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タイの経済(2001〜2006年)




127-1.タイ0.25%の利下げ、バーツは逆に急騰(07年1月18日)

110-20.06年の上場企業の純利益は12%減少(07年3月7日)

110-19.タイの06年4Q成長率は4.2%と鈍化、通年では5.0%(07年3月6日)

110-17. タイの銀行ー貸し倒れ引当金積み増しで大幅減益(07年1月23日)

110-16.タイの06年11月の貿易収支の黒字が前月比倍増(06年12月21日)

110-15. 異常なバーツ高に中央銀行介入(06年12月6日)

110-13. タイの上場企業は売上増加21%、利益はわずかに1%増(06年11月20日)

110-12. タイの不動産業06年3Qは業績にカゲリ(06年11月16日)

目次

1. 通貨危機以降のタイ経済の回復過程

5. 2002年は5%をやや上回る成長。個人消費と輸出が好調。(02年11月30日)

9. 2002年の自動車生産は584,951台と過去最高を記録(03年1月29日)

28. 03年のタイの経済

 03年1Qの経済成長は6.7%(03年6月18日)

 03年2Qの成長率は5.8%(03年10月4日)

 03年3Qの成長率は6.5%(03年12月18日)

 59. 03年のタイの成長率は6.7%(04年3月9日)

42. 個人の負債が急増ー韓国経済の二の舞の不安台頭(03年11月9日)

49. 03年の自動車生産は74万台に(04年1月3日)

64. 2004年のタイ経済

64-1. 04年1Qの成長率は6.5%にスロー・ダウン(04年6月8日)

64-2. 不動産投資の行き過ぎに警鐘(04年6月13日)

64-6. 04年7月の景気指標は悪化、石油価格高騰が主因(04年9月3日)

64-.7 04年2Qの成長率は6.4%にややスロー・ダウン(04年9月7日)

64-8. 04年3Qの成長率は6.0%にダウン(04年12月8日)

64-9. 11月の自動車販売36.5%増の58,577台(04年12月16日)

64-10. 04年の成長率は6.1%(05年3月9日)

74. タイ中央銀行バーツ売り介入ーさほど効果なし(04年11月26日)

76. 2004年の国内自動車販売は過去最高の626千台(05年1月14日)

81. 2005年のタイ経済(05年4月8日)

81-1.消費者心理の落ち込み急(05年4月8日)

81-2. タイ中央銀行05年成長率を4.5〜5.5%に引き下げ(05年4月29日)

81-3. 05年1Qの成長率は5%以下(05年5月4日)

81-4. 高まるバーツ不安(05年5月18日)

81-5. 05年1Qの成長率は3.3%に鈍化(05年6月7日)

81-6. 中央銀行、金利引き上げ2.5%に(05年6月11日)

81-7. タイ銀行、05年の成長見通しを3.5〜4.5%に引き下げ(05年7月29日)

81-8. 外国からの純直接投資は激減(05年9月3日)

81-9. 05年2Qの成長率は4.4%とやや回復(05年9月5日)

81-10. 金利を0.5%引き上げ3.25%に(05年9月8日)

81-11. 金利を0.5%引き上げ3.75%に(05年10月20日)

81-12. 05年3Qは5.3%とやや回復(05年12月6日)

81-13. 2005年の自動車生産は21%増の112万5千台(06年1月25日)

81-14. 2005年の成長率は4.5%程度にとどまる見通し(06年2月1日)

81-15. 05年4Qの成長率は4.7%、通年では4.5%にとどまる(06年3月6日)

90. 景気対策として3,000億バーツの予算の追加投入を決める(05年6月27日)

109.中国の製造業がタイにとって脅威になり始める(06年1月3日)

110. 2006年のタイ経済

110-1.2006年のタイ経済はさほど期待できない(06年1月5日)

110-2. 政治的混乱によって成長率は3.5%以下に?(06年3月22日)

110-3. 金利を0.25%上げ4.75%に。バーツ高進む(06年4月11日)

110-4. タイの06年1Qの成長率は6.0%と好調?(06年6月6日)

110-5. 06年5月の消費者信頼度指数は4年来の低水準(06年6月12日)

110-6.このままではタイの06年は4%成長はムリ、産業連盟(06年6月29日)

110-7.タイの自動車生産は06年1−5月は18.2%増の49万8千台(06年6月30日)

110-8 タイの06年6月の自動車国内販売は12.4%減(06年7月13日)

110-9. タイの06年2Q成長率は4.9に低下(06年9月4日)

110-10. 06年の外国からの投資は減少傾向、07年はさらに悪化?(06年10月25日)

110-11. タイの消費者信頼度指数は順調に回復(06年11月10日)

110-12. タイの不動産業06年3Qは業績にカゲリ(06年11月16日)

110-13. タイの上場企業は売上増加21%、利益はわずかに1%増(06年11月20日)

110-14. タイの06年3QのGDPは4.7%とやや低下(05年12月4日)

110-15. 異常なバーツ高に中央銀行介入(06年12月6日)

110-16.タイの06年11月の貿易収支の黒字が前月比倍増(06年12月21日)

110-17. タイの銀行ー貸し倒れ引当金積み増しで大幅減益(07年1月23日)

110-19.タイの06年4Q成長率は4.2%と鈍化、通年では5.0%(07年3月6日)

110-20.06年の上場企業の純利益は12%減少(07年3月7日)

127 2007年のタイ経済

127-1.タイ0.25%の利下げ、バーツは逆に急騰(07年1月18日)

127-2.タイの07年1月の自動車国内販売は-23%と激減(07年2月14日)

127-3.タイの1月の輸出は18%の伸び、07年計で12.5%を予想(07年3月23日)

 

1. 通貨危機以降のタイ経済の回復過程

タイ経済は2001年になっても、実質で1996年のレベルにまで回復していないという事実にまず驚かされる。1997年の実質GDP(1988年価格)は3兆1153億バーツであった。それが2001年には3兆587億バーツである。98年にはマイナス10.5%成長であったことが大きく響いている。

その後、徐々に回復過程をたどっているが、輸出主導型の回復であった。通貨危機とその後の経済危機も外資系の輸出産業には何の影響もなかったばかりか、為替の下落は輸出にプラスに作用した。輸出産業が雇用を維持・拡大できたためにタイ経済は徹底的崩壊を免れた。

ただし、バブルに踊った不動産業や建材産業や金融業は大きな痛手を受け、今日に至るも回復したといえる状況にはない。これらのビジネス分野は主に地元資本(華人資本)の縄張りであった。

タクシン首相は華人資本救済に政策の主眼をおいているもようで、外国資本の貢献 にはさほどの評価をしていない。

彼はむしろ父親の母国「中国」を非常に重視していて、ASEANと中国の「自由貿易協定」交渉もタイがASEANを代表して中国との交渉役を引き受けるほどの親密感を示している。

後でわかったことだが、97年の通貨危機の際に首相であったチャワリットは救済を中国に求めたということである。そのチャワリットはタクシン政権下で副首相を務めている。中国の反応はどうであったかは判らないが結果を見るとゼロ回答であった。

こういうナショナリストというよりは華人中心主義的政権のもとでは日系企業はそれなりのやりにくさを感じることもありうる。

最近はタイに自動車産業の投資が集中して、輸出産業として大きく成長しつつあるが、タイから脱出する企業も出始めている。最近の事例では東芝がカラーTVの生産をインドネシアに移す計画だそうである。

表1. 需要項目別国内総支出(1988年価格)の伸び率(対前年比、%)

  1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 '02/1Q 2Q 3Q 4Q
GDP  5.9 -1.4 -10.5 4.4 4.6 1.9 5.2 3.9 5.1 5.8 6.1
民間消費 5.8 -1.4 -11.5 4.3 4.9 3.7 4.7 3.7 3.9 5.2 5.9
固定資本 7.0 -20.5 -44.3 -3.2 5.3 0.9 6.3 3.2 7.5 6.9 7.8
 民間 3.2 -30.4 -52.4 -3.3 16.8 4.7 13.3 8.3 9.9 18.8 16.8
 政府 22.2 10.2 -28.7 -3.1 -9.7 -5.5 -6.8 -6.8 2.5 -8.0 -16.6
輸出 -5.5 7.2 8.2 9.0 17.5 -4.1 10.9 5.1 12.2 13.8 12.2
輸入 -0.6 -11.3 -21.6 10.5 27.3 -5.5 11.3 1.8 13.6 16.6 13.3

 資料出所;月刊「海外経済データ」内閣府編、2002年7月号、03年3月号 、新聞情報

上の表で見ると2001年になってはじめて消費が経済をプラス(輸出はマイナスであった)にしたことがうかがわれる。このへんがタクシンの「輸出には頼らない」と強弁する根拠になったのかもしれない。しかし、輸出が駄目となると、消費だけで成長を持続させることはできない。

2002年に入ってからは輸出の好調と住宅建設、個人消費の好調が経済全体をバランスよく支えている。

依然として輸出の好調が景気の先導役であることには変わりはない。 輸出産業の雇用が不振になれば個人消費にも大きな打撃となるからである。

ただし、ファイナンス・カンパニーがかつて果たしてきた個人向け信用機能が復活・拡大してくれば自動車、住宅、電機製品などの内需はかなり拡大する可能性がある。

中国への投資が偏重することを警戒して、東南アジアへの投資先を考えるとやはりタイが重視される。マレーシアは労働力がネックとなってあまり発展性がない。インドネシアやフィリピンはいまいち安定性に不安がある。ということで最近タイへの投資が目立ってきている。

IMFのおかげでファイナンス・カンパニーの大量閉鎖による個人ローン機能の崩壊や消費抑制政策によって無理やり押さえつけられていた個人消費の自然的回復の余地はかなり残されている。

自動車販売をとっても96年に60万台売れたものが2001年になってもその半分の30万台以下というのは異常である。2002年になってようやくほぼ40万台まで内需が回復した。2003年の自動車の販売はかなり増えて当然である。

2002年のGDPは実質で5.2%の成長となった。2003年の見通しについては(国民経済社会開発委員会)は3.5〜4.5%の成長を見込んでいる。これに対しタクシン首相は6.0%を政策目標としている。(03年3月17日、バンコク・ポスト)

何%になるかは米国の景気動向によって大きく左右されるはずであるが、タクシンは輸出は気にしていないもようである。彼の話の中には輸出や外資の投資動向の話題は出てこない。

 

5. 2002年は5%をやや上回る成長。個人消費と輸出が好調。(02年11月30日)

昨年は米国の不況の影響を受けて、タイの成長率は1.8%という低い伸びにとどまったが、今年は個人消費の伸びと輸出も米国向けなどがやや回復したためプラスとなった。消費関連では長いこと低迷した自動車の売れ行きが好調で、今年は40万台前後まで回復(昨年は30万台弱)する勢いである。

不動産バブルの後遺症で商業ビルは過剰感が残るものの、中所得層以下の住宅が売れ行き好調である。その背景としては通貨危機時に破壊された個人向け金融システムがかなり回復していることが挙げられる。民間銀行も個人への貸し出しが増えている。これはクレジット・カードの普及増加も影響している。

自動車販売のピークは96年の60万台弱であったことを思えば、まだ当時の3分の2のレベルに過ぎないが、ここ数年自動車の売れ行きが鈍かった反動増が、ローン機能の回復に触発されて、期待される。住宅も然りである。

バブル期に建設された高級マンションは過剰であったが、ミドル・クラス以下の一般住宅は慢性的に不足していたのである。特に労働者階級の住宅事情はひどかった。

タイ経済の落ち着きは、住宅、自動車を含めた「耐久消費財」への購買意欲を復活させつつある。その決め手は個人向けローン機能の復活である。

問題は、設備投資である。タイの投資環境の良さは日本でも認識されているが、現在は「中国ブーム」である。東南アジアへの投資はこのところ減少していた。しかし、日系企業の中国投資熱もややさめ気味であり、今後は再度、東南アジアが見直されるであろう。

人件費のメリットは中国もだんだん薄れている。特に、上海周辺はタイやフィリピンを上回りつつある。インドネシアは中国よりもむしろ割安である。

タイの個人消費が今後、経済成長を支え続けられるかというと、それは疑問である。やはり輸出に左右されることになる。輸出産業の雇用がタイの労働市場の安定を支えてきたのである。タクシン政権はその辺の理解が欠けているように思えてならない。

 

9. 2002年の自動車生産は584,951台と過去最高を記録(03年1月29日)

昨年のタイの自動車生産は2000年(459,338台)に比べ27.3%増の584,951台に達した。内訳は1トン・ピックアップ・トラックの382,297台(全体の65.36%)が前年(289,348台)比32.1%の伸びを示した。乗用車は169,321台(全体の28.95%)であり前年(156,066台)の8.5%増であった。残りはバス、トラックなど33,333台である。

このうち輸出向けは180,554台であり昨年実績(175,297台)比3.0%の伸びにとどまった。ただし輸出金額は824.7億バーツと前年比マイナス1.7%に終わった。2輪車、部品などを含む全自動車関連輸出は1,290.7億バーツで前年比7.7%増となった。これは主に2輪車の輸出増が寄与している。

また自動2輪車の生産は約189万台に達し、前年比65.0%増という驚異的伸びを示した。そのうち輸出(CKDを含む)は585千台と前年実績313千台の87%増であった。

タイの自動2輪車市場(2002年は133万台、前年比47%増)はホンダがトップ・シェアー約70%を占めているが第2位のスズキ(2002年は173千台でシェア13%)も追撃態勢を整えつつあり、今年は5.4億バーツを投じ生産能力を年産30万台態勢とし、来年はさらに5億バーツかけて50万台態勢に引き上げるとしている。

今年も引き続き2輪車販売は好調が予想され、170〜180万台、来年は200万台と見込まれている。

28. 03年1Qの経済成長は6.7%(03年6月18日)

タイ経済は好調な輸出に支えられて03年1−3月期の成長率は6.7%という高い成長率を達成した。02年4Qは6.1%であった。

なぜこのように輸出が好調であったかは今ひとつはっきりし内面はあるが、米国の輸入増が続いていたことと、SARS騒動が本格化する前のことであったことも影響があるであろう。しかし、輸出の好調は5月現在続いているという。

表2 に見るように民間固定資本形成が18.9%と引き続き光西町を遂げているが、これは民間住宅の伸びに支えられているものの用である。個人消費も6.5%と着実に伸びている。

タクシンはあくまでタイの成長は「内需ファクター」によるものだと強弁し続けてきたが、基本的には輸出の伸びと。それに伴う雇用の伸びがタイ経済の成長の支えであることはいうまでもない。

また、部門別には農業が8.1%増と異常に高い伸びを示し、製造業は11%の伸びであったという。詳細は別途。

表2. 需要項目別国内総支出(1988年価格)の伸び率(対前年比、%)

  1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 02/1Q 2Q 3Q 4Q 03/1Q 2Q 3Q
GDP  5.9 -1.4 -10.5 4.4 4.6 2.1 5.4 4.4 5.5 5.8 6.1 6.7 5.8 6.5
民間消費 5.8 -1.4 -11.5 4.3 4.9 3.9 4.9 3.3 5.1 5.5 5.8 6.8 5.7 5.0
固定資本 7.0 -20.5 -44.3 -3.2 5.3 1.2 6.5 3.0 7.4 7.5 8.4 7.5 9.1 10.8
 民間 3.2 -30.4 -52.4 -3.3 16.8 4.9 13.2 8.4 9.3 19.3 16.3 19.8 16.8 16.5
 政府 22.2 10.2 -28.7 -3.1 -9.7 -5.2 -5.8 -7.3 3.2 -7.1 -13.0 -20.2 -7.9 1.7
 輸出 -5.5 7.2 8.2 9.0 17.5 -4.1 12.1 6.0 12.6 15.8 13.7 12.1 4.3 3.6
輸入 -0.6 -11.3 -21.6 10.5 27.3 -5.5 13.6 3.3 15.6 19.1 16.3 12.4 2.0 3.4

今後はやはり輸出の動向に左右されるが、特にアメリカの景気次第である。中国向けも大きな要因であるかに見えるが、中国自身対米輸出に依存しているのである。

(03年7月26日)6月の輸出は前年同月比+12.3%

商業省の発表によると03年6月の輸出は66億ドルに達し、前年同月比+12.3%であった。03年上期合計では382億ドルとなり、前年同期比+18.9%と好調であった。

アディサイ商業相によれば、中国向け輸出が伸びに大きく貢献し、10月からは中国とタイとのFTA(自由貿易協定)が発効するため、さらに輸出が増加する見込みであるという。

今年の輸出は760.9億ドルと前年比+10.8%が見込まれる。一方輸入は710.4億ドル+10.6%が見込まれ、約60億ドルの貿易収支の黒字が予想される。

03年2Qの成長率は5.8%(03年10月4日)

2Qの成長率はSARSの影響がホテル・観光業分野ではみられたが、全体的にさほど大きなものではなく、個人消費が活発であったため、5.8%程度に なった。輸出の伸びは鈍化し前年同期比2.0%の伸びにとどまった。輸入も同じく0.7%という低い伸びであった。

03年3Qの成長率は6.5%(03年12月18日)

タイ経済は個人消費と住宅建設の好調により、3Qは6.5%の成長を遂げた。部門別には製造業が9.0%と2Qに引き続き高い伸びを示した。輸出の伸びはやや減速気味であるが堅調である。

表3 タイの実質GDP(部門別伸び率)   ⇒下記の表81-1.2をご覧ください。

 

29. タイ中央銀行は6月27日に公定歩合を0.5%引き下げ(03年6月28日)

タイ中央銀行は6月27日に公定歩合(14日買い戻し金利)を0.5%引き下げ、1.25%としたこれは米国の連邦準備制度理事会(FRB)が25日にFF(フェデラル・ファンド)レートを金利を0.25%引き下げ、1.00%にしたことに対応するものであると説明されている。

このため、1年ものボンド利回りは1.42%に、10年ものは2.42%にそれぞれ0.20ポイント低下した。

株式市場は売りが増え、木曜日の206.6億バーツから金曜日(6月27日)には250.2億バーツとなり、株価指数も467.33から475.51に若干下がった。

バーツは1ドル=41.63バーツから41.98バーツへと下落した。これは外国の投資家が株式市場から資金を為替に移したためと見られている。

タクシンはじめ政府首脳はは金利を下げて短期資金の流入を抑制する効果を狙ったといっている。また、輸出対策としてもバーツ高を避けるとしている。

ところでタイの市中銀行の金利はどうなっているかというと、クルン・タイ・バンクは先週貸し出し金利を0.75引き下げ、5.75%とした。これがタイの市中銀行で最も安い金利であるといわれている。

サイアム・コマーシャル・バンクは6.25%である。日本の常識では考えられない利幅である。こういうことになると、資金調達力のある外資系企業は再び低金利のオフショア・ローンに頼るということが起こってくる。

 

39. カゲリの見えてきたタイ経済(03年10月1日)

1年ほど前の韓国経済がそうであったように、タイ経済を支えてきた個人消費ブームはどうやら峠を越しつつあるようだ。

8月の民間消費指数が110.2と7月の112.2に比べてダウンした。前年同月比ではわずかに2.1%アップにとどまった。

オートバイの売れ行きにはっきり鈍化傾向が出てきたという。7月には前年比63.8%増という異常ともいえる伸びをしめしたオートバイ販売は8月には7.1%にまで鈍化した。

また民間設備投資は相変わらず低調で、設備投資指数は8月は56.5と、7月の60.8ポイントに比べさらに低下した。それを裏付けるように、輸入品目でも資本財は前年同月比2.4%のマイナスになった。

製造業生産指数は8月は5.5パーセントの上昇で、過去18ヶ月では最低の伸びとなった。特に、自動車とアルコールの生産が低調であったという。

8月の輸出は前年同月比5.8%増にとどまった。7月は15.9%増であった。(http://www.nationmultimedia.com 10月1日付け)

タイの経済はそれほど懐が深いものではなく、今まで輸出産業の好調と、それに裏打ちされた雇用の増加と収入の増加により、個人消費と住宅投資、自動車、オートバイなどの耐久消費財の好調に支えられてきた。

民間設備投資は地元の資本家が1997・8年の通貨・経済危機から抜けきっていないため、慎重な投資行動をとり続けており、さほど伸びなかった。外資はある程度投資をおこなったが、中国の活気とは比べ物にならない。

個人消費の増加はクレジット・カードによる信用買いにも大いに支えられた。しかし、ここに来て家計のローンが目一杯のところに近づいているようである。

今後しばらくは、全体的に国内景気はスロー・ダウンしていくことは避けられない。輸出も米国の景気次第であるが(中国も米国に依存)、タイ製品全般について、対米競争力がこのところ落ちてきている。

 

42. 個人の負債が急増ー韓国経済の二の舞の不安台頭(03年11月9日)

バンク・オブ・タイランド(タイ中央銀行)の発表によれば、03年6月末には家計の負債が可処分所得の47.8%に達した。この数字は02年末には46.1%であり、01年末には39.9%であった。

現在の水準は「警戒レベル」にまでは達していないが、要注意であると中央銀行は警告を発している。

個人消費と耐久消費財の購入がタイの成長を押し上げているが、いったん失業率が上がったり(輸出の鈍化などで)、金利が上昇し始めると、個人の支払不能が急増する危険を秘めている。

1997,98年の通過・経済危機以降の回復過程では「輸出産業」の回復による雇用の増加が、タイの政治経済が安定軌道へ復帰するのを助けたというのは先に述べたとおりだが、現在においても輸出産業が経済成長を支えていることに変わりはない。

それに、個人消費と住宅建設ブームが乗っているのである。株式市場も活況を呈しているが、これは外国人投資家が銀行株などを買いあさっているためと伝えられる。

特に、中国向け輸出の増加が最近は目立ってきている。中国経済は対米輸出の好調と、内需面では建設ブームがほぼ全国的に起こっているようだ。これは政府主導型景気対策によるところが多く、財政的にいつまで続くかは疑問である。

いずれにせよ、タイに限らず、日本も韓国も台湾も中国の「ブーム」に救われる形になっている。これがいつまで続くかははなはだ心もとないものがある。

 

49. 03年の自動車生産は74万台に(04年1月3日)

03年のタイの自動車生産は74万台に達し、そのうち約23万台が輸出される見通しである。国内販売は輸入されたものを含め約53万台に達する見通しである。02年の生産事跡は585千台であった。約26%の増加。

 

59. 03年のタイの成長率は6.7%(04年3月9日)

NESDB(National Economic and Sociak Development Board=国民経済社会開発委員会)のチャクラモン事務局長が3月8日発表したところによれば03年4Qの実質経済成長は7.8%に達し、通年で6.7%の成長となった。

これは製造部門の好調と輸出が好調であったためであるとしている。また、民間固定資本投資(不動産関係を含む)も好調であった。

輸出は03年は784億ドルと02年比18.6%の伸びとなった。輸入は742億ドルと17.1%の伸びにとどまった。

インフレ率は1.8%で、公的負債はGDPの48.9%であった。

経常収支の黒字は79.7億ドルでGDPの5.6%に達した。

設備稼働率が上がり、04年1月は74%であり、03年1月の66%を大きく上回った。

今年は賃金引上げと低水準の金利により個人消費が旺盛に推移するであろうと見ている。

表59-1. 需要項目別国内総支出(1988年価格)の伸び率(対前年比、%)

表59-2 タイの実質GDP(部門別伸び率)           (%)

資料;NESDB(改定05年6月7日)

下記の表81-1,2をご覧ください。

 

64. 2004年のタイ経済

64-1. 04年1Qの成長率は6.5%にスロー・ダウン(04年6月8日)

6月7日にNESDB(国民経済社会開発委員会)が発表した04年1Q(1−3月)の実質GDPの伸び率は6.5%にとどまった。03年4Q の7.8%からみるとややペースが落ちてきたことは否めない。

部門別にみると農業が-2.8%とマイナスになったことが目立つ。これは鳥インフルエンザの影響が大きかったものと思われるが、中国からの安い農産品の流入も多少影響している可能性がある。

製造業は相変わらず2桁成長を続けている。輸出、内需ともそこそこの伸びを示していることの反映である。建設関係の好調が昨年後半から続いており、04年1Qには13.4%と昨年4Qの13.6%とバブル期を思わせる高い伸びを示した。

しかし、高級住宅については売れ行きは落ち始めているという。

需要サイドfでは民間消費と輸出が若干伸び率を低下させている。しかし、民間の投資は依然好調である。内容的には機械設備よりも不動産投資(マンションなど)が高い伸びを示しているものと思われる。

 

64-2. 不動産投資の行き過ぎに警鐘(04年6月13日)

タイのトップ・エコノミストであるアマール氏(Ammar Siamwalla=元TDRIタイ開発調査研究所所長)は最近の不動産投資の行き過ぎについて警告を発し ている。

今のままでは1997年の通貨・経済危機の再現が予想されるという。

通貨危機を固定相場制に基づく、短期資金の過大な流入が不動産投機を生んだという「俗説」についてアマール氏は不動産投機が先にあって、あとからそれをファイナンスするために短期資金をタイ政府が流入させたという立場(筆者と同じ)を とっている。

短期資金はBIBF(バンコクのオフショア金融機構)が1993年に導入され、タイの不動産投機は延命を許される形になり、アマール氏は、それを称して「2番目の風が吹いた」という表現をしている。まさにその通りであった。

これを「第1番目の風」であったという風に、大方の外国人(日本人を含む)エコノミストは見ていた。これぐらいのことは別に経済学など勉強しなくても統計さえ眺めていれば一目瞭然のハズであるのに、統計を眺めることよりも方程式にばかり気を取られているから実体経済が見えなくなってくるのである。

今回も、1997年以前と同じような傾向が出てきていることに対する警告である。確かに、今のタイは住宅投資に対する過剰な投資が進んでおり、特に高級マンションについては売れ行き不振が目立ち始めている。

ただし、一般庶民向けの住宅は依然として不足傾向であり、さらに建設が進んでいくことになろう。一般住宅は1997年の通貨危機の時もむしろ不足傾向にあり、当時は商業ビル、高級マンションなどが極端な過剰に見舞われた。

また、カシコム銀行経済研究所の行った最近の調査では個人家庭の借金が最近拡大し「危険水域」に近づきつつあることが判明した。

家計の平均収入は月額17,094バーツ(約47,000円)であるのに対し、借入金は110,133バーツに達している。これは約6.44ヶ月分に相当し、危険水域とされてきた6.2か月分を若干上回っている。適正水準は4.3か月分以下であるとされている。

NESDB(国民社会経済開発委員会)の調べでは04年1-3月の家計収入は前年比10.5%のン伸びであったが借金の伸び率は14.7%とこれをかなり上回っているという。このまま行けば、家計の借金はもっと増加していくことは確かである。

近年のタイでは雇用の安定を背景に、個人のクレジット・カードによる消費が急拡大しており、2年ほど前の韓国と同様の現象が起きている。

韓国は個人のデフォールト(債務不履行)が急増し、金融業界に大打撃を与えているが、タイにも同様のことが起こらないとは限らない。(04年6月11日、http://www.nationmultimedia.com/ 参照)

 

64.-4. 04年上期の自動車輸出は42%増(04年7月30日)

タイ産業連盟の調査によると04年1−6月期の自動車輸出は151,910台と664.4億バーツに達し前年同期比42%増という好調な野にを見せた。これはタイの自動車生産の34.03%を占めるという。

一方、自動車エンジンの輸出は19.8億バーツと前年同期比25.53%(6.11億バーツ)のマイナスとなった。

自動2厘社の輸出も好調で401,175台が輸出され、前年同期比136,430台の増加(+51.53%)となった。輸出比率は27.97%である。

かってはタイにおいては内需型産業であった自動車産業が輸出型産業に転換しつつあることを物語っている。アチがFTAを急ぐのはこの辺のいきさつもあってのことであろう。

しかし、農業人口の多いタイにとっては農産品の自由化は米やタピオカなどの一部の産品を除いては農民にとって大きな打撃となりかねない面があり、特に農民からの抵抗がはげしい。

 

64-6. 04年7月の景気指標は悪化、石油価格高騰が主因(04年9月3日)

タイ中央銀行の国内調査部担当のニティヤ上級取締役は7月のタイの経済指標は主に原油価格の高騰の影響を受け、悪化していると発表した。

ガソリン価格は過去2ヶ月間で1リットル当たり20バーツ(53円)値上がりした。乗用車の販売は物品税の引き下げが近いこともあって、前年同月比マイナスを記録した(実数は不明)。

鉱工業生産指数は7月は+9.3と6月の+9.2をやや上回っているが、工場操業率指数は70.9%ポイントと5月の73.1、6月の71.3と徐々に低下している。

個人消費の伸び率は6月3.4%(対前年同月比)に対し、7月は2.2%と低下している。

輸出は金額ベースで14.7%のびており、依然好調である。

国内景気のカゲリ傾向が目立つが、いずれも一時的な要因によるものであり、心配ないというのがニティヤさんのコメントである。

 

64-.7 04年2Qの成長率は6.4%にややスロー・ダウン(04年9月7日)

タイの成長率は04年1Qは6.6%と比較的好調であったが、2Qは6.4%と僅かながら低下した。原因は鳥インフルエンザと石油価格の高騰にあるとNESDB(国民経済社会開発委員会)は説明している。

2Qは投資は旺盛であった(不動産投資を含め)であったものの民間の消費の伸びが、1Qの6.1%から5.5%に鈍化した。

現在のタイ経済を支えているのは輸出である。輸出の伸びは1Qの6.1%から2Qは11.1%の伸びとなっている。中国向けの好調が続いているためである。

部門別では農業部門の落ち込みが著しい。製造業部門も2桁の伸びが7.8%と1桁の伸びに落ち着いてきた。建設部門も03年4Qと04年1Qの2桁成長から2Qは4.3%へとスロー・ダウンしている。これは90年代の不動産バブルへの反省機運によるものかもしれない。

ホテル関係は29.6%という急成長だが、これは03年2QのSARS騒動による大幅な落ち込み(-13.0%)の反動増である。金融部門の伸びが著しいが、預金の低金利が続く一方で、資金需要が増え続けていることを反映している。

 

64-8. 04年3Qの成長率は6.0%にダウン(04年12月8日)

NESDB(国民経済社会開発委員会)が発表した04年3Qの実質経済成長率は年率6.0%と2Qの6.4%に比べやや低下した。低下の原因は石油価格の高騰と、鳥インフルエンザに影響されるところが大きかった。

04年通年では6.2%になる見込みであり、05年は5.5〜6.5%になる予想である。

インフレ率は3.3%で食料品、運輸、通信の価格上昇が目立った。

部門別では農業部門がブロイラーの輸出減とエビの減産などにより-2.7%となった。非農業部門の成長率は6.8%であった。

家計の消費は5.5%増加したが、1Qno6.2%、2Qの5.7%に比べやや減退した。消費者心理に「南タイの騒乱」問題が影を落としているが数字的影響としてはあまり大きなものではない。

民間の設備投資は14.6%伸びたが2Qの16.1%に比べると、やや落ちている。建設も機械投資も同じような落ち方をしている。

輸出はドル・ベースで25.4%伸び、輸入は29.5%伸びた(下の表とは別)。

 

64-9. 11月の自動車販売36.5%増の58,577台(04年12月16日)

11月のタイの国内新車販売台数は前年同月比36.5%増の58,577台に達した。04年1−11月の累計では前年同期比18%増の552,774台であった。

11月の販売構成は乗用車が16,842台で前年同月比32%増であった。トヨタのシェアが48.6%、ホンダのシェアが32.4%で、トップ2社で80%を超えるシェアとなっている。

商用車は41,735台と、前年同月比38.3%増となった。シェアはトヨタが1位で39.4%、いすずが2位で32.7%であった。商用車のうち、1トン・ピックアップ車(小型トラック)は37,802台と90.5%を占める。この分野でいすゞは大健闘を続けている。

1トン・ピックアップ車の前年同月比の伸びは42.7%であった。

04年の新車販売台数は63万台程度になるものとタイ産業連盟では見ていたが、そこまでは行きそうにない。しかし、96年の59万台を上回ることは確実であり、8年ぶりの記録更新である。03年は53万3千台であった。

ババル崩壊に伴う97年、98年の通貨・経済危機から、それ以前のレベルへの回復までに8年間を要したと見ることもできる。

不動産バブルが最大の問題であったという認識にたてば、IMFも余計な引き締め策を強制する必要もなかったはずだし、もっと早くタイ経済を立ち直らせる手段があったことは間違いない。

諸悪の根源を「固定通貨制度にあり」などという、およそ見当はずれの診断を下したがために、とんでもない遠回りをタイもインドネシアも強いられた。経済学というのは恐ろしい学問であることを再認識させられる。

経済学は正確な現状分析と常識に帰るべきである。新古典派的教科書がバイブルであってはいけない。もちろんマルクスの資本論もバイブルではありえないが、その「恐慌論」は貴重である。

東南アジアの通貨危機と経済危機については、拙著「東南アジアの経済と歴史」日本経済評論者2002年6月刊行をご一覧いただければ幸いである。

 

64-10. 04年の成長率は6.1%(05年3月9日)

タイの2004年の実質経済成長率は6.1%となった。03年の6.9%からはやや低下した。04年4Qの成長率は前年同期比5.1%と04年の最低となった。タイ経済は03年4Qの7.7%をピークに次第に伸び率が鈍化している(表64-1および2参照)。

NESDB(国民経済社会開発委員会)は05年の成長率は、前々から発表している5.5〜6.5%の成長は可能だと称しているが、石油価格の動向や金利の上昇や干ばつ(雨不足)が心配であるということをやけに強調している。

しかし、05年のタイは輸出の伸び率が低くなり、ビル・マンションのミニ・バブルがはじけつつあり、個人消費もクレジット・カードの拡大による消費景気も終わってしまい、今後は4〜5%の安定的成長期に入っていくと見るべきであろう。

タクシンは高度成長を標榜しているが、とても無理である。

もちろん、それらは重要な要素には違いないが、最も大きな影響を与えるのは中国向け輸出動向であろう。05年1月にはタイは久しぶりに貿易収支が赤字になったといわれている(速報段階)。

表64-1 タイの実質GDP(1988年価格、部門別伸び率) 、表64-2. 需要項目別国内総支出(1988年価格)の伸び率(対前年比、%)

資料;NESDB(05年6月7日に修正は表81-1.2をご覧ください。

 

74. タイ中央銀行バーツ売り介入ーさほど効果なし(04年11月26日)

ドル安の流れから、タイの通貨バーツも急上昇を続けている。このままでは、タイの輸出競争力が失われるとして、11月25日にバンク・オブ・タイランドはバーツの売り介入をロンドン市場で行った。しかし、さほどの効果は挙げていない模様である。

バーツ対ドルの関係は年初から年央にかけて、バーツ安が進んだが10月以降は、バーツ高で推移している。特に最近の数日はドル安が急に進んできた。

ところがバーツ対日本円で見るとバーツは一貫して円に対し、弱い傾向が続いている。日系企業でバーツ立ての資産を保有している企業は最近の半年ほどで約6%も目減りしている(円ベースでみて)計算になる。

タイは経常収支は黒字基調であるので、バーツはもっと強くてよい。

 

表 74 2004年のタイバーツの動き

  3月1日 4月29日 7月23日 8月11日 8月26日 10月25日 11月10日 11月22日 11月25日
バーツ/US$ 39.28 40.07 41.06 41.55 41.68 41.04 40.65 39.83 39.51
円/バーツ 2.778 2.766 2.685 2.676 2.642 2.592 2.607 2.607 2.598

 

76. 2004年の国内自動車販売は過去最高の626千台(05年1月14日)

タイの自動車の国内販売台数は、通貨危機後不振を続けていたが、04年になってようやく過去最高の1996年の589,126台を超す626,000台に達した。03年は533,176台であった。

トヨタのシェアが374%で首位、ついで「いすゞ」が23.9%、3位はホンダの12%である。タイの自動車市場は1トン・ピック・アップ車が最も良く売れる(約370千台)ため、乗用車がない「いすず」が2位と健闘している 。

ホンダがタイの国内販売でシェアを伸ばすには1トン・ピックアップ車の製造が不可避であり、ホンダとしても1トン・ピックアップ車の生産を検討しているという。

輸出台数は333千台であった。国内と輸出とをあわせると959千台であり、100万台にもう一歩のところまで迫っている。

2005年は国内販売が10%程度増えて68万台、輸出が50万台、合計118万台に達するであろうと、タイ産業連盟では予測している。

04年の自動車関連輸出金額(完成車+部品)は2,200億バーツ(約5,830億円)となり、エレクトロニクス関連に次ぐ輸出産業に成長した。05年はさらに3,300億バーツにまで増加すると見ている。

 

81. 2005年のタイ経済(05年4月8日)

81-1.消費者心理の落ち込み急(05年4月8日)

タイのUTCC(University of the Thai Chamber of Commerce=商業会議所大学)が最近実施した調査によると、消費者心理指数(ICC=Index of Consumer Confidence)は05年2月の92.9ポイントから03月は89.5ポイントにまで下落した。じょれは23ヶ月ぶりの低い水準である。

その背景としては原油価格の値上がり(タイ政府はディーゼル油を最近キロあたり3バーツ=8.2円値上げした)、極度の干ばつ(可なりの農家が乾季の稲作=2期作目をあきらめたといわれる)、南タイの騒乱などである。

しかし、実際は輸出の伸びが次第に鈍化しているものと思われる。タイの雇用を維持してきたのは輸出だったのである。 タイ政府は05年の輸出の伸び率を20%と予想しているが、業界筋では12%ぐらいがいいところという感触であえう。

大体先進諸国の成長率が低い上に、良いところは中国に先取りされてしまうし(衣類、電気製品など)、中国向けに売れていた半導体チップなども中国のメーカー(外資との合弁が多いが)が設備を急速に整えているのでタイやマレーシアは出番が減ってきつつある。

また、ICCは9ヶ月連続してICCが100を切ったということである。タクシン首相は自ら「経済の達人」と称しているが、経済政策としては華人資本家に不動産投資をあおるといった程度以外はたいしたことをやっておらず、30バーツ医療のような「ポピュリズム政策」に予算の多くを費やしてきた。

ここ2−3年景気が良かったのは中国特需のおかげであった。そのメッキが最近はげてきたのである。株価もこのところサッパリである。2月16日に739.37ポイント(タクシンのTRT党が選挙で大勝利を遂げた直後)をつけた後にジリジリと下げ続け、4月7日には677.97にまで下がってしまった。

タクシン政権はこれから大規模な公共投資(2兆1,500億バーツ)を行い景気の下支えを行うといている。

ポピュリズム政策と大規模公共投資と両輪で行くということであるが財政的にどこまれやれるのか見ものである。肝心の外資政策は地元華人資本優先策が災いして今後大きく伸びる当てはない。

石油価格の上昇も日本などと違って、タイにはモロに響くようだ。それだけ「経済の懐」が浅いのである。

 

81-2. タイ中央銀行05年成長率を4.5〜5.5%に引き下げ(05年4月29日)

タイの04年の実質国内総生産(GDP)は何とか6%台(6.1%)を確保したが、05年については52.5〜62.5%という当初の見通しを1%引き下げ、4.5〜5.5%となるであろうと野見通しをバンク・オブ・タイランド(中央銀行)は発表した。

タクシン首相はあくまで強気で5%大を維持すると主張している。

タイは石油価格の上昇の影響をモロに受けるほか、干ばつの被害も深刻で、農業部門にも大きな被害が出ている。また、個人消費や民間設備投資も鈍化すると見られている。

04年は各国とも輸出と雇用増加による個人消費が経済成長を支えたが、タイの個人消費は既に家計の負債が急増し続けており、クレジット・カードの使用が04年には3,890億バーツ(1兆500億円)と1999年の4倍の規模に達している。

輸出は中国しだいだが、中国の輸出は米国次第ということになり、米国の耐久消費財の需要動向いかんによる。

一方、最近はタクシン首相のご意向にすっかり忠実になってきた感じのNESDB(国民経済社会開発委員会)は依然として、5.5〜6.5%の成長を維持できると強気の姿勢を崩していない。

世界銀行も最近タイの今年の成長率は5.2%に低下するという見方を発表している。

タクシン政権としては景気のてこ入れが必要であるとして、補正予算によって公共投資を増額することを検討している。

 

81-3. 05年1Qの成長率は5%以下(05年5月4日)

5月3日(火)タクシン首相は05年1Qの成長率は5%を切るであろうと述べた。タイ・ミリタリー・バンクの試算ではは3.8%という低い数字が出ている。またカシコ−ン・バンク(Kasiornbank=元タイ・ファーマーズ・バンク)経済研究所の)試算では4%となっている。

石油価格高騰と干ばつ被害(農村)がタイ経済を直撃している。タクシンン首相はこれらの問題は一時的なものであると楽観姿勢を崩していない。

問題は、対中国向け輸出がどうなるかということに尽きる。半導体関連の輸出は早晩減ってくることは明らかであるが、それに代替するようなものが無いことが無いというのがASEAN諸国共通の悩みである。

明るい材料としては日本からの投資がこの時期に急増し、前年同期比90%増になっているということである。中国リスクの高まりによってこの傾向はいっそう強まるとタイ側は期待している。

対中一辺倒のタクシン政権もここに来て少しは日本経済に期待するムードが出てきている。対日投資ミッションの派遣を政権発足以来始めて企画しているとのことである。

⇒05年1Qの成長率は3.4%の見込み(05年5月9日)

タイ財務省は非公式ながら05年1Qの成長率は3.4%程度となるという見方を明らかにした。04年12月26日の大津波と干ばつと原油価格の高騰の影響で-1.5%成長率が押し下げられたとしている。

財務省の試算では石油価格高騰は0.7%、干ばつは0.5%、大津波は0.3%それぞれマイナスに影響したということである。

また、2005年全体の見通しとしては中央銀行は先に4.5〜5.5%という数字を明らかにしたが、財務省としえては原油の輸入を700億バーツ削減でき、輸出が20%伸び、観光客が増えて1,330万人以上になるというようなことがあれば5%の成長は可能だとしている。

政府は最近10%の省エネを呼びかけ、またバイオ・ディーゼルといった代替燃料の開発行う企業に対しては減税措置を講じるなどの措置をとっている。05年1Qの石油輸入は36億ドルに達し、前年同期比10億ドル増加している。

なお、タイの国内の自動車販売は依然好調で、05年1Qの販売実績は166,486台に達し、前年同期比+12.8%であった。特に05年3月は67,554台と前年同月比+24.1%と大きく伸びている。

ちなみに、2004年の販売実績は626,026台と新記録となり、05年には69万台を業界では予想している。

 

81-4. 高まるバーツ不安(05年5月18日)

このところ株式市場においてバーツ不安から外国人投資家が「売り」にでており、5月17日(火)の株式指数も664.61と前日比-6.15ポイントの下げとなった。特に、石油および石油化学関連株の下げがきつかったという。 (例、タイ・オイル-3.4%、PTT-2.5%)

下表をみると確かにバーツ安,と株安傾向がうかがわれる。これぐらいの変化はわれわれ日本人の目から見ると別にどうということもなさそうだが、1997・98年の通貨・経済危機を経験しているタイ人にとっては警戒感が出てきているということであろう。

バーツ不安の背景には原油高による輸入増があり、そのため05年1-3月にはタイは久しぶりに経常収支が赤字となった(約8億ドル)。これは一時的なものであるという政府側の説明ではるが納得していない向きは多い。

また、タイの金利水準が米国よりも低い水準に維持されていることが民間企業のドルの流出を招いているという指摘がウィラポン元財務相などからなされている。問題は今後の輸出がどうなるかであり、中国向け(ということは米国向け)輸出動向が注目される。(短期金利タイ;2.25%、米国3.0%)

これに対し、タイ銀行(中央銀行)のプリディヤトン総裁は、「現在バーツはフロート制になっており」特に問題はない。また、実際に外貨はネットで増加していると反論している。金利を上げれば国内景気を冷やし、株価も引き下げることになり、タイ政府としても動きが取れないところである。

また、タイ政府は景気テコ入れ政策を行おうとしているが、サムライ・ボンド(円建て国債)の発行を検討しているという。

表81-0、最近の株価と為替動向

  株価指数 バーツ/ドル
3月1日 738.75 38.270
4月1日 695.83 39.180
5月6日 689.36 39.410
5月10日 681.83 39.488
5月11日 684.85 39.375
5月12日 682.12 39.417
5月13日 679.11 39.585
5月16日 670.86 39.897
5月17日 664.61 39.850
6月10日 679.98 40.660
7月28日 670.99 41.865

 

81-5. 05年1Qの成長率は3.3%に鈍化(05年6月7日)

タイの2005年1Q(1-3月)の実質経済成長率は3.3%と、既に下降線をたどりつつあった04年4Qの5.3%に比べても大幅なダウンになった。タイ経済は03年4Qの7.7%をピークに次第に伸び率が鈍化している(表81-1および2参照)。

部門別に見ると農業部門の-8.2%という数字が目立つ。04年1Qも-2.0%だっただけに農業部門の不振は深刻である。その最大の要因は干ばつによる水不足である。タイ政府は灌漑用水路の整備のほかに、井戸を多数掘って対応しようとしているが、地下水の塩分の影響が懸念されている。

製造業の伸び率も3.6%と低くなっている。これはタイの輸出が鈍化していることの表れでもあるが、外資が中国に行ってしまったことのツケが回ってきたためであると見ることができる。どちらかというと外資の誘致を軽視してきたタクシン政権の政策の反映でもある。

その代わり、建設の伸びが04年4Q22.2%、05年1Q13.3%ときわめて好調である。これは通貨・経済危機(1997年)直前の不動産ブームを髣髴とさせるような数字である(実態は当時ほどではない)。

タクシン政権は銀行を督励して、不動産業者への融資をおこなわせてきた。しかし、バンコク銀行などの民間銀行は、前の経験から慎重な融資姿勢を基本的に維持してきたが、国営のクルンタイ銀行は可なり大胆に、不動産業者への融資をおこなってきた。(#64-5参照)

04年末の津波の影響もあって「ホテル&レストラン部門」は-2.0%にまで落ち込んでしまった。この部門は今後はあるていどの自動回復が期待できる。

国内総支出(表81-2)を見ると民間消費の伸びが4.5%と、次第に鈍化してきていることがわかる。これは2002年ぐらいから顕著になってきたクレジット・カードによる消費拡大が終わりつつあることを物語っている。家計の借金が増加傾向にあり、今後も大きな伸びは期待できない。

政府消費は津波対策や南タイの対策も加わり、05年1Qは16.0%と異常な伸びを示している。 しかし、政府消費だけで景気はひっぱていけない。GDPに占めるウエイトは2004年では8.4%に過ぎず、民間消費の54.5%の部分の落ち込みの方が影響は大きい。

民間設備投資の伸びは依然2桁台を維持して好調であるが、この統計では機械設備と不動産投資が分離されていないので、はっきりしたことは判らないが、民間の機械設備投資よりも不動産投資の方が大きく伸びていることは間違いない。

政府関係の投資が04年4Qの28.2%と05年1Qの29.2%と異常な伸びを示している。これは05年初めの国会議員選挙対策の反映でもあるが、同時に、落ち込みつつある経済へのテコ入れ政策でもある。当面、タイ政府は公共投資拡大政策を続けざるをえない。

資金面ではサムライ・ボンドなどを発行して確保していくようである。これからが、タクシン首相の腕の見せ所でもあるが、早くも新国際空港建設をめぐる汚職問題がクローズ・アップされている(下の#82参照)。05年は「大型プロジェクト元年」だそうである。

タイ政府は05年から5年間に総額1.7兆バーツ(約4.5兆円)の大型投資を計画している(下表81-3参照)。ただし、これは通信インフラ が最優先で織り込まれている感が否めない(タクシンの事業との関連)。

05年のタイの名目の輸出の伸び率は依然2桁台を維持しているようである。しかし、実質ベースに換算すると-0.1%と意外に低 下した。中国向けの輸出の伸びがどうなるかで大きく変わってくるが、エレクトロニクス部品は中国の自給率の高まりにより、将来あまり期待できないであろう。

輸入は原油価格の高騰の影響が大きく出てきている。不動産投資や高級品消費材への嗜好の高まりなども影響している。通貨危機の前のように経常収支が05年1Qは赤字になった。しかし、その程度は今のところさほどでもないとみられる。


表81-3、タイの大型プロジェクト支出計画(単位;10億バーツ,%)

 2005  2006  2007  2008  2009 2005-09   構成比
地下鉄など 1 29 70 83 105 289 16.9
住宅 3 42 78 76 36 235 13.8
水資源 0 50 50 50 50 200 11.7
教育 0 24 27 30 15 96 5.6
保健 0 21 25 25 25 96 5.6
通信 66 94 63 46 42 312 18.4
エネルギー 64 64 76 84 113 401 23.6
その他 7 13 16 23 14 73 4.3
合計 141 339 405 417 400 1702 100.0

資料出所;バンコク・ポスト(05年5月19日)

 

81-6. 中央銀行、金利引き上げ2.5%に(05年6月11日)

バンク・オブ・タイランドはインフレ抑制と、経常収支赤字対策として、プライム・レートを0.25%引き上げ(14日リパーチェイシング・レート)、2.5%とすることを決定した。

原油価格高騰によるインフレ圧力や、バーツ安傾向に歯止めをかけるための、金利引き上げであるが、それは国内の景気に悪影響を及ぼすため、タメライはあったが、特にバーツが1ドル=40バーツの線を越えてしまい、このままではバーツ安が止まらないと見ての措置であろう。

(上の、#81-4の付表参照)

タイの05年1-4月の貿易収支は49.9億ドルの赤字であり、経常収支の赤字(貿易収支+資本収支)は31.1億ドルの赤字となったことへの危機感が強まっている。

また、05年5月のインフレ率は前年同月比+3.7%とやや高くなっている。

 

81-7. タイ銀行、05年の成長見通しを3.5〜4.5%に引き下げ(05年7月29日)

BOT(Bank of Thailand)のアチャナ(Atchana Waiquamdee)総裁補佐は7月28日(木)に05年のタイの実質経済成長率は、4月に引き下げた修正見通しの最低4.5%という数字をさらに1%引き下げ3.5〜4.5%になるであろうとし、実感としては3.5%に近くなるという悲観的見通しを述べた。

石油価格の高騰などにより、輸入が増加し05年1-5月の貿易収支は66.1億ドルの赤字となた。また、05年2Qの成長率は3-4%程度であり、下期も同じようなペース(3-5%)が続く可能性が高いとしている。

一方、インフレ率は石油価格の高騰を反映して、不況下にもかかわらず4-4.5%の上昇になると見ている。

05年の貿易収支の赤字は80〜90億ドル、これに資本収支を加えた経常収支の赤字は30〜40億ドルに達すると予想している。

確かに、タイは05年に入り、タクシン首相率いるタイ・ラク・ライ党(タイ愛国党)の圧倒的勝利にもかかわらず、経済はあまりぱっとしない。私も最近タイを訪問したが、デパートは閑散としていた。ただし、食料品売り場だけは以前と変わらない賑わいを見せていた。

一般住宅の販売も不振で05年は前年比20%くらい落ちるのではないじかというような話も聞かれた。

タクシン政権は、南タイの紛争を必要以上に悪化させ、相次ぐ汚職スキャンが表面化し、このところ一時の人気はなくなってきているように見受けられる。

「経済のタクシン」を売り物にしてきたが、ポピュリズム政策というばら撒き政策以外にこれといったものもなく、一時期外資に大して「出て行けよがし」の言動があったことも今となってはマイナスに響いてきている。

タイの株価もフィリピンにさえ追い抜かれてしまっている。特にタイの株価の不振が大きい。これは外国資本が手を引いていることの反映であろう。為替も3月初めと、7月28日現在を比較すると、ペソの下げは2.5%であるのに対し。バーツは8.6%も下げている。両国とも事実上非産油国に近い。

表81-7、最近の株価と為替動向

  タイ フィリピン
  株価指数 バーツ/ドル 株価指数  ペソ/ドル
3月1日 738.75 38.270 2088.95 54.74
4月1日 695.83 39.180 1966.29 54.75
5月6日 689.36 39.410 1913.77 54.02
5月16日 670.86 39.897 1862.59 54.52
6月15日 687.47 40.955 1992.44 55.27
6月28日 684.63 41.215 1955.20 55.73
7月13日 658.37 41.800 1952.17 56.16
7月28日 670.99 41.865 1999.82 56.14

 

 81-8. 外国からの純直接投資は激減(05年9月3日)

バンク・オブ・タイランド(BOT=中央銀行)の発表によると05年上期(1〜6月)の外国からの純直接投資=FDI(入ってくる分から出ていくぶんを差し引いた数字)は2億700万ドルにとどまり、昨年の実績8億3500万ドルから見ると大幅にスロー・ダウンしていることが明らかになった。

BOTの分析によると、FDIは中国に流れていってしまったということらしい。ただし、これから年末にかけては自動車会社からの投資が見込めるので、現状からはかなり回復すると見ている。

タイのFDIは1997.8年の通貨危機以降、年間50〜60億ドルの水準が続いていたが、タクシン政権になってからは20〜30億ドルに落ち込んでいるという。

209百万ドル(純直接投資)=流入797百万ドルー流出590百万ドル と流出が可なり多い。これは従来からタイの投資してきた外国企業の負債返済 (親会社からの長期借り入れはFDIにカウントされる)が大きいという。

しかし、CP(チャロン・ポカパン)財閥といった華僑財閥が先祖の生まれた土地である中国への投資を熱心におこなっていることも無視できない。

それに火をつけているのはタクシン首相自身でASEAN諸国に率先して、「農産品の先行自由化」を中国とおこなったり、自ら広東省の祖先の墓参をおこなうなど、対中国接近ムードを自ら演出している。

この農産品自由化はタイからの輸出はさほど増えず、中国からの輸出が急増するという結果が出ている。(本ホーム・ページの中国の2005年の貿易、タイの部参照)

こういう中で、タイの投資委員会(BOI=委員長タクシン首相)は05年1〜7月の中国からの直接投資は89億バーツ(約240億円)に達したと発布した。昨年の同時期の投資証人額は21.1億バーツであった。これはタイと中国が結んだFTA協定の賜物であるという。

サティット(Satit Sirirangkamanont)事務局長によれば、中国からの投資は繊維関係がもっとも多く、ついで化学製品、紙、プラスチックの純である。中国からの投資家は物流、ホテル、冷凍倉庫(大型スーパーを含む)分野も狙っているという。

また、さらにはタイと中国との合弁企業の可能性としては「農産加工品」と「自動車部品」という分野があり、また、タイは中国の鉄鋼業をサポートすることができると述べた。(http://www.nationmultimedia.com/05年9月1,2日付け)

タクシン首相が率先してタイの市場を中国に明け渡したことによって、たいからの輸出は減り、逆に中国製品が雪崩を打ってタイ市場に殺到しつつある。この場合、最も深刻案被害を受けるのはタイの地元資本であり、農民である。

タクシン首相は9月1日に来日し、小泉首相と「日本ータイのFTAを核とする経済連携協定」の締結で正式合意したという。その中身の怪しさと基本的なFTA問題については本ホーム・ページで論じてきたので重複は避けるが、NHKのインタビューを聞く限りでは、タクシンの狙いは日本からの直接投資の増加にあるらしい。

しかし、日本では「コメと砂糖」が聖域であるように、タクシンにとっては「通信部門」が聖域となっている。それは彼自身のビジネス分野だからである。通信分野については中国にも「ウエル・カム」とは言っていない。

どちらにせよ、日本の家電メーカーはいまさらタイには出て行かない。自動車は行きがかり上、タイ出に追加投資をやらざるを得ない。ほかのハイテク分野では何があるだろうかということになるが、タクシン政権のかかえる政治的リスク(南タイ問題など)を考えれば、日本からの投資が急増するのは当面困難であろう。

 

81-9. 05年2Qの成長率は4.4%とやや回復(05年9月5日)

タイの05年2Qの実質GDPの前年同期比伸び率は4.4%となり、1Qの3.3%に比べ若干の回復をみた。農業部門は干ばつの影響があり-2.3%であったが製造業は6.4%と1Qの3.5%に比べ可なりの改善を見せた。

これは輸出が2Qはやや伸びた(+1.3%)であると説明されている。内容的にはエア・コン、HDD(ハード・ディスク)、商用車の輸出が好調であった。

建設は8.8%と比較的順調な伸びを続けている。ただし、04年4Qの22.2%、05年1Qの13.2%からみるとややスロー・ダウンの兆しがみえる。

民間消費は4.7%伸びたことになっているが、かなり消費の不振感は巷では出ており、食費節減のためにインスタント・ヌードルの売り上げが増えているというような新聞記事が出ている。タイの経済はハッキリいってあまりよくない。

NEDBは05年の成長見通しを今回、3.8〜4.3%へと0.2%ほど下方修正した。

 

81-10. 金利を0.5%引き上げ3.25%に(05年9月8日)

タイの金融政策委員会は9月7日(水)に基準金利を2.75%から0.5%引き上げ、3.25%にすることを決定した。この引き上げ幅は予想されていた0.25%の倍であり、それだけ市場に与えたショックも大きかった。

タイ・バーツは9月6日の1ドル=41.107バーツから、9月7日は1ドル=40.973バーツと上昇した。

このように予想以上の金利が引き上げられた背景には、物価抑制の効果も狙いとしている。7月の消費者物価指数は5.6%に達し、8年ぶりの高い上昇率であった。

金利引き上げは経済成長にはタイのマイナスのインパクトを与えることになるが、原油価格の高騰が浸透しつつあり、このまま放置すれば、可なりのインフレ率となることが予想されるので、いわば当然の措置であろう。

インドネシアもルピアの下落を食い止めるために、基準金利を9.5%から10.0%にまで引き上げた。一応ルピアの下落は何とか止まっているようである。

 

81-11. 金利を0.5%引き上げ3.75%に(05年10月20日)

タイ銀行(BOT=中央銀行)は10月19日(水)に基準金利を3.25%から0.5%引き上げ、3.75%とした。これは石油価格高騰に伴う、インフレを抑制する目的であるという。前回の利上げは9月7日におこなわれたばかりである。

タイのインフレ率は急上昇しており、05年4Q(10〜12月)には7%に上昇すると予想されている。

金利の上昇の影響もあり、タイの株式は下落した。もちろん、株価の下落は金利の上昇によるものだけではない。

タイの景気全体が可なり変調をきたしつつあるように見受けられる。

  タイ
  株価指数 バーツ/ドル
3月1日 738.75 38.270
4月1日 695.83 39.180
5月6日 689.36 39.410
10月3日 717.42 41.177
10月17日 696.28 40.855
10月18日 695.18 40.877
10月19日 684.67 40.988

 

⇒金利を0.25%引き上げ4.0%に(05年12月15日)

タイ銀行(BOT=中央銀行)は12月14日(水)に基準金利を3.75%から0.25%引き上げ、4.0%とした。これは 米国の連邦準備制度委員会の金利引き上げ(12月13日より4.0%⇒.25%)に伴う措置であると説明している。

タイのインフレ率は10月の6.2%(前年同月比)から11月には5.9%へと若干低下している。ただし、コアー・インフレ率(Core Inflation=食糧とエネルギーを除く)は2.4%で変わらないということである。

 

 

81-12. 05年3Qは5.3%とやや回復(05年12月6日)

タイの05年3Qの実質GDPの前年同期比伸び率は5.3%となり、1Qの3.2%、2Qの4.6%(速報では4.4%)に比べ若干の回復をみた。 マレーシアと似たような数字の動きである。(伸び率は両国とも5.3%と偶然ながら一致)

農業部門は4.4%と久しぶりにプラスの伸びを記録した。

製造業は輸出が3Qは10.3%と大幅な伸びをやみせたにしては低い伸び率(6.2%)であった。自動車、エレクトロニクス、石油製品、レシン、缶詰などが好調であった。

建設は2.9%と2Qまでの高い伸び率に比べ、かなりスロー・ダウンしている。建設のミニ・バブルもどうやらおしまいである。

民間消費は4.5%伸びたが、かなり消費の不振感は ぬぐえない。個人消費の伸びが良くないのはクレジット・カードによる消費増が一段落したことも響いているが、基本は雇用があまり増えていないことの影響が大きい。

輸出の伸びと農業の回復で3Qのタイ経済は救われた形となっているが、10月以降輸出は再度伸びが鈍っており、貿易収支が赤字に転じた。

NEDBの05年の成長見通しを今回、3.8〜4.3%へと0.2%ほど下方修正した が、3Qの5.3%成長があり、5%に近づくかもしれないが、実体経済はさほど良くないことには変わりない。

政府は、財政資金をばら撒いて、「政府消費」の拡大で(3Qは+15%)景気へのテコいれを狙っているようだが、政府予算にも限界があり、急遽、国債を800億バーツ発行して、政府の手元資金を補充しようとしている。

タイの経済の牽引力はやはり、輸出である。しかし、かなりの製品で中国と競合関係にあり、これからはますます競争が激化し、タイの立場は苦しくなる。

 

表81-9-1 タイ部門別実質GDP伸び率(1988年価格、%)           

表81-9-2.タイ実質国内総支出伸び率(%)

⇒81-5に移動しました。

 

81-13. 2005年の自動車生産は21%増の112万5千台(06年1月25日)

タイの2005年の4輪自動車の生産は112万5000台に達した。これは前年比21.15%の増加である。そのうち輸出向けは44万717台と39.16%を占めている。国内向け生産は68万4,283台であり、国内販売は約74万台(+12.3%)であった。

1トン・ピックアップ車は82万2,867台生産(全体の73.12%)され、37.62%の増加となったが、乗用車は国内販売の不振に影響され27万7,603台と22004年に比べマイナス8.79%となった。

タイの産業連盟の2006年の自動車生産の予測は124万5000台でそのうち、国内向けが72万3,000台、輸出向けが52万2,000台である。

 

⇒自動車部門の輸出は05年は47.6%増加(06年2月9日)

トヨタ・モータース(タイランド)が明らかにしたところによれば2005年の自動車部門(完成車、部品など)の輸出金額は2,976億バーツ(8,930億円)に達し、04年比47.6%の増加となった。この金額はタイ国全体の輸出金額の8.5%を占める。

完成車の輸出が440,640台と33%増加し、金額は2,031億バーツに、また自動車部品の伸びは80%増の944億バーツとなった。

2006年の見通しとしては完成車の輸出は18%増の52万台が見込まれ、そのうちトヨタは23万台輸出する計画であるという。

自動車産業はタイにおいてすら、かつては「内需型産業」であり、外貨を浪費すると非難された時代が長く続いたが、タイでは見事に「輸出産業」として成長を遂げたといえよう。

しかし、東南アジアではいまのところタイに迫る勢いをみせる国はない。

 

81-14. 2005年の成長率は4.5%程度にとどまる見通し(06年2月1日)

バンク・オブ・タイランド(BOT)の国内経済調査部のスチャダ(Suchada Kirakul)女史によれば、2005年の経済成長は4.5%程度のとどまりそうだとのことである。正式な数字はNESDB(国民経済社会開発委員会)が3月に発表するという。

BOTは05年12月の経済概況を昨日(1月31日)発表したが、旱害および一部地域の洪水により農業部門が2004年比3.1%のマイナスになったという。

製造業は9.2%伸びたが、2004年の11.5%には及ばない。エレクトロニクス、自動車、飲料など05年は好調に推移した。しかし、製造業全体としては弱気ムードになりつつあるという。

民間投資は8.6%伸びたが、04年の10%よりは若干鈍化した。

民間消費は0.6%しか伸びていない。04年はこれが3.9%の伸びであった。原油価格の高騰を起点とする諸物価の上昇と金利の上昇が響いている。

また、2005年の貿易収支は5億ドル程度の赤字となった。これは1997年以来のことである。輸出は15%増えたが、輸入は26%とさらに大きく増加した。もちろん原油価格の大幅上昇が最も大きく響いている。経常収支の赤字も7億1000万ドル程度となった。

銀行貸出は8.8%ほど増えた。(htp://www.bangkokpost/ 06年2月1日参照)

これらの数字はいずれも速報値に基づく暫定的なものであるが、やはり5%の達成はムリのようである。

東南アジア経済は2005年も06年もあまりよくない。原油価格の高騰という問題だけでなく、中国への輸出の伸びが鈍化し(04年の約30%⇒05年15%)にもかかわらず、中国からの輸入が04年並み(30%台)に増え続けたことが大きく響いている。その傾向は将来とも続くことは間違いない。

ASEANの対中国貿易政策が修正を迫られることは時間の問題である。「親中国政権」とも言うべきタクシン政権は今後どうして行くのであろうか?「Win-Win Solution(両者とも勝ち)」という構造には最早なっていないことは数字が物語っている。

 

81-15. 05年4Qの成長率は4.7%、通年では4.5%にとどまる(06年3月6日)

タイの05年4Qの経済成長率は前年同期比4.7%と3Qno5.3%より鈍化し、通年では4.5%の伸びにとどまった。03Qは輸出が11.1%と久しぶりに2桁の伸びを示したが、04Qには4.9%に鈍化してしまった。

民間消費は4.0%とジリ貧傾向にある。これは農業部門の不振に加え、輸出の伸びが減ってことで製造業の伸びもやや鈍化し、賃金収入も頭打ちになったためと思われる。クレジット・カードによる消費が増えているの一定のレベルは維持しているものの、家計の負債は着実に増加している。

金融部門の成長率が最も高いという現象が05年は1年間続いた。

投資は05年の前半は2桁成長が続いたが3Qは8.4%、4Qは7.9%とやや低下してきているが、依然高水準である。投資は2003年、04年、05年と3年連続で2桁成長である。しかし、これには不動産投資の増加分も含まれているので要注意である。

05年は輸出がさほど伸びない割にはエネルギー価格の高騰で輸入が増えてしまい、通貨・経済危機後はじめて貿易収支が赤字になるという事態に立ち至った。しかし、タクシン首相は成長率の低下を政府支出(消費と投資)でテコ入れを図った。

しかし、これは結果的にうまくいかなかった。政府支出の増加は汚職を拡大するなどという好ましくない結果にもつながった。南タイのイスラム教徒とと紛争も一向に解決の方向には向かっていない。

2006年はタクシン政権が続く限り政治紛争は収まらず、容易ならざる事態になりつつある。逆に、タクシンさえ辞任すればTRT党政権が続いても、民間の活力(設備投資が民間部門だけ見れば2002年から4年連続して2桁成長になっている)が生かされ、そこそこの成長は続けられるであろう。

タイもようやく民間部門が力をつけてきて、政府に頼らない経済運営が可能になりつつある。外国資本ははじめからタイ政府のご厄介にはあまりなっていない。クローニーなどへの身びいき的経済政策はタイ経済にとってはむしろマイナスである。

 

表81-9-1 タイ部門別実質GDP伸び率(1988年価格、%)           

  2003   2004   2005 04/1Q 04/2Q 04/3Q 04/4Q 05/1Q 05/2Q 05/3Q 05/4Q
農業 11.4 -4.8 -2.4 -3.3 -9.9 -5.5 -2.1 -8.7 -4.2 4.1 -0.2
製造業 10.6 6.2 5.6 10.3 7.2 8.2 7.1 3.2 6.5 6.4 6.0
電・ガ・水 4.6 6.4 5.2 4.5 6.9 8.6 5.4 8.2 5.2 4.1 3.5
建設 2.9 9.9 6.9 12.0 6.6 5.5 18.1 12.7 9.6 3.2 3.0
商業 3.1 5.5 3.2 5.4 5.3 5.7 5.5 4.0 3.0 2.9 2.7
運輸通信 3.1 7.6 5.4 5.8 10.4 8.6 6.1 4.6 5.3 5.3 6.1
ホテル等 -4.2 12.0 2.2 1.6 28.2 16.2 6.0 -1.8 3.1 3.0 4.1
金融 16.7 13.1 10.9 12.2 15.7 10.4 14.5 17.7 8.6 10.1 8.1
その他 4.2 4.9 5.2 6.7 6.9 3.6 2.6 4.9 3.9 6.2 5.5
GDP 7.0 6.2 4.5 6.7 6.4 6.3 5.3 3.2 4.6 5.4 4.7

表81-9-2.タイ実質国内総支出伸び率(%)

    2003   

  2004  

  2005   04/1Q 04/2Q 04/3Q 04/4Q 05/1Q 05/2Q 05/3Q 05/4Q
GDP  7.0 6.2 4.5 6.7 6.4 6.3 5.3 3.2 4.6 5.4 4.7
民間消費 6.4 5.9 4.4 6.3 6.1 6.0 5.2 4.4 4.7 4.5 4.0
政府消費 2.3 4.7 12.2 8.2 6.0 1.4 4.1 16.1 9.6 14.7 7.8
固定資本 12.1 13.8 11.3 15.8 12.9 12.0 16.5 15.0 14.3 8.4 7.9
 民間 17.7 16.3 11.2 18.8 17.3 15.2 14.2 11.7 12.3 11.6 9.3
 政府 -0.7 6.8 11.7 5.9 0.5 1.3 24.2 27.4 21.1 1.9 3.4
輸出 7.0 9.6 4.4 9.4 13.0 9.5 7.1 -0.7 2.0 11.1 4.9
輸入 8.5 13.5 9.3 16.0 20.1 13.5 5.5 10.1 13.7 5.7 8.0

資料;NESDB

 

90. 景気対策として3,000億バーツの予算の追加投入を決める(05年6月27日)

タイ経済は既に見たようにGDP成長率が3%そこそこにスロー・ダウンしており、さらに石油価格の60ドル/バーレルを超えるという急騰によって、ますます危機感を強めているが、タイ政府は予算の早期執行と追加投入によって景気の浮揚を目指している。

最近の石油製品の値上がりは急ピッチで、プレミアム・ガソリンはリッターあたり、24.45バーツ(約66円)、レギュラー・ガソリンが23.74バーツ(64円)、ディーゼル油が20.59バーツ(55.5円)となっている。これでも日本よりは可なり安いがタイ人の所得レベルを考えれば大変な高値である。

たい政府は今年度予算として国家予算2,000億バーツ、国営企業予算3,000億バーツの執行残高があるが、さらに景気の底上げを図るために3,000億バーツを年内に追加支出する方針を決めた。

同時に、不急のプロジェクト用の資機材の輸入は遅らせ、貿易収支の赤字を最小限にとどめるよう関係機関に通達した。タイ航空も急遽旅客機の新規購入(5機)を延期するという。

CEO方式(アメリカ流会社経営方式=トップ・ダウンによる迅速な意思決定)を標榜するタクシン首相の腕の見せ所である。

 

109.中国の製造業がタイにとって脅威になり始める(06年1月3日)

タイ商業会議所のプラモン(Pramon Sutivong)会頭はバンコク・ポストのインタビューで中国の製造業は急速に生産能力を拡大しつつあり、鉄鋼、電気機器、石油化学製品分野などで厳しい競争に直面しつつあると語った。

タイの今年(2006年)の輸出は前年比17〜18%の伸びを目標としているが、2005年に既に15%伸びているので、ベースが高くなっており、大変厳しいものがあるとも語った。

輸出が15%強伸びても原油価格が高水準で推移し、大型プロジェクトが実施されれば貿易赤字は避けられない。したがって政府はサービス部門における外貨獲得に務めなければならない。

国営企業の民有化の遅れによって、大型のインフラ・プロジェクトへの資金が影響を受ける。だからといって、政府が巨額の借入金を背負うべきではない。

外国資本とりわけ日本企業は「中国の次はタイだ」という認識をもってくれている。タイのよさは政治的安定(タクシン首相の与党TRTが国会で絶対多数の議席を維持しているという意味)と市場開放が進んでいることである。

2006年は2005年よりは経済は良くなるであろうなどと語った。(バンコク・ポスト、インターネット版、06年1月3日)

中国とタイ(ASEAN全体としても同じことであるが)との貿易関係は、中国が輸出を30%以上伸ばし、それに対しタイから中国への伸びが15%程度であり、これがタイの経済に打撃を与えつつあることがようやくタイの財界トップにも認識されてきた。

2006年はこの問題が大きくクローズ・アップされることになるであろう。

 

110. 2006年のタイ経済

110-1.2006年のタイ経済はさほど期待できない(06年1月5日)

まだ、05年4Qの実績は出ていないが、05年のタイ経済の成長率は5%弱(4.7%−モルガン・スタンレーの見方)となるであろう。4〜5%の成長率ではタイやマレーシアなどではどちらかというと「不況感」が強い。これが日本と決定的に違うところである。

タイの好況のパターンは2002年〜2004年に見られるごとく、中国向けや米国向けなどの輸出が先行し、それが雇用の増加をもたらし、民間消費を拡大(クレジット・カードの流行もあったが)させるという一連の流れが見られた。

しかし、そのパターンに若干の変調が見られたのが2005年のタイ経済であった。それは中国向けの輸出の伸びが鈍化し、中国からの輸入の伸びが大きく上回るという現象が起こったからである。(05年上期の中国の国別貿易実績ーホーム・ページ、Part2)

また、石油価格の高騰も大きく響いたことは言うまでもない。タイの経済成長は石油多消費型である。それは、交通が極度に自動車に依存していることにもよる。石油価格の高騰が響き、2005年の経常収支は50億ドル近い赤字になるとみられている。

これらの条件は06年になっても改善の見通しはない。米国は2005年はいわば「住宅バブル的」要素の強い成長を遂げてきたが、既に昨年末から、住宅需要にカゲリが出てきている。ウオール・ストリート・ジャーナルも2006年の米国経済についてはやや慎重な見方をしている。

中国はさらに、輸出圧力を東南アジアにかけてくることは間違いない。従来エレクトロニクス部品を中国に輸出してきたタイやマレーシアは、中国がそれらの「部品」の自給体制を急速に整えつつあるため、中国向け輸出がさらに鈍化することは間違いない。

そうなると、輸出の伸びは全体的に鈍化する。そこでタクシン首相は「メガ・プロジェクト」を盛大に実施に移し「内需主導型成長」をもくろんでいる。しかし、それには「先立つもの」が必要である。ところが、タイ政府にはあまりカネがない。

ポピュリスト政策(30バーツ診療や農村へのバラ撒き政策)のおかげで、政府の資金がアチコチに拡散してしまったのである。さらにタクシンは2期目(2008年末まで)の公約としてタイから貧困をなくすなどというおよそ実現不可能な約束をしてしまった。

これについては1月の中頃から、タクシン自身が農村部に乗り込んで行って、「どうすれば貧困をなくせるか」をテレビで実況中継しながら、タイ国民に教えるらしい。

一方、南タイの騒乱は一向に収まる気配がない。このところ集中豪雨による洪水のおかげでイスラム教徒のゲリラ活動もやや静かになっているようだが、今年に入り国軍兵士が殺害され、クビを切られるという事件も起こっている。

しかし、南タイの事件をこじらせた元凶はタクシン首相にありという見方が強く、タクシンが退陣すればかなり下火になるとも言われている。少なくとも過去の民主党政権時代にはおよそ考えられない事態が起こっていることは確かである。

今年のタイ経済はあまりパットしない状態が続くものと予想されるが、「メガ・プロジェクト」が政治家や投機家の餌食にならずに、将来のタイ経済に真に役立つものにならなければ、混乱を倍加させるだけである。

 

110-2. 政治的混乱によって成長率は3.5%以下に?(06年3月22日)

今回のタクシン首相辞任要求はタクシンが辞めないといって頑張っており、政治的混乱は長期化の様相を呈してきた。仮に、4月2日に予定されている選挙がタクシンの思惑通りにことが運んだとしても、タイ社会にできた深刻な亀裂は「政府機能」を著しく低下させるであろうことは間違いない。

タクシンはチャムロンに対して「犬の世話でもしているがいい。イヌの餌も買えないやつに国が救えるか」などとかつて政治世界に入れてくれた「恩人」に対して暴言をはくなどして、もはや民主派連合(PAD)とは修復は全く不可能な状況になってしまった。

チャムロンはカンチャナブリに野良犬や野良猫の収容設備を作り、2000匹を収容し、獣医もつけて面倒をみている。もちろん、これといった財産の無いチャムロンは寄付やボランティアに頼ってその施設を運営している。

その資金提供者にタイ国防省の「退役軍人局」があった。しかし、タクシンは最近になりそこからの援助を打ち切り、チャムロンへの「兵糧攻め」に出たのである。もちろん被害を受けるのは収容所のイヌ・ネコであるが、そこまでやってはおしまいである。

タクシンが仮に政権を維持できたとしても、既に求心力は失われ、マトモな政権運営はできなくなっている。タイの一般国民はいまや「守り」の姿勢にはいっており、消費や住宅建設などの落ち込みは避けられない。外資の進出も当然減るものと予想される。

そのような中で、新たに06年のタイ経済の成長率はかなり低下しそうだという見方が出てきた。

政府見通しでは05年の4.5%をやや上回り、06年は4.5〜5.5%となるであろうとNESDB(国家社会経済委員会)は当初予測していた。

しかし、最近タイ・商業会議所大学(the University of Thai Chamber of Commerce)の行った見通しによると最悪3.2%にまで落ち込む可能性が出てきたとしている。

また、民間のシンク・タンクとしては最もまともなバンコク銀行のマクロ経済分析センター(日本にはいて捨てるほどあるシンクタンクよりは質が高い)のバンルサク(Banluesak Bhusarungsee)主席研究員は3.5%を下回るという見通しを出している。

その理由として、タイの政治問題もあるが、世界経済も今年は悪いとみている。

おそらく、バンルサク氏の見通しが今の段階では当たっていると考えられる。実際問題として、今年はタイは輸出だけが頼りともいえる状況であるが、今年に入り、輸出も そこそこ伸びている(22%)だが、一方輸入は原油価格の高止まりもあり、増加を続け(15%増)、06年2月は2億ドル以上の貿易赤字になった。

(http://www.bangkokpost.com/ 3月22日付け参照)

 

110-3. 金利を0.25%上げ4.75%に。バーツ高進む(06年4月11日)

バンク・オブ・タイランド(BOT=中央銀行)は昨日(4月10日)に基準金利(14日物リボ・レート)を4.50%から4.75%に切り上げた。これは米国の連銀金利にあわせたモン尾であるが、BOTはインフレ率との調整であるとと説明している。

タイの消費者物価上昇率は06年1Qは前年同期比5.2%に上昇している。食料と、エネルギー価格を除くコアー・インフレ率は2.6%にとどまっている。しかし、石油価格の上昇は自動車輸送への依存度が高いタイにとっては根幹の経済問題であり、貿易収支の赤字の最大要因でもある。

BOTの金利上げのニュースに昨日は通貨が1ドル=38バーツを切る場面もあったが、38.075バーツで引けた(前日38..165)。一方、株価はタクシン辞任のニュースで770.33(4月9日終値、4月3日は738.67))まで急騰していたが、12.82ポイント急落し757.51で引けた。

これから、輸出を伸ばさなければならない、タイ経済にとっては不必要とも思える金利引き上げであるともいえよう。しかし、不必要に石油が輸入されているとも思えない。石油の輸入を抑える目的であれば、石油製品価格の引き上げや鉄道輸送の強化など別の対策が求められるはずである。

最近、タイではディーゼル・オイルの供給不足が目立ち、シェル(タイランド)やエッソ(タイランド)は緊急に1億2000万リットルのディーゼル・オイルの輸入を行った。

政府の価格抑制方針にもかかわらず、ディーゼル・オイルの値上がりは続いており、現在1リットルあたり26.29バーツ(81.5円)になっている。それでも品切れからディーゼル・オイルの在庫切れで販売を中止するガソリン・スタンドが相次いでいるという。

ディーゼル価格の値上がりはトラック運賃の値上がりに直結し、200Km圏内の運賃は1Km当たり、1.2バーツ(1バーツ=3.1円)から1.6バーツに値上がりし、200Km以遠では1Km当たり1.4バーツから1.7バーツへと急上昇している。

これらは、タイ経済の政庁にとってマイナスの効果を及ぼすことは明らかである。しかし、これは自然の流れであり、政府がムリな規制を加えれば、かえって経済にゆがみが生じる結果となるであろう。

現在のディーゼル・オイルの輸入価格は1バーレル(159リットル)あたり80ドルである。これにタイの硫黄含有量の規制値を満たすにはさらに6〜7ドルのエキストラ・コストがかかり、トータルで87ド(約3,300バーツ=1リットルあたり20.75バーツ)となる。

タイはGDPベースで最も石油消費量が高い国であるといわれている。その最大の理由は交通の増加をもっぱらトラック・バスなど自動車に依存してきた。鉄道網があるのにそれが十分に活用されてこなかった。

その最大の理由は1960年代にベトナム戦争遂行のために米軍がやたらに高速道路を建設し、トラック輸送体系を持ち込んだせいだとも言われている。しかし、タクシン政権の5年間だけ見ても高速道路は拡充される一方、地方への鉄道輸送はかなりおざなりにされてきたように思える。

(http://www.nationmultimedia.com/ 06年4月12日版など)

 

110-4. タイの06年1Qの成長率は6.0%と好調?(06年6月6日)

タイのNESDB(国民経済社会開発委員会)によると06年1Qの経済成長率は前年同期比6.0%と05年4Qの4.7% を大きく上回る伸びとなった。その原因は一言で言えば05年1Qは津波や干ばつの影響でGDPの伸びが3.2%にまで鈍化したことへの「統計上の反動」ということに尽きるようである。

部門別成長率をみると、農林水産部門が7.1%と高い成長を示したのは05年1Qの-8.7%に対する反動増である。米、砂糖、キャッサバといった主要作物が国際価格の上昇もあって増産となった。

ホテル等の12.1%増も前年同期の-1.8%に対する増加と見てよい。津波直後に激減した観光客が例年並の水準に戻ってきているためである。

ただし、製造業の7.6%増は輸出の好調によるものであり、1年前の津波の影響は直接関係ない。タイは自動車の生産・輸出が特に目立った。エレクトロニクス関係の伸びも比較的好調であり、06年1Qは輸出全体が金額ベースで17.9%の伸びを記録したと報告されている。

GDE(支出)でみると民間消費は4.1%と前Q同様、不振である。クレジット・カードによる消費が増えているので一定のレベルは維持しているものの、家計の負債は着実に増加している。

政府消費は政治的混乱もあり、予算の執行が遅れ気味であり、0.7%増という低い伸びにとどまった。

投資は05年の前半は2桁成長が続いたが3Qは8.4%、4Qは8.1%とやや低下してきてい おり、06年1Qには伸び率が6.6%と鈍化した。この数字自体は東南アジアでは低い水準にあるとはいえないが、これには不動産投資の増加分も含まれているので要注意である。

輸出 は13.4%と高い伸びを示した。自動車やエレクトロニクス関係の輸出が好調なためである。一方、輸入は石油価格の高騰が国内需要を抑制しているものと見え0.6%と低い伸びにとどまった。

タイ経済は外資の頑張りにより成長がいじされているという姿になっていることは否定できない。しかし、タクシン首相が地位にしがみついていると国民の政治的フラストレーションがつのり、経済にもよい影響を与えないことは明らかである。

一日も速く「国民がそれなりに納得の行く政権の発足」が望まれる。

06年全体のみとおしとしてはNESDBは4.2〜4.9%と5%を切るという見通しに下方修正した(従来は4.5〜5.5%)。これは石油価格がなかなか下げる方向には進みそうもないことと、国内の消費と投資の伸び率が鈍化傾向にあるというのがその根拠である。輸出も2Q以降伸びが鈍っていくと見ている。

(表はアップ・デートしたものを#110-9に移しました)

 

110-5. 06年5月の消費者信頼度指数は4年来の低水準(06年6月12日)

タイ・チェンバー・オブ・コマース大学が定期的に行っている消費者信頼度指数(Consumer Confidense Index)調査によれば06年5月は4月の76.7から75.5にまで低下した。これは2002年4月の74.2に次ぐ低い数字であるという。

これをみるとタクシン政権が発足して1年以上過ぎた02年4月においても、タイの景況感は回復していなかったことを物語っている。その後、タイの景気が良くなったのは中国向け輸出の好調に引きづられたものであるといえる。タクシンが「景気対策の達人」だなどというのはマヤカシなのである。

それはさておき、なぜ今、タイ経済の調子が悪いかといえば、原油高の影響をモロに受けているからである。タイはGDPあたりの石油消費量が世界一高い国であるといわれている。それは輸送システムが過度に「自動車」に依存しているからである。

バンコクから南部や北部、東北部への交通も大部分がトラックとバスと飛行機に依存しており、鉄道はあることはあるが、きわめて緩慢にしか運行されていない。 旅行者がふらりと出かけていって切符をとること自体至難のわざである。

政府のエネルギー政策・計画局(EPPO)のレポートによれば06年1〜5月の石油の輸入と消費は大分減ってきているという。06年1〜5月のディーゼル油の消費は1日あたり5,310万リッターで前年同期比で8.9%減少した。

ベンゼンとガソリンは同じく1,970万リッターで2.2%の減少となった。

原油の輸入は06年1〜5月の間は1日あたり83万1千バレルで1.9%の減少となった。ただし、金額ベースでは3,101億8千万バーツと前年同期比31.3%にもなっている。(タイは石油製品の輸出もおこなっているので輸入と消費の間にはアンバランスがある。)

タイの自動車の国内販売も3.4月連続で前年比を下回ったといわれている。輸出でどうにかカバーしているが、周辺国も自動車の販売が落ち込んでいるので先行きの不安感はぬぐえない。

タイ経済の問題点は原油高による消費のへの圧迫効果だけでなく、最近の政治不安定も心理的な影響を国民一般に与えていることは確かであろう。

タクシンは政権の永続を狙っているようだが、最早国民の信頼を回復することは不可能であり、彼が政権に居座り続ける限りはタイ経済は突破口を見出すのは難しいであろう。

国民の信頼を失った政権が交代すれば、国民は開放感から「消費マインド」が向上するという例は過去にも見られた。

 

110-6.このままではタイの06年は4%成長はムリ、産業連盟(06年6月29日)

日本の経団連にあたるタイ産業連盟(FTI)のサヤン事務局次長(Sayan Chavipaswongse)は06年のタイの経済成長率は4%を割り込むことになりかねないと、強い危機感を語っている。

タイは06年1Qは一応6%の成長を達成したが、タクシン首相への辞任要求の高まりと、その後の政治的混乱が長引く中で、国内外の企業家の投資が減る動きにあり、国民も消費を手控えていることから、タイ経済は日ましに悪化しているという。

タイ商業会議所のチット(Jit Siratranont)事務局次長も同様の懸念を表明している。また、TRT党と民主党に解散命令が下るようなことになれば、選挙はさらに遅れ、政治的空白が来年までズレ込む恐れもあるとしている。

政治的混乱の中でいわば「超然?}として経済活動を続けているのは日系企業を中心とする、自動車やエレクトロニクス産業で比較的好調な輸出動向を続けている。

しかし、タイの内需(消費と投資)は完全におかしくなってきていることは事実であり、確かに4%成長という「防衛ライン」は崩れる可能性がある。

だが、1997−8年の通貨経済危機を経験している企業家や国民はたとえ4%の成長が達成できなかったとしても、別にどうということもない(マイ・ペンライ)と思っている向きが大半であろう。

問題は、「設備投資の遅れ」が将来的にどう影響するかであろう。タクシン政権が今後も続けば外資はタイへの設備投資を手控えざるを得ないであろう。タクシン政権の外資政策というのは政権初期のタクシンの発言に現れているようにナショナリズムの強いものだったのである。

それは基本的に現在も大きな変化はないと私は見ている。むしろタクシンが意識しているのは中国とシンガポールとの華人枢軸関係であることは今まで述べてきたとおりである。シン・コーポレーションも最初は中国に買ってもらうことを考えていたが、中国側が断ったためシンガポールに話しを持っていった言われている。

タクシンン政権下ではシノ・タイ社という地元大手ゼネコンが新国際空港からバンコク市内までの高速道路の建設を受注したが、工事に欠陥が見つかり(支柱にクラックが10箇所以上も発見されたという)、同社の株が数日前大暴落した。

タクシンの地元の特定資本家優遇策が過去5年間の間にあちらこちらで問題を起こしてきたのである。

タイはタクシンという自称有能な政治家のおかげで、かなりおかしくなってきている。日本も小泉純一郎という特殊な思想をもった首相 (A級戦犯の合祀されただ所に参拝するなどという)のおかげで中国と韓国の外交関係がぶち壊され、アジア諸国も日本にほとんどの国が批判的である。

そんなことはどうということはないと思っている国民も結構いるらしいが、それは大きな間違いである。現場でアジア諸国との友好関係の構築に日常努力している日本人、日系企業の努力がいとも簡単に踏みにじられていることを忘れるべきではない。

タクシン首相はサッカーのワールド・アップの決勝戦の観戦にドイツに近々出かけるそうである(正体切符を持っているという)。小泉首相はブッシュ大統領との友情を確認した後、エルビス・プレスリーの墓に詣でるらしい。お互いに結構なご身分である。「いいじゃないかシアワセならば。」か???

 

110-7.タイの自動車生産は06年1−5月は18.2%増の49万8千台(06年6月30日)

たい産業連盟の発表によれば06年1−5月のタイの自動車生産は497,668台と前年同期比18.2%増(プラス76,643台)となった。輸出向けは223,576台と全体の44.92%を占め、前年同期比では41.6%の増加となった。

この数字から逆算すると国内向け生産は274,092台であり、05年の生産は421,025台ということになる。このうち、輸出向けは158,000台であるから、国内向けは263,025台ということになる。これらの数字から見ると国内向け生産は4.2%の伸びにとどまったことになる(バンコク・ポストの記事は国内の数字については言及していない)

乗用車の生産は123,056台と14.53%の増加となった。また、1トン・ピック・アップ車は364,627台と20.22%の増加となった。1トン・ピックアップ車の輸出は173,132台と全体の47.4%を占める。これは三菱自工などが1トン・ピックアップ車の日本国内の生産をやめ、生産基地をタイに集中した動きを反映したものである。

タイ産業連盟では06年全体の自動車の生産見通しを1万トン下方修正して123万7千台という筋を明らかにした。国内向けは695,737台、輸出向け541,116台であると言う。国内向けの生産は落ち気味になっていることは間違いない。これは東南アジア各国に共通して見られる現象である。

東南アジアのほとんどの国で06年4月頃から自動車の国内販売は前年比マイナスになってきている。石油、ガソリン価格の高騰と高金利が影響してきているのである。

タイの自動車生産(2輪社を含む)はタイのGDPの10%を占めるにいたり、輸出全体の10%を占めているという。

 

110-8 タイの06年6月の自動車国内販売は12.4%減(06年7月13日)

06年6月のタイの国内自動車販売は55,535台となり、前年同月比12.4%のマイナスとなった。商業車が-15.7%、1トン・ピックアップが-15.3%、乗用車が-3.1%であった。

06年1〜6月の合計では334,776台となり、前年同期比3.2%となった。タイのトヨタ自動車は年間のタイ全体の自動車販売は5%増の73万5000台という予想は変えていないという。なお、生産については輸出増に支えられて比較的好調を維持している(110-7の記事参照)。

今までの減少の理由は石油価格の上昇による要因が指摘されるが、個人所得の伸び悩みも影響しているものと思われる。

東南アジア全体に自動車の販売は不振であり、ほとんどの国で前年比にくらべマイナスになっている。その中でもタイの減少は比較的緩やかである。

⇒タイの06年上期の自動車生産は14.8%増(06年8月8日)

タイの産業連盟の発表によれば06年1〜6月期の自動車生産台数は597,474台に達した。これは前年同期の14.8%増である。そのうち乗用車の生産は149,753台(+13.4%)、トラックは447,550台(+15.3%)、バスは171台(-13.2%)であった。

2006年通年では125万台(+10.7%)になるという見通しである。国内需要の減少は輸出増加でカバーしている。

 

⇒タイの06年1〜8月の自動車輸出は29%増(06年9月30日)

タイの06年1〜8月の自動車生産は796,552台に達し、国内販売は442,666台で前年同期比+1.7%にとどまったが、輸出は353,886台と前年同期比+29.2%と大幅に伸びた。

 

⇒タイの2006年の自動車販売は682,500台と3%減少(07年1月12日)

タイの2006年の自動車の国内販売は682,500台と3%減少したが、トヨタは289,108台と4%増加した。その結果タイでのマーケット・シェアは42.4%と拡大した。また、トヨタは196,935台を輸出した。輸出の売り上げは865億バーツ(約2,850億円)となった。

石油価格の高騰と一般経済の停滞の中で自動車販売は各国ともかなり減っており、そのなかでの3%減という数字はさほど悪いものではない。

 

110-9. タイの06年2Q成長率は4.9に低下(06年9月4日)

タイのNESDB(国民経済社会開発委員会)によると06年2Qの経済成長率は前年同期比4.9%と06年1Qの6.1%から大きく後退した。

部門別成長率をみると、農林水産部門が前Qの6.3%(7.1% から下方修正された)から06年2Qは5.4%に鈍化したが、これはむしろ正常時の値としては良い数字である(06年Qは05年1Qの自然災害の反動増)。

ただし、製造業の7.8%増から5.8%増へと2Qの伸び率は 鈍化した。これは輸出国内とも需要が伸び悩んでいることの反映である。

ホテルなどの伸びは06年1Qに引き続き2桁成長(+11.2%)を続けているが、他の部門は総じて伸びが低い。特に、金融部門は06年2Qの伸びがわずかに3.%であり、これは1Q同様、政治的な混乱を反映して、企業の投資活動などが手控えられているためである。

GDE(支出)ベースでみると民間消費は3.7%と前Qの4.1%同様、不振である。クレジット・カードによる消費が増えているので一定のレベルは維持しているものの、家計の負債は着実に増加している。

政府消費は政治的混乱もあり、予算の執行が遅れ気味であり、3..4%という低い伸びにとどまった。前Qは-0.9%(+0.7%から下方修正)という低い水準であった。

投資は05年の前半は2桁成長が続いたが3Qは8.4%、4Qは8.1%、06年1Qには伸び率が6.6%と鈍化 を続け、06年2Qはついに3.6%という水準まで下がってしまった。これはタクシン首相への辞任要求に伴う政治的混乱の反映である。

輸出 は9.2%と比較的高い水準にあるが、1Qの13.5%からみれば鈍化している。自動車やエレクトロニクス関係の輸出が好調なためである。一方、輸入は石油価格の高騰が国内需要を抑制している ことや設備投資の鈍化により低下傾向にあり、-2.2%となった。

タイの政治経済はタクシン首相が居座っている限り、どうにもならない。特にバンコクの中間階級の信頼を失ってしまったいま、いくら東北部の農民の支持があるからといって政権を安定して維持できる条件はなくなった。

政治とは直接関係のない外国資本(日本の自動車メーカーなど)がセッセと輸出にはげんでいるからタイの経済は何とかもっているという状況である。

06年後半は米国の経済も怪しいという説がある。そうなるとタイ経済は肝心の輸出の伸びが さらに鈍化していくおそれがある。タクシンがスッキリ辞めてしまえば、心機一転、タイには]明るい太陽が輝き始めるという予感がする。タイ人は今の状況を「民主化」へのワン・ステップと考え、あまり悲観していないようだ。

悲観すべきは日本人の方で、どういうジイヤにお育てになられたかな知らないが、右翼・反動思想でコリ固まったお坊ちゃま政治家が次々出てきてアジアに不安と反発のタネを撒き散らしている。「もうイイカゲンにしてくださいよお坊ちゃま」といったところか。

 

110-10. 06年の外国からの投資は減少傾向、07年はさらに悪化?(06年10月25日)

カシコム・バンク(Kasikorm Bank=元のタイ・ファーマーズ・バンク)リサーチ社の調査によれば、06年1〜8月のタイへのFDI(外国企業の直接投資)は税の優遇措置を申請したプロジェクトの合計金額が1,870億バーツ(約4,300億円)と、前年同期の2,421億バーツからみると22.8%減少している。

件数で見ると05年の551件から今年は548件で大差はなく、平均的な投資金額が小型化していることが窺われる。

業種別には電機・電子産業で、化学、製紙、プラスチック、インフラ、金属、機械、自動車など広範囲にわたっている。

07年の見通しとしては、06年に比べさらに30%くらいは減るのではないかというのが同社(KResearch)の見方である。タイ政府は逆に政治的な安定もあり、かなり増えそうだという見方をしているという。私も中国からのシフトも見込まれので、増えると考える。少なくとも減ることはありえないのではないか?

 

110-11. タイの消費者信頼度指数は順調に回復(06年11月10日)

タイ・チェンバー・オブ・コマース大学(UTCC)が毎月おこなっている消費者信頼度指数(Consumers Cobfidence Index)調査によると、06年9月のクーデター以降、連続して上昇し、06年10月には83.5ポイントとなった(9月82.1ポイント)。

これは過去7ヶ月の最高値であり、タイ国民の今回のクーデターに対する肯定的評価を物語るものといえよう。もちろん、最近の原油価格の低下も消費者に安心感を与えていることは間違いない。

経済全体に対する見方は9月の76.4から10月の77.7へと回復している。また、将来の収入に対する信頼度は92.7から94.4へと上昇した。これは輸出の増加が続いており、雇用も比較的安定しているためである。

10月のディーゼル油価格は9月より1リットル当たり3.7バーツ下がって23.84バーツに、またプレミアム・ガソリンは3.2バーツ下がって25.29バーツとなった。

消費が回復すれば、経済成長率も伸びることは当然であり、年末から07年にかけてかなり順調な回復が期待できる。ただし、あくまで回復の中心軸は輸出の伸びであり、米国や中国や日本の景気動向に左右される。

 

110-12. タイの不動産業06年3Qは業績にカゲリ(06年11月16日)

大手不動産開発企業の多くは06年3Qは業績が悪化していると英字紙ネーションは報じている(06年11月16日、インターネット版)。

タイにおける最大手の不動産デベロッパーのLand and House 社は3Qの純利益は5億3197万バーツ(約17億2千万円、現在1バーツ=3.23円)と前年同期の14億7千万バーツに比べ、63.8%も減少した。

減益の理由は経済の減速と、金利の上昇と売り上げの落ち込みであるとしている。また、原油高による建設資材などの高騰があり、限界利益が05年3Qの34.49%から30.65%に落ち込んだと説明している。

Quality House社も同様に3Qの純利益は前年同期比57.8%減少し、1億122万バーツにとどまった。売り上げは12.6%増え20億1千万バーツとなったが、コスト高をカバーしきれず大幅な減益になった。売り上げコストは前年同期に比べ24.1%(2億9千万バーツ)上がったという、

Property Perfect 社は4,401万バーツの赤字に転落した。06年3Qは1億8033万バーツの黒字だった。今期は売り上げが32%も減少したのが響いた。

Gokden Land Property Development 社は今期は5,000万バーツの黒字となった。昨年の3Qは1,265万バーツの赤字だったので業績は好転したことになる。この規模の会社になると、物件の販売がQ別に大きくぶれるので、Q別の損益は必ずしも安定しない。

その他の小規模企業の業績はまちまちだが、全体としていえることはタイの不動産開発業には明らかにカゲリが出てきているということである。こういう現象は1997年の通貨危機の前夜にも起こった。

今回は、タイ経済全体が過熱しているわけではないので別に通貨危機の再発を懸念する必要はないであろうが、自動車販売の減少(06年10月は前年同月比10%減)とあわせ、国内需要が減少傾向にあることが明らかになってきた。

タクシン政権が崩壊し、政治的安定が得られることは心理的に景気にプラスに作用することは間違いないので、今後、内需の回復はある程度期待できよう。輸出の好調が現在のタイ経済の支えである。

 

110-13. タイの上場企業は売上増加21%、利益はわずかに1%増(06年11月20日)

タイ証券取引所の発表によると、06年1〜9月のタイの上場企業の純利益の総額は3,710億バーツ(約1兆1千億円)と前年同期比プラス34億9千万バーツ、伸びにして0.94%の増加にとどまった。一方、売上高は21%増加したという。

利益の多い順位は1位がPTT(国営石油会社)の797億バーツ(2,575億円)、2位サイアム・セメントの247億バーツ、3位PTT開発・生産会社の219億バーツ、4位タイ・オイル社の147億バーツ、5位バンコク銀行の138億バーツである。

業種別に利益が多かったのは1位石油部門の1,515億バーツ、2位金融部門の763億バーツ、3位不動産部門の443億バーツであrった。製造業は69社合計で301億バーツであったが、純利益は42%増加している。

減益となった部門は、農業・食品企業の利益はマイナス22%と大きく減少している。次いで、不動産・建設材料部門が-18%、技術企業(technology stock)が-18%、金融部門が-12%であった。

調査対象は全上場企業461社中377社である。

企業の利益率が下がり始めると、いくらマクロ経済の数字がよくとも危険信号である。タイ経済も要注意である。

(11月18日、バンコク・ポスト、インターネット版参照)

 

110-14. タイの06年3QのGDPは4.7%とやや低下(05年12月4日)

タイのNESDB(国民経済社会開発委員会)によると06年3Qの経済成長率は前年同期比4.7%と06年2Qの5.0%からやや後退した。9月19日のクーデターをはさんでの混乱した時期の数字としてはまあまあの実績でといえるであろう。しかし、各部門・項目とも2Qにくらべ押しなべて鈍化している。

内需に比べ輸出が比較的好調であったため何とか4%台の成長を維持できたといえる。10月以降は輸出もさらに伸びており、やや明るい兆しが見えてきた。通年で5.0%の成長も可能となったと見ることが出来よう。

外資も自動車関連意外にダウ・ケミカルが9億ドルの投資をBOIに申請するなど前向きの動きが出てきている。タクシンという重石が外れたことによりタイ経済は今後活気を取り戻していくであろう。

クーデター後は株価も上昇し、通貨バーツも1ドル=37バーツの大台を突破し、36バーツ台に入り、さらには11月30日には35バーツ台に突入し、8年ぶりの高水準となった。これは輸出産業にはやや痛手であるが、 石油や 機械や中間財の輸入が多いタイ経済全体にとってはプラス材料でもある。

部門別成長率をみると、農林水産部門が前Qの7.1% から下06年3Qは5.2%に鈍化した。

製造業の5.7%増から5.4%増へと3Qの伸び率はやや鈍化した程度にとどまった。

GDE(支出)ベースでみると民間消費は2.9%と前Qの3.3%からさらび鈍化している。 この数字はボトムであって今後は上向きに転じていく物と思われる。

政府消費は政治的混乱もあり、予算の執行が遅れ気味であり、4.3%とい、2Qの5.7%にくらべ低い伸びにとどまった。

投資は05年の前半は2桁成長が続いたが05年3Q以降は毎Q伸び率が鈍化祖、06年3Qはついに3.2%という水準まで下がってしまった。これはタクシン政権末期の政治的混乱の反映である。

輸出 は2Qの9.0%と比較的高い水準にあったが、3Qは4.9%へと鈍化している。

 

110-15. 異常なバーツ高に中央銀行介入(06年12月6日)

最近ドルが軟化しているが、タイの通貨バーツもそれ以上に高騰し、12月6日は1ドル=35.64バーツ(年初に比べ14.6%アップ)という9年ぶりの高値をつけた。年初の1月3日には40.860バーツであった。特に最近1ヶ月ほどの動きが激しくなっている。(下表参照)

最近輸出によって経済成長を維持しているともいえるタイにとってバーツ高は深刻な危機と受け止め、タイ銀行(中央銀行)は具体的な対策を打ち出している。

タイ銀行では、この急激なバーツ高はヘッジ・ファンドの投機的な売買によるものだとして警戒感を強め、短期の外資の出入りを規制するという方向に動き出した。

タイ銀行は非居住者で国内で事業をおこなっていないものはタイ国債などは購買後最低6ヶ月以上保有することを義務付けることとし、また通常のビジネスに基づかない為替の売買スワップは従来の3ヶ月単位ではなく6ヶ月単位に延長するなどの直接規制に乗り出した。

また、国内企業や金融機関に対して、短期の債務証券ばどを非居住者に売り渡さないよう求めている。これは、外国人投資家がバーツを買って(ドルを売って)国内債券を買っている額が急増している事実に対応する措置である。

また、タイ銀行は、11月中旬には非居住者(主にヘッジファンド)はタイ国債を35億ドル(年初は約20億ドル)保有していると見ている。確かに、外国人のタイ国内債券(銀行発行ものなど含む)の取引は急増しており、10月は559億バーツであったものが11月には1020億バーツになった。

これらの対策はバーツの投機に対してはほとんど実効性がないというのが関係者の見方である。実際問題として、為替投機そのものに対する有効な決め手はおそらく見出せないであろう。

(06年12月5日付けWSJ、12月6日付けバンコク・ポスト電子版など参照)

 

⇒タイ中央銀行、為替投機防止策の妙案(?)を発表(06年12月19日)

バンク・オブ・タイランド(タイ中央銀行)総裁ののタリサ(Tarisa Wattanagase)女史は12月18日(月)、次のような外貨政策を発表し、翌19日(火)から実施すると宣言した。

現金で、2万米ドル以上をタイに持ち込む投資家は、その30%をタイの金融機関に預けなければならない。その金額は1年以上経てば出国時に返還されるが、もし1年以内に持ち出そうとすれば、3分の2だけしか返還されないというものである。

ただし、これはFDI(外国直接投資)には適用されないので、外資による設備投資には何の影響もない。

また、貿易の実態を反映した為替の出入りにもこのルールは適用されない。

これは、いうまでもなく短期資金の流入を規制するものであり、たちどころに効果を現したようである。ここ数日の為替の動きを見ればそれは一目瞭然である。(上の表参照)

昨日(12月18日)のバンコクの市場は外国人投資家が規制を嫌って手持ちの金融資産をドルに換金したため、ドル買いバーツ売りでバーツが15日の1ドル=35.27から35.55へと安くなった。株価も下がった。これはタイ市場から外資が逃げる動きをし始めたといえるかもしれないのである。

もちろんもう少し様子を見なければはっきりしたことはいえないにしろ、短期資金の流入には歯止めがかけられるであろう。

タリサ女史は「30%の根拠は?」という記者からの質問には「短期のスペキュレイターは30%程度の利益を上げているからだ」と答えた。また、この規制は時期や結果をみて臨機応変に対応していくとも述べている。

プリディヤトン副首相兼財務相もバーツの異常高を止めるには良い方法であろうと評価しているという。

インフレ問題の帰趨がハッキリしない今の段階では為替対策としての金利は動かしたくないということであろう。これは今の段階では為替高に悩むアジア各国に見られる現象である。

 

⇒バンコク証券市場大暴落、730.55→622.14(06年12月19日)

バンク・オブ・タイランドが発表したバーツ高対策が過激すぎてヘッジ・ファンドの逆鱗に触れたとみえてバンコク証券市場は激しい売り攻勢にさらされ、史上最大級の下げ幅を記録した。 (16年ぶりの下げ幅だといわれる。2004年8月30日の612.44の水準に一気に逆戻り)

前日の引け値730.55ポイントに対し、本日(12月19日)の引け値は622.14ポイントと実に-14.8%という異常な下げを記録した。これは経済実態をなんら反映したものではなく、外国投機筋の襲撃である。いわば、「生意気なバーツ防衛策がケシカラン」という彼らのタイ経済に対する威嚇である。

国際金融資本のいうことを聞かないとひどい眼にあわせるぞという「経済的暴力」をみせつけたものともいえよう。1997年の通貨危機当時の国際金融投機筋の言動を思い起こさせる事件である。

これにどう対応するかはもちろんタイ政府と中央銀行の責任だが、早くも昨日の30%強制デポジット案は3〜5%に修正せよという声が出てきている。株を投売りした連中に痛い目に会っていただくためにもここはタイ政府・国民に頑張ってもらいたいところである。

ところが、株式暴落に驚いたタイ政府は12月19日夕方から緊急会議を開き、前日公表したばかりの為替政策を大幅に修正し、株式投資には上記の30%デポジット方式は適用されないということにした。(06年12月20日追記)

 

⇒株価急回復1日で64%戻し691.55に(06年12月20日)

「ブラック・チューズ・デイ」という表現でタイの新聞は昨12月19日の株式暴落を表現するほどの大事件が軍事ク^デター直後のタイを襲ったのであった。

株式暴落に驚いたタイ政府は12月19日夕方から緊急会議を開き、前日公表したばかりの為替政策を大幅に修正し、株式投資には上記の30%デポジット方式は適用されないということにした。

これを受けて本日(12月20日)のバンコク市場は早速買い戻しの動きが出て、朝から株価は急上昇して結局691.55と前日比69.1ポイント高(+64.0%)と1日で下げた分の3分の2を取り返した。

他の東南アジア市場もフィリピン以外は全て回復に向かった。シンガポール、マレーシア、インドネシアはそろって回復に向かったが、19日のロスは挽回できていない。

12月20日現在は前日に比べ、為替はタイ以外はおおむねドル安=現地通貨高という傾向が見られた。

最近3日間の株価と為替の動き

12月18日の指数 12月19日の指数 12月20日の指数 12月18日 12月19日 12月20日
韓国 1433.23 11.36 1427.76 -5.47 1442.28 14.52 927.15 931.90 925.80
台湾 7624.62 85.80 7598.88 -25.74 7648.35 49.47 32.598 32.743 32.615
シンガポール 2963.44 32.15 2897.30 -66.14 2920.83 23.35  1.5415  1.5434  1.5388
マレーシア 1081.60 -7.72 1060.36 -21.24 1076.30 15.94 3.555 3.576 3.5440
タイ 730.55 -5.74 622.14 -108.41 691.55 69.41 35..550 35.495 35.825
インドネシア 1787.62 -4.54 1736.67 -50.95 1776.80 30.13 9087.0 9120.0 9086.5
フィリピン 2877.83 21.54 2849.71 -28.12 2829.57 -20.14 49.315 49.650 49.375
インド 13731.09 116.57 13382.61 -348.48 13340.21 -42.40 44.751 44.781 44.735
中国(上海A株) 2332.43 58.53 2364.18 31.74 2373.20 9.03 7.8202 7.8212 7.8152
香港ハンセン指数 19192.91 82.26 18964.55 -228.36 19240.52 275.57 7.7738 7.7758 7.7745
日経平均 16962.11 47.80 16776.88 -185.23 17011.04 234.16 117.745 118.016 118.015

 

今回の騒動のタイの国内での反応は輸出産業はバーツ高騰阻止というタイ政府の姿勢には賛同している。ただし、やり方が急過ぎたという批判はある。証券業界は当然のことながら批判的である。

外国の金融機関やメディアは「外資規制」そのものが彼らの「経済学の教科書」に合わないとして、かなりヒステリックな反応を示しているところもある。しかし、どこの国でも自国の通貨安定のためにはさまざまな手段を講じているのである。

そのやり方が、まずかったというのが今回のバーツ騒動である。しかし、結果はたいしたことにならずに落ち着くところに落ち着くのである。タイ経済のファンダメンタルズは悪くない。外国の機関投資家が騒ぎすぎたのである。

それよりも、年間8000億ドルを超える貿易赤字を抱える米ドルは本来もっと安くなるのは当然であろう。日本は超低金利で円安を演出し、間接的にドル相場を支える役割を果たしてきたのである。日本の金利が少し上がればドルはかなり安くなる可能性が高い。

  タイ
  株価指数 バーツ/ドル 円/バーツ
1997年7月1日 閉鎖 24.700 4.647
10月13日 532.95 35.900 3.363
1998年1月12日 339.17 56.100 2.356
11月5日 362.08 36.425 3.226
2001年7月20日 312.27 45.760 2.696
2002年1月3日 318.64 44.065 3.009
2003年2月10日 375.84 43.130 2.812
2005年3月1日 738.75 38.270 2.726
10月3日 717.42 41.177 2.768
2006年1月3日 725.64 40.860 2.869
3月17日 741.43 38.975 2.985
4月14日 755.43 37.896 3.130
5月15日 765.97 38.230 2.886
7月10日 684.55 37.855 3.006
10月27日 725.77 36.715 3.202
11月30日 739.06 35.935 3.235
12月5日 742.45 35.64 3.217
12月14日 732.40 35.22 3.335
12月15日 736.29 35.27 3.352
12月18日 730.55 35.55 3.312
12月19日 622.14 35.495 3.325
12月20日 691.55 35.825 3.294
12月21日 676.10 36.290 3.257

 

110-16.タイの06年11月の貿易収支の黒字が前月比倍増(06年12月21日)

商業省の発表によればタイの06年11月の輸出額は118.7億ドルと前年同月比20.7%の増加となった。一方輸入は101.3億ドルと前年比3.5%の増加にとどまった。貿易収支の黒字は17.4億ドルに達し、06年10月の黒字8.1億ドルの2.15倍となった。

06年1〜11月の輸出合計は1189.9億ドル(前年同期比17.2%増)であり、輸入は1168.0億ドル(同7.5%増)であった。その結果、貿易黒字の累計は21.9億ドルに達した。

タイの輸出の主役はエレクトロニクス関連製品と自動車および部品である。

このような輸出増加と貿易黒字を背景にバーツ高が急速に進み、06年初1ドル=40.86バーツだったものが12月15日には35.22バーツと13.8%もバーツ高が進んだ(12月15日を基準に見れば16%)。

上の表に見るごとく、タイ中央銀行のとったバーツ高是正策が証券市場にパニックを起こした。また、バーツも安値方向に修正され1ドル=36.29バーツまで下げた(12月21日)。

極端な為替高には韓国も悩まされており、輸出が増加はしているが、企業採算は苦しくなるという点では両国ともに共通している。

 

110-17. タイの銀行ー貸し倒れ引当金積み増しで大幅減益(07年1月23日)

タイ中央銀行は新しい国際会計標準IAS(International Accounting Standard)39の基準を遵守するように各銀行に通達を出し、各行とも貸し倒れ引当金をいっせいに積み増した。 そのため国営のクルン・タイ・バンクを除いて各行とも2006年の純利益は減少した。

Kasikom Research Center(元タイ・ファーマーズ・バンク調査部)によるとタイの金融業全体で2006年末の貸し倒れ引当金総額は400億バーツとなり、06年10月の80億バーツに比べ約5倍に増加したという。

以下にバンコク・バンクTMBKTBの3行の2006年の純利益速報をバンコク・ポストの記事に基づき記載するが、詳細は不明の点が多い。貸し倒れ引当金の積み増しによって純利益は減少したとされているが、それがなくてもさほど良好な業績をあげているようには見えない。

これとは別に業界第6位のバンクタイ(BankThai)は2006年は39.7億バーツの赤字が報告されている。バンクタイは24.99%の株式をTPG Newbridge(米国のTexas Pacific Group)に譲渡することが予定されている。

同行の06年4Qの貸し倒れ引当金の積み増し額は銀行本体で7億8600万バーツ、子会社で6億6400万バーツを要したという。

(バンコク・バンク)

2006年の損益速報(単位;億バーツ)

  2005年   2006年   増減
純利益 203.1 178.5 -24.6
貸倒れ引当金 43.1 99.0 +55.9
利子収入 767.7 +37%
金利支払い 324.9 倍増
不良債権   891.2  

2006年9月末の不良債権は1033.6億バーツであった。

 

(TMB=タイ・ミリタリー・バンク)

2006年の損益速報(単位;億バーツ)

  2005年   2006年   増減
純利益 78.0 -122.8 -200.8
貸倒れ引当金 公表せず 180.0

 

(KTB=クルン・タイ・バンク)

2006年の損益速報(単位;億バーツ)

  2005年   2006年   増減
純利益 130.2 140.8 +10.6
金利収入 674.7? +34%
非金利収入 13.1 101.1 88.0
貸倒れ引当金 64.4 165.0 100.6

KTBの収入内訳は不明の点がある。バンコク・ポスト紙の数字をそのまま記載した。

 

110-19.タイの06年4Q成長率は4.2%と鈍化、通年では5.0%(07年3月6日)

タイのNESDB(国民経済社会開発委員会)によると06年4Qの経済成長率は前年同期比4.2%と2Qの5.0% 、3Qの4.7%から徐々に後退した。

内需に比べ輸出が比較的好調であったため何とか4%台の成長を維持できたといえる。製造業は4Qは5.8%と3Qの伸び5.5%を上回った。これは輸出が6.8%(商品だけだと8.7%)と3Qの4.7%(商品だけだと4.9%)をかなり上回ったためである。

クーデター後は株価も上昇したが、通貨バーツが急激に上昇し、06年年初1ドル=40.86バーツから11月30日には35バーツ台に突入し、8年ぶりの高水準となった。 そのためタイ中央銀行は投機目的の短期外資の流入規制をおこなったが、それを機会に株価は暴落し、バーツ高も逆に進むという不本意な結果となった。(上の110-15参照)

部門別成長率をみると、農林水産部門が2Qの7.1% から3Qは4.0%。さらに4Qは0.9%へと急速に鈍化した。これは天候不順による洪水などが影響している。

GDE(支出)ベースでみると民間消費は2.5%と3Qの2.9%からさらび鈍化している。政府消費は クーデターの影響もあり、4Qは-4.2%(3Q=4.3%)という異常な事態となった。

民間の 投資は4Qは2.3%とという低水準にとどまった。これはクーデター騒動と、中央銀行の規制策などの影響があるが、政治的混乱 は収まりつつあり、07年の後半には回復してくるものと思われる。外資に対する締め付けは特に厳しくなったわけではない。

投機的短期資金の流入と、外資の出資比率が厳しく規定されている通信部門などへの「名義株主」の利用が厳格に制限されただけである。これはシン・コーポレーションのシンガポール政府投資機関のTEMASEKへの売却問題に端を発した措置であり、一般の製造業には関係がない。

07年のタイ経済は米国と中国の経済に異変が起こらなければ06年以上の成長率は達成できるであろう。ただし、NESDBの見方は慎重で07年の成長見通しは4〜5%であるとしている。その根拠は06年の輸出は17%以上伸びたが、07年の伸びは7.9%にとどまるとしている。

 

表110-17-1 タイ部門別実質GDP伸び率(1988年価格、%)           

表110-17-2.タイ実質国内総支出伸び率(%)

表は#127-10に移動しました。

 

110-20.06年の上場企業の純利益は12%減少(07年3月7日)

タイの上場企業(532社)の純利益は4693.5億バーツ(≒1兆7000億円)と05年の実績に比べ660.6億バーツ(12.4%)の減少となった。

売上高は5兆6000億バーツと05年に比べ18%増加した。増収減益となった最大の理由はエネルギー価格の高騰であった。金利負担も16%増加した。

これらの要因は07年入ればかなり軽減されるものと見られる。