音色を極める!

 世の中には、トロンボーンで信じられない程いい音を出す人がいます。美しい音、聞いていて心地の良い音、聞こえた瞬間に心が震えるような音。いい音って、言葉で上手く表すのは難しい。私達金管楽器奏者にとって、“音がいい”というのは最大の財産です。勿論、どの楽器も音色は重要ですが、金管楽器の場合、オーケストラや吹奏楽において、木管楽器や弦楽器のような細かく難しいパッセージが求められることはさほどありません。あまりパラパラ吹けなくても、“音がいい”だけで一目置かれ、羨ましがられる場合もあります。ソロを吹くときなどは、技巧も必要ですし、歌心も伝わらなければなりませんが、やはり“いい音だね〜”という一言を言われたい!金管奏者は皆そう思っているのではないでしょうか?(でも本当にいい音出す人って、何でもパラパラ吹ける人が多い。きっと表現に対する欲求が高いんです)。おそらく大抵の人は、自然に自分の感性で吹いているのでしょうし、自分の音をただの一度もいい音だと思うことなく何年も吹き続けている人はいないでしょう。出ている音が、その人の出したい音だとも言えます。問題は、その音が他人が聞いてもいい音に聞こえるかどうかなんです。皆さんの周りには、自分よりもいい音だなって思える人はいますか?こんな音出したいなって憧れている奏者のCDはありますか?雲の上の音だと思わずに、まず、それを目標にしてみましょう!

 では、私が“いい音だ”と思う音を、ポイントごとに分けて書いてみましょう。

1.音が柔らかい
 私自身の好みも入るのですが、柔らかければ柔らかいほど良いと思います。赤ちゃんの身体のようにふにふにで、クリームのようにふわふわで、湯煎したチョコレートのようにトロトロ…。しかし、ボケていてはいけません。揺らぐ煙のようにくすんでいたり、ぼやけているのでは“艶”を感じることが出来ないからです。

2.艶やかである
 艶って何だ?黒髪や漆の塗り物の艶のように、目で見える艶は分かり易いのですが、音の艶となると、これまた言葉にするのが難しい。例えば、ビブラートのかかっている音は艶っぽく聞こえることがあります。私も今はその時々によって、ビブラートをかけたりかけなかったりしていますが、音学大学2年の時までビブラートをかけられず苦労しました。あの頃はビブラートをかけるのに必要な音の柔軟性が足りなかったんだろうと思います。しかし勿論、ビブラートがかかっていないのに艶を感じる音はたくさんあります。それにはやはり、“響きが多い”ということが絶対条件でしょう。

3.響き(倍音)が多い
 ドの音を吹くと、細いドだけが聞こえるのでなくミやソの音が高音域や低音域にもたくさん聞こえ、太く広がって聞こえる音。そういう音を手に入れるためには、とにかくたくさんの息を送らなければなりません。そして、プレイヤー自身が、自分のドの中にミやソを探し求めなければなりません。しかし、太く広がっていても、核になるドの音が正体不明になってはいけません。

4.中心(センター)は安定していて、周りの響きは力が抜けている
 先日、世界遺産に認定された讃岐うどん(嘘)。このうどんの麺が素晴らしいのは、麺の周りは柔らかで弾力があり、しかし中心の方には力強い腰があり、ふわふわ・もちもち・つるつるがたまらなく、口に入れたとたん口中快感度が200% になり、見た目も艶々で、すすった瞬間、シュシュッと口の中に向かって“伸びて”来て…。ああ、たまらん…。

5.伸びがある
 私はこの伸びというのを重要視しています。クレッシェンドをしていくと、あるところで力みが入りこれ以上大きくならないという壁がありますよね。pやmfの音もこの壁の音色と同じような音の人がいますが、その音には伸びがありません。まるでベルのところで音が止まっているよう。いい音は客席に向かって何メートルも伸びていきます。

 これらの他に、立ち上がりがクリアーである、透明度が高い、汚く割れない等々いい音の条件はたくさんあります。では、どうしたら“いい音”を手に入れられるのか?息をたくさん送り、遠くにいる人のところまで音が伸びていくとイメージし、倍音を探し求め、音の周りを押さえつけている堅さを取り除き、リップスラーをたくさん練習することで唇と音の柔軟性を高める。自分ではなかなか気付くことが出来ないけれど、でも細心の注意を払って、自分の音に潜む「ムーッ」という鼻づまりのような音を自覚し、それを取り除いてゆく。そして何よりも大切なのは、自分の楽器そのものを隅から隅まで細やかに振動させるということ。どんな楽器でも、マウスピースからベルの先まで、全てを振動させると、いい音がでるはずです。さあ、今日もリップスラーの練習だ!

 ちなみにいい音は、他人の音、他の楽器とも良く調和します。金管楽器は勿論、フルートやサックスとも、ティンパニとも、ヴァイオリンやチェロとも、トライアングルとだって溶け合うのが“いいトロンボーンの音”なのです。

 

我が輩の辞書にはトロンボーンという文字がある〈その10〉

 私がすごく憧れたのは、ご多分に漏れず、ミシェル=ベッケ氏の音。あとは、ジャズのアービー=グリーン氏の音。柔らかくてとろけそうで、 いつ聞いても私を幸せな気分にしてくれます。あなたの憧れの音は、どんな音ですか?