<彩雲と赫雲>

仙太郎が99年にサボテン趣味を再開して以来、数多くあった、なかなか再会を果たせなかった品種も既に10年以上を過ぎようとする現在、その多くの品種に再会することが出来ました。
それどころか、昭和のサボテンブームの時代よりも遙かに改良され、立派になった品種にも数多く出会いました。

でも、再会したいと願っているサボテンの中に、いまだにどうしても再会出来ない品種がいくつかあります。
その中でも仙太郎が一番再会したいと願っているサボテンのひとつが彩雲と赫雲(かくうん)なのです。
神戸市芦屋にあった白仙園に金鯱を赤刺にしたようなその姿がずらりと並んでいた光景がいまだに強烈に脳裏に染みついているからです。
それらは全て神戸港に入港する南米航路の船員さんが持ち込んできたものでした。
白仙園の場合は彩雲の方が多く、側刺が細い赫雲と思わしきメロカクタスが入ったことは少なかったのですが、そのどちらもが赤刺を放射した圧倒的な姿でした。

でも、再会出来ない理由は実は分かるのです。
おそらく、日本に入ってきたこのメロカクタスは全滅したのに違いないのです。
理由は簡単で、日本の冬が越せないからです。
これらのメロカクタスが自生しているカリブ海周辺の島々の最低気温は25℃もある常夏の地域なので、無理からぬ事ではあるのです。
白仙園にあった彩雲も趣味家の元に渡った後に生き残ったものはなかったことでしょう。

実は赫雲の方は彩雲よりも少しだけ寒さに強く、原産地球から採取された種によって一時は日本全国に普及したことがありました。
日本実生は原産地球とは比較にならないくらいに刺が細くなってしまうのですが、それでも実生から数年程度は何とか冬を越してくれるので、7〜8センチ程度まで成長させることは可能だったのです。
でもそれ以上は非常に困難で、名人と言われた伊丹さんでも結局維持は出来なかったようです。
仙太郎の元にあった赫雲も結局何回かの冬を越すうちに全滅してしまいました。

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2002年のことでした。
とある縁によってマダガスカル島沖にあるレユニオン島のTropical Gardenという植物園を経営しておられたClementさんから彩雲の種を入手することが出来たことがありました。
早速自分で実生するとともに、5名ほどのサボテン仲間にも配布して日本での再現を試みたのですが、冬の加温を10℃にした程度では駄目だったようで、私が実生した20本ほどの実生苗は2年目の冬を越した時には成長を停止し、3年目には全て消えてしまいました。
2年目の実生苗でもあの赤直刺を放射した姿を彷彿とさせる姿をしていたのにまことに残念です。
他の方の実生も結局生きながらえさせることは出来なかったようです。
すなわちこの時点で冬の最低温度10℃程度ではこのサボテンの栽培は無理だと言う事だけははっきりした訳です。
戦前に、冬でも最低温度20℃を保って彩雲を栽培しておられた方が神戸におられたそうですが、その栽培方法は正しかったようです。





Clementさんが送って下さったメロカクタスの実生1年目の写真です。
初回の冬は問題なく過ごせたのに2年目の冬は・・・・
彩雲(写真中央少し右の直刺のメロ)以外にもいくつかのカリブ海周辺のメロカクタスの種を送って下さったのですが、いずれも冬が駄目でした。


Tropical Gardenはその後、2002年にダイナと呼ばれる島全体の機能を麻痺させてしまった猛烈なハリケーンに遭遇し、壊滅してしまって今では園そのものが競売に出されているようです。
もう一度種を送って頂いて今度は真冬の最低温度20℃で挑戦してみようと思っていた夢は断たれました。

彩雲が自生しているというカリブ海の島々、赫雲が自生しているというキュラソー島はメロカクタスの乱獲が行われると同時に隅々まで開発が進み、これらの品種は絶滅したのではないかとも言われていました。

でも本当なのかなあ。
もう二度とあの姿には出会えないのだろうか・・・・・

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インタネットでGoogle Earthというのが今、非常に評判です。
これは自分の部屋に居ながらにして世界各地の個人旅行が出来てしまうという恐るべきページです。
仙太郎も行ったことがないヨーロッパ各地の風景、エジプトのピラミッドや王家の谷、トルコのカッパドキアやパムッカレ、万里の長城、兵馬俑、アリゾナ隕石穴、ビクトリアの滝等々・・・これまでどれだけ数え切れないほどの世界旅行をしたことでしょう。

そしてある日ふと思いつきました。
これだけ情報満載のGoogle Earthなのだから、もしかすると彩雲や赫雲の今の状況が分かる手がかりが見つかるかも知れない。

カリブ海周辺の島々は残念ながら撮影車が走って景色を集めるStreet Viewと言われる詳しい写真は掲載されていません。
でも、個々の景色を現地の人や旅行者が撮影して個人で登録している写真は満載ですから、それらを丹念に探してみることにしました。

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その日から、カリブ海の島々の掲載写真を片っ端から探してみる作業が始まりました。
そして案の定、航空写真を見ると殆どの島は海岸線までびっしり街や民家、畑やゴルフ場などが埋め尽くし、人の手が入っていないように見える場所は大きな木々が埋め尽くしていて、メロカクタスが生き残っていそうな草原地帯なんてなんて殆ど見つかりません。

それでも熱心に写真をめくっていると、ある日突然、1枚の彩雲の写真に出くわしました。
そのときは本当にうれしかったですよ。
あまりの開発の進み方に、絶滅しているという話は本当かも知れないとうすうす考えるようになっていましたからね。

そうなるとあとは勢いがつきますね。
一気にどんどんめくっていくとまた何枚かの彩雲に出くわします。
その都度、その場所にマーキングしながらカリブ海全域を探しまくると、非常に限られた地域に限定されるとはいえ、彩雲も赫雲もその写真がいくつかの島で見つかったのです。
すなわち現地に今でも生き残っているのです。
うれしかったです。
遠いので、年齢的にも費用的にもとてもじゃないが現地に見に行くことは出来ませんが、生きていてくれたことが分かっただけでもうれしかったです。

見つかった写真のうち、いくつかを掲載してみたいと思います。

彩雲はプエルトリコ本島とサンタクルス島、サンマルタン島に生きていました。
生えている地域は本当に限定されています。
僅かな生息数と思わしきそれらの写真を見ると、今では限られた地域に保護区に囲われて生きながらえているようで、中ではサンマルタン島の保護状態が良いみたいでした。
この島では花座が出ていない若い株もいっぱい見えていることから、ちゃんと繁殖も出来ているようです。
それに比べると、プエルトリコ本島の彩雲は老株ばかりで、実生が進んでいるのかどうかが気がかりです。
囲って残しているだけで、繁殖させようという積極的な意志まではないのかも知れません。




プエルトリコ島の彩雲その1
(いずれの写真もクリックすると大きな写真になります)




プエルトリコ島の彩雲その2




プエルトリコ島の彩雲その3




サンタクルス島の彩雲




サンマルタン島の彩雲その1




サンマルタン島の彩雲その2


彩雲は花座が付いている株はその殆どが50cmを超える大株のようです。
白仙園に並んでいた彩雲は全て20〜25cm位の花座付き株でしたから、あれは原産地で小型で花座を出している若株を選別して採取してきたものだと言うことが今になって分かりました。



そして赫雲の方もキュラソー島の北岸地域で、やはりきわめて限定された地域で見つかりました。
こちらもそこそこ自生していて、やはり保護されて生きているようです。
若株があるので多少の繁殖も出来ているようです。




キュラソー島の赫雲その1




キュラソー島の赫雲その2




キュラソー島の赫雲その3





キュラソー島の赫雲その4


これらの写真を見てまた思いました。
採取されて日本に来ていた赫雲は4枚目の写真のような鮮やかな赤刺の株ばかりでしたから、やはりあれも選ばれた株であったと言うことを。
今現地に残っている赫雲は当時の輸入球ほど赤い刺を持つ株は多くないようです。


赫雲はキュラソー島の固有種と聞いていました。
でも、Google Earthを見るとすぐ近く、東60kmほどの海上にもボネール島と呼ぶ別の島があります。
これくらいの距離なら実を食べた鳥が飛んで行けそうですよね。
もしかすると、と思ってその島も探ってみると・・・ありましたよ。
ここにも明らかに赫雲と分かるメロカクタスが。
ただ、キュラソー島の赫雲に比べると明らかに刺色が浅く、あまり赤くありません。
でも、この島の赫雲の方が良く保護されて繁殖しており、個体数が多いようでした。




ボネール島の赫雲その1




ボネール島の赫雲その2




ボネール島の赫雲その3


こうしてみると、彩雲も赫雲も結構写真が見つかるものです。
そしてどの株もゴツゴツした岩場に生えている株が多いのですね。

これらの島のメロカクタスは将来どうなるのでしょう。
島の開発が更に進めば更に減ってしまうのでしょうか。
温暖な地域で実生を進めて残していくことも必要なのかも知れません。

そして、例えワシントン条約付属書U類であって、将来商用輸入の許可が降りたとしても、もう日本に輸入するべきではないでしょう。
あまりに寒い地域での環境適応力に乏しいからです。
日本でこのサボテンが栽培出来るのはせいぜい沖縄とか石垣島周辺くらい?
アジア圏では中国の福建省とか台湾より南方面でないと難しそうです。
でもアジア圏なら仙太郎のような年寄りでも見に行くことは出来るかも知れません。

・・・と言うことで、沖縄、中国大陸の南方、台湾の皆さん、彩雲と赫雲を育ててみませんかね。
日本本土では栽培することが出来ない貴重種なのですよ。
それが出来たら仙太郎は是非見に行きたいなあ(^^ゞ・・・・なんてね。