■□■水天の星 暁天の炎18■□■



 


「――っ」
 肌に触れた指先は、心臓の上を撫でてわずかに固くなった乳首に触れる。何度も押しつぶされて、腰が震えた。
「ルルーシュ」
 熱っぽい囁きが耳をくすぐる。
「何か言って」
 歯を食いしばってルルーシュは首を横に振る。感じていても、スザクの望み通りに表すなんて冗談じゃない。
 みぞおちから脇を撫で上げられて背筋に鳥肌が立つ。
「……気持ちいい?」
「……」
 下唇の皮が破れそうなほど噛みしめる。答えられるわけがない。一言でも漏らせば耐えてきた緊張が一気に崩れそうになるからだ。
性感帯への刺激に耐えているルルーシュの唇に、そっとスザクのそれが触れてきた。
 宥めるように唇をついばんで吸い上げる。さっきまでの荒々しいキスとは違い、こちらの呼吸に合わせる感触に促され、わずかに開いた咥内にスザクの舌が侵入してきた。
 別人のような繊細さでスザクの舌はルルーシュの咥内を丹念に攻め立てる。同時に胸をいじられる快感に身体が痙攣しそうになる。
 胸をいじっていたスザクの手が下腹を這い、熱く膨張した性器に触れた。
「ふ――あっ」
 無遠慮に侵入してきた指が固くなった竿を上下する。たまらず腰を浮かせたルルーシュにまたスザクが問うてくる。
「ね、気持ちいい?」
 しつこく反応をうかがってくるスザクをルルーシュは生理的な涙の浮かんだ目でキッと睨みつける。
「…………鍵、かかって、ないだろ……ッ」
 息も絶え絶えにようやくそれだけ呟くと、スザクはぽかんと目を丸くする。ちらっと教室のドアに視線を流し、ロックしてないことを思い出したようだった。
「そっか……そうだったね」
 てっきり鍵をかけにいくのかと思ったルルーシュだったが、スザクは立ち上がる気配もなくルルーシュの首筋に唇を寄せてきた。
「じゃあ我慢しないといけないね」
「なっ……んっ!」
 舌に首筋を舐め上げられて行為が再開されたのを知る。
「おま……何、考えて……」
 焦りが一気に頭を冷やす。身をよじって逃げようにも身体を抑え込まれていて逃げられない。それどころかくぐもった声でスザクは忠告してきた。
「あんまり大きな声出すと、廊下に響いて誰か来ちゃうかもしれないよ?」
「脅す、つもりか……!」
 まさか、と鎖骨の出っ張りに吸いつきながらスザクは言った。
「聞かれたら困るのは君の方だろ?」
 お前だって困るだろうが! そう言ってやりたいのに、開き直った様子の今のスザクには何を言っても無駄な気がする。
指と舌が肌の上を滑り、特に敏感な場所を攻め立てた。そのたびにルルーシュの身体は悶え、身も世もなく喘いでしまいそうになる。
「我慢強いなぁ……」
 必死で耐えるルルーシュに呆れたのか感心したのかわからない口調でスザクは顔をあげた。愛撫の手がいったんやんで、ルルーシュは大きく息を吐き出した。
 誰も好き好んで我慢大会をしてるわけじゃない。けれどこんな痴態を他の誰かに晒すなんて冗談じゃないから、必死で耐えるしかないんじゃないか。
 内心で悪態をつきながら荒い呼吸を繰り返すルルーシュの胸を茶色の髪がくすぐった。快感に耐えるルルーシュを試すように胸に顔を伏せたスザクが赤く尖った先端を吸い上げた。
「ふぁっ!」
 チュッと音をたてて乳首を吸われ、たまらず小さな悲鳴をあげた。自分でも驚くくらい鼻から抜けるような高い声が喉から漏れた。
「あ……やめろ、ダメだ、あ、あっ」
 一度声を上げてしまうと途端に抑えがきかくなって、呻きににた喘ぎ声をこらえられなくなってしまった。やめてくれと懇願しても舌の動きは止まらない。舐めて転がされ、ちょっと甘噛みされただけで達しそうになる。
 やめろとダメだをうわごとのように繰り返すルルーシュに熱のこもった声が囁く。
「ほんとにやめてもいいの……?」
 スザクが与えてくる快感に惑うルルーシュは尋ねられ、反射的に首を横に振ってしまった。やめてほしい、でもやめてほしくない。
天秤が理性よりも衝動に傾いて行くのが自分でもわかる。それでも自分からねだる言葉だけは必死でこらえる。
 悔しいのか切ないのか、もう自分で自分の感情がわからなくなる。涙で滲んだ視界でただ首を横にふるルルーシュを下からスザクが覗きこんでくる。緑の瞳が柔らかく緩む。
「!」
 久々にスザクが笑った顔を見たルルーシュがはっと息を飲むと、ほんのり頬を染めてスザクが言った。
「ルルーシュ、かわいい」
「!!」
 突然何を言い出すんだこいつは!
 男に向かってかわいいとか、恥ずかしいことをさらりと言ってのけるスザクの神経に眩暈がしそうだった。
 我知らず目元を赤く染めてルルーシュは顔を背ける。けれどスザクの視線のほうが下にあるため、じっと見られているのがわかる。
わめき散らしたくなる衝動をぐっと抑え込んでルルーシュはきつく目を瞑った。
 乳首をいじるのをやめて、スザクがルルーシュの耳元でまた囁いた。
「かわいいね」
「やめろ……っ」
「耳まで真っ赤だよ、ルルーシュ」
 言うなり耳朶を甘く噛まれた。
「っ!」
 濡れた音がダイレクトに鼓膜に響く。押しのけようにも身体に力が入らない。
「こんなとこでも感じるんだ?」
 耳だって性感帯のひとつだ。それを承知で追い詰めた獲物を嬲るような執拗さでスザクの舌が耳を攻める。
「……早くしないと授業が終わっちゃうね」
甘い言葉を呟いたその口で、ぎょっとするようなことをスザクは口にする。触れられることばかりに注意がいって、時間のことまでは気にしていなかった。
使用されてない今はいい。だけど、もしもどこかのクラスが次の授業でここを使うのだとしたら……それに、運よく使わなくてもこの部屋に鍵はかかっていないのだ。休み時間に誰かが入ってくる可能性も捨てきれない。
一気に青ざめたルルーシュに、スザクはにっこり笑って見せる。無邪気さを装っていても言動がすべてを裏切っている。
「スザクお前……!」
「君だって困るだろ? ちょっとは協力的になってくれてもいいんじゃないかな?」
 返答を待たずにスザクはルルーシュの足首を掴んで持ちあげる。大きく足を開かされ、無防備に晒された股間に視線を落とす。
「僕だってこんな君を誰かに見せたいわけじゃないんだ」
「やめろ!」
 続けざまのねちこい愛撫に反応して反り返った性器を凝視され、たまらずルルーシュはわめいた。羞恥で気が遠くなりそうだったが、ここで意識を失ったら何をされるかわからない。
「血管浮き出てるよ」
「見るな!」
 無遠慮な観察に気が狂いそうになる。カーテンで閉め切られているとはいえ教室の中は充分に明るい。その中で恥部を晒される屈辱に思考はショート寸前だった。しかもスザクは空気を読まない。
「先っぽヒクヒクしてる」
「……」
「零れてきたね……」
(もう勘弁してくれ…………)
 屈辱と羞恥で死にたくなる。意志に反して腰がうずくのも腹立たしい。どうにもならない自分の身体の欲求にふぅっと息を吹きつけられて、びくんと背中が跳ね上がった瞬間軽く達してしまった。
「あ……」
 目を開けると、目の前のスザクの黒い制服に白濁が散っていた。茫然としたルルーシュ同様に動きを止めたスザクは飛び散った体液が布に染み込む前に指ですくう。ルルーシュが見ている前でそれを自分の口に運んだ。
「苦……」
「舐めるな馬鹿がッ!」
 思わず怒鳴りつけたがスザクが人差し指を唇にたてたことでここが教室なのを思い出す。
あまり大声をたてて偶然廊下を通りかかった誰かに聞かれてもまずいから、ルルーシュはグッと罵倒の言葉を飲み込んだ。
 覚えてろよと歯ぎしりするルルーシュを無視してスザクは行為を再開する。達したばかりの性器をきゅっと握り込まれて一気に意識がそちらにいった。
ルルーシュの喉仏に軽く吸いついてから胸、みぞおち、へそとどんどん舌を下方へ滑らせていく。
「う、んっ、ん!」
 無理やり開かされた足に体重をかけられて折りたたまれるような格好で愛撫に耐える。下腹をさまよったスザクの口が、再び息づいてきた熱の先端を含んだ。
「ふぁっ!」
 ぬるりとした生温かい舌が熱に絡みつく。苦いと言っておきながら、スザクは躊躇なく舌と喉を使ってルルーシュを攻め立てていく。淫靡に湿った音が二人だけしかいない教室に響く。
 いつの間にか羞恥よりも快楽を追うことにルルーシュの意識も切り替わる。腰を突き出しそうになる衝動に耐えながらはやく、とねだる。
「早くきてくれ……!」
 スザクとしかセックスをしたことのないルルーシュにとって、前だけを攻められるのは苦しくてたまらない。うずく後ろをせびるのは恥ずかしかったけれど、今は絶頂を求める欲求のほうが強かった。
 勝手に腰が揺れるのに気づかずにスザクの名前を何度も呼んだ。
「もう?」
 焦らすつもりか確認してくるスザクに半泣きのまま子供みたいに何度も頷く。早くとせがんでも、まったくほぐしてない後ろにいきなり挿入できるわけもなく、徐々に指から慣らしていく時間がもどかしくてたまらなかった。
(足りない)
 久々に自分の中に入ってくるスザクの指一本すら中を圧迫するというのに、焦燥と物足りなさで喉が渇く。痛くてもいいから早くと焦れるルルーシュと対照的にスザクは慎重に指を増やしていった。
 ベルトを緩める音がして、ほぐした後肛にようやく濡れた先端が宛がわれた。待ち焦がれた瞬間が到来する予感に身体が震える。
「いくよ」
すでに先走りで濡れたスザクの先端がゆっくりと押し込められる。指とは比べ物にならない圧倒的な質量に身体を割られ、ルルーシュは息を飲む。
 徐々に腰を進めるスザクの顔も、きつい締め付けに歪んでいた。
「ッ!」
 深く繋がる感触に呻くことしかできない。きつい。苦しい。目の前に星が散る。けれど待ち望んだ痛みでもあった。
「きっつ……」
「スザク……もっと、奥まで……っ!」
「んっ」
 スザクも呻きながらそれに応える。挿入を助ける充分な潤いがないため、いつもよりも慎重で、それがまたもどかしい。熱い塊が奥を押し開いていく。全部を飲み込んだ時には二人の息は上がっていた。
 お互いの呼吸音だけが耳に届く。
気遣うように動きだしたのはやはりスザクが先だった。小刻みな律動がだんだん速度を増していくかと思うと緩急をつけられる。ここが学校だという、その一点がなければあられもなく泣き叫んでいただろう。必死で嬌声を押さえ、それでも漏れる声がますますスザクを高ぶらせるようだった。
 硬度を保った熱い塊が身体の中を出入りする。ゆっくりと引き抜かれる喪失感と勢いよく貫かれる圧迫感に翻弄されて一気に絶頂まで駆け上がる。
「――――ッ!」
 さっき達した時とは比較にならないほどの忘我に意識が浚われていく。
 一瞬意識が途切れたようで、気がつくと結合は解かれ、下だった身体は対面座位の格好でスザクに抱えられていた。
「スザク……?」
 もぞもぞと落ち付かなく身動きするルルーシュにスザクは微笑みかける。
「まだ物足りない?」
 夢見心地で素直にうなずく。
「ぜんぜん足りない……」
「良かった。僕もまだ足りないよ」
 うまく呂律が回らなかった。寄りかかっていた身体をなんとか起こし、ルルーシュは腰を浮かせる。固いままのスザクの熱を垂直に立たせ、先端を滑らせながらふたたび挿入する位置を探った。
「ん…あっ」
 蕾は簡単に先端を飲み込んだ。そこからゆっくりと体重を落としていく。
「ルルーシュ……っ」
「くっ……」
 もう少しで全部入る、というところで授業の終わりを告げるチャイムの音が鳴り響いた。
「!」
 ぎょっとしたのはルルーシュだけではなかった。スザクも目を見開いて硬直している。瞬きを何度か繰り返しているうちに、生徒たちのざわめきがさざ波のように耳に届いた。
(まずい……)
 盛り上がっていた気分が一気に冷えて、脂汗が浮いてくる。
 ズボンの前をくつろげただけのスザクはともかく、ルルーシュは全裸にシャツを羽織っているだけという状態だ。しかもこんな状態で見つかったら言い訳なんてしようがない。
幸い移動教室の集中している棟だから、次の授業にこの教室が使われる可能性は低いはずだ。
(全クラスの時間割から割り出すと、この部屋が使われることはないはずだ)
 だがイレギュラーは常にある。15分の休み時間の間に鍵のかかっていないドアを、誰かに開けられたらそれで人生終了だ。
(いや! 俺にはまだギアスがある!)
 これを使って忘れさせればいい。しかしそれにはスザクの存在が邪魔だった。
「……おい」
 地獄の底から響くような声でルルーシュは言う。
「さっさと抜け」
「えっ!? でもまだ」
「遅漏め」
「!!」
 チッと舌打ちしながらルルーシュは挿入途中だったものを抜くために身動きする。けれどイッたばかりで身体に力が入らない。スザクと揉み合っているうちにかくんと腰から力が抜けて、結果、勢いよく貫かれる格好になってしまった。
「〜〜〜〜ッ」
 奥を直撃してしまい、目の前に火花が散った。思わずスザクの首に腕を回してしがみつく。
「だ、だいじょうぶ……?」
 大丈夫なわけあるか。
 返事をすることもできずにルルーシュは呻く。近づく女生徒たちの声が聞こえ、ビクッとルルーシュがスザクの首に回した腕に力をこめる。
 パタパタと複数の軽い足音が教室の前を駆け抜けて行く。息を殺してそれをやり過ごし、やがて完全に遠ざかったことを確信してほっと安堵した。
ほうっと耳元でもため息が漏れた。
「……行ったみたいだね」
「ああ……」
 気づけば自分の背中にもスザクの腕が回っている。抱きしめ合う格好になっていることにルルーシュはようやく気付いた。
 深く貫かれたまま動きを止めて抱き合っていると、何を生み出すわけでもない男同士のセックスでも、馴染んだ形がもともと一つのものだったのかのように思えてくるから不思議だ。互いの熱と体液が交わって、皮膚という境界が解けて消えて行くような感覚に満たされ飲み込まれてしまいそうになる。
 気持ちいい。
 授業開始のチャイムが鳴ると同時にどちらともなく顔を寄せ、唇を重ね合わせる。腫れた唇の痛みも忘れて夢中で互いの咥内を貪りあいながらなんでこんなに気持ちいいのかとぼんやりと考える。
けれど思考は繋がっている部分がこすれて生まれた快感にあっという間にかき消された。本能に従って感じる場所を探して腰が勝手に動くのを止められない。
「ルルー、シュ、ちょっと、激し……」
 珍しくスザクが驚くほど積極的にルルーシュは動く。なまめかしく動く身体が自分の物ではないみたいだったが、自分の中で痙攣するスザクの熱の限界が近いことは伝わってくる。それに合わせるように自らの射精感も高めて行く。
「スザク……!」
 絶頂を迎え、促すようにきつく締めつけると、スザクの物も痙攣し、ようやく熱い白濁を吐き出した。それを受け止めながら、ああ、とルルーシュは嘆息する。
 どれだけの恨みも憎しみも凌駕する一瞬が、確かにこの行為にはある。身体だけじゃなく、心だけじゃなく、欠けたピースが埋まる瞬間が確かにある。それを味わうために人は交わり抱き合うことを求めるのかもしれない。
(母さんも、これを求めたのか……?)
 ふとそう思って、ルルーシュは自分の思考に疑問を持った。なぜここでマリアンヌのことを思い出すのだろう?
けれど小さな疑問は絶頂の大きな波に流され消えていき、ルルーシュが思い出すことはなかった。


                                      2012.09.24
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