バンドジャーナル11月号より

Concert Review コンサート・レヴュー

CDデビューを果たし益々絶好調な4人組

 トロンボーン クァルテット ジパング演奏会

●10月11日/すみだトリフォニーホール 大ホール

●文=編集部

●写真=牟田義仁

 

 在京の4つのオーケストラで活躍するトロンボーン奏者たちで構成される「ジパング」の第4回演奏会を聴いた。メンバーはN響の吉川武典、読響の桑田 晃、日フィルの岸良開城、そして新日フィルの門脇賀智志である。管楽器に親しんでいる者ならば、彼らの名を知らない人はいないであろう。

心地よいアンサンブル

 当日は一階の18列センターの席で演奏を聴いた。ホール内は満席状態。客層は地元の人らしき年輩の人から、中・高校生、若いアマチュアの愛好家など、このクァルテットのファンが幅広く数多くいることを実感した。オープニングはロス五輪で演奏されたジョン・ウィリアムズの《オリンピック・ファンファーレとテーマ》で華やかな幕開けとなった。編曲は吉川氏によるもの。トランペットのような鋭角的な音による強烈さはないものの、マイルドで上品なサウンドを楽しむことができた。

 続くガブリエリの《ソナタ》ではシンプルな和音の響きを、柔らかく優しく温かい音色で堪能した。4本が音楽的にピッタリあうと、こんなにも心地よいアンサンブルが可能になるのだ、というお手本のような演奏。「ぜひ全国のスクール・バンドのみなさんにも聴かせたい」と思う演奏だった。

 3曲目のデビッド・ウーバー《3つの小品》は緩-急-緩の3曲からなり、どれも映画音楽のようなシャレた作品。この辺から4人のメンバーも満席になったホールの響きに慣れ、より自分たちの音楽世界に深く入りこんだ演奏を聴かせてくれた。それにともない客席にいる聴衆との距離もグッと縮まった印象を受けた。

 前半の最後はチャイコフスキーのバレエ音楽《くるみ割り人形》より<行進曲><クララとくるみ割り人形><トレパック><クリスマス・ツリー>の4曲。これはプログラムを見た瞬間からトロンボーン4本で、どこまでこの作品を表現しうるのか楽しみになった曲だ。結論からいうと原曲の持味を損なうことなく、編曲を手がけた吉川氏のセンスのよさが光る内容であった。今回初めて演奏された<クララとくるみ割り人形>ではメンバーの個性を随所に味わうことができ、<クリスマス・ツリー>はスケールの大きい音楽で、4人の想いがしっかりと伝わってくる感動的なもの。前半の締めくくりにふさわしい選曲であった。

視覚的にも楽しめる構成

 休憩後の後半は『ジパングと鏡の中で踊る6人の女たち』という標題で、“世界の踊りと女”をテーマとした楽しい演出付きのステージが展開された。演奏されたのは、チャイコフスキー:バレエ音楽《眠れる森の美女》よりワルツ(フォンメック夫人)、ハチャトリアン:バレエ音楽《ガイーヌ》より剣の舞(ガイーヌ)、コープランド:バレエ音楽《ロデオ》よりコラール・ノクターン/カウボーイの休日(じゃじゃ馬娘)、ブラームス:ハンガリー舞曲第1番(クララ・シューマン)、ビゼー:歌劇《カルメン》よりジプシーの歌(カルメン)、J・シュトラウス:皇帝円舞曲(舞踏会の朝の娘)の6曲。桑原三知子さんの台本・演出によって“6人の女”を女優・伊東恵里さんが見事に演じた後、「ジパング」の演奏がなされる。各ステージの背景を説明する高城薫氏のナレーションも低く渋い声でグッドだった。肝心の演奏の方も、それぞれの曲の特徴を的確にとらえ、各曲ごとに音色を変えての秀演だった(とくにハンガリー舞曲での桑田氏の超絶技巧的なスライドさばきが印象に残った)。

 後半終了後も、聴衆から大きな拍手を受けたことはいうまでもない。それに応えてアンコールには、ルイスのジャズ・ピースの中から《カバのダンス》《イヴニング・ムード》、サン=サーンスの歌劇《サムソンとデリラ》より<あなたの声にわが心は開く>の3曲が演奏された。これらの曲は9月末に発売された彼らのデビュー・アルバムにも収録されている。

ジパングの魅力

 このクァッルテットの最大の魅力は何であろうか。彼らの演奏を聴きながらずっとこの点を考えてみた。いろいろと意見はあろうが、それは弱音時における澄みきったハーモニーにあるのではないかと思う。今回の演奏の中でもppないしpの箇所で、“ハッ”と心の琴線にふれる部分がかなりあった。また、聴衆に十分楽しんでもらうためのプログラム・コンセプトにも好感が持てた。

 結成4年目を迎えた「ジパング」は、これからどういう方向にいくのだろうか。今後のさらなる活躍がとても楽しみな4人組である。(A)

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