パイパーズ10月号

Trombone Quartet Zipang CD批評

同じ目の高さで歌う。
 ラヴェル以下はメンバーの吉川が編曲。これが上手い。各パートに美味しいフレーズを配し、しかし陰ではキツイことも(たぶん)要求しながら、全体としてはひたすら耳に快い。つまりは演奏も練れているわけだ。それに加えて、4人が本当に音楽(と仲間のプレイング)を楽しんでいる空気がアルバムを隅々まで満たしている。そんな大らかで温もりのあるアンサンブルが、清々しい聴後感を残す1枚。

 ラヴェルの第2楽章(中間部を省略し、例の名旋律をたっぷり聴かせる)が、これほどトロンボーンにハマるとは正直言って驚き。それに輪をかけて楽しいのは、4つのオペラ・アリア。「トゥーランドット」や「ボエーム」なんか、原曲を思わず一緒に口ずさんじゃいました。旋律パートだけが快感に浸るのではなく、4人の吹き手が心ゆくまでプッチーニ節に身を委ね、同じ目の高さ(と向き)で、作品の世界を歌い上げているという風情だ。

 「くるみ割り」は彼らにとっても技量の限りを尽くした演目だろう。「序曲」や「花のワルツ」は乞一聴。その間に挟まる性格的楽章も十分に描き分けられているのだが(フラッケンポールの四重奏ともども)、表現を「キメ」にかかったときのケレン味ないしアクの強さみたいなものが、もう少し欲しいときもある。これはまあ、趣味の問題。

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