国会議長およびゴルカル党首のアクバル・タンジュンはハビビ内閣の官房長時代(1999年)に食糧調達庁(BULOG)から560億ルピアを引き出し、選挙資金に当てたという容疑でインドネシア政界は揺れている。
BULOGはスハルト政権発足直後の1967年に基礎的食料品(米、小麦粉、砂糖)の価格安定と安定供給の名目で設立された「食糧公団」である。
もともとスカルノ政権末期のハイパー・インフレーションから食糧を守るという大儀名分があったが、発足直後からスハルト政権の裏金作り(主にKostrad=戦略予備軍などの軍用資金)と、スハルト一族およびクローニーのリム・ショー・リョン等による利権獲得機関になってしまった。
初期の段階では戦略予備軍(Kostrad)の出入り華僑商人MantrustグループのSutanzo(Tan Kion Liep)がしきっていたが、スハルト夫人ティエンや異母兄弟のスドィカトモノ(Sudwikatmono)組んでリム・シュー・リョン(Liem Sioe Liong)が乗り出してきて小麦粉のビジネスを独占した。
リムはボガサリ(PT Bogasari)という製粉会社を作り、それにBULOGが独占輸入(代理店はクローニーが経営)した小麦をボガサリで製粉し、それを全国に販売するという独占体制を作り上げた。その独占利潤は膨大なもので、リムはさらにインスタント・ヌードル会社インド・フッド(Indofood)を設立し、マーケットを壟断した。
この利益はスハルト一族や軍に還元されたが、リムは スハルト一族に利益を供与しながら銀行、不動産、自動車組みたて(インドモビル)など次々に事業を拡大し、たちまち東南アジアでを最大の華僑資本にのし上がった。
また、軍営企業と華僑資本の癒着構造はスハルト政権時代を通じて極めて強固なものになっていったのである。スハルト政権は軍事独裁政権であったが、財政面では国家予算から は軍の経費の一部しか支給されず、残りは軍営企業や関連の華僑資本から提供されるという構造になっていたのである。
このBULOGは石油公社プルタミナとともにスハルト政権によって引き出し自由な「金庫」の役割を果たしたが、スハルト政権崩壊後もゴルカル=Golkar(スハルト政権を支えた翼賛政党)によって利用されつづけていたことが今回明らかになった。
その前にアブドゥラマン・ワヒド前大統領もBULOGから使途不明のマネーを引き出し、政権を追われる原因の一つになった。これをブーロゲート事件と呼んでいるが、今回はブーロゲイト2(ツー)と呼ばれている。
今回の事件は現在国会議長をつとめるアクバル・タンジュン(当時官房長官)がハビビ政権を支えるゴルカル党の選挙資金としてBULOGか546億ルピア(現在の日本円で約7億円)を引き出したことを当時のBULOG長官であったラハマド・ラハルディが証言してしまった。
彼はその中から140億ルピアをウィラント国防相他に渡し、400億ルピアをゴルカルで使ったという容疑がかけられてる。
アクバル・タンジュンはその金は貧民救済に使われたといっているが、はっきりしないため国会で特別委員会を設けて審議すべしという動きに なっている。検察庁も容疑を確定し、捜査に動いている。
しかしアクバル・タンジュンについて議会内に特別委員会を設置して追及しようという動きはどうやら無くなったようである。というのも他党もこのブログ資金のおこぼれを多かれ少なかれ頂戴しており、それをゴルカルがばらすと脅迫したためであると考えられている。
メガワティも本件は検察庁の調べに委ねたほうがよいといっている。これを不満とする与党PDI-P(闘争民主党)の国会議員の議員辞職の動きが出てきている。(2月17日追加)
アクバルはゴルカルの中では良識派として人望が厚く、先輩を押しのけて党首に就任し、大統領の有力候補の一人であったが、ゴルカル(スハルト)流政治手法に手を染めざるを得なかったため、今回の事件の当事者として政治的生命を断たれようとしている。
アクバル・タンジュンがついに検察庁に逮捕され、3月7日午後11時15分に拘置所に入れられた。それ以前にラハマドが逮捕されていたが、アクバルの場合は国会での調査委員会を設置するかどうかでもめていた最中の出来事であった。
ゴルカル党本部は激怒(喜んでいるコルカル・ヒタム(黒ゴルカル)と呼ばれるスハルトの子分たちもいるが)しており、5人の閣僚を引き上げると宣言している。その中には女性通産相リニ氏( 元アストラ社長)も含まれる。
ゴルカルが離反すればメガワティ政権は主要なパートナーがいなくなり、議会での多数が失われ政治の舵取りが今後難しくなることは避けられない。もっとも野党もまとまりが極めて悪く、すぐには脅威にはならないであろう。政治の舞台裏でいったい何が起こってこうなったのか事態の推移をしばらく見るほかない。(02年3月8日追加)
肝心のゴルカル内部でもギナンジャール・カルタサスミタ元経済調整相などスハルト政権時代の実力者がアクバル追放に内心賛成しているといわれている。ただし、 地方の党員はおおむねアクバルを支持していると伝えられる。
アクバルはこの資金で私服を肥やしたという話はでていないので、一般党員の支持があるのも当然かもしれない。もしアクバルが倒れればゴルカルはますます衰退の道をたどるであろう。インドネシアはまた新たな政治局面を迎えつつある。
しかし、実際はゴルカル内のアクバルの地位は逆に強化されつつあるという皮肉な現象が起こっている。というのはアクバル追放を狙うギナンジャールやバラムリといったスハルト時代にのさばっていた長老派グループは「叩けばホコリガ出る体」であり、ゴルカル内部で信用がまるでないからである。
それ以外にもワヒド前大統領のPKB(国民覚醒党)もかねてメガワティを支持していたMatori前党首(現国防相)はPKBの党首をワヒドから追われたことになっているが、彼自身は依然党首であることを主張しており、ワヒド支持派(Alwai前外相が新党首であると主張)と決定的な対立局面にあり、実質的な分裂は避けられない。
メガワティもタウフィクと一線を画す姿勢を明確にしないとピンチである。タウフィクは旧スハルト人脈とのコネクションが強いことは上にみたとおりである。
インドネシア経済自体もあまりパッとせず(3.5%成長は上出来だが)、実際には失業者も増加の一途をたどっており、犯罪も凶悪化し、先日も日本人ビジネス・マンがバンドン市で殺害されるという事件が起こったばかりである。
(2002年7月31日追加)4年の禁固刑の求刑
アクバル・タンジュンに4年の禁固刑が求刑された。これは汚職に対する罪としては最も軽いものであるが、タンジュンは政治的な裁判だとして反発している。論告求刑はかなり異常なもので400億ルピアの使途には触れられていない模様である。
(02年9月4日)アクバル・タンジュンに3年の実刑判決ー控訴で争う
ジャカルタ地裁はアクバル・タンジュンに対し3年の禁固刑を言い渡した。アクバルは当然控訴する方針で、身柄は拘束されておらず、国会議長とゴルカル党首の職務は続ける。
今後どうなるかが問題である。ゴルカル内部の旧守派(スハルト直系のギナンジャールほか)はこれを機にアクバル追放を図るであろうが、ゴルカルの中心勢力はアクバル支持で固まっており、旧守派が下手に動けば分裂の危機にすら直面する。
旧守派は個人としては皆金持ちだが身銭を切ってまでゴルカルの主導権奪還を目指すとは思われない。
アクバルは当時のハビビ大統領の指示によってこのBULOG(食糧調達庁)の資金400億ルピアを動かしたとして、無罪を主張している。控訴審では勝てる可能性もある(高い)。
政治的にはアクバルはいっそうメガワティに近付かざるをえなくなった。これで2004年の選挙はメガワティに有利になりつつあるが、メガワティ自身が自らズッコケル可能性も少なくない。
今回の不法移民問題が大事件になっているにもかかわらずメガワティは100名以上の随員を引き連れてヨハネスブルグの「環境・開発サミット」に出かけており、その後もエジプトや東欧諸国など6カ国を歴訪して9月15日に帰国するという、国民の目からみればいかにも間延びのした態度であり、国民の信頼を傷つけることは間違いない。
ことの重大さにたいする感度が著しく鈍いのではないかと すら思われる。現在は経済閣僚グループに人材をえて何とか切り盛りできているが、夫タウフィクの悪評も表面化しつつあり、メガワティの危機はひそかに進行している。
(03年1月17日)ジャカルタ高裁はアクバルの3年実刑判決
ジャカルタ高裁はアクバル・タンジュン国会議長に対し、1審通り3年の実刑判決をくだした。アクバルは最高裁への上告をおこなう。この判決によりアクバル・タンジュンは国会議長を辞任すべきだという声は当然強まるであろう。
グス・ドゥル前大統領はアクバル・タンジュンの政治生命を絶つべきでないという発言をしている(detik.com 1月17日)。たしかに、アクバルはインドネシアにとって貴重な人材であることは間違いない。グス・ドゥルもその辺をみての発言をしたものと思われる。
BULOGの汚職問題は実際にはアクバルの責任はさほど重くないように私には思える。最大の責任者はハビビである。
⇒アクバル・タンジュンに無罪判決ー大統領選混沌(04年2月12日)
4月12日(木)、インドネシア最高裁判所は5名の最高裁判事からなる法廷でゴルカル党首のアクバル・タンジュンの無罪判決を言い渡した。これにより、ゴルカルからの大統領候補者はアクバル・タンジュンがなることはほぼ確定的となった。
実際のところ、「悪の巣窟」のような感すらあるゴルカルの中にあってはアクバル・タンジュン以外にまともな候補者は見当たらないといってよい。ただし、アクバルが出ても大統領に当選する可能性は目下のところ極めて少ないといえよう。
最高裁の表決は4対1でアクバルを無罪とするものであったが、少数反対意見のアブドゥラマン・サレ判事は「この判決は法律に対する侮辱である」との見解を判決文の中で述べている。
2審のジャカルタ高裁はアクバルが400億ルピアの資金をBULOGから不当に引き出したとして3年間の禁固刑を宣告していた。控訴審の間、アクバルは国会議長の座をメガワティの合意のもとに維持してきた。
今後の大統領選挙(7月5日予定)をめぐり背後でどのような政治取引が行われたかは不明であるが、何かあったという感は免れない。
アクバル・タンジュンはメガワティの夫タウフィクとのつながり(日ごろの連絡)が強いといわれ、今回の選挙でPDI−Pとゴルカルの連携が成立し、メガワティ大統領ーアクバル副大統領という線が出てくるかもしれない。しかし、そんなことを国民が許すだろうか。