トロンボーンが上手な人は、スライディングが美しい

 トロンボーンが上手な人は、スライディングが美しい。これは、私が今まで見てきたトロンボーン奏者全てに言えることです。まず、動きがとても速い。そして、余分な力が抜けていて、自然な動きである。この自然に見える動きというのが、トロンボーンで音楽を表現する上で、とても重要なのです。

 では、どうしたら理想的なスライディングができるのでしょうか?まず、スライドのストッパーをかけて左手だけでトロンボーンを持ち、右手を使わずに音を出してみましょう。この時の体の状態と、普段吹いている時の状態が違う人は要注意です。楽器は、まず左手だけで持つべきであり、“右手はスライドを軽く支えているだけ”がよいのです。右手の親指と人差し指で支柱を支えますが、この時、支柱を持ったり、掴んだりしてはいけません。人差し指の腹の部分に支柱が軽くのっかていて、親指はそれを軽く支えているだけ……という状態にしましょう。そしてスライドを1から7ポジションへと動かしてみて下さい。この時、スライディングと同時に左手で持っている楽器が暴れないように。楽器は動かず、スライドの外管だけが軽やかに滑っている状態にして下さい。そのためには、右腕、右肩、特に右手首の力は、完全に抜けていなくてはなりません。

 [譜例]を吹いてみましょう。このパターンを、速いテンポで、正確なリズムで、正しい音程で、そして音を外さず完璧に吹くことが出来ますか?それによって、トロンボーンの演奏技術の高さを判断することができます。

 それでは、上手く吹けない場合をポイント別に説明しましょう。

1音がはずれる
スライディングと同時に楽器が暴れてしまう場合が多いようです。楽器が動くとマウスピースが動き、息が不安定になって、タンギングも正確にできません。鏡を見ながら、楽器が動かないように注意しましょう。右腕、手首の関節が右肩を軸にして柔軟に動くことが大切です。スライド自体のコンディションが悪い場合もあります。スムーズに滑らないスライドでは、右腕に力が入りがちで、気分も不快になり、ストレスもたまってきます。スライドはこまめに掃除をし、少しでもへこみのある場合は、すぐに専門家に修理してもらいましょう。

2音程が悪い
自分の音程がキチンと聞き取れていない場合が多いようです。まず、ゆっくりとしたテンポで、音程を確認しながら練習しましょう。とくに5,6,7ポジションで妥協しないように。集中力を持って、ていねいに練習すること。

3速く演奏することができない
実は、中高生・アマチュアトロンボーン奏者の約半数がこの問題を抱えています。そして、この問題こそがトロンボーンの上達を妨げるものであり、最も問題視すべきポイントでもあるのです。本来、スライドはその音を発する寸前には、既にそのポジションに到達していなければなりません。ところが、この問題を抱えている人のほとんどが、音を出すときになって、やっとそのポジションに辿り着こうとしているのです。それでは遅すます。これは、音を出そうとする頭の中の感覚と腕の動きがずれている現象です。スライドを右手でしっかり持ってしまっていると、右腕全体でそれぞれのポジションを、まるで点でもつくように、スライディングしてしまいます。トロンボーンのスライドのように長い距離の中の7つのポジションを、正確に付くスピードには、物理的に限界があります。そのため、速いテンポで演奏することが困難になるのです。まず、右手はスライドを軽く支えるだけ。余分な力を抜いて、右肩を軸に右腕、右手首が柔軟に動かせるようにしましょう。そして、スライディングの動き自体を速くすること。最終的には、スライドを動かし始めるタイミングが早くならなくてはなりません。譜例のパターンを、毎日鏡を見ながら、楽器がぶれないように、少しでも速く演奏できるように、注意深く練習しましょう。

 そして、毎回言うようですが、息は常に流れていること。スタッカートにおいても、レガートにおいても、スライディングと息の流れは深く関係しています。

 スライディングは、トロンボーンで自由に音楽を表現するための大事なポイントです。自由な音楽表現ができていない人を見て、“センスがない”という一言で片付けてしまう人もいますが、決してそんなことはありません。私の生徒の中にも、スライディングの問題点を克服したことにより、より自然な演奏に近づいた人が何人もいます。より音楽的な“歌”になるよう、自然なスライディングを身につけて下さい。私は、教えている生徒達のスライディングが“遅すぎる”と思ったことはあっても、“速すぎる”と思ったことは、一度もないのです!!

我が輩の辞書にはトロンボーンという文字がある〈その6〉

 ドイツ語でスライドのことをZug(ツーク)といいます。この単語には色々な意味があるのですが、その中に、電車が走る“路線”、“線路”という意味があります。皆さん、スライドの内管を線路、そして外管を電車だと思ってみて下さい。電車が走ったとき、線路がぶれていると脱線してしまいますね。左手でしっかりと(しかし、力まずに)線路を持ち、右手で支えた電車がスムーズに走るように。常に線路の点検(掃除)も欠かさず、美しく快適な走りを目指しましょう。