紅い海。
小波の音を聞きながら少年はたたずむ。
傍らを眺めるが少女の痕跡は消えていた。
呆然と自問する。
「僕はなぜここにいるんだろう。なぜ僕はここにいなくてはいけないんだろう。なんで誰も僕を必要としてくれなかったんだろう。なんで僕は戦っていたんだろう。なんで彼らは使徒と呼ばれていたんだろう。なんで・・・なんで・・・」
答えは返ってくるはずも無く少年は自問を続ける。
「血を流し、傷ついて、見返りなんかないのに、それでもがんばって、褒めてもらいたくて。・・・・・・誰もほめてなんかくれないのに、僕は、僕は何のために・・・誰のために・・・」
考えはなおも深まる。
「みんなが僕に期待して、みんなが僕を傷つけて。できるはず無いじゃないか、守ろうとするものに傷つけられているんじゃ」
砂浜にひざから崩れ落ちる。
「アスカは僕を拒絶した」
「綾波は僕を見てくれなかった」
「ミサトさんは戦って死ねと言った」
「リツコさんは・・・」
「トウジは・・・」
「ケンスケは・・・」
「とうさんは・・・」
「母さんは・・・」
記憶にある全ての人物、名前すら出てこないクラスメート、道ですれ違っただけの見知らぬ人物、その全てに少年は傷つけられていた。
少年は徐々に弱っていった。
食べるものも無く、紅いスープは喉を癒してはくれない。何より生きようとする意思が無かった。
長い時間をかけて少年は気がついた。
少年は理解してしまったのだ。
その瞬間、弱っていた体を電流が駆け抜けたようだった。あるひとつの結論に気がついて。
・・・・・・・・・・誰にも求められていなかったことに。
「なぜ僕は戦っていたんだろう。そうまでして守るべき存在だったんだろうか。人類は」
少年は怒りに打ち震えた。その体に残った最後の力を振り絞って。
怒りをぶつけたかった。どこにでもいいからぶつけたかった。仰向けに転がっていた自分の体を起こそうとする。だが弱り果てた体はその思いに反して立ち上がることすらできず、うつ伏せになっただけ。それでも少年はその全てをぶつけようとした。
砂をつかむ。手に力は入らず砂ですら手から零れ落ちる。だがその程度の衝撃でも皮膚は破れ最後の血が流れ出す。
口を開く。砂が入ってきた。それをかみ締める。弱った歯は脆く削れ、折れた。
目を開く。砂が目に入る。簡単に傷つき目は光を映せなくなる。
喉を動かす。最後の言葉をつぶやくために。
だが言葉にならなかった。
最後の力も使い果たしたのだ。指一本動かすことはできない。
うつぶせになったまま、少年は果てた。その表情は砂に埋もれうかがい知ることはできない。
だが、少年は赤い少女とも、ほかの人々とも違いLCLに溶けなかった。
誰も彼を補完することはできないから。
誰も彼を癒してなどくれないから。
だから、いつまでも、そう、いつまでも彼はそこに在り続けた。
・・・・・・誰が彼を責めることができただろう。誰が彼女を責めることができるのだろう。
砂は伝えた、最後の言葉を。海は響かせた、最後の想いを。風は詠った、最後の夢を。
星は聞いた、最後の願いを。
星はかなえた、最後の願いを。最悪の願いを。
それが最後の子供の願いだったから。
「・・・・・・みんな死んじゃえ」
どうも、はじめましての方、そうでない方、アイラムと申します。
・・・2周年のお祝いに贈らせていただいたのですが、こんな内容でよかったのでしょうか(笑)
・・・・・・続くのかな、これ?