リップスラーとタンギング その2

 先月に引き続き、リップスラーとタンギングのトレーニングです。この練習は、唇の反応と息の使い方の効率をよくし、スタミナをつける、そして何よりも、幅広い音域を自由に演奏する技術を身につけるのに最も適した練習です。毎日続けましょう。毎日です!

 先月よりもさらに広い音域にチャレンジです。たっぷりとした暖かい息を使い、安定したテンポで(早くなったり遅くなったりしないで)、演奏します。

 [譜例]のパターンでは、B-durのドミソの音を吹いていますね。“B-durの和音の中で演奏しているんだ”とイメージで吹できると、音程が安定してきます(ピアノでB,D,Fの和音を弾いてから吹くとわかりやすいですよ)。

 みなさんが初めて楽器を持った時、ほとんどの人は真ん中のFか下のB♭の音が出たのではないでしょうか。経験を積んで、色々な音域がふけるようになった今でも、皆さんにとって、その音が一番吹きやすい音なのでないかと思います。その吹きやすい音と同じように、高い音域も楽に演奏できるようになることが、このトレーニングの目的の一つです。

 私たちの息は低い音域にいくほど、マウスピースの穴に向かってまっすぐに送られています。では高い音域はというと、徐々に下方向へ角度がついていくのです。譜例の高いB♭の音になると、ほとんど真下に向かって送られているように感じます(試しにいろいろな音域の音を出したままマウスピースを口から離し、息の角度を確認してみてください)。低い音域は口の中をタテに広くとり、下アゴを下にさげ、前に突き出すようにセッティングしてみます。すると口のまわりが自然ときれいに張れるはずです。下のB♭の音のときは、上下の前歯が同じ位置にかみ合うくらいにセットしてみましょう。口の中に卵がタテに入っているとイメージします。現実には上の音域へ向かうにつれ、下アゴが後方へ下がっていくことで息の角度がついていくのですが、低い音域も高い音域もあまりアゴのポジションが変わらないようにイメージします。そうすることによって全ての音域が均一になり、高い音でも口の中が狭くなりすぎず、豊かな響きが得られるのです。

 そして一番吹きやすい1ポジションと同じように、遠いポジションでも演奏できるように練習しましょう。そうすれば、近いポジションはより安定するのです。このパターンを1ポジションと7ポジションで吹き比べてみましょう。7ポジションの方が音の立ち上がりが鈍くなり(プルッとゴミがつきやすい)、レガートも不安定(バラバラいいませんか?)、音程もあやしいでしょう(E-durのドミソに聞こえますか?)。集中して1ポジションと同じように音色もニュアンスも美しく演奏できるようになりましょう。

 次にタンギングについてです。下アゴが充分前に出ておらず、口のまわりがきれいに張れていない場合、タンギングをしたとき息が楽器の抵抗に負けてしまい、下アゴと一緒に口のまわりが動いてしまいます(パンではなく、トゥオンという発音になってしまう)。すると音の立ち上がりや音程が不安定になりますね。クリアな発音=舌を強くつくことだと誤解しやすいものですが、極論を言えば、唇が瞬時に安定して細やかに振動しさえすれば、舌はつかなくてもクリアな立ち上がりは作れるものです。あくまで舌は息の流れをサポートしているものだとイメージしましょう。そしてタテに広くとられた口の中で、舌のみが軽く動く、下アゴや口のまわりは安定して動かないようにトレーニングしましょう。

 この譜例のパターンでは25個の音を吹きますね。25×7ポジション=175個の音が均一に響くこと。どのポジションのレガートも同じようになめらかに演奏できること。どのポジションの音も同じようにクリアにタンギングできること。そして、その全ての音が美しいことが目標です。 

 次回はリップスラーとタンギングの最終まとめとして、舌の動きとイメージについてさらに詳しくレッスンしたいと思います。

 

我が輩の辞書にはトロンボーンという文字がある〈その4〉

ある日スライドの動きに異変が。「やばい!ヘコんだかな?」スライドはトロンボーンの命。ヘコませたまま吹いていると内管も曲がってくるので、すぐ修理しなければなりません。主治医にスライドを渡して約30分後。「ねえ吉川さん、掃除してないでしょう。外管の内側デコボコでしたよ。ちなみにヘコみもないしまがってもいません。」これはフィクション(?)ですが、ありがちな話。オイルやクリームがホコリと一緒になって固まると、スライドの動きは悪くなります。こまめに掃除しましょう。ちなみにヘコませてはいけないスライドの中でも特に要注意部分は、マウスピースの入り口から20cm位までの部分。ここにはマウスパイプという管が入っていて、一度曲がると元に戻すのは非常に困難だとのことです。