悩 め る 子 羊 の た め に 






 完全に、いまベルゼブブの心のセンターポジションはとある単語に奪われていた。揺るぎない存在感。寝ても覚めても頭から離れない。
 心とらわれるあまり、正月でもないのに筆をとって半紙に墨でしたためてしまったほどである。
 八枚ほど書いた中から一枚を無造作に選び、墨が乾くのも待たずに壁に貼ってみる。なかなか上手く書けた。
 腕を組みながら、それをしみじみと眺める。
 ほとんど無意識に、口に出して読みあげていた。

「ぼにゅう」


 ぼにゅう【母乳】母の乳。母親が子に与える栄養源。


 母乳。強制送還で追いだされる直前、佐隈が口走った一言である。
 あれから彼女から喚び出しはない。会得していなかったはずの高速詠唱を瞬間的にやってのけるほどだ、相当な失言だったのだろう。顔を合わせにくいと感じているのかも知れない。
 不安を感じないと言えば嘘になる。が、会え喚べ話をさせろとわめきたてる気はどうにも起こらなかった。
 いまこの状態で召喚されたとする。
 佐隈がなかったことにしたくても、はたまたもうすっかり忘れていたとしても、とにかく彼女がどのような出方をしようとも、ベルゼブブの口からは全ての用件を押しのけて、いの一番に飛び出す自信がある。
 ところでさくまさん、例の母乳の件ですが、と。
 その瞬間、またしてもベルゼブブは高速詠唱を身を持って体感することになるだろう。一応お付き合いしている身の上で、二連続の強制送還は心身共につらい。暴力的にではなく普通に帰りたい。
 けれど、黙ってこのまま風化させるわけにはいかなかった。あれから数日経過しているが、今なおあの単語は思考の最前列である。
 たとえ一時の気の迷いで発したものであっても、彼女がベルゼブブの為に振り絞った一言だ。重みがあるし、何より愛を感じる。

 母乳。
 噛みしめれば噛みしめるほどうまみが出る発言である。あなたの子を宿してもいいのよ、という遠回しな睦言ではないか。佐隈はそんなことまで考えてなかったっす、と否定するかも知れないが、ベルゼブブは雄の身勝手さで前向きに受け止めていた。
 子を成してもいいとまで言われたなら、やるべき事はひとつだ。子をつくるに不可欠な、その行為をぜひ。ぜひに。
 とはいえベルゼブブは過去一度、挑戦して夢破れている。破かなければならないのは夢ではなくて膜、いや失礼。

 閨の中、スラックスから飛び出したもう一人のベルゼブブを見て、佐隈は即死しそうな形相で無理と嘆いた。人間誰でも未知の体験は恐ろしかろうが、彼女のあの怯えよう、なかなか払拭が難しいように思える。根本から変える必要があるかも知れない。
 ベルゼブブは手元の携帯を開き、アドレスをめくった。ひどく不快そうに眉根を寄せた後、自分を奮い立たせるように壁に貼った書をもう一度眺めて、通話のボタンを押した。




「今忙しいんやけど」
「きみに私の訪問を断るような上等な用事などあるまい」
 お邪魔しますよ、とベルゼブブは半開きのドアを悪質セールスにも似た強引さでこじ開ける。
「なんやねんいきなり来よってからに、うちコンビニちゃうぞ、24時間大歓迎思ったら大きな間違いやからな」
 アザゼルが文句をたれている間に勝手に上がり込んだベルゼブブは廊下ですれ違ったアザゼル母に礼儀正しく挨拶を済ませ、ちゃっかり茶まで淹れてもらい、我が物顔でアザゼルの部屋に腰をおろしていた。
「どこが忙しいんだねどこが。まるで暇そうだし相変わらず部屋は犬小屋のように狭い」
「狭いは関係あらへんやろ! あれや、これからちょいと客来るかもしれへんのや」
 ちらちらとアザゼルが目をやる先には、受信を知らせて点滅する携帯。腰を振るのが仕事のような悪魔だ、どうせまた交尾相手の女だろう。
「来るかもわからないような客より、今こうしてやって来た私を尊重して頂きたいものだね」
「何様やねんなホンマにもう……」
 諦めたように肩をすくめたアザゼルは、届いたメールに何事か返信して、携帯を閉じた。ビンのコーラを片手で開けて、お行儀悪くかっくらう。
「そんでなんなん、べーやんが頼みごとって」
 それまでずいぶんと高慢ちきに振舞っていたベルゼブブの表情から、余裕の二文字が逃げ出した。気品良く背筋をぴんと伸ばしてはいるが、目が泳ぎに泳いでいる。
 ああ、うう、と低い声で何度も呻き、天井を仰ぎ、呼吸を整え、「実は」と話を切りだすまでに、時間にして約10分を要した。アザゼルはその間、携帯でカタカタとメールをしたり爪を切ったりしていた。
 意を決したか、ようやくベルゼブブが喉を鳴らして声を絞り出す。
「だ、男性器、を小さくしてもらいたい」
 アザゼルは飲んでいたコーラを景気良く噴いた。悪魔の口から旅立った炭酸飲料の王様は、もう一人の悪魔の顔面に受け止められた。
「イテー!目が痛エェ! てっめえ何すんだ犬畜生があ! 」
「そら噴くやろ! 普通噴くやろ! 急に何言い出すかと思ったら血迷ったことぬかしよって!」
「血迷ってなどいない! 真剣に相談しているのになんだその態度は!」
「真剣なら尚更怖いわボケ! なんで無理矢理上がり込まれた上、パイプカット強要されなあかんのじゃ!」
「パッ……ふざけんな人の話もまともに聞けねーのかチンカス野郎! 去勢なんかしやがったらミキサーにかけて糞尿と一緒に畑の肥料にしてやんぞアア?!」
「うるっさいわ! 何時やと思ってんねん!! 喧嘩なら外でしとき!!」
 
 部屋全体が揺れるほどの力でドアが叩かれ、二匹の悪魔はヒッと身をすくませて黙った。
 アザゼルは口から、ベルゼブブは顔から、黒い液体がだらだらと垂れている。今になって冷静さをわずか取り戻した両者は、それぞれ大人しく拭い始めた。
「………それで君の職能で、サイズ調整は可能なんですか」
 さっきの威勢はどこへやら。急にぼそぼそと細くなった声につられてか、アザゼルの声のトーンも控え目になる。
「まあできるっちゃできるけど……なんでやねん。男の象徴やないか。でっかくせえってんなら聞く話やけど、縮めたいなんてお宝捨てに行くみたいなもんやで」
 ワシなら願い下げや、と淫奔の悪魔は大きく腕を左右に投げ出した。
 ベルゼブブはその青い瞳を静かに伏せた。彼のような性を糧とする悪魔ではないにしろ、ベルゼブブはまぎれもなく男である。ただの生殖器というだけではなく自尊心や意地、優越など自分を支える思いがいくつも宿っているし、出来る事なら余計な手をかけずに素の自分のままでありたい。
 しかし。
「このままでは相手の女性に、負担をかけてしまいますので……」
 アザゼルはつり上がった細目をまんまるに開いたかと思えば、途端いやらしい目つき、いわゆる一年を通してよく見られるアザゼル名物・下衆の勘繰り顔に戻った。まさに水を得た魚。下ネタに食いつく淫奔。
「なんや、そういうことかいな。けどでかくて悦ぶオンナはいても、嫌がるオンナはおらへんやろ」
 と、そこまで言って、「あ」とポンと手を打つ。
「処女か」
 尋ねるように目だけ向けてきたアザゼルに、珍しくベルゼブブは素直に頷いてみせた。
「ええ、更に人間となると無理はできませんから」
 ほうほうなるほどな、それなら尚更、初っ端からアルマゲドンみたいな激しいプレイはいかんで、初めちょろちょろ中パッパや、赤子泣いてもナニ抜くなって昔の人はいうたもんやで。
 うんうん頷きながら一方的に喋り倒した後、「えっ」とアザゼルは固まった。

にんげん?

 頭のてっぺんから不自然な汗が流れ出す。
 あいにくアザゼルには、処女で人間でベルゼブブを知っている存在など、一人しか浮かばない。

「ま、まさか、べーやん、さ、さ、ささ、さく……」
「さくまさんですけど」
 スパッとよく切れるラップフィルムのような潔さでベルゼブブは答えた。へらへらと笑っていたアザゼルの表情が一気に凍る。
「や、いや、あかんでべーやん、いくらなんでも契約者相手に強姦まがいの、」
 するとベルゼブブはムッとしたように垂れ目を持ちあげ、安いちゃぶ台に拳を振りおろした。ちゃぶ台真っ二つ。
「このベルゼブブを愚弄する気か! 真剣にお付き合いしている相手にそのような真似できるわけがない! 口を慎みたまえ!」
 アザゼルの顔は凍りつくを通り越して、命が途絶えた死の大地になった。
「え……付き合ってたん……? まじで……?」
「ええ」
「いつ? いつから? 最近のはなし?」
「半年前からです」

ウソー! 

 アザゼルの天をも貫く大絶叫が魔界に響いた。当然アザゼルのささやかな住まいにも響き渡ったので、部屋のドアには再び重いオカンの一撃がもたらされた。
 それでもアザゼルは膝を抱えて駄々っ子のように泣き事を繰り返す。
「なんで、なんでなん、なんで教えてくれへんの……君らどんだけ秘密主義やねんな……」
 いえ特に隠していたわけでは、と超低空飛行のアザゼルをゴミを見るごとく冷静にベルゼブブは見下ろしていた。
「単にアザゼル君が気付かなかっただけでは?」
「それかて普通言うやろ。ワシら友達やろ?」
 詰め寄られたベルゼブブは気味悪そうに一歩引きながら首を傾げた。
「トモ……ダチ……?」
「ウオーイ! なんで急に言葉通じんようになってんねん!」
 ついにべそべそ情けなくも涙ぐみ始めた悪魔を前にして、ベルゼブブはわずか嘆息した。今更であるが何か頼もうという相手に対する態度ではない。
「まあ、伝えなかったことはお詫びしますよ。のけ者にするつもりはありませんでした」
 差し出されたティッシュを箱ごとむしり取り、アザゼルは力いっぱい鼻をかんだ。下品ですね、という友人の形ばかりの非難は右から左に抜けるように出来ている。
「……合点がいったわ。あの筋金入りのおぼこが相手じゃ簡単にはいかんやろ」
 その格好のままやろうとしたんか? とアザゼルが問う。魔界の姿を指していることを察したベルゼブブは、若干ばつが悪そうに頷く。
「そら腰抜かすわなあ」 
 経験もない知識も薄い。好奇心より遥かに恐怖心が強い。
 そんな相手に、気遣いの足りない事だと今でこそベルゼブブは感じているけれど、その時は目の前の佐隈に触れる事で精いっぱいだった。年上なんて言葉ではくくれないほど生を長く歩んでいても、すべて巧みに、意のままに操れるわけではない。
「せめて人型になるべきでした」
「せやけど人型になっても、息子の大きさはおんなじやろ」
 確かにそうだ。人間界では存在しえない悪魔たる皮膚が、人を模した肌色に変わるだけで、大きさまで萎むことはない。
「あの国の男どもはナリも小さい分、そっちもプチサイズやからなあ」
 余計でかくみえんのやろ、とシモ方面のプロフェッショナルは云う。神妙な顔をしたベルゼブブが椅子から腰を浮かせた。
「でしたらやはり、」
「待ちいや。でかいでかい言うても、何も馬のブツ突っ込もうっていう話でもないんやし、もうちょっと根性出したらどうなん、自分ら二人とも」
 アザゼルは働くのが嫌いである。基本的に無報酬で人の為に労力を割きたくないと思っている。しかも下手を打って失敗しようものなら笑って済まなされないエリート悪魔相手ともなれば、いよいよ職能を行使したくない。どうせきっと、一回り小さくしてくれだとか、2センチ縮めろだとか、実に繊細で厄介な注文をつけられるに決まっているのだ。
 アザゼルの胸の内も知らず、ベルゼブブは表情を曇らせたまま、でも、しかし、と後ろ向きな言葉を吐いている。他人の愚痴に見せかけたノロケと子供の写真付き年賀状ほどどうでもいいものはない。
「だいたいアレや。一回ためした程度で駄目もクソもあるかい。こんにゃくにキュウリ通すんとはちゃうねんぞ。初めっからツルッとうまくいくわけないやろ。処女と童貞は身分わきまえてそれ相応に苦労せえや」
 誰が童貞だ! というどこか必死な蠅の羽は聞こえなかったものとして。
 アザゼルも、もうわかっている。なぜプライドの高い友人がわざわざ借りをつくるような真似をしているのか。自分の元にこんな情けない相談を持ちこんだのか。
 ベルゼブブは嫌われたくないのだ。二度と交わりたくないと佐隈に拒絶されるのが怖いのだ。
 部屋の片隅でアザゼルの携帯が鳴る。未だぐずぐずと形にならない言葉の断片を垂れ流しているベルゼブブを横目に携帯を開き、軽やかな音を立ててすぐ閉じた。盛大な溜め息。
「はーかなわんな、性教育なら保健室いけや」
 アザゼルはいかにも面倒そうに頭をかいた。
「アレあのさくまんこは頑なやで、男とよう付き合ったこともないせいでガードもアホみたいに固い。薄情やし、おべっかも使えん。好かん奴には触られただけでド不細工な顔で威嚇しよる」
 あげく容赦ないんや。
「ワシがちょっと軽いいたずら心で押し倒しかけた時なんて、その日仕事にならん位ミンチにされてんで?」

 バキ。
 耳慣れない音にアザゼルが顔を上げると、目の前の貴族がティーカップを握りつぶし、物騒な気配を四方に炸裂させていた。

あっちょっやめて! 頼むからやめたって! ここで蠅になるんは堪忍して下さい! 家壊れてまうから! うち賃貸やから!

 結局懇願されたベルゼブブが最終形態になることはなく、家は倒壊の危機を免れたが、アザゼル自体はモザイクが必要な程度には倒壊した。
 並べた言い訳の内「付き合ってるとか知らんかってん」はいいとして「ええやん減るもんやないし」がベルゼブブの人並み以上の独占欲に火を注いだと思われる。彼女を君の目に触れさせるのも我慢ならないから目を潰していいかねと笑いながら囁く低い声にアザゼルは失禁した。

「悪かったてほんま……あ、さんべんまわってインポン!って鳴けばええ?」
「不愉快なので結構」
 アザゼルの血で染まった手を、ベルゼブブはさも汚らわしいといわんばかりにごしごしと布で拭き落とす。それワシんちのカーテンなんやけど……という悪魔の声はか細すぎて届かなかった。
「君にさくまさんとの交際を告げなかったのは失敗でしたね。次に彼女に手を出す時は、君のそのちっぽけな命が散り散りになる時ですのでそのつもりで」
「そんな殺生な!ワシ、セクハラせな死んでしまうわ」
「ならば死ね」
「さくも乱暴や思うたけどべーやんもたいがいやな……」
 リモコンでも探すように、もがれた片角を求めてアザゼルはふらふらと部屋を彷徨う。それは血にまみれながら、テレビの下に隠れていた。
「ま、むかつくことに前と違おてグリモア使いこなしよるからなさくの奴も。さっき言うたように、セクハラしようもんならべーやんのお仕置きを待たずして八つ裂きや」
 手荒に縫合しながら、憮然と腕を組んでいる友人を振りかえる。
「べーやんはそれ食らったことないんやろ? ケツ触っただけで内臓破裂させる女が、股間のスカッドミサイル見せられても突っ込まれそうになっても罰が下らん、別れるとも言わんのなら、それなりに覚悟してるっちゅう意思のあらわれちゃうんか」
 ベルゼブブは虚を突かれたように息をひとつ呑んで、座ったままの姿勢を崩さずに黙り込んだ。
 佐隈は怖いと泣いた。無理と拒んだ。黄金水にしてもふざけんなと憤っていた。
 でも、もうやめましょうとは言わなかった。関係を終わらせるような言動は彼女にはひとつも見られなかった。何度受け入れられないと首を振っても、最後には一欠片譲ってくれたり、思いがけない歩み寄りを示した。
 佐隈はいつもバッサリと根元から切ってしまうのではなく、「未来」に繋がる枝先を残してくれるのだ。
 だからこそ、今回は自分が譲歩しようとベルゼブブは腹を決めてきたのだが―――

「それに言うとくけど、うまく微調整できる保証あらへんよ。下手すりゃアレがマッチ棒みたいな、」
「わかった遠慮しよう」
「早っ」
「いくらなんでもマッチ棒は困るのでね」
 すっくと襟を整えながらベルゼブブは立ち上がった。どことなく艶に乏しかった翅も今は不思議と凛と伸びている。
「不安を取り除くのが最優先とはいえ、あとあと処女でなくなった彼女を悦ばせるのも私の大事な役割ですから」
 なぜか勝ち誇ったようなベルゼブブの姿に、アザゼルの口から自然と舌打ちがもれる。
「ケッ。せいぜい頑張るこっちゃな。へたくそ同士があれこれやって、どうしてもアカンかったら、そん時はアザゼルさんとこ来いや」
 口の端をなまめかしく上げてアザゼルは笑う。
「このワシのテクで立派にさくちゃんを開通させ」
 ようやく9割再生を果たしたアザゼルの体は上下に裂けた。
 本日二度目の赤い視界。割れた窓から蠅が一匹、意気揚々と羽ばたいていくのが見える。
 なんで玄関から普通に帰らへんのよ。
 なんとか言うことを聞くようになった腕を緩慢に動かして、アザゼルは体を起こした。零れたコーラはそのまままだし、ちゃぶ台は割れた。カーテンも床も血まみれで、ティーカップは粉々の惨状。

 ああアホくさ。

 アザゼルは血の海に沈んだ携帯を拾い上げた。



【一通目】
仕事とは関係なくて申し訳ないんですけど。いまお時間あります? 相談があって


【二通目】
お客さんですか。それじゃあ喚び出せませんね。メールでもいいです? でも絶対絶対秘密でお願いします。他言無用で。もしバラしたら粒子単位で千切りにしますから。


【三通目】
ちょっと言いにくいんですが。アザゼルさんの能力で、あの、股というか。おんなのひとの、あそこって、ゴムみたく伸び縮みさせることとか可能ですか?? 出来たら、16、7センチでもラクラクいけるくらいに


 なんやねんこいつら。勝手にやってろや。淫奔の悪魔なんやと思ってますのん? 便利屋さんかなんかだと思ってますのん?

『ヤリ過ぎて発火したらええねんクソが』

 腹立ちまぎれに三通目の返信を送る。どうせ何を送ったところで後回しになるだろう。今頃佐隈の携帯には、窓ガラス突き破りながら飛び出していった蠅のメールなり電話なりがどっさり届いているのだろうから。
 床の拭き掃除すらする気にならず、オカンの激昂覚悟でアザゼルはとっとと寝床につくことにしたが、なんの手違いか先ほどのメールの宛先が【アクタベ】になっていたことを彼はまだ知らなかった。

 数分後、アザゼル本日三度目の四肢断裂ショーはじまりはじまり。