建物名称 船の科学館
所在地 東京都品川区
高さ 尖塔部高90m 展望室床面高70m
竣工 1974(昭和49)年
概要 日本財団の前身である日本船舶振興会は、モーターボート競走法に基づき1962(昭和37)年に設立された公益法人である。その事業内容はモーターボートレース(競艇)の収益金を財源とし、造船および関連工業の振興をはじめ、海難防止、海事知識の普及、文教・スポーツ・社会福祉・医療の振興など多岐に渡る。そうした中、世界でも有数の造船・海運国として特に青少年を対象に海事産業や科学技術への関心を高めることを目的とする海事博物館の建設が構想されたのは1963(昭和38)年のことであった。
1967(昭和42)年にはこの博物館の建設と運営を行う日本海事科学振興財団が発足。建設候補地として世田谷区砧公園、横浜市山下公園、千葉市稲毛海岸など40箇所以上が調査・検討される中で、折しも売却が決定した英国の大型豪華客船クイーン・エリザベス号を購入して博物館に併設係留させる案が浮上したことから東京港13号埋立地が最適と判断された。クイーン・エリザベス号の購入はいくつかの外的要因から実現せず、成し得なかった“夢”の名残で建物外観は大型客船を模したデザインになった。
海事博物館は「船の科学館」と命名され1974(昭和49)年に完成、海の記念日である7月20日から一般公開を開始した。今でこそ「お台場」と呼ばれて臨海副都心の一部を成し多くの人々が往来する13号埋立地だが、1990年代までは船の科学館以外にはまさに“何もない”不毛な地で、開館当時はまともな住所すら存在しなかった。当館のある一角が品川区に帰属することが決定し、東八潮という町名が与えられたのは1983(昭和58)年のことである。
開館以来30余年の間には展示内容の更新が随時行われてきたが、科学技術の進歩の早さに即応しきれず全般的に陳腐化したことに加え建物の老朽化も激しくなってきたことから、次世代へ向けてのリニューアルを期して2011(平成23)年9月限りで本館の公開を休止することとなった。休館を告知するリリースには南極観測船「宗谷」の公開や屋外プールでの体験教室など博物館活動は継続することと、本館建物も「引き続き事務所及び収蔵保管・研究施設として活用する」との記述があるが、リニューアルの具体的なプランや再開予定年次といった重要な点については全くアナウンスされていないのが気がかりである。
TF式分類 第1種 II類
登頂日 2011年9月8日
注意事項 船の科学館は2011(平成23)年9月限りで本館の公開を休止しました。建物は当面存置される見込みです。
 2011年9月8日の登頂記録
船の科学館の建物は全長210m×幅26m。郵船クルーズの「飛鳥II」よりは若干小さく、商船三井客船の「にっぽん丸」よりはひと回り大きい、6階建ての巨大な建物です。
この写真は“ゆりかもめ”の駅から撮ったもので、右が船首で左が船尾に相当します。つまりこちら側はスターボードサイド(右舷)というわけです。
1995(平成7)年にゆりかもめが開通し、当館と同名の駅が目の前に開設されるまでは、当館への交通手段といえば品川駅と門前仲町駅からの都営バスしかなく、到達が多少なり面倒であることは否めませんでした。しかし交通が格段に便利になったらなったで今度はいつでも手軽に行ける安心感から行く動機がなく、お台場エリアには何度も来る機会があったのに船の科学館は「また今度でいいや」といつもスルーしていました。休館が発表されてからやっと重い腰を上げることになったのは横浜マリンタワーのときと同じパターンですな(苦笑)。
こちらは南側面、即ちポートサイド(左舷)の全景。手前に浮かぶのは初代南極観測船「宗谷」で、これも当館の展示物です。
こうして海面を入れて撮ると本館はもう船そのものにしか見えませんね。外観からは船首と船尾の区別がしにくいかも知れませんが、国際ルールに倣って船尾に国旗を掲揚しているので判断できます。

再びスターボードサイドから展望塔部分をクローズアップ。塔体は扁平な六角柱であることがわかります。塔の最上部に突き立っているのは避雷針なのかアンテナなのか。後述の資料ガイドには「尖塔部」としか書かれていないのでわからないのですが、先端の形状からすると避雷針ですかねぇ?

エントランスロビーは1階中央に位置しており、出入口は建物の両サイドにあります。天井の凝った装飾やシャンデリアはやはり豪華客船のロビーをイメージしたものでしょうか。
平日にもかかわらず、休館目前なことと通常700円の入館料が謝恩価格で200円になっていることなどから見学者の波がなかなか途切れず、たかがこんな写真を撮るのに45分もかかりました。どうしても撮っておかねばならない写真ではありませんが、もう意地です。誰も積極的に撮らない部分こそ休館後に貴重な記録となる可能性があるので決して無駄な行為ではない。と、自分では思っているのですが……。
入館してみると想像していた以上に展示量が膨大で、あらためて建物の大きさを実感しました。展示場の写真は代表してこの1枚を。
1階船尾付近の「船をうごかす」コーナーに鎮座している三菱造船(現・三菱重工業)製のUEディーゼルエンジン実験機関です。高さ9.5m、重量195トンという巨大なシロモノで、建物が完成してからでは搬入できないため、当館の建設にあたってはまずこのエンジンを展示場所に据え付け、それから周りを囲うように本館の鉄骨が組まれました。
3階の企画展示室・マリタイムサルーンでは「ごきげんよう! 船の科学館」と題して当館のあゆみを写真パネル等で振り返る企画展が行われていました。建設中の貴重な写真もさることながら、その背後に写っている開発前で荒涼としたお台場の景観に隔世の感を抱きます。
同じ3階のポートサイドの一角には海上保安庁東京海上保安部港内交通管制室があり、業務のようすが窓越しに見学できます。もっぱら係官がコンピューターのモニタ画面を見てるだけですが。
休館後の建物が直ちに解体されないのはこの管制室の存在も関係しているのでしょう。
6階軒上には東京港に出入りする500トン以上の船舶に対し信号を表示する電光パネルが設置されています。信号は東京港内に7基設けられており、先ほどの管制室ですべてのコントロールを行っています。
信号はアルファベットの点灯で表示され、その意味を説明するパネルも掲げられています。それによるとこの写真で表示されている「F」は「東京港東航路においては5000トン以上、西航路においては2万5000トン以上の船舶は入出港禁止、その他は入出港可」を示しています。
左右両側に設置されているけど、海に面していないスターボードサイドのほうは役に立ってるのかな?
では展望塔へ登るとしましょう。写真は5階のエレベーターホール。貼り紙には展示場・展望塔を見学するなら1階で入館券を買えと書いてあります。
もう休館した施設なので書いちゃいますが、当館の4階と5階はそれぞれレストランと多目的ホールになっており、そこだけの利用なら入館券は不要です。しかし館内では展示場見学者との動線分離が全く図られておらず、入館券のチェックもされないので、その気になればレストランへ行くフリをして1階ロビーからエレベーターに乗り、展望塔も展示場もタダで入場することができてしまうという、ちょっと問題ありな構造になっていました。
展望室は2層になっており、エレベーターは下層階で乗り降りします。望遠鏡や景観案内パネルが置かれたオーソドックスな内装で、階段で上層階に上がってもこれといった差はありません。
まずは北側の窓から。左奥に見えるレインボーブリッジは1993(平成5)年に、中央を横切る新交通ゆりかもめは95年に開通しましたが、お台場エリアがレジャースポットとして一躍脚光を浴びるようになったのは右手に見えるフジテレビ本社が移転してきた97年からと言っていいでしょう。有名な球体展望台は当初無料開放されており、私も早々に登ったことがあります。
左手の大きな建物はホテルグランパシフィック LE DAIBA(ル・ダイバ)。その左脇に見えるホテル日航東京はフジテレビよりひと足先に96年のオープンです。
眼下にはかつてのシーサイドプール。1周193mの流れる屋外プールとして開館当初から人気を博しましたが遊泳施設としては2000(平成12)年に営業を終了し、以後はカヌー教室や各種実験などを行う体験教室プールとして利用されています。
2つある灯台は左が長崎県の大瀬埼灯台、右が三重県の安乗埼灯台で、いずれもレプリカですが明治期に築造された実物を移築した部分があります。残念ながら内部は公開されていません。

南側海上には南極観測船「宗谷」と青函連絡船「羊蹄丸」が浮かびます。宗谷は1978(昭和53)年、羊蹄丸は1996(平成8)年から当館付属の展示物として公開を開始しました。

ゆりかもめの高架を挟んで左奥に見えるのは日本科学未来館。臨海副都心全体を「お台場」と呼ぶのがすっかり定着してしまった感がありますが、本来の台場地区は2つ上の写真に見える一帯だけで、未来館やテレコムセンターがあるあたりは正しくは青海(あおみ)地区です。ちなみに東京ビッグサイト(国際展示場)があるのは有明地区。

隣接する独立行政法人航海訓練所の専用桟橋には、ちょうどこの日寄港した帆船日本丸の姿が見えます。
海の向こうにズラリと並ぶ大井埠頭のガントリークレーンが壮観です。
最後はマリンショップへ立ち寄りましょう。本館と宗谷の間に挟まれた平屋の建物で、スペースの一部は無料休憩所としても利用されています。
ショップで扱っているのは模型、書籍、DVD、服飾、玩具などとにかく船舶に関連するものばかり。
当館オリジナルの商品は資料ガイドシリーズのブックレットが中心です。休館を記念して8月に刊行された「資料ガイド12 船の科学館」は当館のあゆみをコンパクトにまとめた56ページの本で、貴重な写真も多く充実した内容です。
手提げ袋に描かれているのは当館のキャラクターであるヒゲ船長(たぶん名前があると思うのですが……)。マスコット人形付きのボールペンなど立体モノのグッズがいくつか販売されていましたが、イラストのイメージとは似つかない造形なので購入は見送りました。
【その1】マリンショップの建物内は全面的に改装され、2012(平成24)年1月に「船の科学館MINI展示場」として再オープンした。展示品のほとんどはかつて本館に展示されていた多数の船舶模型で、見学は無料である。売店での取扱いは当館が刊行する資料ガイドだけとなった。
【その2】青函連絡船羊蹄丸は東予シップリサイクル研究会に無償譲渡され、2012年3月に愛媛県新居浜市へ曳航ののち解体された。
船の科学館

TOPページへ