++ 跡部先輩のメール講座 応用編 ++ どれほど素質に恵まれぬ人間でも、毎日向き合っていればそれなりの成長がみられるもの。 相手を困惑させる過剰な漢字変換の病も落ち着き、さんの携帯操作もようやく人並み……いえ、下の中程度には上達しました。 相変わらず文を打つスピードは亀のごとし、文面は役所の文書並の淡白さでありましたが、跡部さんは普段どこに隠し持っているのだか知れない心の広さをでそれら全てを受け入れていました。 とはいっても彼もあまり気の長い性質ではありませんので、なかなか返ってこない返信に苛つくことは度々あったようですが、そこは懸命な彼女に免じて柄にもなく我慢、辛抱、忍耐です。 これまでの失敗の数々(携帯に限らず)で、焦りは禁物という基本中の基本をようやっと学んだのかも知れません。 そのような日々を繰り返し、もはや祖父母に携帯を教える根気強い孫の境地に近付きつつある跡部さんは、今日もさんにメールを送ります。 会長職である跡部さん、本日予定されていた生徒会の予算会議が急に延期となったのでそのご連絡です。 ちなみに特に連絡事項がない日も無理矢理用事をつくってはさんに何かしら送りつけているようです。 その健気さをもっと別の形で発揮すれば、おのずと道が開けるような気もするのですが。 ピロリピロリ♪ 早速返事が届きました。 当然一も二もなく跡部さんは携帯を開きます。
意味がわかりません。 画面にぽつんと浮かび上がる、思い切り喧嘩腰なこの顔文字の腹立たしさといったらどうでしょう。 跡部さんは一瞬面食らったあと、携帯を叩き折りたい衝動に駈られましたが、ほんの少しだけ残っていた理性にかじりついて己を律しました。
嫌な名前が出てきました。 跡部さんのはらわたがじんわり熱くなったのは、多分顔文字の苛立ちのせいだけではないでしょう。 自分の知らぬところでさん(と携帯)に接触する抜け目のなさが許せないのです。 跡部さんはあのくそ眼鏡あとで覚えてろよと部活への情熱をごうごうと燃やしました。
忍足イィ―――!! 立ち上がった跡部さんは放課後を待たず、そのまま忍足さんの胸倉を掴みに行きました。 まだ選手として引退するには少しばかり早いです、どうか利き腕は勘弁してあげてくださいね、跡部さん。 |