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マレーシアの外国人労働者

.不法滞在労働者に対する暴挙(02年7月31日)

 

3-5.マレーシア、1年以内に外国人労働者を40万人削減方針(08年6月7日)

3-4. 外国人労働者の受け入れルールを改正(05年5月27日)

3-3. 不法滞在者狩りを強行、560人を逮捕(05年3月4日)


3-2.インドネシアとの間に出稼ぎ労働者協定締結(04年5月11日)


3-1.不法滞在外国人労働者の強制退去、猶予期間を1ヶ月延長?(02年7月31日)

マレーシアにはかって200万人近い外国人労働者が存在し、彼らは最下層の労働者(家事手伝いを含む)としてマレーシアの経済発展に貢献してきた。しかし、そのなかには60万人の不法滞在者が含まれていた。  

7月末間でに出国した人数は43万人といわれ、なお20万人が未出国と推定されている。合法的出稼ぎ外国人労働者は85万人といわれている。

マレーシア政府は今年の3月頃から彼らの取締りを強化し、本国への強制送還を始めた。その大多数はインドネシア人であり、他にインド、バングラデシュ、パキスタン、ビルマからの労働者もいた。

マレーシア政府は7月31日までに出国するものには刑罰(6ヶ月間の禁固刑+6回の鞭打ち刑)を科さないとしていたが、人数が多すぎ、インドネシア政府は軍艦3隻を現地に送るなどして対応していたが、とうてい間に合わないためさらに猶予期間を1ヶ月間延長することを決定した(否定報道もある)。

インドネシア国内では「鞭打ち刑」に対する反発が、われわれの想像以上に強く、万一マレーシア政府がこれを実行すれば、相当深刻な国際問題に発展する恐れがある。

鞭打ち刑はもともとイギリスが植民地時代に持ち込んだ刑罰で薬剤を滲みこませたラタン(蔦)で編んだ太い鞭で背中を叩くもので、一撃されるとたいがいは失神し、しかも一生その傷が残るといわれている。

これはシンガポールで多用されてきた刑罰であり、鞭打ち1回よりは1年の懲役のほうがましであるとさえ言われているものである。 日本人も麻薬を持ち込みこの鞭打ち刑をくらった者がいた。

不法滞在労働者がマレーシアにいかなる「実害」を与えたかは知らないが、このような刑罰を考え付くのはいかにもマハティールらしいやり方である。

マレーシアの経済はこのような人々によって支えられてきた側面があるのは間違いない。マレーシア政府にはもっと人道的な配慮を望みたくなるのは筆者のみであろうか。

少しぐらい不況になったからといって、さんざこき使ってきた彼らを野蛮な「鞭打ち刑」で脅して、強制退去させるなどというやり方はどう考えても人道に反するし、常軌を逸しているといわざるを得ない。あるいはマレーシアという国はわれわれが外で考える以上に「政治・経済的危機」に陥っているのであろうか?

この問題の処理をマレーシア政府が誤れば周辺諸国との関係は悪化するし、マレーシアへの外国人労働者の流入自体今後影響を受けることは確実である。もしそうなれば、マレーシアに進出している外資系企業(日系を含む)の経営にも大きな影響を及ぼしかねない。

(02年8月6日追加) 早くも建設現場では人手不足が問題に

マレーシア製造業連盟は政府にたいし、「不法滞在労働者の追放によって人手不足が生じており、経済に打撃を与えている」と警告した。過去4ヶ月間に32.2万人の不法滞在者が出国した。彼らの多くは建設現場で働いており、建設工事に大きな支障が出てきている。 建設労働者の80%は外国人労働者であり、そのうち70%がインドネシア人である。 (http://www.malaysiakini.com 8月6日付け)

しかし、マレーシア政府は別な考えかたをしている。というのはこれらのインドネシア人は治安対策上問題があると考えているフシがある。昨年もインドネシア人労働者が暴動をおこしたし、イスラム系野党(PAS)勢力やマレー人の下層階級と結びつくかも知れないからだ。

(02年8月7日追加) フィリピン人の虐待に上院議員が抗議

フィリピン上院議員たちはマレーシア政府のフィリピン人不法滞在者に対する虐待に強く抗議した。30人乗り程度の小さな漁船に60人の子供を含む127人を乗せ、むりやり出航させた。そのうちのあるものは家畜のように肌に焼印を押されていたといわれる。これが友好国の国民に対する仕打ちだろうかと彼らは怒っている。

かれらは幸いフィリピン海軍の艦艇に発見されて助けられた。もし海が荒れていたら海難事故につながった可能性もあった。

マレー人一般は極めて温厚な人々なのだが、マハティールとその手下はこれぐらいのことはやりかねない。誤報であると私は信じたいが、前副首相アヌワール・イブラヒムへの残酷な処遇をみればありうることかもしれないなと考えてしまう。「ASEANの地域統合論者」よこういう事態をどう見る。

また、シンガポールに隣接するジョホールバルでは農家の人手不足により野菜の収穫が間に合わず30%以上も値上がりしているという。

タイ南部では5万人ほどのタイ人労働者が帰国しているが、こちらは今のところたいした騒ぎは起こっていないようである。

(02年8月8日追加)インドネシアのバリ島をマレーシアのマハティール首相が訪問し、昨日からメガワティ大統領と会談している。これにはタイのタクシン首相も加わることになっている。会談の目的は「ゴム価格の3国カルテル」の締結である。しかし、当然「不法滞在労働者」問題も議論されると見られる。

しかし、メガワティがどの程度の言い方をマハティールにしたかは不明である。

(02年8月19日)実際に鞭打ちの刑は数人のインドネシア人に対して実行された模様で、国際アムネスティ、インドネシア国民評議会議長アミアン・ライスおよびマレーシアの国民正義党党首ワン・アジズからも非難の声が上がっている。

(02年8月21日)このアミアン・ライス議長の発言はかなり応えたようで、マハティールをはじめ、御用新聞の論説までもが、悪いのはインドネシア人のほうだなどと反発している。マハティールはこの「鞭打ち刑(Cane)」はシンガポールがやっているからまねしただけだといっている。

問題は、無力な弱者に対して非人道的刑罰を課すことの是非である。マハティールはそういう面では残念ながら理性を欠いているといえよう。

もし実際に鞭打ち刑が実行されれば、インドネシア国民のマレーシア政府への反発が今後激化していくことは避けられず、ASEANの「地域統合(?)」に大きなヒビが入ることになろう。結局インドネシアを敵にまわして損をするのはマレーシアである。

(02年8月25日)9月には両国の閣僚ベースで本件は話し合われ 、月末には何らかの協定が結ばれるとインドネシア政府は述べている。48万人のインドネシア人非合法労働者のうちすでに70-80%は帰国したという。

現在、@全く合法的書類ももっていないもの、Aパスポートやビザだけはあるがワ−ク・パーミット(労働許可証=日本にこの制度はない)をもっていないもの、B書類はあるが雇用者から逃亡してしまっているもの(パスポートなどは取り上げられてる)、C帰国費用の工面ができず隠れているものなどのケースが考えられる。

外国人労働者を欠かせないのはマレーシアの企業家である。何とか理性的な対応がなされるよう祈りたい。ちなみに日系企業は非合法に労働者を 雇用しているケースはない(日本国内では労働許可証制度がないためかなりおこなわれているようだが)。

マレーシアの建設現場の労働者は90%がインドネシア人であり、そのうち約半分が不法滞在者であったといわれる。

(02年8月27日)ジャカルタのマレーシア大使館の門柱がインドネシア人のデモ隊(40名程度)によって引き倒されるという事件が26日に起こった。警官隊はデモ隊を追い返したが、抗議文は大使館員に渡された。マレーシア政府は早速マレーシア人のインドネシアへの渡航の自粛を呼びかけている。

また、インドネシア人労働者をマレーシアに斡旋する業者が数郭の不法行為を働いていたとしてインドネシア国内で取調べを受けている。実際に「鞭打ち刑」が実行されたということになると、インドネシア人はかなり激昂することは明らかである。必然性を欠く過酷な刑罰はやめたほうがいい。

(02年8月28日)フィリピン人の子供13名が死亡した。これはサバ州の不法滞在労働者の強制引き上げキャンプ地と帰りの船上での悲劇であった。死因は収容中の非衛生な処遇にあったとフィリピン側は主張している。マニラでは激しい反マレーシア・デモが起こっている。

マレーシア政府は「非人道的な処遇はしていない」と強弁しているが、「鞭打ち刑」まで科すことをあえておこなっているマレーシア政府は「偶発的事故」といっても納得してはもらえないであろう。これはまさにマハティール的な非人道主義的政策による悲劇であるという思いは多くのフィリピン人には残ったであろう。

必要なときは黙認していたこれら多くの「不法滞在労働者」をいったん不況になったら「罪人」として鞭打ち刑の恐怖で追い回し、一挙に強制送還し子供を死に至らしめた責任は重い。

また、28日のBBCの伝えるところによるとサバ州に隣接するインドネシア・東カリマンタン州のNunukan収容所では少なくとも24名のインドネシア人が死亡した。

これらの報道はマレーシア政府が公式に確認したものではないが、マレーシア(マハティール政権下の)はついこの間まで副首相だったアヌワール・イブラヒムを失脚するや否や牢獄にぶち込み顔に黒あざができるほどぶちのめした国である。

無力な不法居住者に対してまともな人間としての取り扱いをしているのかどうか大いに危惧されるところである。

(02年8月30日)フィリピンではついに実際に鞭打ち刑にあった人の背中の痛々しい写真が報道された。

今回の事件は政府間レベルではしかるべく「妥協」が図られるであろうが、国民レベルではそうはいかなくなるであろう。

(02年9月1日)マレーシア政府の不法滞在者追放措置が始まってからインドネシア人は64名が死亡したと9月1日付けのジャカルタ・ポストは報じている。現在も東カリマンタンのヌヌカン収容所には2万2千人が 帰郷待ちをしている。収容設備が貧弱なため寝る場所にも事欠き、病人が多発している。

医療スタッフは10名しかおらず,そのうち実際に仕事ができる人は3名のみで医療活動は極めて不十分である。インドネシア人はこれを「国民的災害」という言い方をしている。メガワティはいったい何をやっているのだという声はやがて出てくるであろう。

メガワティはこの緊急時にヨハネスブルグの「環境・開発サミット」に111名の大勢の随員を引き連れて出張中であり、帰途には6カ国ほど訪問してくるというノーテンキぶりである。本人の勘も鈍いが取り巻きも悪い。インドネシア人のエリートは国民の災難に無関心だといわれても仕方がない。

一方、アロヨのほうはもっと気が利いていてマハティールに直接電話談判をして、これ以上の不法滞在者の追及と強制送還を見合わせるように了解をとりつけ、支援スタッフも増派することにした。

これとは別に、フィリピンの海外出稼ぎ労働者団体のうち81グループはマレーシア製品のボイコット運動をおこなうことを決定した。日本企業のマレーシア製電気機器など影響を受ける可能性もでてきた。

(02年9月6日)サバ州コタキナバルの収容所で13歳の少女がマレー人の警官にレイプされたという事件が起こり、アロヨ大統領は第2弾の抗議文をマハティール首相に送りつけた。

これにはさすがのマハティールも大至急事態を調査すると返信した。この問題が事実だとするとフィリピンはいっそう激昂し何が起こるかわからなくなる。フィリピンのメディアは今のところあまりセンセーショナルな記事は書いていないもようである。

これ以外にもキリスト教徒の複数の女性がマレー人警官(イスラム教徒)にレイプされたという報道もある。

問題の根底には裕福な(?)マレーシア人が極貧のフィリピン人やインドネシア人を見下す態度があることであろう。

また、これを機にフィリピンのサバ領有権問題を再提起すべしという世論が急浮上している。

(02年9月19日)建設部門の労働許可証を50万人分発給することを公表

今回の不法滞在労働者追放劇で実際に大被害を受けたのは追放された労働者とマレーシア国内の建設業者であった。建設現場は80〜90%が外国人労働者によって作業がおこなわれており、その大半が不法滞在者であった。

マハティールはマレーシアの労働組合の要求にそう形で彼らを追放したが、マレーシア人自身は失業者であっても3K職場では働きたがらないのである。結局のところ立場の弱い人々をいじめた結果に終わり、建設業界も参ってしまった。

急遽、50万人分の労働許可証を出すから、改めてパスポートなどの正式なドキュメントを用意して働きにこいということになった。

結局、マレーシア政府は369千人の新規外国人建設労働者の雇用を認める決定をした。(10月28日malaysiakini)

全く呆れた話である。こうなることくらい事を起こす前にマレーシア政府は判っていなかったのであろうか。100名を超える死者を出したり、多くの悲劇を生んだ責任をどうするつもりなのだろうか?これが「ASEANの結束」とか「友情」の実態である。地域統合論など「夢物語」以前の幻想にしかすぎない。

⇒ 不法滞在外国人労働者追放は経済に大きな傷跡をのこした(02年11月14日)

マレーシアのデベロッパーは労働者不足による納期遅れのペナルティーだけで12億リンギ(3.15億米ドル)の損害が予想される。マレーシア不動産業協会(REHDA)は建設部門の今年の成長率の予想の3.8%は実現が危ぶまれ、GDP成長率にも-0.5%の悪影響がでると予測している。

マレーシア政府は369千人に労働許可証を新たに発給し、追放した労働者の復帰を図っているが、10月半ばまでに入国したインドネシア人労働者は38千人に過ぎないとしている。

現在、建設中のプロジェクトの90%は人手不足のため30〜40%の稼動状況であるといわれている。(11月14日ジャカルタ・ポストの記事による)

(03年1月28日) 鞭打ち刑は非人道的である−マレーシアの人権委員会が表明ー外人労働者の使用制限を緩和

遅ればせながらマレーシアの人権委員会(Suhakam)のモハマド・ハムダン・アドナン(Mohd Hamdan Adnan)委員長は本日「不法移民労働者に対する鞭打ち刑は残忍で非人道的行為であるから政府は再考すべきである」という発言をおこなった。

鞭打ち刑を科すると国外追放が遅くなるというのも今回の声明の理由の1つらしい。というのは1度鞭を打たれるとなかなか傷が癒えず、次の鞭打ちまでに相当な日時を要するからだという。あきれ返った話しである。マハティールという人は一度頭にくると自制が利かなくなるタイプの人物らしい。

強制送還が必要なら、さっさと捕まえて送り返してしまえば済むことである。強制収容所に入れられてから事務手続きがもたついて1年も拘留されている人もいるという。

また、近々マレーシアは建設部門と製造業部門の人手不足を解消するためにインドネシアなどからの外国人労働者の雇用制限を撤廃するとバダウィ副首相が言明したとインドネシアのテンポ紙(1月28日)は報じている。

こんなことなら、昨年の「強制送還」騒ぎを起こす必要はなかった。少しだけ削減すればこと足りたはずであり、100名もの死者を出す意味がいったいどこにあったのだろうか。もっとも米国のブッシュ大統領はこれから何千,何万もの人殺しをやらかすべく必死の形相であるが。

 

3-2.インドネシアとの間に出稼ぎ労働者協定締結(04年5月11日)

04年8月10日以降、マレーシアの雇用者はインドネシアの労働者供給会社から月間1,000リンギ=263米ドル(1米ドル=3.8リンギ)で労働者を雇うことができるという覚書協定を両国が結んだ。

インドネシア側は労働・移住相ジャコブ・メワ、マレーシア側は人的資源相フォン・チャン・ウォンが覚書に署名した。

従来マレーシアの雇用者はマレーシアの仲介業者経由でインドネシア人労働者を雇っていたが、間に何人もの仲介業者が介在し、かつ違法労働者の温床にもなっていた。

違法労働者は50万人以上に達していると見られている。

覚書によればインドネシア側の人材会社は出国前に必要な教育を施し、パス・ポートなおの必要書類を整えた上、マレーシアに送り出すという。インドネシア人労働者は第1回目は3年間の滞在を許される。

⇒再び不法出稼ぎ労働者の強制送還宣言(04年7月30日)

マレーシア政府は何を考えたか今年7月はじめ、不法滞在労働者を捕まえて本国に送り返すことを宣言した。2年前にはこれが大事件になり、インドネシアとフィリピン国民からは強い反発があったことは記憶に新しい。

鞭打ち刑を行うという蛮行が一部実施され、マハティールの残忍性が近隣諸国の反発を買い、マレーシアの立場はASEAN内部でかなり悪化してしまった。

その埋め合わせということでもないであろうが、マハティールは必要以上に反米発言(イラク戦争、パレスチナ問題)を繰り返さざるを得なくなたという感じさえする。

今回も100万人はいると推定される不法滞在者を逮捕して前回と同様に強制送還するという方針のようだ。そのうちインドネシア人は約60万人いると推定され、それだ直ちに実行されれば、大統領選挙の最中に大問題が発生することになる。

SBYもメガワティも対マレーシア外交で強硬方針を打ち出さざるをえず、マレーシア政府にとっても大きなマイナスになることは間違いない。 マレーシア政府はインドネシアの大統領選挙期間中は猶予するとは言っているが、一部帰国者が出始めている。

そればかりか、もっと深刻な打撃を受けるのはマレーシアの輸出産業である。エレクトロニクス製品ばかりではなく、中国特需で輸出が伸びているパーム油とかゴムの生産にも支障をきたすことは間違いない。

もともと人口の少ないマレーシアが将来とも生き残っていくためには外国人労働者に依存せざるをえないのである。特にインドネシアの低賃金労働力をうまく使っていかなければ中国やベトナムにとことんやられてしまう。

マレーシア政府は「不法労働者」を「合法手続き」させて正規の外人労働者にするのだといっているが、強制収容→強制送還という手順になれば前回と同様の問題を起こすことは容易に見て取れる。

前回は収容所内部で多くの病人や死者を出したのである。また、マレー人警察官による婦女暴行事件も起こったのである。

 

3-3. 不法滞在者狩りを強行、560人を逮捕(05年3月4日)

マレーシア政府は3月2日に全国的に不法滞在労働者狩りを行い、5,521名を取り調べ、うち563名が不法滞在者であるとして逮捕した。既にマレーシア政府は不法滞在者であっても自ら出頭し、自主的に帰国したものについては再入国ビザを与えるとして帰国を勧めている。

その結果、40万人が帰国を許可され、帰国したものもいれば、収容所内にとどまっているものもいる。収容所内にとどまっているものの多くは、雇用主が賃金を支払わないためであるといわれている。

不法滞在者と知りながら雇用し、彼らの法的立場が弱いことを良いことに、低賃金で働かせたり、賃金をロクに支払わない悪徳雇用主が後を絶たないのが現実である。

なぜそうなるかといえば、不法労働者を雇用しても、雇い主はほとんど処罰を受けないからである。

マレーシアには現在も約100万人の外国人労働者がいるといわれる。そのうち20万人〜40万人が不法滞在労働者であるといわれている。その多くはインドネシア人で、ついでフィリピン、バングラディシュ、ビルマ、パキスタンなどから出稼ぎに来ている人たちである。

2002年7月ごろから始まったマハティール前首相の不法滞在者に対する残酷な取扱いは、東南アジアにおけるマレーシアの立場を悪化させ、現在のアブドゥラ・バアダウィ政権になってからはインドネシアなどとは友好的な話し合いがされるようになってきた。

今回、逮捕された560人については従来通りの厳しい罰則を科すといっているが、もしそれを実行したら再びマレーシアは国際的な非難にさらされるであろう。

マレーシアは2004年は中国向けの半導体・電子部品輸出で大いに潤い経済成長率も7%台を達成したが、中国国内の部品の自給率が高まるにつれてマレーシア(タイ、フィリピンも同じ)の対中国向け輸出は先細りである。

そうなると、完成・組み立て品でもある程度中国と勝負できなければマレーシアの生きていく道はだんだん狭くなることは自明である。ただし、マレーシアは幸運にも隣国インドネシアに豊富な労働力(人口2億4千万人)が存在する。言語もほぼ共通している。

彼らをうまく取り込み、活用していけばマレーシアはまだまだやれるはずである。それを敵対的に排除していくメリットがどこにあるのか私などには到底理解できない。たしかに低賃金労働力が入ってくればマレーシアの下層階級は被害を受けるかもしれない。

では、外国人労働力を受け入れないでマレーシアは経済規模を維持し・拡大していけるのかといえば答えは明らかにノーである。この辺が自力で技術革新を行っていけないマレーシアの厳しさがある(その点、日本はまた別である)。

東南アジアは韓国や台湾と決定的に違うのは、技術は全てといっていいくらい外国資本に依存しているのである。そのためには外資にきてもらわなければどうにもならないというのが現実である。

しかし、政策当局者がそういう現実をどこまで認識しているかは話は別である。タイのタクシン政権などは、地元華人資本最優先で、外資に対してはあまり好意的ではないように思われる。(タクシン政権の項参照)

他の国はタイほどではないが、投資環境を整えるのにはどうすべきか戸惑っているように思えてならない。

⇒深刻な労働力不足(05年3月11日)

マレーシア政府はここ4ヶ月ほどの間に45万人にのぼる不法滞在外国人労働者を追放し、建設現場からは15万人の労働者がいなくなった。また、従来は外国人の不法滞在者はあまり働いていないとされていたエレクトロニクス関連産業でも10万人程度がいなくなった模様である。

これはマレーシアの輸出産業にとって大いなる痛手である。レストランでは店を閉めるところも出てきているという。

(05年3月25日追記)

malaysiakini.comの伝えるところによれば、今現在、製造業で20万人。建設業で15万人、プランテーション(農園)で6万人、サービス業で2万人の労働者が不足しているという。これは国内総生産(GDP)にも直結する。

このところのマレーシアの株価は一向にさえない。理由は輸出の先行き不安もあるが、労働力不足も影響していることは間違いない。石油の値上がりは産油国のマレーシアにとってはプラス材料である。

 

3-4. 外国人労働者の受け入れルールを改正(05年5月27日)

マレーシア政府は2002年から毎年のように不法就労外国人労働者狩りをやり、そのたびに多くの人間に多大な苦痛(強制収容所での非人道的取扱い)を与え、インドネシアやフィリピンなどとの外交関係を悪化させてきた。

被害は人口の少ないマレーシア自身に及び、労働力不足から建設業のみならず輸出産業へも打撃を与えた。しかし、こういう人道を無視した過激な方法が何の利益ももたらさないことを知りながらも一向に反外国人政策を改めようとはしなかった。

この政策の立案者はマハティール前首相である。しかも、手荒く「不法滞在者」を扱うというのもマハティール好みのやり方であった。その被害が国内産業に及ぶなどということは2次的な問題であると考えていたとしか思われない。

しかし、組み立て産業に決定的な打撃を与える「外国人追放政策」は外資企業のマレーシア離れを促進するという結果につながった。このままではマレーシアの経済には展望が開けないことは再三このホーム・ページでも指摘してきたところである。

現在製造業で20万人、建設業で15万人、プランテーション(ゴム、パーム油農園)5万人、サービス産業で2万人は不足しているという。

今回は観光ビザでも入国を許可し、所定の手続き(これまた厄介だが)を経て後に、正式に就労ビザに切り替えられ、かつ「就労許可証(ワーク・パーミット)」も与えられるという基本的なルール改正が行われた。

これは主にインドネシア労働者の再入国を狙ったものである。というのは約40万人近い「不法労働者」が強制送還された後、インドネシア政府はマレーシア政府のかたくななやり方に憤慨し、マレーシアへの出稼ぎを奨励しなくなってしまった。

マレーシアとしては、それではということで急遽パキスタンから20万人入れるというような、労働者の供給源の「多角化」を図ったが、言語や熟練などの問題が多く、雇用者から強い不満が出ていた。そこでやむなくインドネシア人労働者の再入国を促進せざるを得なくなったのである。

特に、前に働いていたインドネシア人の再入国を歓迎し、入国事務所を全国的に拡充し、指紋押捺を課すものの入国を容易にする方向でとり進めるという。インドネシア政府もこれには協力するものと思われる。

マレーシア政府に求められのは「長期的な」労働力政策である。インドネシアの過剰労働力を活用する以外にマレーシアの製造業の発展は望めないということは内外から指摘され続けてきた。多少の景気変動を全て外国人労働者にシワ寄せすると言う近視眼的」なやり方は最早通用しない。


3-5.マレーシア、1年以内に外国人労働者を40万人削減方針(08年6月7日)

マレーシア人的資源相スブラマニアム(S. Subramaniam)氏は外国人労働者の数をぜんざいの220万人から1年以内に180万人に削減したいと語った。

もともと人口(2,700万人)が少ないマレーシアにとっては外国人労働者なしには製造業、建設業、農業(プランテーション)など成り立たない。

今回、政府がこのような政策を打ち出した背景としてはマレーシア経済はすでに「不況局面」に入っており、マレーシア人の失業者が増えているためと考えられる。要するにマレーシア経済は縮小再生産の過程に突入したといえよう。

マレーシア政府はさらに外国人労働者の数を2010年中ごろには140万人に、さらに2010年末までに120万人にまで削減する方針だという。

「気は確かか」といいたくなるような愚挙である。マハティール時代に「不法滞在外国人労働者狩り」をきわめてサディスティックな方法で行い、多数の死傷者を出し、インドネシアやフィリピンから猛烈な反発を受けた経緯がある(上の記事参照)。

マレーシア政府は経済の全体像をどういう形にしようとしているのかまったく理解できない。こういう基本的なコンセンサスができていないのはマハティール政権以来のマレーシア政府の弱点である。