たくさん吸うと良いことが起きる!

 車はガソリンを入れないと動かないし、ケータイは電池が入っていないと話すことができませんよね。そして、トロンボーンには息を送り込まないと音が出ません。人はきちんと栄養のあるご飯を食べていないと病気になってしまうし、我が家のリビングにあるパパイヤやコーヒーの木も、たっぷりの水と光を与えないと枯れてしまいます。 同じように、たくさんの息を送ってあげないと、トロンボーンの音も枯れてしまうかもしれませんね。

 皆さんはピアノを弾いたことがありますか?実はピアノは一定以上の力を出して鍵盤を押さないと、本当のピアノのよい音は出ないようになっています。圧力をかけないで押しても、音は出ることには出るのですが、深みのある美しい音は生まれません。華奢な指のピアニストが、芋虫のように太い外人男性の指に憧れるのは、その指と腕のもつ「力」に対してなのです。同様に、トロンボーンにも一定以上の量の「息」を送り込まないと、よい音が出ないようになっているのです。私たちは、たくさんの息を吸って、たくさんの息を楽器に吹き込まなくてはならないのです。

 では、どのようにして送り込むのでしょうか?その前に、どのようにして、私たちの体の中に空気を取り入れればよいのでしょうか?

 まず、腹式呼吸に対するイメージのお話。腹式といっても、私たちがお腹と読んでいる部分に空気が入るスペースはなく、空気は、胸のところにある肺にしか入りません。腹式呼吸とは、横隔膜という胸腔と腹腔の境にある筋肉の膜を下げて、空気が入るスペースを広く取ってやろうということなのです。しかし、私たちは自分の体の中を見ることができないので、どれが横隔膜で、それをどのように下げるのかを確認することができません。ですから、イメージでトレーニングすることしかできませんが、呼吸法をある程度クリアーできているかどうかで、トロンボーンの演奏技術は大きく変わってきます。毎日楽器を吹く前に、少し以下のようなトレーニングをしてみましょう。

 足を肩幅くらいに広げ、上半身はリラックスさせます。自分の意識を足の方へと持っていき、地面とコンタクトを取ります。重心がしっかりと地面の方向に向かっていることを意識したら、両手で腰の背中部分を押さえます。お尻の上、ズボンのベルト辺りです。その辺りに空気を入れるとイメージして、ゆっくりとしたテンポで、四拍吸って四拍吐いてみましょう。まず、人差し指位の太さに口を開けて吸ってみましょう。空気が喉を通って、身体の奥に入っていくのが確認できますか?次に、縦に指2本分くらいに口を広げて吸ってみましょう。この時、のどを鳴らしながら吸ってみます。一気にたくさんの空気が入ってくるので、四拍も持たせるのは大変ですが、身体の奥深くへ入っていくのが確認し易いはずです。上半身の体の中全体に、風船が膨らみ満ちるようなイメージで吸ってみましょう。人の肺は、目一杯吸ったつもりでも、100%は使われていないそうです。ですから、吐ききったら、次は“よりたくさんを!”と思って、吸ってみて下さい。手で押さえている部分に、空気が入っているようなイメージが持てますか?わざとその部分を膨らませながら吸うと、分かり易いかもしれません。椅子に座って行うときは、背筋を伸ばしたまま、上半身を少し前に倒してみて下さい。腰部分に圧力がかかり、吸い方が分かり易くなります。このトレーニングを行うと、楽に普通に呼吸をしたときに入ってくる空気の量が断然に違ってきます。毎日1分でよいので、やってみましょう。

 毎日吹いていると、今日は調子が悪い……という日がどうしてもあります。体調のせいなのか、唇が腫れているのか、口内炎をかばって吹いているのか、はたまた自分が下手になったのか、もしかして元々ドヘタだったのか……。トロンボーンが好きな人ほど、深く悩んでしまいますよね。そういうときは、ほとんどの場合、息が吸えていない状態になっているのです。たっぷりとした呼吸で、身体全体で演奏できていないのです。調子が悪い原因にばかり意識がいって、頭も身体も硬くなっています。さあ、たっぷり空気を身体に取り込んで、リラックスして吹いてみましょう。きっとコンディションを取り戻す解決の糸口となるはずです。なんだかわからないけれど調子のいい日、「おっ、上手くなったじゃん。もしかして天才?」──こういうときは、無意識に自然な深い呼吸ができているものなのです。

 

我が輩の辞書にはトロンボーンという文字がある〈その7〉

 楽器を買おう!初めて自分の楽器を買った日の喜びは、今でも忘れられません。自分の楽器と学校の楽器だと思い入れも違うし、扱いも変わってきます。トロンボーンには、ベルが黄色いもの赤いもの、銀メッキのもの、材質自体が銀のものなどがあります。スライドも、真鍮のものやニッケルのものがあります。それぞれ音の傾向が違うだけで、どれがどれよりよい楽器というわけではありません。材質の関係で、黄ベルよりも赤ベルの方が値段が高くなるのですが、だからといって赤ベルの方が高級品だというわけでは決してありません。いずれにせよ、楽器は自分自身の好みで選びましょう。食べ物の好みと同じように、音色の好みもそれぞれ違うはず。楽器との相性も個人個人で違うものなのです。人がいい楽器だと言っていても、上手な先輩が使っているのと同じ楽器でも、自分自身で吹いて“?”が付くのなら、それはあなたには合わない楽器なのかもしれません。それよりも、その時に一番吹きやすい楽器を選ぶことをお勧めします。吹きやすい楽器から、一番良い音がでていたりするものなのです。楽器を買おう!自分だけのトロンボーンって、最高だよね。