++ 跡部先輩のメール講座 入門編 ++ 跡部さんが携帯を贈って(押し付けて)から数日後。 今時の娘さんにしてはさんはデジタル機器とあまり相性が宜しくないようで、あまり上達の気配が見えません。 それでも跡部さんによる日々の特訓の甲斐もあり、どうにかメールの送信が(当初よりは)スムーズになってきました。 そろそろ一段階上げてもいい頃です。 彼女からのメールはいつもひらがなで読みにくいので、ついに跡部さんは変換機能をさんに伝授しました。 こんなに小さいのに賢いですね!とさん、いたく感心。 確かにお前よりはずっと賢いだろうな、なんて酷いことを言っていた跡部さんですが、いつもより顔が緩んでいました。 さて、そのメールが届いたのはその日の夜のことです。 ピロリピロリ♪ 読んでいた小難しげな本を放り投げた跡部さんは、音がなった瞬間にテーブルの上の携帯を掴み取りました。 そんなに慌てなくても、携帯電話は逃げませんよ。 いつも偉そうにどっしり構えて、電話なんざ出る前に切れても別にかまわねぇと思っている跡部さんが、こんな風に敏感に反応するのには理由がありました。 実はさんから着信だけ他の方と音が違うんです。 あの着信音は跡部さんにとって一番嬉しい音なんですね。 跡部さんの携帯が知らせてくれた通り、メールの送り主はやはりさんでした。 あんなやり取りがあった後です。きっと覚えたての変換機能を使った、レベルの高いメールが届くはず・・・ だったんですが
読めません。 確かに跡部さんは変換機能を教えました。ひらがなだらけでは非常に読みにくいからです。 しかし、これは変換というか文字化けではないでしょうか。 読みにくいどころの話ではありません。 しばし黙りこくった後、跡部さんは目にも留まらぬ速さでメールを送信しました。
5分後
15分後
跡部さんはガクリと肩を落としたままベッドに座り込んでしまいました。 「解読ってお前・・・あれをかよ」 溜息をつきながら見つめる画面の先は、もちろんさきほどの暗号文です。 見ているだけで頭痛がしそうで、跡部さんは思わず頭を抱えてしまいました。 しかし、携帯の伝達手段はひとつだけではありません。 本来携帯はメールではなく通話がメインで発達した文明の利器です。 もう一度同じ文を打つのが無理ならば、直接彼女の口からその用件の内容を聞けばいいだけの話。 賢明な跡部さんもすぐにそれに気付いて、さんに電話をかけるべくボタンを押しかけたのですが。 ―――― いちじかん かけて うったんデス 「・・・・・・ちくしょう、なんなんだよ」 結局跡部さんは通話の画面を消して、再びあの難解なメールに向き合いました。 確かに嫌がらせに近い判読不明文ですが、それでも長い時間かけて一生懸命打ったメールには違いありません。 さんの努力をあっさり無駄にするなんてこと、跡部さんにはどうしても出来なかったんですね。 頑張って、跡部さん。 今夜は徹夜になるかも知れませんが、解読に成功すればきっとさんが輝かんばかりの笑顔で喜んでくれますよ。 ちなみに正解(反転)→明日の放課後は委員会があるので部活に行くのが少し遅れます |