてつい先日、こちらに配属されてね。
ファースト・チルドレンがこちらに入院していると聞いたので、
ご挨拶を兼ねてお邪魔した次第だよ。」
「そう、よろしくね。」
無愛想に聞こえるが、以前のレイなら『そう』としか言わなかっただろう。
「こちらこそ、よろしく。
君の怪我は、初号機の暴走に巻き込まれたものだってね。」
「何故、知ってるの。エヴァの暴走は、関係者以外は重要機密の筈なのに。」
カヲルは、しまったと思った。
「チルドレンなら、誰でも知っていることだよ。」
「着任したばかりなのに、随分信用されているのね。」
「シンクロ率が少しばかり高くてね。即戦力とみなしてくれたのじゃないのかな。」
「アスカが、悲しむわ。」
やりにくい相手だな、とカヲルは思った。
なんとか話題を変えないと、と思っているところへ
「おかしいわ。着任のあいさつなら、葛城三佐か赤木博士がついて来て紹介する筈。」
痛いところをつかれた。
カヲルは、開き直ることにした。
「ふふ、実はまだ、君のことは正式には聞いてなくてね。
だが、以前からファースト・チルドレンには興味があったので、こっそり会いに来たというのが、本当のところさ。」
「わたしに、なんの興味があるの。」
「君はぼくと同じだね、綾波レイ。」
カヲルはそういうと、意味ありげに微笑むのだった。
あとがき
チルドレンの出生の秘密の、いくつかが明らかになりました。
それでも、カヲルの生い立ちには、まだまだ謎が残ります。
何故、彼は使徒にならなければならなかったのか、
そして、双子の妹、サクヤはどうなったのか。
次回以降で、明らかになると思います。
お楽しみに
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・・・カチリ。
『ちょ〜と待った、私の出番がないのは、どういうことよ。!』
『わわっ! ×サ×さん、物騒なものはしまって下さいよォ
もうちょっとだけ待ってください。
重要な役どころで、必ず出しますから(汗)』
『ホントねぇ!』
『・・・(汗)』