リップスラーとタンギング その1

 さあ、いよいよレッスンに入りましょう。 毎日の練習の初めは、低い音域からていねいに吹き始めます。いきなり高い音を吹いたり、大きな音で乱暴に吹いたりしないように。集中力無くいい加減に吹き始めると、その後どのようにていねいに吹こうと思っても、雑な演奏しかできなくなってしまいます。それほど練習の最初は大切です。

 まずは基本中の基本、リップスラーとタンギングです。リップスラーとは、舌を付かないで倍音間をなめらかに表現するものです。最初に[譜例1]を吹いてみましょう。mpからmfくらいの音量で、暖かい息を使って美しく吹きます。スラーはよりなめらかに、タンギングはよりクリアーになるように注意しましょう。

【point1.】
最初の音は必ず舌を付いて始めます。しかし、アクセントにはならないように。

【point2.】
早くなったり遅くなったりせず、一定のテンポで演奏します。リップスラーは、上にあがる時は、少し抵抗を感じて遅くなりやすく、降りるときは、自分の意志に反してストンと早く降りてしまいがちです。自分の動きたいタイミングで動けるように、テンポとリズムをコントロールします。

【point3.】
レガートの最後の音(この場合は三つ目の音)に、アクセントが付いて雑にならないように。四拍目のスタッカートとの間に必ずすき間をつくること。

【point4.】
四拍目以降のスタッカートの音は、短くなりすぎないように。パッ!と舌で音をとめてしまわず、少し響かせるように。

【重要】
そして、全ての音(この場合は五つの音)が“同じ音量”、“同じ響き”になるように集中して下さい。さらに、1ポジションから7ポジションまでが同じニュアンスで吹けるように、必ず!7ポジションまで練習して下さい。トロンボーン奏者は、ついつい4くらいまでの近いポジションのトレーニングまでで止めてしまいがちです。その理由は、遠いポジションの音は滅多に使用しないこと、管が長いために息が多く必要になったり、反応や音程が悪くなったりで演奏しづらいこと、手を伸ばしたままの状態をキープするのが面倒臭いことなどでしょうか。しかし、遠いポジションの練習こそが大切なのです。一番管が短く演奏しやすい1ポジションと違って、管の長い6や7ポジションは、音を出すのも難しいもの。でも、遠いポジションでレガートやタンギングがたやすく演奏できるようになれば、近いポジションでは、より問題なく吹けるようになるものです。

 全ての音(譜例1では5×7=35の音)が均一に鳴り響くこと。どのポジションのレガートも同じようになめらかに演奏できること。どのポジションのどの音も同じようにクリアーにタンギングできること。そして、その全ての音が美しいことが目標です。

 同じことに注意しながら、[譜例2,3,4]と少しずつ音域を広げていきます。どのパターンも7ポジションまで練習して下さい。[譜例4]のように音域が広くなると、演奏が難しくなってきますが、毎日トレーニングしていれば必ずできるようになります。演奏しやすい低いB♭と同じように高い音も吹けるよう、練習しましょう。次回は、音域の違いによる息の使い方、あごのポジションなど、もう少し突っ込んだお話をしたいと思います。

 

我が輩の辞書にはトロンボーンという文字がある〈その3〉

 皆さんの使っている楽器は、ほとんどが黄ベルか赤ベルだと思います。中には銀色のベルを使っている人もいるかもしれません。その違いについてはまた触れるとして、皆さんは真っ赤なベルや黒いベルの楽器を見たことがありますか?以前、フランスの金管五重奏団が来日したとき、トランペットからテューバまで、全員が鮮やかなセルリアンブルーの楽器を使っており、驚いたことがあります。これは金属そのものの色ではなく、楽器をコーティングしているラッカーに色が付いているのです。顔料といわれる色素をラッカーに混ぜるのですが、どんな色でも作ることができ、しかも、音には全く影響しないとか。ステージの上で緑とピンクと紫のトロンボーンが並んでいたら……。