1  いりこ じゃがいも 夏豆 かぼちゃ
            鼻をくすぐる味噌の香は
           幼い頃の 夢の味
                                       2 くどで薪くべ 火吹き竹吹いて
                                         作ってくれただご汁は
                                          いまはなつかし 母の味
          3 山も暮れゆく 雨戸も閉めた
           だご汁すすって 四方山話
           忘れはしない 故郷の味
                                       4 心も通った ともだち集い
                                          つつくだご汁 おかわり重ね
                                          遠い昔の 夢を追う


これは八女地方に歌い継がれている「だご汁の歌」の歌詞である。
昭和46年八女市の警察署長だった池田一巳さんが、 月に一回気のあった仲間と大好きなだご汁を肴に、親交を温めながら地域の向上を考えようと「だご汁会」を結成した。やがて会 員の間からこの会のテーマソングを作ろうと言う話が持ち上り、会員の一人で文筆業の今村 圀彦さんが詩を作った。そしてこの詩に作曲したのが團さんだというから面白い。その経緯は次のようなことである。
会員の一人に同市福島青果の仲買人組合長の吉村誠さんがいた。「ひとつ團君に頼んで みよう」吉村さんは戦時中、陸軍戸山学校軍楽隊時代は伍長で、團さんは上等兵。いわば 團さんは吉村さんの部下の関係であったことからその後も交友は続いていた。九州に来た 團さんに吉村さんがこの詩を見せたところ、「心に染みるしっとりとした詩」と感想もらし、 曲をつけることを快諾した。
こうして團さんの手で作曲された「だご汁の歌」は、「だご汁会」の始まりに歌われていたが、 いつのまにか市民の間に広がり、広く八女地方一円で歌われるようになっていった。                                 ―中略―
さらに同歌は筑後地方一円に広がり、八女東公民館の民謡教室や黒木町の町民グループ などでも盛んに合唱されて人気を集め、同町を訪れた團さんがピアノ伴奏をしながら一緒に歌うこともあった。                  ―中略―
團さんの一周忌にあたる2002年5月17日、この曲を歌い続けている福岡県黒木町の黒木小学校の生徒たちが、同町にある團さんのエッセイ碑の前で「だご汁の歌」を歌い故人を偲んだ。 同町の素戔嗚神社内にある樹齢600年を誇る国指定天然記念物の藤の大木を、團さんが 『パイプのけむり』(アサヒグラフ・75年5月22日)に「八十八夜」と題して紹介したことで一躍 有名になり、87年に同地に碑が建てられていた。 同碑の除幕式には團さんはご夫婦で出席され、その後も久留米に来た折に、しばしばこの 地を訪れておられた。
                                                   中野政則著・「團さんの夢」(出窓社)より


      

團さんが亡くなられた後、「だご汁の歌」”発祥地”黒木町文化連盟会長・吉村誠さんの主催で 「だご汁忌」が行われている。今年は5月16日に行われ、黒木の大藤の藤棚の下にある 團さんのエッセイ碑の前で、團さんの写真に大好きだっただご汁を供え、八女消防署音楽隊 の伴奏で黒木小学校の生徒たちが「だご汁の歌」を歌い、在りし日の團さんを偲んだ。