トロンボーンは一日にして鳴らず

 トロンボーン吹きの皆さん。今日はいい音がでていますか?これから一年、トロンボーンを自由にあやつることができるようになるテクニックを少しずつ書いていきたいと思っています。

 私がトロンボーンを始めたのは十二歳。中学校の吹奏楽部です。その後、音楽大学へと進み、現在はオーケストラに所属しています。オーケストラの他に、トロンボーンカルテットや吹奏楽のステージに乗ったり、音楽大学で指導をしたりと様々な活動をしています。 ときには吹奏楽やオーケストラと協奏曲を演奏することもあります。吹き初めて二十三年ほど経ちましたが、今でもとても楽しくて、吹くのを止めてしまうことができません。オーケストラの仲間の中には、四十年以上吹き続けている人もいます。四十年ってすごいですね。

 さて、皆さんは、トロンボーンが上達するために一番必要なこと、やらなければならないことって何だと思いますか?それは、毎日規則正しく練習するということです。よく社会人のアマチュアトロンボーン奏者から、
「仕事が忙しくて、週に一日しか吹くことが出来ないのですが、うまくなれる練習方法はないですか?」
と聞かれますが、残念ながらそんな方法はありません。

 人は寝ている間に、どんどんトロンボーンの吹き方を忘れていきます。寝て起きてというのを六回繰り返し、その間吹かないでいると、六日分しっかりと忘れてしまうのです。トロンボーンを吹くというのは積み重ねですから、一日に一歩ずつ階段を昇るようなものだと考えて下さい。一日吹かないと一段降りることになります。次の日一段昇っても、そこは二日前の場所ですから、毎日吹いた人よりも二段低いところにいる、二段分積み重ねるのを損したことになります。一週間に一度しか吹かないということは、一段昇って六段降りるということですから、上達するということはあり得ません。

 毎日の練習の中では、吹くのが辛く感じられるような日もたしかにあります。なぜだかいい音の出ない日、調子が悪い日、大切な本番で失敗してしまう日……。私にもありますし、世界で活躍している素晴らしい名手達にもあります。しかし、それも積み重ね、階段を昇っていると考えて下さい。上手く吹けない原因は必ずあるわけですから、上手く吹けない日を経験することで、そうなってしまわないようにコントロールする技を覚えていくのです。

 皆さんの目の前には、雲を突っ切って天まで昇る階段があります。どこまでのびているのかはわかりませんが、一日一段ずつ、ゆっくりと昇っていきましょう。一気に十段昇れる方法はありません。 でも、自分が途中で昇ることをやめてしまわない限り、昇り続けていくことができます。そして、トロンボーンを吹くことは、四十年も五十年も、もしかしたら一生階段を昇り続けることができる程、奥が深くて楽しいものなのです。

 どのように規則正しく練習を積み重ねていくかは、一年かけて誌上で紹介していきましょう。

 では、トロンボーンが上達するのに必要な気持ちとは何でしょう。それは〈向上心と探求心〉です。〈向上心〉とは上手く吹けるようになりたいという気持ちです。これが無い人、薄い人はいくらレッスンしても上手くなりません。ただ「上手くなる」というよりは、具体的に「何がどう吹けるようになりたい」のか目標を持って下さい。その上で、〈探求心〉も決して忘れないで下さい。トロンボーンの練習とは、大変に複雑なことを唇や頭、身体全体で憶えていくということです。シンプルな練習のパターンの中から、自分自身で様々なテクニックを探し求めてみましょう。そして(規則正しい練習ということと相反するようですが)、様々な練習方法を試してみて下さい。私も過去、多くのことを試しました。今考えると“何であんな練習をしたんだろう”ということもあります。楽器を改造したり、マウスピースを削ったりと道具に可能性を求めたこともあります。そうして色々な成功と失敗を繰り返した今、とてもシンプルなパターンに落ち着いています(これから先も試すとは思いますが……)。

 毎日の規則正しい練習をしたあとには、色々な練習方法を試してみましょう。そうやって積み重ねていくと、ある日、“上達したな!”という手応えを感じる瞬間があるはずです。一度でもそれを感じると、もう止められません。“よし、明日も!”と意気込んで練習すると、次の日にはいい音が出ず、がっかりしてしまうことが殆どなのですが……。しかし、次回の“上達したな!”という喜びが感じられる日を夢見て、毎日コツコツと積み重ねましょう。きっと、一週間前、一ヶ月前、一年前とはまるで違う自分を見つけることができるはずです。

 向上心と探求心を持って、毎日規則正しい練習をしよう。そして、一生かけて上手になろう。楽しいトロンボーン人生になりますよ。

 

我が輩の辞書にはトロンボーンという文字がある〈その1〉

 皆さんはこういうクリップを知っていますよね。かのフランスではこのクリップのことを、なんとトロンボーンと呼んでいるのです。私たちが吹いている楽器も、勿論トロンボーンと呼ばれています。理由はおそらく、見た目が似ているからでしょう(似ていますか?)。
 文房具屋さんで「トロンボーン下さい。」って言って買い物したり、会社で「ねぇ、トロンボーンってどの引き出しに入ってるの?」なんて言って探したり……。トロンボーンのパート譜をトロンボーンで束ねていたりもするんでしょうね。