あまりの気温の高さに鍛錬の途中で音を上げ、呂蒙と甘寧は木陰でへたばっていた。

 「今年は本当に暑いな…」
 「ああ…マジで暑い」

 いつもは重い鎧を身に付けている呂蒙だが、さすがに辛いのか、ここ最近は軽装である。
 常にほぼ半裸で過ごしている甘寧は、もう脱ぐものがない。
 普段着ている袖のない羽織を脱いだところで、さしたる変化は望めないだろう。
 寒さには強いが暑さには弱いらしい。

 「暑いですよね、本当に」

 犬のように舌を出している甘寧の隣には、とても同じ太陽の下にいるとは思えない
 涼しげなたたずまいの陸遜が立っている。
 暑いと言う割りに、汗一つかいていない。

 「お前でも、暑いとか感じんのか?」
 「当たり前じゃないですか。人間なんですから」

 陸遜はそう言ったが、彼の場合「人間なんですから」という台詞から信じ難い。

 「…そんならよ、陸遜」

 甘寧は半分諦めたような顔で、まっすぐ前方を指差した。
  
 「そこの巨大な焚き火みたいなの消してくれねーかな」

 その先には、キャンプファイヤー並の勢いで燃えさかっている炎の塊があった。
 見てるだけで熱い。
 というか、本当にこのへんの気温が確実に上がっている。
 額から噴出す汗の原因の7割はこの炎のおかげと言って良い。
 だが、陸遜は首を振った。
  
 「駄目ですよ。これは只の火遊びじゃなくて、護摩を焚いてるんですから」
  
 そして2人へ振り向き、晴れやかに微笑んだ。

 「いわば聖なる火です。魔よけになるんですよ?」
  

  

 「………だとよ」
 「………そうか」

 ときおり吹き付ける生ぬるい風を受け、そのありがたい聖火は一層激しく燃え上がる。 

 静かに頬を伝ってゆく汗を感じながら

 『お前がここにいる時点で、魔よけの役割を果たしてないがな…』

 と、心から思ってしまう2人だった。