「おい!朗報だ!」

 蜀で最も暑そうな男・馬超は、勢い良く扉を蹴破った。
 彼の頭にはいつもの被り物は無い。グシャグシャと乱れた頭髪もそのままのいでたちである。
 この異常なまでの暑さには、流石の錦馬超も兜を脱いだらしい(けっこう上手い)(山田くーん、座布団一枚) 

 「なんですか馬超殿…この暑いなか」

 いつもはキリリと引き締まった顔立ちで「子龍様だわ、ステキ」なんて囁かれている趙雲将軍だが、今はすっかり夏の暑さに負けっぱなしのダレダレ面である。
  
 「その暑さ、どうやらなんとかなりそうだぞ?」

 得意気にそう言った馬超に、趙雲の表情は明るくなった。

 「それはまことですか!?」
 「ああ。さっき兵士達の噂話を小耳に挟んだんだがな…・どうも月英殿が、体温を下げる装置を発明したらしい」
 「…月英殿の装置、ですか……
月英殿の」 

 趙雲の士気が目に見えて下がった。 
 便利な発明はありがたいが、製作者が問題である。
   
 「いや…まぁ逃げ腰になる気持ちはわかるが、今回は大丈夫だ。すでに試した奴がいるらしくてな…本当に温度が下がったそうだぞ」  
 「ああそれならば安心ですね。では是非に試してみましょう」

 真っ先に被験者となったその誰かの勇気を讃えつつ、二人は月英のもとに向かった。  

  


 「おや?どこかお出かけになってるようですね」

 あちこちに木牛やら連弩やらが雑然と放置されている発明室に到着した二人だが、主である月英の姿はない。

 「ん…あれじゃないか?見たことのない装置だ」
 「あ、そうですね。新しいですし」

 部屋の奥に置かれた見慣れない機械の方へと2人は近付いたが。

 「…これおかしくないですか?」
 「……冷却装置には、到底見えないな」

 沢山のレバーやボタン。
 それぞれに(爆)や(発射)など、やたら物騒な文字が書かれている。
 ものすごく、痛そうだ。
 平和利用のニオイがまったくしない。

 「…馬超殿どういうことですか」
 「いや、だって、本当に聞いたんだって!『新しいあの機械で、アイツすっかり体が冷たくなってたよ…』って噂してたんだって!!」
 
「…!!馬鹿!!それ冷えたんじゃなくて
 「お2人とも、いらしてたんですか」
 
「「!!!!」」

 いつ戻ってきたのか、彼らの背後にはウワサの装置の生みの親。
  
 「ちょうど良かった、それの改良版の作動確認したかったんですよね〜」
   
 そう微笑む月英を前に、2人の背筋はお望みどおり冷たくなった。
 さようなら…趙雲、馬超。