水夏A.S+ Eternal Name レビュー

発売日 :2007年8月30日
価格 :7140円
対応機種  :PlayStation2
メーカー :ブロッコリー
メモカ使用容量 :83KB
CERO :区分C

ゲーム内容
システム
グラフィック
サウンド
シナリオ 全体感想
シナリオ 章別感想
総合評価

ゲーム内容

海と山に囲まれた田舎町「常盤村」に住む少年少女のひと夏(7月の中旬から8月1日まで)を描いた、全四章のオムニバスADV。
6年ぶりに母親の故郷である常盤村で暮らすことになった大学浪人生・彰
両親の死後、生きるために優等生の仮面を被り続けている高校生・蒼司
血の繋がらない妹と献身的に尽くす恋人の間で揺れる大学生・良和
毎年夏になると常盤村を訪れる少年・宏。
プレイヤーはこの4人の視点からそれぞれの章を順番に読み進めていき
四章クリア後に出現するショートシナリオ「終幕」によって、タイトル“水夏”の意味が明らかとなる作りになっています。

各シナリオはそれぞれ独立しており、主人公同士の直接的な接点はない(あってもせいぜい顔見知り止まり)ですが
舞台となる場所・時間が同じであること、登場人物を共用していることから、間接的な繋がりは多いです。
そのため、同じキャラでも章によって異なる一面を見せてくれたり
天候の崩れなどから、今この時間帯にあの章では大きな節目がやってきているなと察することが出来たりと
同じ場所が舞台となっている&登場人物を共用しているオムニバスの面白味は随所で見られました。
特に後者はタイムテーブルを作りたくなる適度な匂わせ方をしてくれています。

また、通常の恋愛ADVと異なり、四章以外は三分の一以上がヒロイン視点で進行し
三章までは画面全体にメッセージが表示されるビジュアルノベルタイプ、
視点が固定されている四章だけはウィンドウタイプと、メッセージ表示のスタイルが変化します。

攻略対象視点でシナリオを読み進める要素はさほど珍しいものではありませんが
大抵は本編シナリオのダイジェストだったり、短いおまけシナリオだったりと
それらを見なかったところで困らないような、+α(おまけ)に過ぎません。
けれどこの水夏では、仮にヒロイン視点をすっぱりと削除してしまったら話は成り立たなくなります。
それだけ、ヒロイン視点にも大きな意味を持たせている…
簡単に言ってしまえば、男女二人の主人公視点で交互に進む、恋愛ADVでは珍しいシナリオ構成になっているんですね。

それから、章ごとに主人公とヒロイン、置かれている状況が変わるためか
恋愛ADVでは当然とされる「ひとりの主人公で複数のヒロインを攻略する」要素は基本的にありません。
例外として二章のみ、サブヒロインの美絵にも専用シナリオが存在するものの
美絵ルートにおいてもメインヒロイン・さやかの出番は多く、彼女のEDにもきちんと用意されるなど
あくまでも、「一人の主人公には一人のヒロイン」という姿勢は貫かれています。

ヒロインが固定されている分、その一人のヒロインに様々なEDがあるかといえば、そういうわけでもなく
最終章の四章と、唯一2ルートが設けられている二章を除いて分岐要素といったものはまったくないのです。
一章には選択肢が8つほど出現しますが、この選択肢はその後の章に影響を与えるものであって
一章自体はどのような選択肢を選ぼうが展開も結末も変わりませんし、三章に至っては最後まで選択肢が出てきません。
19個という、他章の二倍以上の選択肢が出現する四章にしたって
ヒロインの内部パラメーター(好感度)が変動する要素に留まり、直後の反応すら変えない手抜きまで見られます。

二周目に美絵ルートの内容と一章&二章のリンク要素を確認したことからゲーム面を見直すようになりましたが
それ以前はゲームとして評価することが出来ないデジタルノベルの類だと思っていました。

美絵ルートはあくまでも二章の内容だから可能なことでしょうし
他の章まで同じようなルートを用意して欲しかったは思いませんでしたが
一章主人公の行動が後の章に影響を及ぼすリンク要素に関しては、もっと積極的に導入して欲しかったです。

この種のリンクシステムで有名なADVに『
』がありますけど
街にしろ水夏にしろ、ある主人公の取った何気ない行動が別の主人公に影響を与える要素は
一般的な固定主人公のゲームでは味わない、複数主人公ゲームならではの醍醐味です。
だからこそ、ほぼ一章と二章、二つの章でしかそれが取り入れられていない水夏の作りは残念でした。
面白くなる要素がはっきりとしていて、実際に熱中したからこそ、ゲーム全体に反映しなかったことを惜しんでしまうわけですよ。

                                                                     上へ


システム

セーブ  常時可能で数は10個。クイックセーブもあり
スキップ  通常スキップは既読判定のない手動のみ。独自のスキップ「あらすじモード」あり
読み返し  ボイス再生も可能だが、シーンが変わると消去される
オート再生  使用するにはオプション項目で設定する必要がある。速度は速と遅の二段階のみ
ボイス  主要女性キャラのみフルボイス。個別ON/OFF設定なし
おまけ  イベント絵鑑賞、サウンド鑑賞(作曲者のコメント付)、ムービー鑑賞、シーン回想、外伝イベントあり
その他  BGM・SE・ボイスの個別ボリューム調整とスタッフロールのカット可能。常時タイトル画面に戻れる

オリジナル(Circus)も移植元(ブロッコリー)も同じだけあって、後発の『D.C. the Origin』(以下D.C.)と一緒です。
ボタン配置は共通だし、おまけモード以外のレイアウトデザインも似通っている。
D.C.のシステムレビューでは他に述べておきたいことがあったため、優先順位的に削除しましたが
メーカーロゴが表示される前のシステムデータ確認で「はい」を選択しないと次に進まなかったり
タイトル画面のデフォルトカーソル位置が“はじめから”だったり
ゲーム内で日付が変わるごとに○ボタンを要求されたり(自動で切り替わるまでの時間が長い)欠点も同じです。

後発タイトルよりも先発タイトルのプレイ環境が快適だった方がおかしな話ですし
水夏で見られた欠点が、翌年のD.C.でも相変わらずだったと言うべきなんですけどね。

水夏のメニュー画面内にはスキップやログ項目がなくて自動スキップも存在しないため
各シーンを要約してくれるあらすじモードにはD.C.のとき以上に助けられました。

Circus独自の機能「あらすじモード」は、他のゲームにないのが惜しくなるぐらい便利な機能です。
たまに1シーン並に長いときもあったりしますが、各シーンの内容を整理して頭に叩き込めて助かります。
この機能のおかげで、ごちゃごちゃして分かりにくかったシーンの要点も理解出来ますしね。

でも、あらすじモードが便利でも…いや、便利なだけに
エピローグや四章「夕食の予定」などのあらすじモードが存在しないシーンを通過する際は手動スキップを使用するしかなく、イラつきました。
エピローグにあらすじモードを用意しなかった心情は理解出来るんですけど
それならそれで単純にカットを行えるようにするとか、別の選択権を与えて欲しかった。

そしてもう一つ、システム面において忘れてはならないが、おまけモードの充実さです。
とりわけ全シーンの回想が可能な点は、水夏の最大の魅力である張り巡らされた伏線を容易に味わえる、素晴らしい機能でした。

機能というのは充実していればしているだけ良いものとされるのが一般論ですし、私自身もその一人ですが
例えば同じセーブデータ数でも、ゲーム内容に応じて少なく感じたり十分足りる数になったりと
ゲームごとに求められる機能は変化するものです。
その点、水夏はそのゲームで最も必要とされる機能だけは、しっかりと押さえられた作りとなっていたんです。

                                                                     上へ


グラフィック

メインキャラクターデザイン・原画は七尾奈留、サブキャラのグラフィックは複数のCircusスタッフによって描かれているようです。
現代日本の田舎が舞台ということで雰囲気作りを優先したのか、登場するキャラの髪色・髪型は現実的かつシンプルなデザインですが
一章から三章までのヒロインが揃ってストレートロングヘアだったりとバリエーションには欠けているため
視覚的に飽きる人もいるかもしれません。

しかし、地味な髪色と髪型は田舎という舞台を表すファクターの一つとなっており
非日常的な名無しの少女のビジュアルとのコントラスも生み出せていました。

立ち絵は伊月の正面顔が別のイラストレーターの絵を彷彿させるものだったこと
透子の上目遣いが崩れていたのは気になりましたが、これ以外については問題もなく、安定しています。

イベント絵は本編47枚、外伝13枚。差分を含めた総数は170枚。
差分を含む章別の使用枚数は、一章が33枚、二章が35枚、三章が22枚、四章が38枚、外伝が42枚です。
差分を除けばそう多くもありませんが、挿入の仕方は心得ていたので、少ない・物足りないと思ったことはなかったです。
特に花火と流血の演出は差分によって「動」が表現されていて感心しました。
質に関しても、立ち絵との差異や崩れは滅多に見られず、立ち絵同様に安定しており綺麗です。

それ以外の部分も、夜になれば人物の塗りが暗くなる、状況に合わせて立ち絵やイベント絵が差分に切り替わる、
天気によって窓から見える背景まで変化させるなど
状況ごとのグラフィック変化まで抜かりなく作られており、これらの丁寧さには好感を持ちました。

それだけに、さやかがハンモックで寝ているイベント絵の驚き顔は
誰かを見上げている顔として描かれているのに、実際の状況は一人で考えにふけっているという
テキストとグラフィックが噛み合わない使い方をされていたのが少々残念でした。
それに透子がシーツで裸体を隠しているイベント絵も、シーツの着け方が不自然。
こちらに関しては、オリジナル(18禁)版での裸体を隠すため後からシーツを描き足し
その結果、妙な身に着け方になってしまった…なんて事情があるのかもしれませんが。

ただ、この二点以外に関する不満はないですね。
これまで七尾絵に惹かれたような記憶はないんですが、D.C.、水夏と続けてプレイした今ではその人気も納得がいきます。
どの表情も生き生きと魅力的に描けており、このジャンルでは稀なことに服装などのセンスもいい。
これで男性キャラも同じぐらい魅力的に描ける人だったなら、きっとお気に入りのイラストレーターになっていただろうと思いました。

その反面、七尾氏が担当したヒロイン以外のキャラ絵に関する不満は強いです。
何といっても男キャラ三人分の絵がすべてまずい。

鏡太郎と律は上手くはないものの、彼らの持つ内面の不気味さが表現されていたから
これはこれで味があると言えなくもないんですが
一章主人公・彰の中学時代については最後まで受け入れることが出来ませんでした。

笑い顔や驚き顔はまだしも、最も目にするデフォルト顔は視線を合わせたくないと思ってしまうほど。
いびつに描かれているせいで、じっと見ていると不安になってくるんですよ。

水夏というゲームの最大の不満点は
主人公たちを含んだ、ヒロイン視点で重要な位置づけである男キャラにグラフィックや声が用意されておらず
一般的なギャルゲーの慣例通り、男キャラが二の次にされていることだったのに
中学生の彰を容姿を思い出したとき、今の状態でまだよかったのかもしれない…そんな風にも思ってしまうんです。
それほどまでに、彰のグラフィックは辛いものだった。

男キャラを描ける人材がいなかったとしても
何度もリテイクするなり、社外から連れてくるなりして、ゲーム全体の質向上を図って欲しかったです。
ターゲットは男キャラのグラフィックを重視しないユーザーだし、これぐらいでいいやと投げやりな気持ちでいたなら、残念でなりません。

                                                                     上へ


サウンド

ボイスは立ち絵が用意されている女キャラのみフルボイス。
それ以外のキャラは、出番や重要さを問わず喋りません。

立ち絵がないのと同様に主人公たちの声がなかったことは残念でしたし
透子の抑えすぎな演技は、役作りと棒読みの中間にある微妙なものでしたが
基本的には文句を付けようがない、磐石な演技を聞かせてくれるキャスト陣で固められています。
中でも二章ヒロイン・さやかを演じた鳥居花音さんは群を抜いて上手い。
彼女は一章の登場キャラ・小夜も担当しているんですが
クレジット表記がなかったら絶対に気づかなかっただろうというほど、見事に二つの役を演じ分けていました。
舌を噛んでしまったとき、声が枯れてしまったときの演技も真に迫っており、その芸達者ぶりには舌を巻きます。

BGMは22曲、ボーカル曲は4つ。
メインテーマの「Fragment」は口ずさみたくなるメロディと歌詞で耳に残る曲ですが
それ以外については歌詞にしろ曲調にしろまったく記憶に残っておらず、必要性も乏しい。
ボーカルソング集をまとめたCDを売るために入れたとしか思えませんでした。

BGMは、朝に流れる涼しげで軽やかな「目覚め」、タイトル画面で流れる軽妙な「夏風」、
日常のテーマ「夕焼け小焼け」と「夕涼み」、優しい曲調の「なつのはじまり」
悲しみのテーマ「なみだあめ」と「静かに、ただ静かに…」、切ない曲調ながら希望が感じられる「夏の終わりに…」
静かな恐怖、不安を煽る曲に相応しい「追い詰められて」
など、耳に残った&気に入っているものがこれだけ挙げられるほど、全体的に良かったし気に入っています。

その中でも一段と演出効果を与えていたのは
章別のOPムービーで使用された「夕涼み」、「なつのはじまり」、「こころのつながりをもとめて」、「夏の終わりに…」と
三章エピローグで流れる「なみだあめ」です。
前者は各章に対する期待感を高めてくれる役割を果たしていましたし、後者はこれ以上ないマッチング。
使われたシーンは他にもあるのに、「なみだあめ」を聞くと三章エピローグがまず思い浮かびます。

BGMに関しては、世界観を支えている・リピートしたくなる魅力が高い・使いどころは適切と、かなり満足度が高かったですね。

効果音はセミや鈴虫の鳴き声、潮騒によって、夏の雰囲気がばっちり出ています。
特に鈴虫は、実際に虫が鳴く時期・時間帯にプレイしたことで
ゲームから流れているのか、それともリアルの音なのか、それが分からなくなるほどでした。
ただ、これら以外はテキストだけで済まされることが多く、臨場感や緊張感に欠けていたのも事実。
ゲームなんですし、もっと効果音に頼っていいはずです。


そんなわけで、サウンド面はボイス・BGM・効果音、どれを取ってもレベルが高かったのですが…
せっかく質が優れているのに、移植作業がまずかったのか、それともオリジナルから抱えていた問題なのか
BGMのイントロ部分が二重に繰り返されたり、ため息が通常の音声と同程度に再生される明らかなミスが見られます。
外伝では北都南さんの録音分だけ、テレビの音量をかなり上げないと聞き取れません。

最初の部分だけは、後発のD.C.レビューでも書いた通り、個人的には別段気になるものではなかったんですが
あとの二つについてはさすがに見過ごすのは無理でした。
普通にプレイしていればすぐにそのおかしさに気づくものだと思うんですけどね…。

                                                                     上へ


シナリオ 全体感想

長さは一章と二章・さやかルートが4時間、二章・美絵ルートが3時間、三章が2時間半、四章が5時間、外伝3本が3時間ほど。

温かい家庭で育った主要キャラは一人としていないなど、世界観は全編を通して暗く陰鬱としており
恋愛面においても、他者を排除してでも勝者になろうとするエゴイズムが描かれていますが
その分ヒロインたちには二次元ジャンルの属性だけで片付けられないような、生身の人間らしさが感じられます。

シナリオ構成は、ミステリ小説で叙述トリックと呼ばれる騙しのテクニックが取り入れられており
1度のプレイで全貌を理解するのは難しいものとなっています。
二度三度と読み返したときに、張り巡らされた伏線、キャラたちの真意に気づき
そこでようやくシナリオの魅力に気づかされる作りになっているわけです。

テキスト
は一章の「過去・ふたり」や二章の「商店街の夜」など、一部の場面の描写が回りくどすぎて
ログを何度も読み返さなければ、どういう状況になっているか掴めなかった点がネックですね。
どちらも緊迫感のある盛り上がりどころなのに、回りくどいテキストのせいで流れがいったん遮断されてしまうようなことになってしまい
素直にそのシーンに入り込むことが出来ませんでした。

そして中黒(・)を縦にいくつか表示することで時間経過を表していた点には、イラつかされることが多々ありました。
メッセージの表示設定問わず、必ずひとつずつ表示される仕様だったので、読むテンポを阻害されるんですよ。
長時間文章を読み続けることになるジャンルでこういったことをされてもストレスの元にしかなりません。

                                                                     上へ


シナリオ 章別感想 ※ネタバレあり

■一章 水瀬伊月(CV:長崎みなみ)

初回プレイ時点で最も評価の高かった話。
この章をクリアした時点で既に元は取れたと思っていたほど、読み物として楽しめたし感動しました。

伏線や示唆のさじ加減が、あからさますぎず、分かりにくすぎずと丁度いいし
何よりも、非常に綺麗に締められたラストは圧巻。

一章の結末に納得がいかない人も少なくないようですが
私としては、小夜との今後を匂わせる描写を入れなくて正解だったと思っています。
儚い人魚姫の人生が王子と結ばれた姫よりも深く心に刻まれるように
この章もあの終わり方だからこそ、美しくまとまっている。

ただ、物語にかなり入り込んでいただけに、伊月が熱を出して寝込んでいることを知っている彰が
雨の中で伊月と遭遇したときに風邪引くぞと発言する矛盾を見たときはものすごい白けました。
それから、夏休みに突入しているのに学園が休みになったら〜という不自然な発言もあり。(冬休みに〜なら分かりますが)
前者なんて同一シーン内のことでかなり分かりやすいミスなのに、どうして数度目の移植でいまだに残されたままなんでしょうか…。
こういうところで修正がきくのも移植の利点なのに。

普段はこういった矛盾に気づかないことの方が多いくらいなんですけど
このときはかなり真剣にテキストを読み込んでいたし、話も丁度クライマックスに向けて盛り上がってきたところだったから
ミスに気づいたときの反動は半端じゃなかったですよ…。

■二章 白河さやか(CV:鳥居花音)&若林美絵(CV:草柳順子)

2周目に入る前は
「さやかが襲われるシーンの回りくどさと、ネコ天エプロンに心を奪われたこと以外、語ることがまったくない…」
と、感想に書けるよう箇所が見つからなくて困っていました。

褒めたい部分もなければ指摘したくなる欠点もこれといってない。
さやか萌え出来るかどうかが評価を左右する。
それ以外の感想が出てこないような、微妙なものだったんです。

一章で従来のギャルゲとは違うことを思い知らされ
二章もどう転ぶか分からないという不安を抱きながらプレイするのが本来のやり方なのに
私の場合、二章がハッピーエンドだと知っていたことで
緊迫感あるシーンや、主人公の死を示唆するテキストが表示されても、どこか安心して読めてしまったんですよ。
詳しいネタバレを知らずとも、終わり方を知っているだけで面白みが半減されることってありますから…
この二章のさやかルートもそのケースに当てはまってしまったのかも。

しかし、2周目でもうひとつのルートの存在と一章とのリンク要素を知ると、それまでの低評価&印象の薄さが大逆転。
二章が一番お気に入りの章になりました。

この美絵ルートというのが、さやかルートクリアが前提のif内容となっており、ゲームシナリオらしくて楽しいんです。
さやかルートで最後まで引っ張った父親との和解を、冒頭でいとも簡単に片付けてしまったのを見たときは笑っちゃいましたよ。
それに、さやかの腕をダメにしてしまう結城少年が美絵ルートではまったく違う描写をされていたこと、
母親と対面したときの美絵の本音は、人間の複雑な心を描いている水夏らしさが表れていました。

背景(一撃必殺)をシナリオのネタとして使っていたり、さやかが最後までサブキャラとして登場し続けた点も◎
さやか自体のキャラはどちらのルートでも変わりありませんが
美絵ルートの方が、友達以上恋人未満な蒼司とさやかの関係が表現されていて魅力的に映りました。
恋愛ゲームでは、当人のルートより別キャラルートの方が落としたかったと言われがちですけど
この美絵ルートではさやかEDも用意されているため、もどかしさを覚えることがありません。
さやかファンの無印ユーザーは、美絵ルートのために再びA.S.を買ってもいいと思うぐらい、さやかの扱いは手厚い。

美絵の原画担当者は体を描くのが苦手なようで、全体的にイベント絵がイマイチだったり
上目遣いの立ち絵が彰並に怖かったりと、グラフィックの拙さは強く見られたし
シナリオ面でも、さやかの部屋に行ったことがない蒼司が美絵の部屋とさやかの部屋を比較する矛盾、
蒼司と美絵が幼い頃に一度会っている、なくてもいいような蛇足設定、
蒼司の妹がいかにもなギャルゲキャラ造型(兄様呼びや睡眠中のキスはやりすぎだ…)だったりと
個人的なマイナス点がいくつもあったりするものの、プレイしていて一番楽しかった章なのは間違いないです。

■三章 柾木茜(CV:日向裕羅)&京谷透子(CV:西田こむぎ)

ブラコンの妹・茜と、自分に心底惚れ込んでいる恋人・透子。
どちらを選ぶかが主題の分かりやすい三角関係かと思いきや、ラストのどんでん返しによってすべてが覆される。
恋愛ゲームジャンルの話としては、萌えを完全に切り捨てプレイヤーを突き落とすことを選んだ異色のシナリオ。

再プレイするまでは、二次元キャラらしさが希薄な登場人物といい、選択肢のない完全一本道といい
ゲームをプレイしているというより、ミステリ作家が書いた短編を読んでいるようで、そこまで評価は高くありませんでした。
ギャルゲーシナリオとして見ればかなり風変わりだけど、小説として見てしまうと新鮮味はそう高くもないですから。

でも、今作でカットされたもうひとつのED内容を知った上で再び読み返してみると
綿密に書かれたテキストの数々には唸るばかり。
この三章の場合、本領が発揮されるのは二周目以降であって、初回プレイはその二周目をより楽しむための布石に過ぎない。
茜の表情・発言のひとつひとつに対する見方が、初回プレイとはガラリと変わってくる、それこそが三章最大の醍醐味なんです。
中でも私が感嘆させられたのは以下の部分。

「自殺したのは何故だ?」

「…お兄ちゃんに振られたからだよ」

嘘だった――半分くらいは。
けれど、これに関しては、口が裂けても人に言うつもりはなかった。

「なるほど……やはり君は、良和くんが好きなんだね?」

あたしは黙って頷いた。それもたぶん嘘になるけれど、まあいい。

(中略)

「君が死んだと思って、彼の脆弱な精神は崩壊寸前だったのだ」

「あたしが…死んで? お兄ちゃんが?」

感激しそうになっている自分を、必死で叱りつける。
――そんなの、一時の感情だ。
たとえば、飢餓で苦しむ国のドキュメンタリーを見て、慣れない募金をしてしまうようなもの。
あたしの性質は、変わりっこない。

「そこには彼の、自己嫌悪的な罪悪感も手伝っていたらしい。
 つまり、君の死を、自分の責任と思い込んだのだ。」

「………」

「君の求愛を退けたから、茜ちゃんは死を選んだ。そう思ったのだね」

「あ……」

これほど滑稽で切ない誤解が、この世にあるのかな?

このシーンを「茜は良和のことが好き」という前提で読む初回プレイでは、多少の不自然・無理を感じながらも
人に言うつもりがないや切ない誤解は捻挫で水泳大会に出られなかったこと、
一時の感情は、良和の茜に対する感情を指していると解釈します。

ところが、茜の本心…

さようなら、透子お姉ちゃん。
あなただけを、愛し続けていたんだよ。
さようなら、あたしの愛しい人。

「長年思い続けていた相手は、兄の良和ではなくて、その恋人の透子だった」
この真実を知った上で同じ文章を読み返すと、本当の意味が明らかになるわけなんです。

どちらとも受け取れる曖昧な表現でプレイヤーをミスリードしながらも決して嘘はついておらず
初回プレイから茜の真意に気づこうとすれば出来たバランスを成り立たせている。
そのことからも、単に奇をてらっただけのシナリオではないことが分かるはずです。

■四章 名無しの少女(CV:中谷あずみ)

唯一ウィンドウの中にメッセージが表示される章ですが
それまで10時間以上に渡って全画面表示で読み進めてきたこと、相変わらず一人称視点で主人公の独白が多いことから
この章だけウィンドウ形式にした意味が感じられませんでした。
ウィンドウ枠のせいで一部のイベント絵は見づらくなっていたし…。

オリジナル版ではこの章だけ主人公の名前変更が可能だったようですし
(そのため、名前固定のPS2版でもヒロインたちからは常に二人称で呼ばれる)
主人公の性格設定がこの章以前と比べてニュートラルだったりと、通常の恋愛ゲームのように主人公=自分の度合いが強い章なので
目に見えた形で、この四章は他の章とは違うぞということを強調したかったんでしょうかね。

一章から三章すべての話に登場した謎の女性・千夏の正体や
不思議な格好をした銀髪の少女の正体が分かる、このゲームのメインシナリオでありながら
二章の評価が美絵ルートによって底上げされた今では、四つの話の中で最も印象が薄かったりします。

ヒロインの名無しの少女との交流はきちんと描かれているから、自然と彼女に対する思い入れは深まっていくし
アルキメデスと宏の掛け合いは楽しく(特に「しまった!」のくだりは笑えた)
姉妹である華子やちとせ、女将さんなど、主要キャラは揃って好人物と、キャラはいいんですけど…。

人を排除・犠牲にしてまで自分の恋愛を成就しようとするエゴや、痩せ細った母親を受け入れられない心情など
他の章で色濃かった人の綺麗とは言えない部分に対する描写は控えめで、感動(泣き)路線が強いんです。
しかし、感動で締めようとしているのに反して
覆し展開(実は○○だった)が数度続いたことで、EDを迎える頃には気持ちが冷めてしまい、素直に感動出来なくなっている。

それと、Hシーンは当然カットされていながら、その直前の会話(幼女がセックスを要求する)はそのまま収録。
本人がどういう行為か分かっていないあたりが余計にツライ。
三章みたいにセックスとシナリオが密接に結びついているならまだしも
Hシーンと一緒に削除しちゃったところで何の問題もないのだから、別に残さなくていいのに…。

■水夏0章

本編と同じ常盤村を舞台に、本編開始日(七夕)までの1週間を描いた番外編。
0章というタイトルは本編より前の時間で展開されるという意味であって、話自体は完全に本編から分離しています。

最初から最後までシリアス。ギャグ要素はまったくなかったせいか
テキストは本編よりも読みやすく、すらすらと頭に入ってくる。
この0章をプレイすると、ライターがギャグやコミカルパートをそれほど得意としない人に思えます。
これだけ読みやすくなるんだったら、本編でもあまり入れない方がよかったんじゃないかと…。

話の長さは1時間30分から2時間程度。
四章とは異なる、もうひとつの“名無しの少女”と少年の物語としてそれなりに楽しめたんですが、最後の最後でがっかりさせられました。
悲恋で終わると思いきや、無理やりなハッピーエンド…分かりやすい蛇足パターンに陥っている。
少年が少女を抱きしめるところで締めていれば綺麗に終われたのに…一章と同じ人が書いたとは思えません。
もっとも、近い終わり方をする四章も担当していた人らしいから、一章が例外だったのかもしれませんけど。

グラフィック面はイマイチですね。
立ち絵だけなら可愛いんですけど、立ち絵とイベント絵では別人のようになっているし
イベント絵は毎回顔が変わり体も下手と、お世辞にも上手いとは言えない。

■夏休みのクリスマス

二章主人公の妹・上代萌視点で展開される、さやかルートグッドED後の話。
見たところで何か新しい発見を得られるわけでもなく
かといって10分という短さで終わるから、別に時間を無駄にするというほどのことでもない…
見ても見なくてもいい類のエピソード。
グラフィックは安定していて上出来だし、萌が好きな人にはまずまず楽しめるかもしれません。

とにかく短く中身もないからコメントすることは別段ないのですが
ラストで四章の特定EDと関係する部分があるにも関わらず
そのEDを見ていなくても「夏休みのクリスマス」が出現する仕様は配慮が足りません。

私はそのEDを確認していない状態でこの外伝をプレイしたので
知っていればニヤリと出来たかもしれないリンクも、何のことか分からず不可解さを覚えるだけでした。

■外伝・始まり

四章のヒロイン・名無しの少女とアルキメデス誕生の経緯が明かされるエピソード。
本編(四章)の序章&補完となっているため、こちらの方が「0章」を名乗るのに相応しいように思いました。

この話は他の外伝と違って外国が舞台となっていますが、いちいち背景を描き起こすのが面倒だったのか
三枚のイベント絵以外のグラフィックは一切用意されていません。
ただ、私の場合は他の人のレビューを読むまでそのへんのことをまったく意識しておらず
そういえば背景まったくなかったなぁ…とプレイ後に思い出したぐらい。

これは、主人公である死神の女性(CV:北都南)のボイス音量が小さすぎることにだけ意識が向かっていて
背景の手抜きにまで気が回らなかったせいだと思います。

「夏休みのクリスマス」のときも萌(こちらも同じくCVが北都南)の声だけどうして小さいんだ? と不思議には思っていましたが
夏休み〜は喋るキャラが萌だけだったから、オプションで音量調整をすれば解決する問題でもあったんです。
ところが「始まり」では喋るキャラが二人おり、もう一人のキャラは本編同様に普通の音量で喋る。
音量の小さいキャラに合わせて設定すれば、普通の音量のキャラがとんでもなく大きくなってしまうため
心ならずも、音量の小さいキャラの声は諦めなければいけない…。

普通にプレイしていればすぐに気づけることを、修正しないまま放置しておいたのは非難されても仕方ないですよ。
実際にこのボリューム調整のせいで、それを受け入れる(慣れる)まではシナリオに集中出来なかったですし。

全体的に移植作業が粗いんですよね…。

                                                                     上へ


総合評価

シナリオはもちろん、グラフィックやサウンドなどの演出も含めて「夏の雰囲気」がきちんと表現されており
まさに「夏アドベンチャー」の名に相応しい、渾身の力作。
特に三章は、ライター自身、これを超えるものを書くのはたやすいことではないはず。
とはいえ、男キャラに対する手抜きは誰の目にも明らかですし、そのあたりが悪い意味でのギャルゲーから抜け出せていません。

ギャルゲーであることが悪いのではありません。
ギャルゲーだから男キャラ関係に力を入れる必要がないと判断し、結果作品の質が低下してしまったことが残念なんです。

移植作品としては、PS版では存在したEDを削除している一方で
PS2版にはないミニゲームやHシーン関係の会話はそのまま残されており
今作だけをプレイした場合、何のために挿入したイベントなのか分からなくて腑に落ちない
(私の場合はオリジナル版のレビューを読んでようやく疑問が解けた)
一部音響に問題があること、2007年発売のものとしてはプレイ環境がひまひとつなど、お粗末さがいくつも見られます。

コンシューマ移植が今回のPS2版で終わるとは思えませんし
これから先、違うハードから出る可能性は決して低いものじゃないはずなので
そのときこそ、主人公たちにも立ち絵やボイスを用意したり、男キャラの既存絵を描き直した完全版を出して欲しいものですね。
シナリオが男性向け、女性向け、どちらとも言い切れないものとなっているだけに、今の作りはもったいない。

                                                                     上へ

2009年11月29日

PS版『WATER SUMMER』の感想


戻る  総合トップへ