詰パラ8月号で特別出題した、「山本昭一・最後の作品」の解説です。
 詰パラ10月号でも掲載しますが、スペースの関係で大幅に省略したものになりますので、こちらでは詳細に記載します。

解答総数12名 全員正解(細かいミスは救済しています。)
  
 神戸市 山本昭一
 修正:添川公司・平井康雄

盤面クリックで棋譜再現ウインドウが開きます。

※初形を見ただけで4香ハガシ趣向であることは想像できますが、果たしてどんな趣向だったのでしょうか。

74銀生、(イ)同角、66金、同玉、67金、(ロ)75玉、76金、同玉、87龍、65玉、
(イ)75玉は66金、同玉、68龍、56玉、67龍、45玉、47龍、46金合、同龍、同玉、47金以下。
(ロ)65玉は66歩、75玉、79龍、84玉、74龍、95玉、68角、86銀合(94玉は83龍、85玉、96と以下)、同と、同と、同角、同玉、77龍、96玉、97銀、95玉、86銀以下。


※金・銀を捌いて、いよいよ龍が動き出しました。
 変化(イ)(ロ)がちょっとした味つけで、玉方持駒が金銀しかないことを利用した手順です。
 (ロ)で66歩、75玉、76金以下作意に戻るのは変別解で本来は誤解ですが、今回は正解扱いにするつもりでした。(事前警告のおかげか、該当者なし)
 わざわざ事前警告を書いたのは、あくまでも、「変同あり」と誤評価されるのを避けることが主目的であったに他なりません。
 余談ですが、初形の67金を77金とする別案もありました。その場合、(イ)75玉は86とで簡単ですが、(イ)56玉に47金、45玉、46金、同玉、48龍、36玉、47龍、25玉、27龍、14玉、24龍、同玉、35銀以下右上盤端まで追いかける長手数変化となります。どちらが良かったかは微妙ですね。
  
66歩、同玉、67龍、75玉、77龍、(ハ)65玉、66歩、56玉、47龍、66玉、67龍、75玉、
(ハ)84玉は74龍、95玉、77角、94玉、83龍以下

※75玉に77龍で76合には86と、84玉には74龍以下なので、こちら側はスムーズに折り返せます。
 最初の龍追いハーフサイクルで47とを消去して、ついに本格趣向が始まります。

  
39角、(ニ)57香成、
{77龍、65玉、66歩、56玉、57龍、45玉、46香、36玉、27龍、46玉、28角、(ホ)56玉、47龍、66玉、67龍、75玉}
39角、57香成、、39角、57香成、、39角、57香成、
39角、(ヘ)57歩合、77龍、65玉、74龍、(ト)66玉、67歩、56玉、76龍、45玉、

(ニ)57歩合は77龍、64玉、74龍、56玉、76龍、66銀合(45玉は34角以下作意収束に短絡した上で14玉に15歩と打てるので早い)、67角、46玉、66龍、56香、57角以下。
(ニ)48歩合は同角、57香成、77龍、65玉、66歩、56玉、57龍、45玉、46香、36玉、37龍、25玉、26龍、14玉、15歩、13玉、24龍以下。
(ホ)45玉は46歩、44玉、24龍、43玉、44金以下。(4回目は香がなくなっていて、以下42玉、32歩成、52玉、42と、同金、53歩・・・・)
(ヘ)57香合も同じ(合駒非限定)
(ト)56玉は76龍、66合(45玉は34角以下作意に短絡)、67角、46玉、66龍以下。


※ここで重要なマギレあり、77龍、65玉、74龍、56玉、76龍は66銀合、83角、65金合で逃れです。(このため、早い段階で玉方に金銀の持駒を確保させておく必要があるので、冒頭で銀金を捨てる序奏手順になっているのです。)
 ひとまず、39角と引いて対応を確認します。57に合駒するしかないですが、金銀合はすぐ取って詰むし、57歩合では変化(ヘ)の通り、77龍→74龍→76龍から67角→57角の筋で詰み。これを防ぐためには横に利く合駒が必要なので、57香成と対応せざるを得ません。
 対して、同角と直に取るのも有力ですが、同香成、76歩、85玉、87龍、94玉で95歩と打てないので不詰です。(93歩はこのための配置でした。)87龍に替えて86と、同玉、88香は95玉、97龍、96金合で不詰。76歩に替えて77香としても続きません。
 作意手順は77龍、64玉に65歩以下龍追いを敢行します。手順で先程の成香を取り去りながら、右側で折り返し、28角を経由して元に戻ります。往路ジグザグ、復路ストレートで綺麗に一往復しますが、香は取った直後に46香と打たざるを得ないので、差し引き0。トータルすれば、持ち歩1枚を消費して盤面の香を1枚消し去ることができたことになります。
 これを4回くりかえせば、香がなくなるので57歩合とするしかなくなり、以下収束に入ります。
 最後57香合とされた場合、もう一回龍追いに入ることはできますが、歩を無駄に消費するだけなので詰まなくなります。作意と同じ手順で詰めるしかありません。
 結局は合駒非限定のキズになっていますが、これだけは避けられませんでした。

  
34角、(チ)44玉、46龍、33玉、23と、同金、同角成、同玉、24歩、(リ)14玉、16龍、(ヌ)15歩合、25金、13玉、15龍、22玉、23歩成、同玉、34金、22玉、23歩、31玉、32歩、同金、同銀成、同玉、33金打、31玉、22歩成、同銀、同金、同玉、24龍、31玉、32銀、同玉、33金、41玉、44龍、31玉、42龍、21玉、22龍迄147手詰。
(チ)同金は同銀生、44玉、45金、53玉、56龍、42玉(55香合は44金、同玉、45龍以下)、32歩成、同銀、同と、同金、33銀打、同金、同銀成、同玉、46龍、22玉(42玉は32金、52玉、53歩、同玉、33龍以下)、23歩、12玉、32龍、13玉、57角、同飛成、14歩、同玉、34龍以下。
(リ)同玉は34龍、13玉、57角、同飛成、33龍以下。
(ヌ)15香合は後の34金のところで24香以下。
(ヌ)15角合は後の34金のところで24金、22玉、13龍、31玉、33龍以下。


※34角には同金と44玉の2択。
 作意は44玉以下かなりの長手数になりましたが、右側を綺麗に掃除しながら、奇跡的に、持駒余りもなく、余詰もなく無難にまとまりました。途中、23とと23角成の手順前後は可能ですが、キズとしては軽微と思われます。
 24歩、15玉の際、1歩でもあると15歩で早詰なのですが、ちょうど持歩がなくなっているのがポイントです。
 一方、34同金の変化もかなり長いです。33歩はこの変化に必要でした。

 唯一、39角が残ってしまうのは残念です。変化(チ)(リ)のように、作意でも57角、同飛成という展開になれば、最後の合駒非限定も解消できた可能性があるのですが、そこまで完璧にはなりませんでした。


 添川仮修正案から追加したのは、16歩、13桂、33歩、41金、61と(最終的には成桂になりました)の5枚です。
 いろいろ試行錯誤を繰り返していたところ、13桂と41金の追加だけでかなり有望なことを発見しましたが、収束変同と24歩、14玉の時に15歩以下の余詰がありました。しかし、61とと16歩を追加すればいずれにも対処可能なことを確認。また、そのままでは34角に同金の変化が詰まないことがわかりましたが、試しに33歩を追加してみたところ、それだけで簡単に解決できていました。最終的に、全ての変化が詰み、余詰もないことを確認できたので、これでついに収束手順の完成となったのです。
 収束手順探しの作業は、確たる勝算があって始めたものではなかったのですが、これは本当に運が良かったです。元々の添川案が相当優秀だっただけなのかもしれません。

※4香ハガシは過去に数多くの作例がありますが、そのほとんどが、香に何か駒を取らせて、直後もしくはしばらく後でその香を取り返しに行くパターンでしたが、本局のように、合駒として成らせるというのは極めて珍しいものです。
 過去例としても2013年看寿賞添川氏作「幻想飛行」等数例あるのみで、原図発表時にはもちろん前例はなかったはずです。

 なお、加藤氏の調査では、合駒香成で剥がされる前例として以下があるそうです。ただし、いずれも3香ハガシです。
   ・詰パラ1986年4月橋本孝治
   ・近代将棋1986年9月若島正
    (※クリックで棋譜再現ウインドウが開きます。)

 これを実現するには、盤面の広範囲を使った大掛かりな舞台装置が必要になりますが、配置面では74角に注目です。成合駒を強要するための質駒になっていると同時に、47地点の利き筋が、玉位置によって現れたり隠れたりする構成は特に巧妙です。
 作者自身の手で完成してもらえなかったのは残念ですが、今回発掘して披露できたことは大変有意義なことだと思われます。

 原作の序奏は、27龍から28角の展開でしたが、これにこだわろうとすると、66玉の時に55銀以下香を取って余詰が発生するため、その対策に玉方89となどの配置が必要になります。「最初のワンサイクルのためだけに必要な余詰対策」は添川氏の美学に反するということで、氏からは、この序奏を廃して、替わりに47と消去を取り入れた別の序奏を入れることを提案していただきました。
 それをさらに推敲した結果、無理のない手順で全駒まで逆算することができました。

 61成桂はできれば61桂にしたいところですが、それでは4回目の(ホ)が詰まなくなります。もちろん、成桂を他の不動と金と入れ換えることは可能ですが、61成桂にしたのは添川氏の希望に従ったものです。

 後は、桂合の可能性を残すかどうかの問題もありました。実を言えば、冒頭以外、桂合の可能性があっても、全ての変化が詰むことを確認しています。もちろんその場合は変化がかなり複雑になるので、その方が良かったかもしれません。
 具体的に言えば、61成桂と58金を入れ換えて、玉方61金・攻方58成桂にするだけでそれが実現します。10手目以降、全ての変化に桂合の可能性が生じるので、変化のボリュームが相当量増えることになります。実際、柿木に解答させても思考時間が2倍くらいかかります。
 ただし、この場合、最後の57歩合の非限定のところで、「歩でも香でもよい」、が「歩でも香でも桂でもよい」ということになってしまうのです。これはキズとしても大きすぎると考えざるを得ませんでした。
 結局、桂合の可能性をなくしておいた方がスッキリするという判断となりました。

以下、解答者+短評

神谷 薫剥される位置に駒が移動するタイプの剥しは柔らかな印象を受けますが、さらに「77→57→27→47→67の龍の横移動」+「39→28の角移動」という軽やかな動きは現在の目でも色褪せない作品だと思います。

渥美雅之竜の追い回しの凄いこと怒濤のごとくですね。

須川卓二4香ハガシ修正案の195手も素晴らしかったですが、本作も派生作ながら趣向部分が全く異なり新たな展開で見ごたえが十分と思います。

占魚亭メインの趣向部分の組立てが上手く、歩合で終わる所がいい感じ。

山下 誠移動合の成香をはがすというユニークな趣向の作品。素朴な機構で実現しているところが素晴らしいと思います。

松澤成俊4香はがしの一本すじの通った好作。完全作になったことを祝いたいと思います。

竹園政秀追手順多くダラダラして悪い。

日下通博

福村 努

竹中健一剥がしているというよりも剥がれ落ちてくるイメージ。
これなら4枚揃った方が良いと思うので、完成して良かったですね。
収束がもったいないのかもしれませんが、私は趣向作の序奏と収束は簡単な方が良いなぁと思うことが多いので、今回の作品はしっくりきました。


まつきち「怒濤」改訂新版は、発行に携わった方々の山本昭一氏への熱い気持ちの結晶です。
とりわけ不完全作の修正に取り組まれた平井さんの情熱には敬意を表します。
さて本作、4枚の香が自ら移動して剥がされに行くというのは珍しい手順だと思います。


橋本孝治氏からは長文の感想が届いております。
 旧版でこの図を見たとき作意の推定を試みたことがあります。
 このとき、趣向部分は分かったものの、収束が推定できず、修正図を作るのはとても難しそうに感じました。
 作意不明の作品を修正するときには、作意が分かっている作品を修正するのとは違う難しさがあると思います。
 作意が分かっていれば、なるべく作意を変えない修正を目指せば良いのですが、作意不明の場合は、ある程度の「創作」が必要になります。
 あまり「創作」しすぎると作者の意図に反するおそれがありますし、「創作」部分が不足すると作品の質が落ちて物足りない印象を与えかねません。
 修正図にどの程度の「創作」を含めるかは人によって異なるでしょう。
 もし自分が何らかの理由でこの作品を修正しなければならないとしたら、四香すべてを同じパターンで剥がすことに全精力を傾け、序奏や収束は詰将棋としての体裁を整えるための最小限のものにすると思います。
 そのような観点からこの修正図を見ると、メインの趣向を成立させるための必要最小限の修正ではなく、前後の手順も充実しており、質は申し分ありません。この図があれば、これ以上の「修正」は無用でしょう。特に収束は非常に良く駒が捌けるので、作者本人が思い描いていた以上の手順になっていないかと、余計な心配をしてしまいました。修正図の解答発表の際には原図の推定作意も併せて公開していただければ幸いです。


※作者の意図した収束については散々考えて、ギリギリそれっぽい手順もいくつか出てきましたが、スッキリまとまる手順は結局見つからないままです。
 何らかの見落としがあったのは確実なので、どんな見落としの可能性があるのかを考えるのさえ困難でした。もはや、それ以上は無駄な努力と考えてあきらめました。同じ努力をするなら、完全な収束手順を得る方に向けるべきだと、切り替えたわけです。
 結果的に、この収束形を得られた以上は、原作意の収束を探す作業は、より一層虚しい努力としか思えなくなりました。
 残念ながら、作者の意図した収束手順については不明のままで終わらせるしかないようですが、この収束なら作者にも満足してもらえるものと考えることにしました。

 しかし、橋本氏も旧版の段階で作意の推定はできたいたんですね。流石です。(こっそり教えて欲しかったです。)


<原作収束手順の考察(虚しい努力?)>
  
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 発表原図と作意らしき手順を84手進めた途中図です。
 
 途中図で柿木に解かせると、74と以下の手順を示しますが、これは明らかな余詰。メイン趣向自体に関わる余詰で、これを避けるために攻方93歩の追加は必要です。
 なお、93歩は趣向中の39角、57香成に同角、同香成、76歩、85玉、87龍以下の余詰防止にも必要です。
(※93歩で趣向中の余詰が一掃できるのは添川氏の発案で、これにより存在理由の怪しかった81桂は明確な不要駒になりました。)

 93歩を追加した図で解かせると、
 39角、57香、77龍、65玉、74龍、66玉、67歩、56玉、76龍、45玉、34角、44玉、17角、35歩、46龍、33玉、45桂、44玉、54銀成、34玉、33桂成、25玉、26龍、14玉、15歩以下駒余り。
 また、39角、48歩まで進めて解かせると、
 同角、57歩、77龍、65玉、74龍、56玉、76龍、45玉、54角、同飛、同銀生、同玉、56龍、44玉、45飛、34玉、54龍、23玉、24龍、同玉、57角以下駒余り。

 いずれも駒余りなので作意でないことは明らかです。41との存在理由も不明のままです。

 問題点をまとめてみると・・・、
@39角に48歩中合が必要なのか不要なのかの問題
 質駒17桂を取るのが作意なのか、それを避けて48歩中合が作意なのかが不明です。17桂を取る順で考えていたが、48歩中合をうっかり忘れていたという可能性はありえますが、そんな単純なことを忘れるのかという疑問点は残ります。逆に、48中合が作意ならば、そもそもそんな面倒な手順にせずとも、最初から歩1枚余分に持たせておけば良いだけではなかったのかという疑問点が残ります。

A65玉、74龍に66玉か56玉か
 74龍、56玉に76龍、66合、67角以下は持駒が余らない順にはなりそうにないので、これは作意にはなり得ないと思われます。
 74龍、56玉に76龍、45玉か、74龍、66玉に、67歩、56玉、76龍、45玉かで持歩1枚分の違いができます。
 それだけなら大きな問題ではなさそうですが、74龍、66玉、67歩、56玉に対して、34角と先打して早詰になるケースもあり得るので、多少複雑化してきます。

B45玉に34角・54角・36角の3通り。さらに34角には同金と44玉の2通り、54角にも同飛と44玉の2通り。
 とにかく分岐が多過ぎます。その後も攻方・玉方ともに分岐が多くて、とにかく悩ましいのです。

 結局いろいろな手順が候補として出てくるのですが、持駒余らずにスッキリ詰む手順は一つも出てきません。
 41と・12との存在理由がシックリ来る手順も全然出現しません。

 そんなわけで、無駄に時間が過ぎるばかり・・・・。ついにはあきらめることになりました。
 もちろん、今後どなたか猛者がおられて、その手順を発見できる方が現れるのなら、是非公表していただきたいです。