『 劇団 』

NOVEL HOME



 地下一階の薄汚い広い部屋の中は、棚という棚には、ダンボール箱や何に使われたのかわからないような物ばかりが並んでいて少しホコリ臭い。その部屋の中には何人かの男女が、同じ本を手に椅子やら棚やらダンボールなんかに適当に腰掛けていた。
 ここは『劇団・飛好奇』の倉庫兼練習場所だ。数日前に配布されていた本を読みながら、劇団員達は語り合っていた。

「いいんじゃない?この脚本・キャストでいこうよ。」
 時間を見計らったように、この劇団の座長である吉田新一が言ったので、『劇団・飛好奇』の脚本担当者は、さっきまで伏せていた顔をやっと上げた。他の劇団員達も納得したように手にした本を上げて挨拶をし、口々に感想だの疑問だのを再び話し始めた。
 脚本担当の井上一樹は顔を上げた。ふち無しの眼鏡をかけた知的な雰囲気を纏う整った顔立ちは、しばしば役者と勘違いされていたが、井上は決して舞台には上がろうとはせず、脚本だけに取り組んでいた。
「異論のある方は?」
自信あり気に微笑んで座長の吉田に再確認した。

 その言葉に矢口彩は困惑しながら言った。
「冗談じゃないわ。このヒロイン役の性格って統一感が無さ過ぎるよ。まるで、ご都合主義。」
 矢口の役は、この物語のヒロインだった。まだ若く、健康的な可愛いタイプの顔立ちが、怯えた表情を作っていた。矢口は何度も脚本を読み直して来たが、どう演じていいのか全く解らなくて戸惑っていたのだった。井上は黙って矢口を見たが、井上の返答を待たず、矢口の隣に座っていた筋肉質な男、土橋純一が
「だけど、次回の公演まで、日が無いし、コンスタントに発表していかないと、俺達みたいな弱小劇団なんて、すぐ忘れられちゃうよ。」
心配そうに言った。
「そうだ。それに援助してくれているスポンサーが離れてしまうかもしれない。」
反対側に座っている、たいがい悪役か裏切り者役ばかり演じている男、栗林誠も続いて言った。
「だけど肝心の内容が面白いものじゃなくちゃ逆効果になってしまうんじゃないかしら?」
矢口と仲の良い高木星子が立ち上がった。
「矢口は、どこをどう直したら良いものになると思っているんだよ?」
照明と音響担当兼大道具の伊藤寛が言った。
 矢口はページをパラパラとめくり、
「ヒロインの『ちひろ』は、主人公の『真悟』を好きなんでしょう?この性格のキャラクターが、なんで嘘ばっかりついて『真悟』を落とし入れるの?こんな矛盾した役……、演じきれないわ。」
泣きそうな面持ちで叫んだ。座長の吉田は、
「確かにそうかもしれないけど、おまえなら演じきれるよ。」
と何の根拠も無く言った。
「じゃあ、今日は時間も無いから、台詞合わせまでの一週間、井上と矢口で話を煮詰めるってのは?」
栗林が冷静に言った。これといった解決策も他には無いと、二人も劇団員達にもわかっていた。


どちらかを選択してください。
選択肢によって物語も変化していきます。


二人は快く了解し、今日のミーティングは終了した。
「二人きりで打ち合わせなんて……。」