仙太郎式輸入球の取り扱い方法

 

昭和30〜40年代には自由に大量に輸入されていた原産地生まれのサボテン、現在ではサボテン全種がワシントン条約によって国際的に保護されており、原産地に自生しているサボテンを勝手に採取して日本国内に持ち込むことは出来ません。
しかしながらその多くは付属書1類ではなく、2類に属するために、原産国と日本国政府のCITESと呼ばれる許可証があれば商用輸入する事が可能です。
このため、最近ではそのわずらわしい手続きを敢えて行っても、原産地球を少量ながら輸入することが行われるようになって来ました。
勿論、アリオカープスやロゼオカクタスなどの牡丹類、ストロンボカクタスや兜などの有星類などの1類に属するサボテンは許可証は発行されず、今後も輸入する事は出来ません。

ところがサボテンをたとえ輸入することが出来ても、現実には輸出側の原産国の業者のサボテンに対する取り扱いは相変わらず昔のまま、大変ぞんざいな扱いが多いようで、このため、輸入されたままのサボテンをそのまま植え込むと根腐れなどで失ってしまうリスクはまだまだ大きいと言えます。
そこで、サボテンの輸入球を買って根を無事に発根させるための注意点について、この頁でまとめてみることにしました。

但しこれらはこれまでの仙太郎自身の経験に基づいて書いていますので、場合によっては的が外れている可能性もあることを承知の上で読んで下さい。
これによって、せっかく多くの手続きを経てはるばる日本にやってくる今や高価な原産地生まれのサボテン達が少しでも多く日本で生き延び、幸せに暮らしてくれればと思っています。

なお、輸入球のサボテンは無事に発根させることが出来ても日本とは全く気候が異なる原産地生まれですから、そのまま無事に将来にわたって生き続けてくれるとは限りません。
その点のリスクは常に負っていることを頭に入れて栽培される事が必要です。

 

1.輸入球の買い方

その1.購入する季節に気をつける/適期は秋から春まで

後で触れますが、輸入球は多くの場合、太い根を切って養生する必要があります。
その際、季節が春から秋にかけての温暖な時期にあたると、空中雑菌が多いために根切り後の乾燥に失敗して赤腐れを進めてしまうことが起こり易くなります。
ですから輸入球を買うのに一番適した季節は空中雑菌が少なくて、胴切りなどの大きな手術に失敗が少ない冬と言うことになります。
この季節に根を切って乾燥すれば、ちょうど春の成長期の前に植え込めるので後の成績も良くなります。
とは言っても、昔と違って現在の輸入球は年中入って来ると言うわけには行かず、たまにしか入って来ないのですから、なかなか季節を選ぶというわけには行かないかも知れません。
しかしながら今や非常に高価な輸入球なのですから出来る限り生かしておきたいと思うものでしょう。
輸入業者の方にも冬から春までの間に荷を入れるよう、努力していただくことも今後は必要だろうと思います。

その2.タイプの良い苗を選んで買う/輸入球はとにかく個性派

輸入球はある限られた数の親株から採取した種子から生まれて来る国内実生のサボテンとは異なり、原産地で色々な親から生まれた株が好き勝手に生えているものを採取して来る訳ですから、同じ品種でも国産苗に比べて大きな個体差があり、タイプの良いものとそうでないものとの差が非常に大きいのが常です。
ですから先ず、輸入球はなるべくタイプの良い苗を選んで下さい。

昭和のサボテン輸入が盛んだった時代はタイプの良い苗は業者の近くの人が入荷早々に持って行ってしまい、地方の人はそのおあまりをちょうだいすると言うことが起こりがちでした。
しかしながら最近ではインタネットを使った写真カタログによる販売方法が取り入れられたり、入荷直後に1本づつ個別に写した写真カタログを送ってくれる業者も現れるようになりましたから、地方の人はなるべくそのような手段を使って、とにかくタイプの良い株を入手するようにして努めて下さい。

その3.根をよく点検してから買う/現地業者はとにかく根の扱いがぞんざい

もう一つ重要なことが根をしっかり調べることです。
いくらタイプが良くても、根から赤腐れが入って球体の奥まで達しているようではどうがんばっても生かしておくことは無理です。
輸入球の根は鋭利な刃物で丁寧に切断して乾燥してあるなんて事は先ず無く、無惨にねじられ、引きちぎられているものが大半です。
ワシントン条約が施行される以前の時代、大量の輸入が行われていた時代ならともかく、今やほんの少しの株を大変な費用と手間をかけて輸入される時代に、現地の業者が相変わらずのぞんざいな扱いを続けているのは非常に腹立たしいのですが、愚痴を言っても仕方ありません。
かつてそんな状況を憂慮した日本の専門業者が現地に出向いて自分で根を整理して輸入しようと試みたことがあったそうですが、何らかの違反行為であるとされて断念したことがあると聞いたことがあります。おそらく現地の利害関係者による妨害だったのだろうと想像しますが、そんな状況ですから今後も根がしっかりメンテされて輸入されるなんて事は無いと思った方が良いでしょう。
根を点検し、ちぎれている根の切り口がなるべく小さいこと。触って見て堅さがあり、赤い部分が全くないのが理想ですが、なかなかそのような株は見つかりません。
根が裂けて、維管束が赤くなっているような苗は避けるべきです。
輸入されるサボテンの内のどれくらいが既に駄目な状態になっているかは輸入の度に違いますが、良い場合で10%前後、悪い場合は半数以上に達するだろうと思います。
せっかく発根しても、1〜2年の内に腐ってしまう場合の殆どは既に赤腐れが入っていたサボテンで、発根し、水を吸い上げると同時に赤腐れも一気に進行してしまった結果です。
でも、根の点検ばかりは現物を見て判断するしかなく、この点で、輸入業者から遠い地域に住んでいる人の不利は埋めようがなく、運を天に任せて、買ってから適切な対処をするしかないでしょう。
また、もし実際に現物を見て買う場合でも、どうも根が危なっかしいが、タイプがとにかく良いからなんとしてもその球を買いたいと言う場合もあるでしょう。
それについての対処方法について次で触れる事にします。
とにかく少々遠くても、輸入球を買う場合は出来る限り現物を見て買うようにするべきと昔から言われる理由は、この根の問題が大きいのです。

 

2.買ってきた輸入球をどうするか

買って来た輸入球はそのまま植え込むか、根を切って点検してから植え込むかを決めなければなりません。
これが実は結構悩みます。

根を切らなくて良いならば、輸入球は長い抜き上げ期間によって根の切口もしっかり乾いていますから、そのまま植え込めば良いので簡単この上なしです。
ところが輸入球の根は殆どの場合は根本から引きちぎられて見るも無惨な状態になっていることが多く、もし球体の奥まで腐れが入っていたりしたらどうしようと思うと、切った方が良いか、あるいは見なかったことにして、あとは運を天に任せて植え込んでしまうか、大いに迷います。
実際、輸入球が自由に安く買えた時代は、そのまま植え込んで様子を見るやり方をする人は多かったです。
枯れたらまた買えばいいやと言う訳です。
更には、たとえ根を切ったにしても、そのあとうまく腐れが止まって発根してくれるとは限りません。切り込みが根にとどまらず、球体まで切らなくてはならなくなると発根が極めて難しくなる品種もありますし、特に成長期の温暖で湿度のある季節では、大きく切ると乾燥に失敗して結局赤腐れで失ってしまうことだってあり得ます。

と言うことで、もしあなたが何が何でもその輸入球を生かしておきたいと思い、根を切って点検する気になったら次に進んで下さい。
そのまま植え込んでしまおうという方はここでお話は一旦終了です。


3.根を養生するための道具を用意する

根を切って点検する気になったら次の道具をあらかじめ用意します。

・根を水平に切る大きめのよく切れる包丁やナイフ
・更にその先をえぐるためのぐりぐり又は代用品
・ベンレートと筆
・瞬間接着剤

ぐりぐり(と言う名前は仙太郎が勝手につけました)は局部的に赤腐れが入っている場合に、そこだけくり抜く事が出来る便利な道具です。
市販はしていませんから手に入れるのが大変なのですが、仙太郎の場合は2年前のサボネットオフ会のプレゼントで分けて頂きました。
市販の大工道具の中にえぐり用のノミがありますが、代用出来るかも知れません。


根の切断用具、包丁とナイフとぐりぐり(写真の一番上)

根は鋭利なナイフで切るのが基本です。                
輸入球の太くて堅い根を切るときに便利なのが家庭用の包丁です。
ぐりぐりは更に局部的に赤腐れが入っている場合などに、そこだけ
くりぬく事が出来る大変便利な道具です。              

4.天候を調べる

根を切る前にその日を含む、1週間後くらいまでの天気を調べます。
その間、出来る限り晴天が続くことが望ましく、特に最初の3〜4日間は晴れが続く日を選びます。


5.輸入球の根の処理方法

以下、実例写真を挙げて説明します。
実例に使ったサボテンは2004年1月に何十年かぶりにアメリカ合衆国から輸入されて来た太平丸の原産地球です。
太平丸でも特にアメリカ太平丸は昔から特に根の扱いのぞんざいなものが多く、長く生き残らせるのが大変だったのですが、今回の輸入球はそれらに比べればずっと良い状態で入って来たと言う事でした。
道路拡張工事の領域に生えていた株を取り除くという特別な事情があったために例外的に輸入出来たと聞いています。
でも、以下に示す通り、仙太郎が購入した株にはやはり根腐れが入っていました。


購入状態の太平丸の根

まずは何もしていない状態の根です。

上の写真は購入してきた状態の根です。
残念ながら今回も鋭利な刃物でスパッと切断された状態ではなく、切れない鉈(ナタ)か何かで引きちぎるように切断してある状態でした。
良く乾燥していますから一見問題ないように見えるのですが、一部に既に赤腐れの染みが見えていますし、ささくれている根は乾燥段階で根腐れが入ってしまうことが大変多いので、切ってみなければ何とも言えません。

 

その1.先ずは洗う

最初に輸入球の球体をよく洗って乾燥することをおすすめします。
こうすると根を切断する際に色々な部分が良く見えるようになります。
水道の蛇口から勢いよく水を出して洗うだけでもよいのですが、石鹸液を使えばよりきれいになりますし、表面の殺菌にもなります。

その2.ささくれがなくなる位置まで水平に切ってみる。

球を洗って乾燥させたら、先ずは根の先をささくれが無くなる位置まで水平に切ってその切り口を調べます。
維管束に赤いシミがなければめでたしめでたしです。
直ちにベンレートを水で濃く溶いたものを切り口にたっぷり塗り、直射日光で数日間乾燥させます。
切り口の直径が1センチ以下ならば、その後日陰で2〜3週間ほどよく乾燥させれば植え込む事が出来ます。
切り口が1センチ以上ある場合は2ヶ月ほど陰干しします。

 

根を少し切り込んだ状態

少し切ってみました。

多数の主根や細根がありますが、それぞれささくれがないところまで切ってみました。
残念ながらそのうちの3本の根に赤腐れが入っており、そのうちの1本はかなり顕著な赤腐れ状態でした。
このまま放置しておくと近い将来に球全体を駄目にしてしまうことは目に見えています。
引き続いて赤腐れの入っている根だけ更に切り込んで行きます。

 

その3.不幸にして赤い染み(赤腐れ)がある場合は更に切り込んで行く。

切り口の維管束に赤いシミがある場合は、それが無くなるまで少しづつ根を輪切りしながら切り込んで行きます。
赤い染みが無くなってもそこから更に5ミリ程度は先まで切るようにします。
目には見えなくても、既に赤い染みの先まで菌が進入していることが多いからです。
切り込んだ結果、まだ根が残っている段階で赤い染みが無くなるようであれば同様に切り口にベンレートを塗って乾燥に入ります。

赤い染み(赤腐れ)はそのまま放置しても大丈夫なタイプと、進行して行くタイプがあります。
赤い染みが固まりになってポロッと取れることがありますが、そのような状態のものならば止まっていますからそのまま放置して問題ありません。牡丹類の輸入球の中によく見られた症状です。
しかしながら慣れないと止まっているタイプと進行して行くタイプの赤腐れの区別が難しいと思います。
慣れないうちは赤い染みがあったらとにかく取ってしまう方が無難と思います。

その4.更に不幸にして根が無くなっても赤い染みがある場合はその先をえぐる。

根の際まで切り込んでもまだ赤い染みがある場合はその先をえぐることになります。
根の際まで行ってもまだ赤い場合は大体がくせの良くない赤腐れと言えます。
そしてこのときに登場するのが先に述べたぐりぐりです。
大工道具のノミの中に似たような形のものがありますが、それを使って患部をえぐり取ります。
赤い染みがなくなるまでくり抜いたら先程と同様、ベンレートを濃く塗って乾燥に入ります。

 

赤腐れの無いところまで切り込んだ状態

赤腐れのない所まで切り込みました

結局、3本の根の赤腐れは球体の際まで達しており、その内のひとつは球体の少し中まで達していた為にぐりぐりで少しえぐらなければなりませんでした。
球体の奥深くまで入っていなかったのは救われましたが、これは輸入球としては極めて一般的に見られる結果と言えます。
今養生すれば助かるが、そのまま放置して植え込んでしまえばいずれ駄目になると言う状態です。
切り込んだ根の表面にはベンレートを水で濃く溶いたものを塗って直ちに乾燥に入りました。

下の写真は同じく根腐れが入った天平丸の輸入球を切り込み、ベンレートを塗って乾燥している状態のものです。
こちらの場合は維管束の一つが深く赤腐れに侵されていたために、更に根の際から先をぐりぐりで奥までえぐっています。
天平丸は根を取ってしまうと発根し難い品種なので、この後の発根作業はもしかすると苦労するかも知れません。

 

深く切り込んだ天平丸の根


 

参考:上記天平丸の4ヶ月後の姿です。
根が出て水を吸い上げて膨らみ
始め、新刺が出て花も咲きました。


 

その5.乾燥中に発生するささくれ対策。

国内生まれの球でも大球になると起こることがあるのですが、太根まで切り込んでしまうと、乾燥の途中で維管束の部分から球体の奥に向かってささくれが入り、それがどんどん進んで裂け目が奥に広がって行き、その裂け目が常に乾燥していないと言う状況に陥ることがあります。
これをそのまま放置しているといずれ赤腐れが発生して十中八九駄目になります。
これが起こり出したら直ちにその裂け目に瞬間接着剤を少量流し込みます。
すぐに裂け目が固められてささくれが止まります。
ささくれているのを長く放置すると裂け目が広がり過ぎ、瞬間接着剤で固めても、その後の根の成長で接着剤が外れて根腐れが入りますから、ささくれが生じたらなるべく早い内に処理します。

 

乾燥中にささくれが発生しました

4.乾燥中にささくれが発生しました。

根の際まで切ってしまうことになると、根を乾燥する途中の段階で田圃のひび割れみたいに裂け目が入り易いのですが、まさに今回もこれが発生しました。
裂け目が現れた段階で直ちにその割れ目に瞬間接着剤を染ませ、割れがそれ以上奥に進行しないようにしてから乾燥に移ります。
乾燥の初期の段階で万が一、雨が降ってしまった場合は発泡スチロールの断熱箱と住まいの乾燥剤を登場させます。
使い方は栽培道具紹介のページを見て下さい。

 

5.植え込みます。

十分に乾燥させたら植え込みます。
仙太郎の場合は根の切り口の周り以外は普通の培養土ですが、根の周りだけ無肥料のバーミキュライトを使います。
根の周りを無肥料にするのは、その方が発根成績が良いからです。
特にバーミキュライトは過湿にならず、且つ長い期間適度な湿度を保ってくれるので、発根したばかりの根が伸びやすいようです。
発根管理中は球体の上に寒冷紗の断片を掛けて体力の消耗を防いであげます。
仙太郎の場合は更にティッシュを1枚かぶせ、それをこまめに湿らせておくようにしています。
輸入球が大量に入ってきていた時代、各地の業者さんの元にはなぜか兜だけはガリガリに痩せてミイラ寸前の株がよく来ていたものですが、それらには新聞紙をかぶせ、常に水をかけて新聞紙を湿らせておくことで株の体力消耗を防いで発根を待つ光景がよく見られたのですが、それをまねしているという訳です。
こうして数ヶ月すると、元気に根を伸ばして球体が膨らみ、成長を始めてくれるようになります。

 

植え込んだ状態の太平丸と天平丸

植え込みました。

根の周りだけバーミキュライトにした培養土に植え込みました。
球体の上にはティッシュをかぶせ、更に寒冷紗の断片を乗せて体力の消耗を防いであげます。



以上で仙太郎流、輸入球の取り扱い方法は終わりです。
何か質問がありましたら掲示板のほうへどうぞ。