團伊玖磨記念「ふたつの川の合唱組曲」

日本を代表する作曲家團伊玖磨(1924〜2001)の、川をテーマにした合唱組曲『川のほとりで』と『筑後川』が東京・江戸川区総合文化センターのステージで上演される。 江間章子作詞の『川のほとりで』は関東平野を縦貫し、東京湾に注ぐ江戸川を六章で描く。 その名もずばり『筑後川』は九州一の大河が人の一生になぞらえるように丸山豊によって作詞され、初演から40年で日本の合唱曲を代表するものとなった。 「人の心を洗う川の流れは、聴く人にロマンを与えます。空ではとらえどころがない、山は頂上に行けば生活がない。しかし川は生活と密着に結びついています」と語る團は川の音楽を数多く作曲したことでも知られる。  

    合唱組曲『筑後川』(丸山豊・詩)                   1968年
    ソプラノ・ソロと管弦楽のための『長良川』(江間章子・詩)   1976年
    合唱組曲『北の大地』(石狩川)(小野寺与吉・詩)         1978年
    管弦楽のための『高梁川』                        1980年
    合唱組曲『筑後風土記』(矢部川)(栗原一登・詩)         1989年
    合唱組曲『川のほとりで』(江戸川)(江間章子・詩)        1990年  

60年にわたる作曲活動で紡み出した作品は『夕鶴』『建・TAKERU』などのオペラ7曲、交響曲6曲、11にも及ぶ歌曲集、そして管弦楽曲、合唱曲、童謡、吹奏楽曲、 映画音楽と膨大な数に及ぶ。「パイプのけむり」に代表されるエッセイストとしても名高い存在だった。
合唱組曲の形で書いた最初の作品が『筑後川』で、「始めて取り組む合唱組曲で非常に苦労して書いた。技術的にも大きな転機となった曲で、僕の原点の曲の一つです」 と語っている。その後も合唱組曲を数曲書いたが最後の組曲となったのが『川のほとりで』だった。
 江間章子による「川のほとりで」「都鳥のうた」「岸辺のポニー」「窓のまち」「七草篭」「川は海へ」の六つの詩は江戸川らしさを歌い上げているが、「江戸川」の固有名詞が 出てこない。ここに歌われる川は、日本のどこの都市近くにもあり得る日常風景の中の川にも重なることを思った末なのではないだろうか。江戸川混声合唱団の委嘱作品が、 作曲者自身の指揮により初演され20周年を迎える。
一方「みなかみ」「ダムにて」「銀の魚」「川の祭」「河口」の5章から成る『筑後川』は「愛」を基調とし平和と人の命の幸せを祈りながらおおらかに歌い上げられる。 20数年の隔たりがある團伊玖磨の「ふたつの川の合唱組曲」を同時に聴けるのは格別の楽しみと言えよう。
團の生前の思いを継いで、2002年から毎年開催されている、筑後川流域をめぐる團伊玖磨記念『筑後川』コンサートに参加してきた在京合唱団がホスト合唱団となって、 全国からの『筑後川』愛唱者を東京に迎えて行なうコンサートでもある。「ふたつの川の合唱組曲」につつまれ、『筑後風土記』や管弦楽と合唱のための組曲『横須賀』、 『岬の墓』など團作品が歌われる。 『筑後川』流域コンサートの2002年、熊本県小国町では東洋大学混声合唱団が合唱組曲『大阿蘇』(石橋義也・指揮)を、03年、福岡県吉井町ではシュタインブリュッケ合唱団が 『岬の墓』(石橋義也・指揮)を、04年、久留米市城島町では江戸川混声合唱団が『川のほとりで』(鈴木康夫・指揮)を、05年、佐賀市ではシュタインブリュッケ合唱団が 『海上の道』(梅ア英行・指揮)を、06年、大川市では文京混声合唱団が『筑後風土記』(鈴木哲雄・指揮)をもって参加した。いずれも團伊玖磨作品であった。 また八丈島から八丈混声合唱団(07年)、横浜紅葉丘合唱団(06年)は『筑後川』大合唱に参加し全国の仲間とともに合唱した。

「六つの川を持つ江戸川区」からの「ふたつの川の合唱組曲」と、数々の團作品は楽しいひと時を届けてくれるでしょう。
                                                                    中野政則

         プログラムへ