みんなが手に入れたいもの!第1位発表!

 “ハイトーンはどうやったら出るんですか?”“ハイトーンの練習法を教えてください!”。今まで何人の子供たち、いや大人たちに聞かれたでしょうか。音楽はトロンボーンの高音域だけで表現されるものではないし、だいたいトロンボーンの高音域は、トランペットの中音域です。木管奏者には、出ない音域が出るようになる喜びはあまりありません。音域は決まっているのです。

 しかし私たちの永遠の憧れ第1位は、まぎれもなくハイトーン。半音でも高い音が美しく伸びやかに出ないものか。ある程度広い音域が演奏できるようになった今の私でも、まだ見ぬ(聴かぬ)ハイトーンの夢のような世界に憧れます。そう、ハイトーンこそ私たち金管奏者の永遠のアイドルなのです。

 では、レッスン!まずイメージの話から。ハイトーンを出すには口の周りの筋肉をロングトーンによって鍛えて…というのは誰もが考えることですし、教え方の定番です。もちろん、初心者はロングトーンをやらなければ音が出るようにならないのですが、2オクターブ以上の音域が何となくでも出るようになった人に対しては、私は違う考えを持っています。ハイトーンは口の周りが、マッチョに、筋肉質になれば出るというものではありません。なぜハイトーンが出ないかというと、唇がその音を出すのに必要な振動をしてくれないからです。振動してくれないから息がスムーズに入っていかない。無理矢理マウスピースを押しつけて血の巡りが悪くなりバテてしまう、ということになるのです。つまり、強靱な筋力でハイトーンを出すのではなく、唇(特に息の出口)がより柔軟に細やかに振動するということが必要で、筋トレで鍛えるというよりは、よりほぐしていくと考えた方がよいのです。

 そのために最も重要かつ、必要な練習はやはりリップスラーです。特に高音域のみのリップスラーではなく、低い音からの幅広い音域をカバーしたパターンが効果的です。中・低音の演奏しやすい音から上向し、一息の中で全ての音域が同じように楽に響くようイメージします。ハイトーンでは、特に息の出口に集中して、細やかに振動して息がスムーズに送り込まれているかを確認してください。ハイトーンが出ないと、ついついマウスピースを押しつけて(プレスして)だそうとしますが、トレーニングでは、中・低音と同じ圧力で出せるようにイメージすることが大切です。そして必ず7ポジションまで練習!遠いポジションでの高音は、曲の中では使うことはありませんが、管が長い状態でのトレーニングは重要です。遠いポジションのハイトーンが楽に響くようになると、本来使用する近いポジションでの高音はより美しく確実になるのです。

 エチュードとしては、レミントンの“ウォーム・アップ・エクササイズ”が有名ですが、この他にも自分で様々なパターンを練習してみましょう。よりほぐれ、より細やかになる。より息が入り、より伸びやかになる。どこまで出るのか、無限に昇り続ける夢のハイトーン。美しい高音域に対する憧れを持ち続け、今日もリップスラーのトレーニングです。

 

我が輩の辞書にはトロンボーンという文字がある〈その9〉

 私の主治医(リペアマン)によると、金管奏者の中で、トランペット吹きが一番マウスピースや楽器の改造に熱心で、マニアックなのだそうです(かなりすごいらしい)。ラッパほど道具に凝らないのですが、トロンボーン吹きの中には、マウスピースを変えて調子を崩す人がけっこういます。みなさんに憶えていてほしいのは、マウスピースを大きくすれば太くてよい音になるというのは妄想で、「音は全て頭の中にある」ということ。小さなマウスピースで太い音を出す人もいれば、大きなマウスピースで細い音しかでない人もいます。楽器と自分の唇とのバランスがよいものであれば、あとは自分のイメージ次第で音はどんどん太く豊かになっていきます。道具はあくまでも道具、道具を変えたら急にスーパー・プレイができるようになるということはありません。一説には、マウスピースを変えたらアドレナリンがたくさん出て、よい音が出ているような気がしているだけだという説もありますよ。