++ 跡部先輩のメール講座 応用編2 ++ さんが写メという機能に興味を示したのは、送られてきたメールに鳳さんが目を細めていたのがきっかけでした。 なにか良い事でもと尋ねると、鳳さんは微笑んだまま、携帯をさんに向けました。 画面には、まさに生まれたてとでもいうべき無垢な瞳の赤ん坊が眠たそうにこちらを見つめています。 親戚のお嬢さんの子供で、さきほど無事に生まれたと病院に詰めていたお姉さんから写真付きで送られてきたのだそうです。 誰もが相好を崩すであろう慶事に、さんの頬もほころびました。 そうして二人でひとしきり新しい命を讃えあったあと、さんは画像が送れるなんて便利だねえと本当に感心したように言いました。 厳しいのか甘いのか判断しかねる師の教えによって、メールには幾分か慣れたようではありますが、これまで交わされたのは文面のみの基本的なやりとりまでです。 そのせいか、写真が添えられたメールというものに対して少しばかりの憧憬というかワンランク上の匂いを感じてしまうのでした。 さんのかすかな羨望の気配を、鳳さんも薄々察してはいました。 今ここでさんのアドレスを聞きだして画像を送信するのは造作もない事でしたが、そんなことをすれば彼女に携帯を買い与えたとあるお方に、血が滲むどころかマーライオンのように噴き出す練習メニューを課せられることは目に見えています。 ですので、鳳さんは気を利かせることにしました。
夕食を済ませて一息ついていた頃、メールを受け取った跡部さんは少しばかり面食らいました。 思ってみなかったという驚きと、なんでこいつがという面白くない思い、なるほどという納得が複雑に入り混じったせいでしょう。 そして一拍遅れて、何故もっと早く知らせない、と手前勝手な苛立ちを覚え、美しい眉間に一筋の皺を寄せました。 こんな時間にお知らせすることになったのは、鳳さんが宍戸さんにスカッドをかましたりお姉さまの手作りスコーンを頬張ったりそれをアハハウフフ小鳥さんそーれい☆とお裾分けしたりするのに夢中で、思い切り忘れていたせいではありますが、親切からの行為なのですからお怒りはお門違いというものです。 それについては跡部さんもよくおわかりのようで、すぐにしかめっ面を引っ込めて了解の旨を穏便に伝えました。 そのまま跡部さんの手は画像フォルダの操作に移り、一枚の写真をさん宛てのメールに張り付けて送信しました。
今朝、うっすらと雪が積もりました。 それは勿論跡部さんの暮らすお屋敷にも降りつもり、大きな庭を白く染めていました。 送ったのは、その庭の様子を写した一枚です。 窓から見える白銀の世界に、彼にしては珍しく気まぐれを起こして撮ったのでした。 送信直後、しまった俺(決め顔)の写真を送るべきだったと悔いた跡部さんでしたが、受け取る立場に立って考えるとむしろセーフだったと思います。 返信は思ったよりずっと早いものでした。
文面から彼女の笑顔が見えるかのようです。 はじめての画像付きが嬉しかったにしても、ずいぶんとお気に召したご様子。 跡部さんとしてはなんの気なしに送った写真ですが、メイドさん達の手によるものでしょうか、大小の雪だるまがいくつも並んだ微笑ましい風景が、さんをことのほか喜ばせました。 彼女が喜んで、跡部さんが喜ばないわけはなく、顔を紅潮させながら、雪だるまの群れを丁重に保護せよ!と夜着のまま庭園に躍り出るなど屋敷内を騒がせたそうです。 さんの反応によほど気を良くしたのでしょう。 けれど、雪を大量に取り寄せてパルテノン神殿やタージマハールを雪像で再現しようとするのはいささかやり過ぎだと思います。それはもはや雪まつり会場です。 何事もほどほどですよ、跡部さん。 |