レコード芸術  11月号     

新譜月評

ZIPANG

 最近はさまざまな編成で管楽器の合奏が録音されている。管楽器を愛好する人が増大していることが背景にあるのだろうが、その人たちの受容の仕方と一般の音楽愛好家の受容の仕方に共通点があるのだろうか。

 つまり管楽器の合奏でこのような曲も演奏できるのかという気持ちで聴くのが前者だとすれば、このような曲を管楽器の演奏で聴くことが音楽の鑑賞に適しているだろうかと考えるのが後者であろう。

 このCDを例にとれば、トロンボーン四重奏のためのオリジナル作品は、コーエンの《アンダンティーノ》とフラッケンポールのトロンボーン四重奏曲、ルイスの《カバのダンス》、《リトル・ベイビーズ・ララバイ》、《イヴニング・ムード》だけで、残りはすべて編曲である。

 いつも言うように、筆者は編曲を一概に異端視するものではないが、例えばラヴェルのピアノ協奏曲のアダージョのピアノとオーケストラの対話の間から立ちのぼってくる一種の香気は、編曲では求むべくもない。 

 従ってこれらのCDはそれぞれの楽器の愛好家の啓発、あるいは楽器演奏する人への刺激としての存在理由が大きいのではないだろうか。

 在京のオーケストラのメンバーによる演奏はバランスがよく、響きも美しい。特に弱音の柔らかい響きが演奏に洗練された感覚をもたらしている。

                               (高橋 昭氏)

 NHK交響楽団、日本フィル、読売日本交響楽団そして新日本フィル、という在京オーケストラに籍を置く、四人のトロンボーン奏者によって九十九年に結成されたトロンボーン クァルテット ジパングが美しいハーモニーを聴かせる。

 メンバーの吉川武典による編曲物が多いが、とりわけチャイコフスキーの《くるみ割り人形》組曲ではこの四重奏のテクニックの精度の高さと豊かな音楽性が申しぶんなく発揮されて楽しい演奏となっていると同時に、トロンボーンという楽器の表現力幅広さに出会う喜びも味わえる。これほど細かい音符による急速な変化ができるのかと驚くほどだ。

 変わったところではラヴルのピアノ協奏曲の緩徐楽章の編曲があるが、原曲とはまったく異なる世界が繰り広げられ、それがまるで編曲の王ラヴェルによる未知の作品のように幻想的な世界を描きあげているのは注目される。

 また、彼等の真骨頂はフラッケンポール作曲の四つの性格的楽章からなるオリジナルの四重奏の精緻なアンサンブルである。勇壮なマーチ、軽快で親しみ深いワルツ、宗教的敬虔ささえ漂うコラールのオルガン的な響き、溌溂としていてどこかユーモア溢れるロンド・フィナーレなど四つの楽章を見事に彫琢している。

                               (平野 昭氏)

[録音評]

響きのもつ重厚感やアンサンブルしたときの音の柔らかさ、力強さなどが十分伝わるが、個々の演奏のこまやかさは少々聴き取りにくい。それだけ響き感が強く、ステレオとしてののびやかさや広がりにも快適さがある。概して大型のシステムで、大きめの音量で聴くと、このサウンドの魅力を大いに味わうことができそうである。

                                (石田 善之氏)

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