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マレーシアの鉄鋼業

Tata Steel マレーシアのSouthern Steel 社の持ち株すべて売却(2010−7−18)

47. ライオン・グループの製鉄所拡大計画(05年9月7日

13. ペルワジャ・スチールの汚職追及は日本の非協力で進まず(03年3月28日)

⇒ペルワジャの元社長、エリック・チア逮捕(04年2月9日)

⇒ペルワジャのエリック・チア元会長に無罪判決(07年6月27日)

⇒アヌワール党首、ペルワジャ疑惑を改めて追求(08年11月11日)

13. ペルワジャ・スチールの汚職追及は日本の非協力で進まず(03年3月28日)

マハティール首相の肝いりの国営製鉄会社であった(現在は形式的に民間に移管)ペルワジャ・スティール社は事実上破産状態にあり、操業も途絶えがちである。

ところが、ペルワジャ社が破産状態におちいる過程において、経営陣による汚職疑惑が発生し、現在も首相府に属するACA(汚職追求委員会)が実態を調査中である。

マレーシア国会の野党(PAS)議員のフシャム(Husham Musa)氏の追及に対し、ASAのライス(Rais Yatim)氏は「日本の金融当局が協力を拒んでいる(真偽は不明−筆者注)ため調査が進んでいない」と回答した。

 

⇒ペルワジャの元社長、エリック・チア逮捕(04年2月9日)

ペルワジャ・スチール社の元社長で汚職疑惑が取りざたされていたエリック・チア(Eric Chia)氏が4月9日ついに逮捕された。

エリック・チア氏はマハティール前首相のクローニーと目されていた人物で、経営状態の良くなかったペルワジャ社に1988年に社長として送り込まれたが、在任期間中にさらに経営状態を悪化させ、95年に解任された。

当時から、汚職疑惑をもたれていたが、マハティール首相在任中は逮捕を免れていたが、バダウィ首相になってから本格的に司直の手が伸びたものと思われる。

今回の逮捕はコンサルタント・フィーとしてベルワジャが日本のNKKに支払ったとされる7,640万リンギ(約21億円)は香港のトンネル会社(Frilsham Enterprise Inc.)に振り込まれ、それが実際はスイスの銀行に預金されていた事件が中心になっている模様である。

上に見るように、日本企業もぺルワジャとの取引関係があったことは間違いなく、またマハティール自身も追及の矢面に立たされる可能性がある。

ペルワジャ(Perwaja)スチールは1982年HICOM(マレーシア重工業公社)と新日鉄との合弁で東海岸のトレンガヌ州に設立されたが、還元製鉄設備がうまく稼動せず、結局日本側は賠償金を支払い手を引いた。

その後、マレーシア政府はさまざまなテコ入れを行ったが、結局うまくいかず、96年には約30億リンギの累損を抱え破産状態に陥った。その後民営化されたが、依然として経営不振は続 き、昨年閉鎖されたが110億リンギ(約3,080億円)の累損を残した。

(malaysiakini,03年10月27日、04年2月9日)

表13ペルワジャ社の損失状況

  1997 1998 1999 2000 2001
損失(百万リンギ)  617.4  465.3  330.9  300.6  320.9

(04年2月9日)

 

⇒エリック・チアの裁判開始(04年8月12日)

ようやくペルワジャ・スチールの元会長であり、マハティール前首相のクローニーであるエリック・チア(Eric Chia=華人)の裁判が8月11日から始まった。

冒頭明らかにされたことは日本の鉄鋼会社NKK(現JFEホール・ディングス)からエンジニアリング・フィーとして支払請求を受けたとされる7,640万リンギ(1リンギ=約30円)の文書が偽造(94年2月22日付)だったことである。

文書には当時NKKの常務であった大谷長氏(現JFE代表取締役副社長)のサインがあるが、筆跡鑑定の結果これが贋物であったことが判明した。当時からNKKは寝耳に水の話だとして事件との関わりを強く否定していた。

もちろんNKKは当時ペルワジャに対して条鋼ミル設置のエンジニアリング・フィーとして7,640万リンギの請求権は持っていたが、それを一括払いにするような要求を出しておらず、かつ香港の振込先といわれるFrilsham Enterprise Inc.の存在など知らなかったといっている。

こんなわけの分からない会社に取締役会の決議も経ないで勝手に送金したのはエリック・チアの責任である。

 

⇒ペルワジャのエリック・チア元会長に無罪判決(07年6月27日)

マハティーる前首相の「重工業化政策」の看板企業であったペルワジャ・スチール社のエリック・チア元会長に対する「横領もしくは背任行為」に対する裁判がおこなわれていたことは上に述べたとおりである。

その判決が忘れた頃になって昨日(07年6月26日)ようやく下された。結論はエリック・チア被告は証拠不十分で横領および背任行為ともに「無罪」という誰もが予想できなかった(ある意味では予想通り)あきれはてた判決であった。

この裁判はマハティールのクローニー(利権仲間)が裁かれる唯一のケースとして注目されていた。これはアブドゥラ・バダウィ政権になってようやく実現した、マハティール政権下の汚職追求裁判でもあった。

しかし、公判が04年8月に始まって以来、証拠調べや証言が遅々として進まずに、それから3年近くたって、突如「無罪」判決が出たのでる。これは検察側がはじめからあまり熱心でなかったセイだとも言われている。

また、判事側もこういう判決を出すであろうと見られていたフシもある。

要するにマレーシアの司法制度自体がアヌワール裁判を見ても分かるとおり「政治的に偏向し」ており、特にマハティールがらみだと最初から「結論は分かっている」という感じをぬぐえない。

エリック・チア以外にもマハティールのクローニーには多くの疑惑が寄せられている。もと財務相のザイヌディンなどはその一人ではあるが、誰も手を出せないでいる。

インドネシア同様、マレーシアの裁判所もなかなか怖い存在であることを改めて浮き彫りにしたのが今回の判決である。

1957年の独立当初はイギリスの裁判制度の訓練を受けたマレーシアの司法当局は比較的高い評価を受けていたが、マハティールが出てきてからすっかりおかしくなってしまった。


⇒アヌワール党首、ペルワジャ疑惑を改めて追求(08年11月11日)

マレーシアの最大野党PKR(人民正義党)のアヌワール・イブラヒム(Anwar Ibrahim)党首は2007年の会計検査院の「政府が救済した国家関連企業」についての報告書で、1998年から2007年までに39億リンギ(≒1,065億円)支出した元国営製鉄会社のペルワジャ(Perwaja)スチールについて、多くの疑惑が未解明であるとして、国会で追及していくことを表明した。

その1つは「国会の承認を得ることなく、「従業員年金基金」(Employees Provident Fund)から数十億リンギの資金を出している。これについては政府からメディアも「沈黙」を強いられてきた。」ということである。

ペルワジャ(Perwaja)スチールはマハティール前首相のペット・プロジェクトというべきものであり、1982年HICOM(マレーシア重工業公社)と新日鉄との合弁で東海岸のトレンガヌ州に設立されたが、還元製鉄設備がうまく稼動せず、結局日本側は賠償金を支払い手を引いた。

その後、マレーシア政府はケダ州クルン地区に条鋼工場を設置するなど、さまざまなテコ入れを行ったが、結局うまくいかず、96年には約30億リンギの累損を抱え破産状態に陥り、最終的に110億リンギ(約3,000億円)の累損を残した。

これは、アヌワールが副首相兼財務相時代に問題が表面化し、アヌワールはプライスウォーターハウス・アンド・クーパーを使い実態解明を行った。その調査レポートによると「経営上の失敗以外に、汚職・権力乱用」などが指摘された。しかし、マハティールは「臭いものにフタ」をしてしまった。

その後、マハティールの子分のエリック・チアが経営をおこなったが、これまた経営に失敗し、汚職疑惑で告発されたが証拠不十分で無罪になったのは上に見るとおりである。

(malaysiakini 08年11月11日参照)


47. ライオン・グループの製鉄所拡大計画(05年9月7日)

マレーシアの華人財閥ライオン・グループ(会長ウィリアム・チェン)はメガ・スチールという電炉ー薄板ミニミル(熱延+冷延)製鉄所をセランゴール州のバンティン(Banting)に持っているが、現在の粗鋼規模、年産480万トン (グループ全体)を780万トンに拡大する意向を明らかにした。

既に鉄源製造設備としての「還元鉄」設備(年産能力154万トン=06年末完成予定)の建設を開始した。これによって良質の鉄源が確保され、高級鋼の生産を目指すとしている。 なお現在もサバ州の子会社から還元鉄の供給を受けている。(下表参照)

この拡張計画には高炉(投資資金12億リンギ=360億円)と発電設備(同160億リンギ=480億円)が含まれるという。圧延設備には何が含まれるかは明らかではない。

投資総額は50億リンギ(約1,500億円)を予定しているという。これくらいの金額で高炉を含む300万トンの追加能力ができるとは到底考えられないが、何とかマレーシア政府を巻き込んで、外国からの鋼材輸入を制限しつつ独占利潤を確保していこうというのが狙いであろう。

現在のライオン・グループの鉄鋼部門の売り上げは年間62億リンギ(1,860億円)であり、今日までに投じた資金は56億リンギに達するという。

ライオン(Lion)・グループの企業としては

Megasteel, Amsteel Mill Sdn Bhd, Antara Steel Mills Sdn Bhd, Bright Steel Mills Sdn Bhd, Lion Plate Mills Sdn Bhd, Lion Steelworks Sdn Bhdなどがある。この中でMegasteel が問題の薄板のミニミルである。

ライオン・グループは1997・8年の通貨・経済危機に際して、経営が危機状態に陥り、マレーシア政府に泣きつき薄板の関税を50%にしてもらうなどの措置によって何とか息をつないできた。その間、中国で所有していたビール会社を売却するなどしてピンチを切り抜けてきた。

昨今は鉄鋼産業が世界的に好調なため、ライオン・グループも息を吹き返してきたものと思われる。

薄板の50%という桁外れの高関税は関連需要産業の国際競争力を失わせたことは間違いない。いずれにせよ、この計画がマレーシアの国民経済上、何らかのメリットをもたらすとは考えにくい。

(http://thestar.com.my/ 05年9月7日参照)

Lion Group 企業・設備一覧

設備名 年間生産能力 稼動・完成年月 メーカー名他
Megasteel(Banting) 元鉄 154万トン 2006年末完成予定 MIDREX
電気炉No.1 160t 250万トン(No1+No2) 99年9月完成
電気炉No.2 160t
連続鋳造 薄スラブ
熱延広幅帯鋼ミル 250万トン 99年稼動 SMS
冷延広幅帯鋼ミル 140万トン 05年1月完成 ティッセン・クルップより移設
調質ミル(スキンパス)
酸洗ライン
Amsteel(Saba州) 還元鉄 66万トン 84年4月 Saba Gas Ind.を92年合併
     (Banting) 電気炉No.1 180t 120万トン
棒鋼・線材ミル 50万トン 01年6月稼動
     (Klang) 電気炉No.1 85t 75万トン 82年稼動
連続鋳造ビレット6ストランド 75万トン ダニエリ
棒鋼ミルNo1,中小形 15万トン 79年稼動
棒鋼ミルNo2 35万トン 82年稼動
線材ミル 35万トン 83年稼動
Antara Steel(Johore) 電気炉No.1 100t 54万トン スペインの中古 01年4月Amsteelが買収
連続鋳造ビレット6ストランド 54万トン
形鋼ミルNo1とNo2、中小形 2万トン
棒鋼ミルNo1 54万トン 81年稼動 ダニエリ
Lion Steel Plate Mills 厚板ミル 25万トン 96年2月完成、99年10月停止 03年3月、Gunawanより買収

資料;日本鉄鋼連盟資料室データより作成

なおBright Steel Mills Sdn Bhd,は磨き棒鋼メーカーであり、シャー・アラムに工場がある。


Tata Steel マレーシアのSouthern Steel 社の持ち株すべて売却(2010−7−18)

Tata Steelはシンガポールの子会社NatSteel(電炉ー鉄筋棒鋼)を通じて保有していたマレーシアのSouthern Steel Berhadの持ち株27.03%を2010年7月に売却すると発表した。

売却予定価格は7,200万米ドルを見込んでおり、証券取引委員会の承認待であるという。

Southern Steel社はペナン島対岸のプライに工場を持つ電炉ー棒鋼・線材メーカーであり、年産130万トンの生産能力を有する。ヒューム・インダストリーが最大株主である。

1963年創業の会社であり、タタとしても同社の少数株主であることの意義が見いだせないまま売却に踏み切ったものと思われる。売却先は明らかではない。

なお、タタはタイで50トンの小型高炉を稼働させている。