アンダー・イースタン・アイズ (目次に戻る)



27.  アジア通貨に対しても円安は急激に進んでいる(05年11月19日) 

21. ダボスのWORLD ECONOMIC FORUM−アジア経済のバブルが心配?(04年1月2

18. 米国のイラク戦後処理、泥沼化ー悪いのはフランスか(03年9月21日)

15. イタリーの経済相がアジア製品の輸入防止を提言(03年8月24日)


13. ブッシュいわく「オーストラリア」はアメリカの「保安官」である(03年7月18日)

11. 死ぬのはイラク兵と市民ばかり(03年4月5日)

10. 日本は北朝鮮に先制攻撃(???)(03年2月14日)

9. 2003年のアジア経済と日本(03年1月22日)

7. 異様な雰囲気が漂う世界経済(02年9月3日)

6.IMFのブラジル救済は実は米国の銀行救済が目的(02年8月9日)

4.ファー・イースタン・エコノミック・レヴュー(FEER)事件(タイ)(02年3月5日掲載、3月7日追加)

.米国の年金基金(Calpers)の一部のアジア諸国からの撤退
(02年2月23日、25日)

1.東南アジアには民主主義という大きな財産ががある(02年2月18日



アンダー・イースタン・アイズ

この表題は文豪ジョセフ・コンラッドのアンダー・ウエスタン・アイズから連想して付けたものです。内容的にはとてもコンラッドの作品(小説)とは全く異なるものですが、若いときの愛読書の表題をフト思い出してつけました。東南アジアの新聞の社説やコラムの紹介 などを交えて私の個人的な意見を述べていきたいと思います。

1.東南アジアには民主主義という大きな財産ががある(02年2月18日)

EUの貿易委員会議長パスカル・ラミー氏はジャカルタで中国と東南アジアの比較で、「現在は投資家の眼が中国に向かっているが、この地域(東南アジア)には財産がある。その一例が民主主義である。民主主義体制下では事業展開がやりやすい。

東南アジアから中国に投資が向かっているというが、その中身をみると中国人の資金が中国に向かっている場合が多い。中国では年間400億ドルの外資が承認されているというが、かなり取り消されている(実施されていない)。

インドネシアについていえば世界最大のイスラム国であるが別にアル・カイダを支持しているわけではないし、政治的にも安定してきているし、経済改革も着実に進んでいるという印象を受けた」と語った。(サウス・チャイナ・モーニング・ポスト2月18日号ほか)

最近、中国に対する過大評価や脅威論が日本にも充満しているが、まったく困った傾向である。無知な国民に不必要な危機感を煽るセンセーショナリズムは日本のマスコミの一番悪いところだが、政治家にもその手の人物には事欠かない。

特に、スローガン(またはお題目)専門の政治家や経済学者が結託して、現在の日本をどうしようもない位の「混乱」に導き、それをまた自分たちの政治生命の延長に役立てようというのだから一般国民はたまったものではない。

中国の経済については他のアジア諸国の不況をよそに7%台の高度成長を維持しておりやがて日本を追い抜くなどという議論がはびこっている。しかし、資本主義的経済原則からかけ離れた感覚で多くの企業経営がなされており、 中国経済が順調に発展しこのまま日本を追い越すなどということはおよそ考えられない。

国営銀行にすべてのシワ(不良債権の多く)が寄せられている。 これはスハルト政権時代のインドネシアも同じであった。失業者も1億3,200万人と桁外れに多い。最近、株式市場も急落している。

中国の経済問題について内心ではもっとも憂慮しているのは朱鎔基首相自身ではないかと思われる。最も楽観的なのは日本の一部の「中国通」学者であろう。

それよりも、ラミー氏の民主主義発言について、「片腹痛い思い」でいるのはシンガポールやマレーシアのトップ・リーダーたちであろう。ビルマの軍事政権は民主主義と聞いただけで震えがくることであろう。何しろ1990年の選挙で大敗を喫しながら政権を民主派に譲り渡そうとしない連中だからである。

彼らはミヤンマー政府と自称しているが、欧米の援助差し止めにもかかわらず、日本政府はかなりの援助資金を軍事政権に与え、しかも巨額の使途不明金がでているという(月刊誌、現代2002年3月号、真山謙二氏のレポート参照)。

日本政府は国民に対してはやむにやまれぬ必要最小限の「人道的援助」のみを行うと約束していたはずであるが、真山レポートを見る限りでは、「人道援助」とはあまり関係のなさそうな相手に資金が渡されている印象を受ける。

ところで、東南アジアでは民主主義体制をはっきりとっていると認識される国はフィリピン、タイ、インドネシアであるがタイのタクシン首相はどうもあまり民主主義はお好きでない様子が見られる。

しかし、タイは中国よりはるかにましである。タクシンは金の力で議会で圧倒的多数を維持していても、次の選挙で負ければ政権を追われる。独裁政治国家にはそれが無い。

独裁政治は政権が安定しているようでいて実は不安定である。政権は必ず汚職と腐敗で最後に国民の反乱にあって崩壊する。マルコス政権、スハルト政権しかりであった。中国も汚職高官がたまには捕まって死刑になるものもいるが、共産党幹部の師弟の「太子党」は依然健在である。

「正義なきところに権威なし」とはナポレオンの言葉であるが、正義がなくとも権威だけ保たれているのがどうもグローバルなスタンダードらしい。


3.米国の年金基金(Calpers)の一部のアジア諸国からの撤退(02年2月23日、25日)

カリフォルニア州の公務員退職年金基金(the California Public Employees Retirement System=Calpers)は1510億ドルの基金を運用しているが、このほどフィリピン、マレーシア、インドネシア、タイのASEAN4カ国から資金を引き上げると発表した。このためいっせいに2月22日の各地の株式市場は下げに転じている。

引き上げの理由は、@この地域の経済事情に安心感がもてない、Aマレーシアとインドネシアは人権政策に問題がある、Bフィリピンはファイナンス上の基準を満たしていない、Cタイはこれらの様々な事情によることなどが指摘されている。

これによって、今年に入ってから上げに転じていたこれら諸国の株式市場は「冷水」を浴びせられた形になった。 タイがいまのところ5%程度株価水準がさがったといわれている。インドネシアはもともとCalpersの投資は少なく、たいした影響は出ていない模様である。

他の外国の投資資金がCalpersに追随するか否かはまだわからない。 しかし、一般的にいって通貨危機後東南アジアの株価は下がり過ぎたことは間違いない。優良銘柄で割安なものはその気になって探せば必ず存在するはずである。今回の下げはおそらく一時的なものにとどまるであろう。

むしろ、危険なのは景気回復が実態以上にはやし立てられている韓国や台湾やシンガポールの株式市場の方が心配である。

いずれにせよ、東南アジアの株式市場においてはローカル・カンパニーの会計基準には問題があったことはずっと前から指摘されていたことである。

アメリカにおいてさえ「Enron」を例にとるまでもなく、会計の透明性については大かれ少なかれ不安がある。アメリカがグローバル・スタンダード云々するのはもともとおこがましい話である。

結局は自分で投資する資金については自分で「リスク」を見極めるほかはない。

日本では「郵貯の民営化」だなどといわれているが、情報に乏しい一般庶民が困るだけのことに終わりそうだ。郵貯の資金が都市銀行に流れていったところで、日本の都市銀行はどこに「融資」するのだろうか?

日本では中小企業に資金が回らないなどと、さも大事(おおごと)のように一部の政治家や学者がいっているが、中小企業が本当に必要としている金額はマクロ的に見ればたいした金額ではあるまい。

日本の銀行はタイのBIBFをみてもわかるとおり「リスク・マネー」の徹底的な引き揚げを通貨危機以降やってしまった。しかし、よくよく考えてみると、今後ある程度の「経済成長」が予想される地域にしか基本的に有利な資金運用先はないはずである。

日本の過剰な蓄積を「国債」を買ってじっとしているだけであれば、国民にとっては預金先が民間銀行であろうと郵便局であろうと関係のない話である。

日本の銀行はやはりもう一度「東南アジア」にきちんと出ていくべきである。東南アジアの市場を改めて勉強しなおさないと将来に展望は開けない。ただし、個人的には「中国」進出は現段階ではリスクが余りに高すぎるように思う。

Calpersも「しまったと思って」また近々東南アジアにまた帰ってこざるを得なくなるであろう。21世紀に入った現在、もの作りの拠点はアジアが既に圧倒的に優位性を獲得しているのである。 近い将来、高い経済成長を遂げられそうな国や地域がアジア以外のどこにあるだろうか?

「もの作りのアジア」とは日本、台湾、韓国、中国、インド、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、シンガポールそれにごく近い将来ヴェトナムが加わる。

中国(陶磁器、絹織物)、インド(綿織物)、日本(工芸品)、タイ(米)、インドネシア(香辛料、工芸品)などのアジア・グループはつい200〜300年ほど前まで、すなわち産業革命以前には世界のもの作りの中心地であった場所である。

今現在は日本や東南アジアはたまたま不況かもしれないが、いずれ不況は終わる。1929年の時の世界恐慌の時ほどのことはない。あまり賢くない政治家や経済学者が早く消えた国が勝ちである。いや彼らがどうあれ、経済人が賢く振舞えばよいだけの話である。

日本も戦後の成長の過程で政治家や経済学者のお世話になったことはほとんどなかったはずである。

「捨てる神あれば、拾う神あり」のたとえではないが、Calpersの撤退発表のすぐ後に、同じくアメリカの投資会社Cerberus Asia Capital Mangement社が8億ドルをタイに投入するということである。

ターゲットはTAMC(タイ資産管理後者)が銀行から買い上げた不良資産の取得と輸出産業の優良上場企業の株式売買であるということである。

「戻ってきたCALPERS」(5月3日追加)

5月3日付ビジネス・タイムズ(シンガポール)によれば、2月末に東南アジアから撤退すると表明した、米国最大の投資基金であるCalpersはまずフィリピンに戻ってきて投資活動を再開したという。

そのため、通貨のペソと株式市場が上昇に転じた。さらに、Calpersはマレーシア、インドネシア、タイでも投資を再開することを検討中とのことである。

東南アジアの景気がどうなるかは短期的には楽観を許さないと私は考えるが、中長期的には東南アジアの成長性には期待が十分持てると考えている。

中国との賃金格差を見るとインドネシアは半分くらいに下がっており、タイとフィリピンはほぼ同格である。マレーシアが若干高めといったところであり、東南アジアの優位性は総合的に見て依然高いと考えるべきであろう。

逆に、中国経済は表向きの成長率は7%と称しているが、失業者は非常に多く、最近デモやストも多発しており、中国政府も景気対策として大幅な財政資金の投入をおこなっている。

本欄で筆者がCalpersは必ずもどって来ると予言したが、これほど早く実現するとは驚きである。日本の銀行もウジウジしていないで、早くアジア対策を再構築し、人材の育成を急ぐべきであろう。

小泉首相のご託宣=構造改革なくして成長なしなどという、いつ実現できるのか不確かなな空文句を信じて、時間を浪費していてはもったいない。

 

4.ファー・イースタン・エコノミック・レヴュー(FEER)事件(タイ)(02年3月5日掲載、3月7日追加)

タイではFEER(Far Eastern Economic Review)という香港ベース(ダウ・ジョンウズ所有)の有名なアジア専門の週刊誌の1月10日号を発売禁止にすると同時に、駐在の記者2名(Rodney Tasker イギリス人とShawn Crispin  アメリカ人)を国外追放処分にし、香港の二人の論説記者もブラック・リストにのせる(入国禁止)と発表して、国際的な大問題にまで発展した。

記事の内容は日本の新聞(2月26日号の日経や毎日など)にも報じられていたのでご存知の方も多いと思うが、昨年末プミポン国王が誕生日のスピーチの中で「タイが最近おかしくなっている」とか「傲慢さ、無原則、エゴイズム」という表現で暗にタクシン批判をおこなったのである。これはまったく前例がないといってよいくらいの異例のことである。

このことをFEERは短い論説で紹介したまではよかっただが、タクシンが国王一家の内部問題にまで干渉した疑いがあるということに国王が苛立ちを示したということを書いてしまった。また、皇太子の関与しているビジネスにタクシンは関係しているということも付け加えた。

タクシンは日ごろ24時間体制でテレビ、ラジオはもちろんのこと新聞雑誌を監視するといういかにも警察官僚出身らしい体制をとっており、3月2日号のイギリスの経済雑誌「エコノミスト」も発売11時間後につかまってタイ国内で発売禁止処分を受けている。

タイ政府の言い分(警察)としては「ナショナル・セキュリティーにかかわる記事」を書いたとしてFEERの記者は追及されたのである。

もともとタイは王室にかかわることを記事にするのは法律の規制もあって、書くのが難しいところであるが、皇太子の名前まで出てきたので国王も怒ったというのが、タイの軍・警察筋の言い分のようである。

保守派の政治家や学者の一部にもFEER記者追放やむなしという意見もあったようだが、タイの新聞(ネーションとバンコク・ポストしか私は読んでいないが)はFEER記者追放はタイの言論の自由に対する弾圧であるとして激しく反発した。

アメリカのニュー・ヨーク・タイムズやワシントン・ポストでもこの事件は報じられ、米国国務省も追放を批判した。これに対しタクシンはこれは「国家主権にかかわる問題であり、外国の干渉は受け付けない」と激しい調子で反発した。

記事の内容を見る限りは「国家の安全を脅かす」ものとは到底考えられず、タイの何人かの上院議員も国王を批判したものではないとし、ジェルムサク上院議員は「この記事はタクシンを直接批判したものであって、国王批判ではない」と述べている。(3月1日AP電、シンガポールのストレート・タイムズ)

これは大筋としてはタクシンの言論弾圧の一環と考えられるが、FEERは皇太子のビジネスの話までしたのは少しまずかったという感じはする。というのはプミポン国王の後継者はワチラロンコン皇太子ということになっているが余り国民に評判が良くないという説がある(これはタイ国内では書けないが)。

そのためシリントン王女が独身のままでいるというのである(タイでは王女は結婚すると王位継承権がなくなる)。実態はうかがい知れないがこういう風評を誰よりも気にしているのは国王ご夫妻であろう。

したがって、あまり皇太子のビジネスのことなどは書かれたくないということかもしれない。

タクシンは国王が最近病気で入院したに対し、一般国民と同じ医療カード(保険証的なもの)を渡し、国民の反発をかっている。タクシン自身の支持率も低下傾向にあり、世論調査をやっている大学の機関に最近警察が「ご機嫌伺いに」行ったということで物議をかもしている。タイも急におかしくなってきたものである。

タクシンは今回の記事を最大限に利用しようとたことは間違いなく、「国の安全(National Security)に反するというより、タクシン自身の安全」に反したということだろうと現地の新聞は皮肉っている。

3月3日に補欠選挙がおこなわれたが、タクシンの率いるタイ愛国党は14人の候補を立てたが4人しか当選しなかったという選挙速報が出ている。もしそうだとすればタイの国民自身が今回の事件に判定をくだしたことになるであろう。

FEERはタイの国会議長あてに、詫び状を3月4日に送って、事態の収拾を図ろうとしている。タイ人の一般的常識では「この辺で・・・」ということになるが、タクシンの性格からいって、まだひともめするかも知れない。

追放取り消し決定;3月7日付けのニュー・ヨーク・タイムズによればタイ政府はFEERの二人のビザ取り消し処分を撤回した。当然のことながら喜ばしいことである。

ところが話はそれに終わらずタクシンはメディアに対するいやがらせの手を緩めず、今度はマネー・ロンダリング「不正資金の洗浄」という容疑を勝手につけ、目をつけているジャーナリストたちの預金口座を調査したりし始めたとのこと。

また、軍(チャワリット副首相の影響下にある)が電波の配給権を持っていることから、ネーション紙グループの放送部門に圧力をかけ「タクシンに批判的な政治評論家とのインタビュー」番組を放送をさせないようにしたとのこと。タクシンの独裁政治家としての本領が徐々に発揮されてきたようだ。

現地駐在の日本人も要警戒である。(3月7日追加)
  

6.IMFのブラジル救済は実は米国の銀行救済が目的(02年8月9日)

8月8日付けのワシントン・ポストの見出しに’Stocks Rise as Brazil Bailout Helps Banks' と書かれていた。ブラジルが通貨危機に陥りそうだという話は聞いていたが、IMFは300億ドルの融資をやけにあっさりと決めた。これによってブラジルの通貨危機が救えるならこれに越したことはない。

ブラジルは公的債務を2,500億ドルも抱えているのだからこれで助かった。という風に考えていたが、じつはIMF(米国政府の息のかかった)のもう1つの狙いはブラジルに資金を貸し付けている米国系(に限らないが)銀行の融資が無事回収されることを目的にしていたのであった。

今まで暴落し続けてきたニューヨークの株式市場は前日の大幅アップに次いで8月8日にも高騰した。それは米国銀行株の大幅上昇(ダウ工業平均が255ポイント上がって8,712と+3%)が相場をリードしたからだと同紙は伝えている。

ブラジルに多額の融資をおこなっていたシティ・グループやモルガンは6%以上も株価を上げている。

ああそうか「これで判ったIMF」ということである。IMFはいままで米国銀行の融資保証を実質的におこなってきたのだ。

ブレトン・ウッズ体制の「理想も」もずいぶん矮小化されたものだ。IMFが融資に際し、借り手国(途上国)に対して課す過酷な条件はいったい何だったのか?借り手のほとんどがその後再起不能とまでは行かないが、非常な経済危機(不況の深刻化=インドネシア、タイなど)に陥ったのである。

IMFは融資条件(コンディショナリティ)の内容の再検討ぐらいはやるべきである。貴方達のやり方はあまりに稚拙かつ有害であった。 経済学を勉強しなおせとはいわないが、せめてスティグリッツのいうことに謙虚に耳を傾けて欲しい。実例を間近に見てきた者の1人としてこの際あえて言っておきたい。

 

7. 異様な雰囲気が漂う世界経済(02年9月3日)

1929年に始まる世界大恐慌はニューヨークのウォール街の株式大暴落に始まった。今回の不況は深刻なものであるが、世界恐慌にまでは至らないであろうと希望する。しかし、本家本元のアメリカがどうも変だ。

何が変かというと、昨年から始まったITバブルの崩壊がまず指摘されるが、アメリカ経済を覆う「大インチキ決算」の横行である。それに引き続く株式市場の暴落である。

先日のテレビ東京をみていたら日本人の証券業界のエキスパートがニューヨーク・ダウは8600ポイントを切ることはないであろうなどというご託宣を述べていた。

しかし、そうはいくまい。もっと下がるし、さらに大暴落が起こる危険性すら否定できない。それは株式市場に対するアメリカ国民の信頼が揺らいだからである。アメリカの大企業は変な会社が恐ろしい勢いでふえたものだ。それをENRONが倒産するまで誰も気がつかなかったのだろうか?

もっと根本的問題は米国企業の業績が昨年もしくは90年代の終わり頃から徐々に悪化していたということである。粉飾決算はあくまで「表面」の問題である。企業利益の低下傾向は度重なるM&Aによる多額の買収資金に見合う利益が上がっていないことなどにも原因は求められる。

私の縄張りはアジアということになっているので米国でENRON事件が起こるのは予知できなかったという言い訳はできるかもしれない。しかし、アメリカはすばらしいなどと信じきっていた友人には「それは変だよ」という警告は発しておいた。私はアメリカ人の経営者には相当なインチキ野郎(下品言い方だが)がウヨウヨしているのを知っていた。

米国に駐在していた友人は米国経済のありかたについて「首をかしげていた」人が少なくなかった。私は彼らの「引っかかるもの」があるという感覚を理解できた。

私はかってアメリカの子会社の管理を担当して80年代の後半に何回もアメリカに出張したことがあるが、アメリカ企業は「もの作り」の熱意を失ってしまったのではないかとすら思われた。

米国企業の鉄鋼会社や機械メーカーに行くと、その「薄暗さ」にまず驚いた。工場の保全・保守にはほとんど無頓着で、今動いている工場を使いつぶして、可能な限り利益を吸い上げようとしているのではないかという印象を受けた。これでよく「安全」が確保されているなという一種の恐怖感さえ覚えた。

それが90年代に入ると、ニュー・エコノミーとやらで何もかも良くなったというのだ。レーガノミックスはすばらしい成果を上げたなどということになって、象牙の塔で本の虫みたいだった日本の経済学者もにわかに「新古典派」に鞍替えし「規制緩和」「民営化」の大合唱に加わった。

私ははっきり言って学者とはそうしたものだと思う。古代ギリシャ時代から「ミネルバの梟」(ヘーゲルの言葉ではあるが)だったのだから仕方がない。問題なのは日本の財界人だ。「規制緩和」、「自由競争」、「民営化」、「構造改革」などというお題目を有難くうけたまわって毎日繰り返し唱和し、それだけで「思考停止」してしまったのだ。

「規制緩和」がアメリカで何をもたらしたか?カリフォルニアの電力問題をはじめとして、今回の大粉飾決算ページェントになんと90年近い歴史を持つ「アーサー・アンダーセン」までが共犯になっていたとは。

会計監査法人が顧客の「コンサルティング業務」ができるようになったのは90年代前半の「規制緩和」の産物である。

「規制緩和」も良いものと悪いものがあるのは当然である。日本のシンク・タンクのエコノミストやジャーナリストや経済学者や財界人が望んでいるのは「やりたい放題やらせてくれ」という「何でもあり」の発想としか思えない。

確かになくしたほうが良い規制はたくさんあるが、すべては「市場が決める」流の放任策はご勘弁いただきたいものだ。

ところで、現実のアメリカ経済はどうなっているのだろうか?住宅建設がさかんで、消費がいままでのところさほど落ちていないらしい。これはグリーン・スパンの低金利政策のおかげであろう。しかし、株式市場の暴落は必ず消費に跳ね返ってくる。それはこれから はっきりした形となって現れる。

  

9. 2003年のアジア経済と日本(03年1月22日)

本日付けの日経新聞によると日本の大手銀行はアジア向け融資を急減させているという。2002年9月末で約5兆4千億円の残高となり、前年同月比16%ものマイナスだという。中国向けも6,931億円の残高で同じく7.5%減っているという。

本来金融機関は経済成長率の高いところで儲かる商売がやれるはずである。東南アジアは曲がりなりにも3〜5%の成長を昨年は達成し、 今年の経済は昨年より悪くなるものと考えられるとはいえさほど大きな落ち込みはないと考えられる。

中国は昨年は8%の成長だったが、その内容は良く分からない。というのは物価が下落したり、失業者が増えているからである。建設関係と輸出が好調なのは外からみていればわかるから、かなりの成長率は遂げてのであろう。

いずれにせ、「成長のアジア」から日本の金融機関が16%も撤退をしたという事実は驚きである。それだけ日本の本社が負け戦になっているということを意味している。 日本の金融機関は文字通り「本土決戦」を強いられているのであろうか?

そんな金融機関の力を借りなくても日本人は1,000兆円を超える蓄積を持っている。それをうまく引き出す方法と装置を考えたほうが話しは早い。

不良債権の「加速処理」などそもそも必要ではない。銀行がやれる範囲で20年でも30年でもかけてやっていただけばよい話しである。それは銀行員の責任である。

国民経済としては必要なら「国立銀行」でも新設して新たな資金需要に対応するほうが社会的コストも安いはずである。

金融機関の撤退を尻目に日本の電気機械やコンピュータや自動車や部品といった製造業はアジアへの投資をどんどん進めている。

1月22日付のフィリピンの各紙も松下がエアコン工場の生産能力を年産10万台から25万台に引き上げ、輸出基地とするということをいっせいに報じている。

「フィリピンは中国や韓国よりもコスト競争力がある」という松下のマネージャーの一言が 、日ごろ負け犬扱いされているフィリピン国民をどれくらい勇気づけたことであろうか。

日本ではバブル崩壊以降金融機関のみならず、製造業までもが「制度疲労」によってだめになったなどという的外れの論評が普及してきた。

日本の製造業は依然として総合的にみて「世界一」なのである。確かに業績は自動車産業など一部を除けば悪いかもしれない。その理由は1つはアメリカを中心とするITバブルの影響である。どこかの誰かが「ITにはバブルなどありえない」などというご託宣をのべていたが事実はご覧の通りである。

2つ目の理由はアホみたいな「価格破壊競争」である。それにまんまと乗ったのは日本の鉄鋼業である。日産のゴーンにしてやられたわけだが、鉄鋼経営者に責任があることはいうまでもない。

彼らは愚かしくも鉄鋼製品まで原理主義的自由競争でやっていけると思っていた節がある。

赤字のしわ寄せは優秀な技術者や現場の熟練労働者によせた。神の見えざる「魔手」によって辛酸をなめたのは従業員であった。

価格破壊万能主義は一部の愚かな経済学者や評論家やマスコミによって日本の隅々まで波及した。最後は神様がうまくやってくれるとアダム・スミスが200年以上も前に言ったというのがその根拠である。ちなみにアダム・スミスは過当競争の愚を冷笑している。

そう、アダム・スミスが予想もしなかったインチキ経済学がこのところ利かしすぎたのである。

自由競争モデルには膨大な固定資本投資というような前提は織り込まれていない。熟練などという概念も入っていない。「資本も労働も瞬時に国境をこえて最適な場所に移動する。」 そんな世界に残念ながわわれわれは生きていない。

そういうモデルの世界と現実を混同してもらっては困る。「現実の世界」側では膨大な数の犠牲者(自殺者を中心とする)を毎年出しているのだ。

価格破壊は理屈の上では国民に福利をもたらすとはいえても現実には多くの国民は幸福にはなってはいない。薄くなった財布で少しばかり安くなったものを買っても幸せではない。そのうち財布が長期間空っぽになるかもしれないのだ。

そう、今までのやり方はどこか間違っていたのだ。

市場の独占や寡占も悪いが、「無制限の自由競争」なるものも弊害が多い。転業が自由な固定投資が少ない産業はそれでよいだろうが、数千億円の投資が必要な産業はそうはいかない。アメリカでも鉄鋼業にはセーフ・ガードを発動したではないか。

国内に残すべき産業はそれなりの保護が必要なのだ。保護主義はいつも独占価格をもたらしたりしない。いま米の生産をやめてタイなどから必要量の全てを買うとしよう。

今年は 買えるが来年も買えるとは限らない。その場合、急遽日本で水田を復活させるなどということはできやしない。それができると思うのは近頃「主流である」と自称している新古典派流の一部のインチキ経済学の影響であろう。

日本から鉄鋼業がなくなったとしよう。日本の自動車産業はどうするのであろうか?韓国から買えばいいなどというのは素人考えである。実は韓国の自動車産業をささえてきたのは日本の鉄鋼業なのである。

現在、日本の電機メーカーや機械メーカーは中国やアジアに工場を次々移転させている。最近の中国の輸出急増をリードしているのは日本や台湾のメーカーである。本来国産可能であった電気製品やパソコンの周辺機器など膨大な量の輸入がおこなわれている。

価格もあるていど安くなっている。しかし、だんだん売れなくなってきている。それは購買力が落ちてきているからである。

こういう矛盾に今の日本は陥っている。これをどう始末するか?それはこれからの課題である。

 

10. 日本は北朝鮮に先制攻撃(???)(03年2月14日)

本日付の香港の英字新聞のサウス・チャイナ・モーニング・ポストとオーストラリアのシドニー・モーニング・ヘラルドにいささか度肝を抜く記事が乗っていた。日本の新聞では取り上げられていないようだ(14日22時50分現在)。

記事の内容というのは石破防衛庁長官が「もし北朝鮮が日本にミサイル攻撃をしかける準備をしていると日本が信じたら、日本は北朝鮮に先制攻撃をする準備をする="Japan is prepared to launch a pre-emptive strike on North Korea if it believes the communist state is preparing a missile  attack against it."」( http://www.smh.com.au/ ) という勇ましいものである。

これには驚いた。日本は国際紛争を解決する手段としての戦争を永遠に放棄したのではなかったか。そのための武力も持たないことを憲法で世界に誓ったはずではないか。

この発言が本当なら石破防衛長官は日本を大変危険な方向に導く極めて危険な人物である。

小泉内閣は経済失政で日本をひどい状況に追い込んだ上、さらに国民の生命の危険をもたらすような危うい人物を防衛庁長官に据えたという責任は極めて重い。

こういうことをいうなら、すぐさま国民に選挙で信を問うべきであろう。

もし北朝鮮が日本の先制攻撃に反発して戦争を仕掛けてきたら日本は再び戦争をやることになるであろう。そして何万人何十万人という人間が不条理に殺されるであろう。そしてそのあとに何が残るのか?とかく火遊び的感覚のタカ派坊ちゃんは危険な存在である。

こういう不必要かつ愚かしい発言はアジアの人々に「日本はやはり危険な帝国主義思想をもった国家なのだ」という認識を抱かせるであろう。

これは「大東亜戦争」中とそれ以前に日本人がアジアの人々に対して犯してきた大きな罪にたいして日本人が基本的に無反省なのだということを公言しているのとおなじことである。

小泉首相の靖国神社参拝も同じ思想の延長線上にある。私のみならず多くのアジアの人々はそう考えるであろう。これから21世紀にアジアの人々と善隣関係を築いていこうという矢先に困ったことが起きたものである。

われわれ民間人が営々苦労して「平和国家日本」というイメージをアジアに定着させるべく努力してきたことが、こういう心無い坊ちゃんタカ派政治家達によってぶち壊されるのはまことに残念である。

 

11. 死ぬのはイラク兵と市民ばかり(03年4月5日)

日本のテレビや新聞はイラク戦争の報道に夢中になっている。イラク人の何が悪かったのかよくわからないが、米英軍は絶対安全な空域から、人類史上まれに見る大量破壊爆弾を撒き散らして、建物のみならず、多くの市民の人命を奪っている。

また、最高の兵器を用いてイラク領土において、旧式装備しか持たないイラク兵を片っ端から殺している。米英軍の死者の数はごくわずかであり、イラク人の死者は既に万という数に達しているのでなかろうか?

軍事力にこれだけの格差があったら、これは戦争というよりは、単なる「屠殺」行為以外の何者でもない。この戦争はイラク国民が仕掛けたものではない。一方的にブッシュが仕掛けた戦争である。しかも米英が最初から勝つと判っている戦争である。

「 鬼畜英米」とは私が子供の頃に大人たちから教わった言葉だが、こういう戦争のやり方は「卑怯だ」という感じをぬぐえない。仮に非がフセインにあったにしたところで、イラク人を大量に虐殺する権利は米英国民にはない。屠殺行為は戦争とはいえない。

こんなことをやっていて、将来ともアメリカ人が枕を高くして眠れるのだろうか?「目には目を歯に歯を」というのはイスラム教徒の信条である。ブッシュは戦争には勝ち、イラクの石油資源も手に入れるであろうが、その代償は計り知れないものがある。

日本の立場は「国際紛争を武力では解決しない」というのが国是であり、憲法として世界に誓約している。北朝鮮の脅威があるからといって、ブッシュの残虐行為を支持するというのであれば、これは共犯と言われても仕方がない。

イスラム教徒が日本人にテロを仕掛けてくる可能性は既にゼロではない。インドネシアのスラバヤ総領事館に爆破予告が数日前におこなわれている。平和主義を国是とする日本が本来の使命に立ち返るべきときが既に来ている。

今の日本の政府は次元が低く発想も貧困だとつくづく思う、国連の何とか大使など誰に断って、ブッシュの侵略戦争を支持しているのであろうか。外務省の役人などに日本人の運命を一任した覚えはない。

せめて、このくらい書かないと、このホーム・ページの書き込みを続ける気にもなれない。憂鬱な気分の毎日である。

 

SARS関連の記事はー第11回:SARS特集に移動させました。

  

13. ブッシュいわく「オーストラリア」はアメリカの「保安官」である(03年7月18日)

東南アジア諸国はブッシュ大統領がアーストラリアは「アメリカの保安官(シェリフ)であると」発言したことに反発している。

マレーシアは特にオーストラリアはアメリカの「操り人形」であるとして、露骨に反感を示している。

このようなブッシュ発言はオーストラリアの東南アジアにおける地位を微妙なものにしていることにブッシュは全く気づいていない。特にオーストラリアのホワード首相はタカ派 的言動で知られ、国際テロには国境を越えて「先制攻撃もありうる」と発言したことは強い怒りと反発を招いた。

ブッシュはオーストラリアの新聞記者に「オーストラリアはアメリカの副保安官(Deputy Sheriff)か?」と聞かれたのに対し、「いや違う(正)保安官だ」と答えたという。これで誉めたつもりらしい。率直かつ無邪気なる答えに驚き入る次第である。

困惑を隠しきれないのはオーストラリア政府であり、ロバート・ヒル国防相は「何のことかさっぱりわからない」と述べた。ブッシュに「保安官」に任命されてはオーストラリア 国民はたまったものではない。

これで、当分の間はオーストラリアは東南アジアで何を発言しても「色眼鏡」で見られてしまうことは間違いない。

願わくは意地の悪い新聞記者が「日本はアメリカの金庫か?」などという質問を発しないで欲しいものだ。

このシェリフ発言については、実は1999年にオーストラリアのホワード首相が、「オーストラリアはアジアにおけるアメリカの副保安官だ」といって、当時物議をかもした。その話しを知らないブッシュはお世辞のつもりで「保安官」に格上げしてしまったというオソマツな物語である。

この話しに、強烈に反応したのはマレーシアのマハティール首相である。彼は「もしオーストラリアがマレーシアで保安官としての活動をするなら、マレーシアはその活動そのものをテロ行為とみなす」と怒りをあらわにしている。(http://www.malaysiakini.com 10月18日)

APEC首脳会議がバンコクでおこなわれようとしているが、とんだ序曲で始まろうとしている。前途が思いやられる。

17日よる小泉・ブッシュ会談がおこなわれたが、イラク援助については無償で15億ドルなどという気前のよさに一応ブッシュは満足したようだ。

通貨問題に関して、円安を希望する小泉首相はブッシュ大統領にそのむね水を向けたら、「通貨は市場で決まるもの」という答えが返ってきたとのことである。

それでは、お言葉どおり「本当に市場で決めていいのですね?」ということになったら、逆にドル相場の崩壊の可能性が出てくる。ブッシュはレーガン政権同様に「強いドル」を希望し、そうなると本気で信じているフシがある。怖い大統領だ。

  

15. イタリーの経済相がアジア製品の輸入防止を提言(03年8月24日)

イタリーのギウリオ・トレモンティ経済相はEUに対し、アジアからの安価な製品輸入似たいし「輸入障壁」を高めるべきであると提言した。

たしかに、アジアとりわけ中国からの集中豪雨的輸出ラッシュは異常である。イタリーだけがその「被害者」とはいえないが、中国の「海関統計」によると今年の1〜6月の中国⇒イタリーへの輸出は前年同期比49.9%増の33.16億ドルである。

一方、輸入(イタリー⇒中国)は28.5%増の25.29億ドルである。中国側から見た貿易黒字は7.87億ドルである。これは2002年全体の貿易黒字5.08億ドルを半年の間に超えてしまったことを物語っている。

自由貿易とはそもそもこうしたものであり先進国が発展途上国の犠牲になることもありうるのだといってしまえばそれまでであるが、1国の政治家たるもの、そんな原則論に身をゆだねているわけにはいかない。

あの、ブッシュ大統領ですら鉄鋼製品のセーフ・ガードで30%もの高関税をかけ、WTOで違反という判断をくだされてもまだまだがんばっているではないか。

トレモンティ氏の言い分は、「ヨーロッパは関税という直接的手段だけでなく、保健、環境、安全管理といった間接的手段を使ってアジアからの製品輸入を抑制するべきである」ということにある。

彼が特に問題にしているのははっきりいって「中国製品」の輸入である。

EUは6ヶ月の持ち回り制度で今度はイタリーのシルビオ・ベルルコーニ首相が議長に就任した。当然、これからしばらくはイタリーの声がEU内部でも大きく響くであろう。

ドイツ、オランダ、イギリス、フランスは当面静観しているがイタリーの問題提起に対し内心同意する中小国が出てくる可能性がある。

EUというのはアジア勢に押されて経済的に弱体化してきた国々の連合体であることを忘れてはならない。

表 1 中国の対EU輸出(単位:100万ドル、%)

  金額 (100万 $) 伸び (%)  
  2001年 2002年 03年上期 01/00 02/01 03/1-6
ドイツ 9,754 11,372 7,584 5.1 16.6 58.6
オランダ 7,282 9,108 5,532 8.9 25.1 40.7
イギリス 6,780 8,060 4,428 7.5 18.9 25.7
イタリー 3,993 4,828 3,316 5.0 20.9 49.9
フランス 3,686 4,072 3,058 -0.5 10.5 66.7
EU全体 40,904 48,212 31,152 7.1 17.9 39.3

資料:中国「海関統計」より作成

(この記事は「ウオール・ストリート・ジャーナル」の8月22日付の記事を参考にしています。)

  

18. 米国のイラク戦後処理、泥沼化ー悪いのはフランスか(03年9月21日)

イラク戦争の勝利の後が泥沼化しているのは、フランスのせいだなどという論説がニューヨーク・タイムズに登場した(9月8日、ニューヨーク・タイムズ、Thomas Freedman:Our War with France)。

こういう論説を読むと今日のアメリカの病の深刻さがうかがわれて、一種の恐怖感さえ覚える。

アメリカのブッシュ政権はイギリスのブレア政権と組んで、ドイツやフランスの「もう少し調べてからでも遅くはない」という国連の場での説得を押し切って、イラク戦争に踏み切ったのは記憶に新しいところである。

ところが、お粗末なことに戦争に勝利した後の、イラクの統治が全くなっていないことが判明してしまった。行き当たりばったりで、あとのことは知らんというのでは、わが大日本帝国の大東亜戦争と同じではないか。

もっとも、こちらのほうは大惨敗を喫した。アメリカと戦争をするなどということが何を意味したか当事者のほとんどが無知だったらしいのである。指導者の無知・無能は恐ろしい。

また、大東亜共栄圏構想なるものも、東南アジア諸国がいかに欧米の植民地体制下にあったにせよ、1次産品供給国としてグローバル経済に太い線でつながっていた。

それを日本が軍事的に断ち切ってしまったら東南アジアはますます食えない上体に落ち込んでしまうことぐらいは判っていたはずであるが、そういう問題点がまともに議論されていた形跡がない。

それに引き換え、連合国側は 戦後になってブレトン・ウッズ体制なるものを直ちに発足させた。

連合国側は戦争の終わるはるかまえから、戦後の世界の経済秩序の青写真を作成しており、ガット体制やIMFや世界銀行などが、終戦と同時に実現に向かって動き出したことに驚愕させられた。

戦争というものはそれぐらい、先の先まで読んでからおこなわれるべきものだと初めてどこかで教わった。

しかし、今回のイラク戦争は一体どうなっているのだろうか?アメリカはまずイラク侵攻ありきで、後の事までろくに検討していなかったらしい。

これではまるで「西部劇」の世界ではないか。悪者はシナリオどおり打ち殺した(主役のサダム・フセインはまだ生きているようだが)。映画ならそこで幕が下りておしまいである。

その後もゲリラ戦はやまないし、イラク人の日常生活もメチャメチャにぶち壊されたままだ。無実の市民が相変わらず殺されている。 英米の兵士も毎日のように死んでいる。

この事件の後始末は、本来アメリカとイギリスがつけるのが筋というものであろう。「止めてくれるなおっかさん」をやったのだから、そんなことは当たり前ではないか?

アメリカもだらしのない国になったものだ。どうにもならなくなって、国連に助けを求めながら、なおかつ威張りまくっている。こんな話しにホイホイと乗るのは極東の某経済大国ぐらいなものではあるまいか。

何しろ、その国の首相ときたら、「イラクで大量破壊兵器が見つからないなどという批判はイラクにサダム・フセインがいなかったというに等しい」などと一見気の利いたことをのたまう。しかし、このせりふはラムズフェルド国防長官のせりふそのものである。

それはさておき、国連の場でアメリカの言い分に従わないのはフランスだということで、あの権威ある「民主主義と自由の」擁護者であると自他共に任じてきたニューヨ^クタイムズの論説氏はフランスを敵国扱いにしている。

私は今回の件でアメリカという国は21世紀に唯一の軍事大国として世界の覇権を握るというのはどうも眉唾ではないかと考えている。

イラクの始末も結局国連の力をかりないとやれない。貿易赤字は年間5,000億ドルもある。国内では失業者が増えたばかりでなく、貧富の格差は年々拡大していく。

日本もブッシュ政権のユニ・ラテラリズム(1国主義)の論理に引きずられていくと、あちらこちらでイスラム教徒の反発を買い、国際テロの標的になる危険性すら否定できない。

アメリカは日本など馬鹿にしきっているに相違ないが、「少しは頭を冷やしたほうが良いですよ」くらいのアドバイスは機会あるごとにしていくべきであろう。

アメリカの言いなりの経済政策など、まともに聞いているほうがアホなのである。日米構造協議以降、日本は経済政策の主体性を失い、めちゃくちゃにされてきた。

アメリカの「主流派経済学」なるものがとんでもない代物なのだということを、経済学者は再認識すべきときである。ヨーロッパは日本よりもはるかに賢い対応をしている。それは文化的な伝統によるものなのであろう。

 

19.日墨FTA交渉豚肉関税問題でトン座(03年10月16日))

16日の毎日新聞の夕刊によると「対メキシコFTA合意へ、日本、世界潮流に一歩」という3段抜きの大見出しで書いてあった。そんなはずはあるまいと思っていたが、米国のウォール・ストリート・ジャーナルが、共同電の「決裂記事」を載せていた。

朝のニュースでは難航しているということになっていたはずなのに、どうしてこんな記事が出てくるのか不可解である。

日本の新聞は戦時中、「100人切り(中国で日本の兵隊が中国兵100人を切り殺したというデマ記事)報道」をのせた、輝かしい実績があるのでこれくらいでは驚かないが、もし間違いであれば早く訂正すべきだ。

メキシコは米国とEUとFTAを結んでおり、結んでいない日本は不当に差別され4,000億円の損害をうけているということを産業経済研究所だかジェトロだかが試算したとか言われている。

これは根拠が正確に示されているわけではないのでコメントしようがないが4,000億円という数字は日本中を独り歩きしている。新聞はFTAの「アリガタサ」を社説などで、お説教するのであれば、その根拠をまず国民に示すべきであろう。

それは別として、このメキシコのFTA問題は「FTAの恐ろしさ」を雄弁に物語っている。すなわち、FTAを結んでいない国を、貿易から「排除する」という、ガットの精神から、180度かけはなれた内容を持っていることである。

これをみても、経済大国の結ぶFTAはWTOの「補完」ではなく「破壊」である。

世界の潮流となっているといわれるASEANなどのFTAあるいは地域協定は多くの場合、途上国や経済的弱者の連合策である場合が多いのではないか?

経団連などがFTAを一生懸命プロモートしようとしているが、もしそれがうまくいったらWTO体制下の世界の貿易秩序は破壊されてしまうであろう。

日本は特定国と「親密な経済関係」を構築する反面、「敵対的な国」を大量に作り出すことは間違いない。

メキシコが日本を疎外するならWTOに提訴して戦うべきである。ただ、国家プロジェクトに外国を入れないなどということでは日本は争えそうもない。それはまさに「天に唾する」に等しい行為である。

16日の朝の某テレビで東大の偉い先生が、4,000億円どころか6,000億円は損害を受け何万人かの雇用がうしなわれているなどと、ご託宣を述べていたが、忘れてならないことはメキシコからの日本への輸出も相当増えることである。

大体メキシコはFTAの相手国への輸出を急拡大しているはずである。もちろん日本の養豚業者は大打撃を受けるし、他の農産物も「被害」をうけることは確実である。最近の東大の先生というのは、メリットだけ計算して「デメリット」は計算しないのであろうか?

こんな先生に教わっていたのではロクナ学生が育たないのではないかと危惧される。私の学生時代は、こういうエキセントリックな先生はあまりいなかったような気がするが、授業にはあまり出ていなかったので、その辺は定かではない。

別に、今回のメキシコとのFTA交渉が決裂したからといって、世の中がひっくり返ることはない。すでに「世界の潮流」とやらになっているとしても、日本は依然として巨額の貿易黒字を維持しているではないか。

また、EUがメキシコとFTAを結んだのは、米国のNAFTAが余りに排他的な内容を含んでおり、防衛上結んだのではないかと思われる。EUは日本の動きを見ており、日本がFTAに狂奔すれば必ず、同じ動きをする。

そうなれば、世界貿易戦争の勃発である。それで日本の製造業が利益を受けるはずは無い。経団連はそこまで考えているのであろうか?

私は今現在、WTOの今後について、自国の目先の利益ではなく、将来にわたる長期的視点で物事を考える必要があると思う。それにはEUと先ず話しをすべきである。

世の中、独り勝ちするだけが能ではない。もっともこんな話しは天下のトヨタの経営者には通用しそうもないが。

(03年10月17日)続き

17日付のニュー・ヨーク・タイムズのジェイムズ・ブルック記者は「日本の養豚とミカン栽培農家はトヨタ、ホンダおよび日産より強いことが証明された」という記事を書いている。

どうも、今回の日墨FTA交渉では経団連の奥田会長がテレビに登場していたと思ったら、実は日産、トヨタといった自動車メーカーがFTAの最大の受益者であるようだ。

そういう内容の記事は日本の新聞にはほとんど書いてないが、ニューヨーク・タイムズ(NYT)やウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)ははっきり書く。アメリカのメディアを礼賛するつもりはないが、日本の新聞も読者に問題点をはっきりわかるように書いてもらいたいものだ。

たとえば、日産はメキシコ最大の自動車メーカーであり、メキシコ工場で使用する部品の75%はNAFTA地域(米国、カナダ、メキシコ)から買っているが、一部は日本から輸入し、これに差別関税を課せられているようだ。これはゴーン社長様のお気に召さなであろう。

トヨタもティファナの郊外に小型トラックの車台を組み立てる工場を、またサン・アントニオでは別の大工場を建設中であるという(WSJ,16日付)。これまた、日本製の鋼材など無税で入ったほうが好都合であることは言うまでもない。

なるほど、これで経団連が政治資金提供の基準に各政党の「FTAへの取り組み姿勢」を考慮に入れるといっている理由もわかろうというものである。こういう経団連の姿勢は大いに問題である。

メキシコのFTAにばかり気をとられていると、長期的にもっと大きな利益を失い、国益にも反することにならないようご配慮をお願いしたいものだ。

日本の農民が我慢すれば、これら自動車メーカーや電機メーカーには確かに好都合だが、日本の自民党政府は農村の支持で、政権を維持しており、11月9日の総選挙を前に、日本政府も大幅な譲歩はできなかったというのが、大方の海外メディアの書き方である。

日産は史上最高の利益をあげ、トヨタも1兆円を超える利益を出している。ご同慶の至りである。農民もどこの家にいってもトヨタや日産やホンダなどの車を持っている。これまたご同慶の至りである。

今回の選挙で圧勝すれば、小泉政権はメキシコをはじめ一挙にFTAをあちこちと結びかねない。そうしろと迫る学者やジャーナリストは役人のみならず、財界の強いバックアップを受けてなりふりかまわない。彼らは自らの言動の意味すらわかっていないから恐ろしい。

WTOいな「ガットの精神に帰れ」である。さもないと日本は危険な滅びの道を歩みはじめているような気がしてならない。

  

21. ダボスのWORLD ECONOMIC FORUM−アジア経済のバブルが心配?(04年1月24日)

毎年、スイスの保養地ダボスで世界経済フォーラム2004なるものが開催されている。 期間は1月21日から25日までの5日間で世界91カ国から2,100ものお偉方が集まっている。

アナン国連事務総長やチェイニー米国副大統領、ビルゲイツ・マイクロソフト社長その他政界、経済界の大立者たちである。昔は「世界賢人会議」などとも称していたような気がするが、最近はさすがにそういう言い方はしていない。

いくつかのセッションに分かれていて、テーマごとの討論が行われている。会議は何か結論を出して、参加者がそれに従うというものではなく、言いっぱなしで終わりだそうである。

その中に、「エマージング・マーケットのバブル?」というテーマがあった。ほかにも興味深いテーマがいくつかあるが、WSJの最近号に特集されているので、ご関心の向きはご参照ください。

現在発展途上国の一部に「バブル的」現象が起こっているが、1997年の通貨危機のときとは違うという認識のようである。「そうか、1997年の通貨危機はバブルが原因であったことがようやく共通認識になってきたのか」というのが私の感想である。

1997年の通貨危機の要因に関する議論ほど現在の経済学の幼稚さを証明する好例はない。いわく「固定相場制度犯人説=経常収支赤字の主因説」や「短期資金説=バブル原因説」などである。

何もない平穏無事の世界に短期資金が押し寄せたからといって、それがすぐにバブル(特に不動産バブル)に直結するなどというばかげた話はない。もしそうだとすればとすれば、今の日本などはバブルの真っ最中出なければ話がおかしいではないか?

バブルが起こるにはそれにふさわしい経済的条件と経済主体が備わっていなければならない。1997年においてそれが何であったかなどという議論はほとんどなされていない。(拙著「東南アジアの経済と歴史」日本経済評論社、第3部参照)

今は世界的に低金利の時代であり、エマージング・マーケット(私はこういうあいまいな表現に抵抗感を持っているが、何しろ賢人様のお言葉なのでそのまま使わせていただく)の株式と債券(ボンド)に資金が集まっている。

確かに、最近の東南アジアや東アジアの株式相場はかなり上がってきている。はじめは外国、主に米国の金融機関が買い、それに現地資本家が相乗りしている。

このちょっとしたブームの背景には、中国の盛大なるバブル経済(輸出と内需)があり、アジア諸国は中国向け輸出の急増で一息ついているという事実がある。

ワシントンに本拠を持つInstitute of International Finance という機関が計算したところによれば、2003年にはエマージング・マーケットの株式・債券に流れた資金は前年比50%増の1,870億ドルということであり、今年はそれがさらに1,960億ドルにまで膨らむとのことである。

ただし、米国の金利が上昇すれば、これらの資金は米国に戻っていくであろうというストーリーのようである。また、アジア諸国はかつてないほどの低金利政策を採っているが、それが金利を上げ始めた時には株式バブルははじける可能性があるというのだ。

金利が高くなれば株は下がるというのは教科書的なものの言い方だが、高金利のときの方が株価は高いというのは歴史がしばしば教えてくれる現実である。

私はダボスの賢人会議などに出席する資格のない貧かつ愚なる老書生だが、こんな議論を聞かせられていたら、居眠りの連続であろう。

問題はアジア経済がどうなっていくかであるが、それは今のところ中国のバブルの帰趨にかあっていると見るべきであろう。確かに、外人投資家の影響は大きいが、彼らも経済実態をにらみながら投資を行っていることは言うまでもない。

金利が上がると、各国は財政赤字の累積が大きいので困るだろうなどという議論も出ている。「経済学は憂鬱なる科学」だそうだが、同時に「退屈なる科学」でもあるようだ。

  

27.  アジア通貨に対しても円安は急激に進んでいる(05年11月19日)

最近よく、「外貨預金」の勧誘の電話がかかってくる。私は、カネがないというのが最大の理由だが、仮に多少のタンス預金があったにせよ絶対に外貨預金をする気にはなれない。

というのも、円が異常に安いからである。1ドル=119円などというのは、まったく考えられないレベルである。本来1ドル=100円ぐらいであったとしもおかしくない。というのは、米国は年間6,000億ドル以上の貿易赤字大国だからである。

しかし、円が安いのは何も米ドルに対してだけではない。アジア通貨に対しても円は相当安くなっているのである。

お隣の韓国のウォンとの関係がどうなっているかというと、つい23年前までは1万円出すと韓国の空港の両替所では11万ウォンと替えてくれた。だいたい、1万円が10万ウォンというのが長年の相場みたいなものであった。

しかし、今はどうかというと、1万ウォン=1150円になってしまったのである。だから、1万円だしても85000ウォンしか貰えないという計算である。ウォンは日本円に対してこのところ1520%も高くなったのである。

ウォンだけではない。タイのバーツですら、つい数ヶ月前までは1バーツ=2.6円を若干上回るようなレベルであったが、あっという間に1バーツが2.9円近くにまで高くなってしまっている。マレーシアやシンガポールは言うに及ばず、慢性的な通貨安のインドネシアのルピアまでが対円高になっているのである。

その理由は、日本が貿易赤字国で、韓国やタイが貿易黒字であるということではない。韓国は貿易黒字を維持しているが、タイは今年に入ってから原油価格の高騰もあり、貿易赤字国になってしまった。貿易赤字国の通貨が黒字国(日本)の通貨よりも「強くなる」などというのは異常としか言いようがない。

その異常現象の最大の理由は「金利差」にある。日本は実に長期にわたってゼロ金利体制を維持してきた。世界で、日本のみが、よく理由のわからない異常な「ゼロ金利体制」を続けてきた。それはバブル崩壊後の金融機関を救済するためであった。

日本の銀行は儲かるのは当たり前である。つまり仕入れコストがほぼゼロに等しい預金を国民から集めてきて、それに何%かの値段(金利)をつけて市場で売っている(貸し付けている)のである。これで儲からなければよっぽどどうかしている。

韓国やタイでは公定歩合に相当する「基準金利」は極力米国の連邦準備委員会の金利にあわせようとしている。したがって、各国とも4%に近いレベルに「公定歩合」が設定されている。預金金利はそれにいくらかはプラスになっている。

日本の公定歩合も「国際レベル」に多少なりとも近づけるべきである。そうしないと、国際貿易上も日本だけが「為替の切り下げ」をおこなって、自国の輸出を有利にしようとしているという非難を招きかねない。現状を言うならば、日本は輸出産業に対し、「輸出補助金」を円安という形で出しているのと同じである。

「いいじゃないか幸せならば」などという身勝手は日本の場合は許されない。なぜなら、日本は世界で米国に次ぐ「経済大国」だからである。デフレが続いている間(物価がマイナス)はゼロ金利体制を続ける」などというのは了見が間違っている。

ゼロ金利体制などというのは銀行が多額の不良債権で苦しむ中(これも自業自得であるが)、いわば緊急避難としてやった政治的措置ではなかったか?これが金融資本にとって「具合がいい」からといっていつまで続けるつもりなのだろうか?

日本人は1400兆円以上の預金資産を持ているといわれている。ところが、これが金利を生まない。国民は手持ちの預金が減るのは怖いから、使わないでじっと持っている。

外貨預金という形で、日本人の貯蓄が「世界の経済発展」のために使われればよいが、将来の円高を考えると、為替差損が出る可能性が高いので「外貨預金」も躊躇される。

そういう状況で、日本の金利が上がってくれば、極度な円安が修正され、自然に「円高」に進むことは間違いない。ということになれば、日本の過剰蓄積が海外に出て行く事が容易になる。

また、国民の消費意欲も高まり、景気対策上も好ましい。金利が高くなれば、国内の設備投資を冷やすという「経済理論」もあるが、米国並みの金利がなぜそれほど「悪い」のかさっぱり理解できない。

先進工業国は資本市場の「競争条件」をなるべく均質化するのが公正なやり方である。

大体各国とも、そこそこの経済成長を維持しているのは「個人消費」が起点になっている。アジア諸国は「輸出増加⇒雇用増⇒個人消費増加」という関連が見られるが、日本はそういうレベルの国ではないし、日本の円安がアジア諸国の輸出増加に「悪影響」を及ぼしていることは間違いない。

日銀も「ゼロ金利」体制を止める事を考えるべき時期に来ていることは認識している様子だが、ウルトラ・ナショナリスト(自国だけの短期的利害しか視野に入ってこない)的な政治家やそれをことさらに支持する経済学者に妨げられているかのごときである。

彼らは「重商主義」ならぬ「重銀行主義」者である。彼らの経済政策の特徴を一言で表現すらならそういうことになる。郵政改革や国営銀行の一本化なるものもそこにピントが合わされているという見方も可能である。

しかし、日本の高度成長時代はいざ知らず、これからの日本の国民経済において「銀行」の出番が本当にあるのだろうか?あるとしても「脇役」でしかないだろう。

日本の銀行も国際的にはたいした活躍ができていない。その理由はさまざまだが、人材の育成を怠ってきて、まともに国際市場で働ける人材が少ないこともあろうが、経済的実力を度外視した政策的「円安」の下では怖くてうかつには海外展開できないのである。

日本の金利を国際レベルまで一気に引き上げろとはいわないが数年かけてギャップを埋めるべく、いまから多少なりとも「舵を切る」時に来ていることは間違いない。既に遅きに失するが「過ちを改めるに、はばかる事なかれ」である。

日本が異常な「金融政策」や「経済政策」や「貿易政策」を継続することは国際的に許されることではないのである。

今や日本は、「靖国問題」などという余計な問題を引き起こして、不必要なまでにアジアのみならず世界の中で孤立してきているのである。その「ジコチュー」的な態度とグローバルの視野にかけることは「満州事変」の前夜とよく似てきている。恐るべき政治体制である。

 

表27. 最近の日本円とドル、アジア通貨との比較(単位;円/各国通過)

 

米ドル

韓国

タイ

インドネシア

マレーシア

シンガポール

 

1ドル

1000ウォン

1バーツ

1万ルピア

1リンギ

1Sドル

0415

106.3

89

2.703

127

27.97

62.50

0513

102.7

99

2.636

111

27.03

62.75

31

104.3

104

2.726

112

27.45

64.24

61

108.8

108

2.669

114

28.62

64.87

91

110.5

107

2.663

108

29.28

65.70

103

113.4

109

2.768

111

30.24

67.23

111

116.6

112

2.855

115

30.88

68.79

1115

119.2

115

2.893

119

31.53

69.93

1118

119.1

115

2.890

118

31.52

69.99

  

29. ミタル(Mittal Steel) とアルセロール(Arcelor)との合併について(06年6月30日)

06年のはじめから話題になっていた世界最大の粗鋼生産規模をもつミタル(Mittal)スチール社が世界第2位のアルセロール(Arcelor)への敵対的な買収について、ついにアルセロール側が折れ、ミタルの資本を受け入れることに合意した。

ただし、ミタルがもつアルセロールの株式は43.6%でその後の上限は45%とするようである。3年後にはミタルが経営のトップのポストを獲得する。

ミタルはオランダに本社を置くがインド人資本の会社であり、05年の傘下企業の粗鋼生産は約6,300万トンと新日鉄の3,200万トンの2倍の規模である。

アルセロールはルクセンブルグに本社を置くヨーロッパ企業であり、05年の粗鋼生産は4,700万トンであるから、この両社の「合併」によって1億1000万トンという世界の10億トンの粗鋼生産の1割を占める巨大鉄鋼会社が成立することになる。

誠にご同慶の至りである。この巨大鉄鋼会社の成立によって世界の鉄鋼業界あるいは日本の鉄鋼業界にどのような影響があるであろうか?日本の新聞の論調では世界の鉄鋼市場でかなりの「圧力」を受けることと、「次は日本の鉄鋼会社が狙われる(?)」などという議論が多いようである。

しかし、日本の鉄鋼会社にとっては願ってもない「シアワセ」な事態が起こりつつあるわけで、新日鉄やJFEといった大手鉄鋼会社の株価がこのところ上げ基調に転じている。

今回の合併劇に先立つミタルの急成長とアルセロールの成立についていえば、両方ともいわば「ダメ企業群」の一大トラスとであるという見方ができよう。トラストとは資本集約である。

採算の良くない企業が経営権を集約して、一大企業に編成をしなおし、市場競争に立ち向かうというものである。こういう言葉自体最近の日本の大学ではほとんど教えられていない。

最近、ある米国の一流経済紙の編集スタッフが「カルテル」という言葉を知らないのに驚かされた。こういう新聞記者が鉄鋼業の分析をきちんとして正しい記事を書くなどということはほとんど期待できないであろう。

つい最近まで、世界の粗鋼生産の規模は7〜8億トンでかなり長期的に安定(低迷)していた。その中で、世界一の生産規模を誇っていたのは、第2次大戦後では米国であり、ついでソ連であった。西ドイツや日本は戦後急成長を遂げ、世界のトップ・レベルの鉄鋼生産国にのし上がった。

その中でも、日本は臨海製鉄所の建設と最新技術(転炉、連続鋳造、大型ホット・ストリップ・ミル、連続焼鈍設備、電気亜鉛メッキ鋼板などの数え切れぬ技術革新の集積)の開発によって、世界鉄鋼業のリーダーの位置を1970年代から維持し続けている。

しかし、鉄鋼先進国である米国や欧州の鉄鋼業は一部の例外を除いて、これらの技術革新に乗り遅れ、衰退の一途をたどってきたのである。特に米国の大手製鉄会社はひどかった。

今回、改めてミタルが2005年4月に買収した米国のインターナショナル・グループ(ISG)の中身を見ると、かって世界一だなどといわれた(今でも米国ではそう信じている人が少なくない) 旧ベスレヘム・スチール社のスパローズ・ポイント製鉄所などが入っている。

また、同じくバーンズ・ハーバー製鉄所や、旧インランド・スチール社のインディアナ・ハーバー製鉄所など一昔前は「世界に冠たる一流製鉄所」が入っている。

(ISGの出発点はLTVスチールが2002年チャプター11入りしたのち、投資会社W.I.Ross社が3億3千万ドルで買収してできた、その後、2003年5月にベスレヘム・スチールを買収するなど、同種の高炉会社を次々買収して規模を拡大したが、おそらく投資としてはうまくいかなかったものと推測される)

これらの製鉄所は現在では残念ながら、国際競争力を失ってしまった。おまけに、潜在的な年金負担の大きさを考えれば、将来的にも「企業」としては全く魅力のない物になってし合った。

しかし、ミタルはこのISGグループ企業を傘下におさめることによって、「念願」の薄板分野に本格的に進出することができた。もちろん、このグループは自動車用鋼板も生産してきたが、いまや、日本の高炉メーカーが製造するような高級自動車用鋼板の生産は技術的にも設備的にもできない。

ミタルはもともと1976年にインドネシアのスラバヤで鉄筋棒鋼の単圧メーカー(電炉などの上工程をもたない)として、イスパット・インド(Ispat Indo)なる会社としてスタートしたのである。そういっては語弊があるが「吹けば飛ぶような」小さな存在だったのである。

それが、わずか30年で世界一の生産規模を持つ大会社にまで成長したのである。ミタルの成長戦術は世界中で不況で苦しんでいるダメ企業を安い価格で次々買収しまくっていったのである。それも1995年以降に活発化したのであり、それまではほとんど 世間では知られいなかった。

工場所在地は東欧(ルーマニア、ポーランド、チェコ)から西欧、米国・カナダ、メキシコからカザフスタンにまで及んでいる。こういう広範囲に点在する企業をまとめて経営しているのだから、なかなかのものである。

しかし、その企業内容(設備など)は率直に言って、相当問題のある代物である。日本の高炉メーカーなどはとても食欲がわかない企業ばかりである。

それではなぜ、ミタルがここ数年で急成長を遂げたがといえば、それは世界の粗鋼規模(市場)が7〜8億トンから一挙に10億トンにまで拡大したためである。その原動力となったのは中国の急成長である。

中国での鉄鋼消費の拡大がきわめて大きなインパクトを与えた。それによって、安物の建材用鉄鋼製品(鉄筋棒鋼など)の市況が高水準で推移したのである。オンボロ会社はこういうときにはかえってえ巨額の利益が上げられる。

ミタルは鉄鋼業界においては思いがけず時代の寵児になった。 ミタルは日本の、あるいは世界の鉄鋼業界にとって「有難い存在」ナのである。それは世界の粗鋼生産の10%のシェアを有する大トラストとして「地球規模での市況対策」を行ってくれるからである。

ところが、ミタルの問題は薄板生産を得意とする米国の旧大手メーカーの集合体とも言うべきインターナショナル・スチール・グループ(ISG)の買収(2005年4月)によってミタルは薄板市場の世界に本格的に入ってしまった ことにある。

もともと国際競争力を失った米国の旧高炉大手には日本企業も80年代から巨額の資金をつぎ込み、何とか再生させようとしたが、ことごとく失敗し大やけどを負ったのである。

ISGは主に旧ベスレヘム・スチールとインランド・スチール社の主要工場で成り立っているが国際競争力のなさでは同じことである。

米国への投資で何とか格好を付けているのは,意外にも神戸製鋼が提携している旧USスチールのみといっても過言ではないであろう。これは神戸製鋼の先見の明というべきかもしれない。 新日鉄はインランド・スチールと比較的関係が深かった。

2005年に入ってからのミタルの課題は「薄板市場で勝負」しなければならなくなったことである。実際、中国でも最近の過大投資によって薄板が過剰生産になり、安値で米国や東南アジア市場に輸出をし始めた。その結果はミタル・グループの損益に直接影響した。

WSJは06年2月15日の記事でミタルの05年4Qの純利益は58%減少したと報じている。 また、WSJの06年5月13日の記事(インターネット版)にはミタルとアルセロールの利益が大幅に落ち込んでいるという記事が書かれている。

ミタルの06年1Qの利益は7億4300万ドルで前年同期の11億5千万ドルにくらべ、35%の減益になっているというのである。

ただし、売り上げは64億2千万ドルから84億3千万ドルに1年間で31%も増えている。これはISGグループの合併により売り上げ規模が拡大したものだが、同時期に中国からの薄板の安値輸出攻勢によって収益が悪化しているのである。

アルセロールも06年1Qは20%の減益となった(利益は9億4900万ユーロから7億6100万ユーロに減少)と報じられている。ただし、アルセロールは買収防御策として自社株買戻しを行い、そのために減益になった部分もあるといっている。

ミタルとしては薄板市場に参入したからには、高級自動車用鋼板の分野に食い込まなければならない。そこで注目したのはアルセロールである。しかし、アルセロールもフランス、スペイン、ベルギー、ドイツ(ブレーメン社)の「負け組み連合」という色彩はぬぐえない。

アルセロールは自動車用鋼板の世界シェアは15%あるという話である。しかし、自動車用鋼板といってもピンからキリまであるが最高級品は自力ではやれないのでもっぱら新日鉄に頼っているというのが現状である。

新日鉄は適当にお付き合いしているようだが、自動車用高級鋼板の中核技術がアルセロールに渡ってしまうと大変なことになることは十分認識していることであろう。

日産のゴーンはアルセロールに何とか新日鉄並みの自動車用高級鋼板を作らせたいと思っていることであろう(上の#23の記事参照)。

と言うのはゴーンが叩きのめしたはずの日本の高炉メーカーが新日鉄グループ(+住金+神戸製鋼)とJFEという事実上の2社体制になって、市場の支配権を奪還してしまい、逆に自動車メーカーに対して強い価格交渉権をもつにいたったからである。

アルセロールの株主にすればミタルが高い値段を付けてくれればこれほどありがたいことはない。アルセロールの株式をミタルがいくらで手に入れるのかは細部は必ずしも明らかではないが266億ユーロ(約3兆9000億円)と言われて 、当初のオファーよりも80%も高くなっている

アルセロールとしてはミタルが経営権を握るとナニをしでかすか分からないという不気味さを感じていることであろう。中核となっているフランス企業はまだしも、スペインやベルギーの工場は閉鎖されてしまう可能性もある。そうなると直ちに失業問題に直結する。

日本の高炉メーカーとしてはミタルが一大企業集団を形成したことによって棒鋼などの一般建材以外に薄板の市況y品(一般グレード)の市場価格の安定に貢献してくれることが何よりありがたい話しである。

ミタルが日本の高炉メーカーの買収に乗り出してくるのではないかという「オソレ」がないかということである。可能性は否定できないが、日本の企業の経営が難しいことはミタルの幹部もよく認識しているはずである。

もし、ミタルが日本の企業に狙いをつけるとすれば、国際的に見ても異常に低い評価を与えられてきた日本の鉄鋼株は高騰することは間違いない。アルセロールというボロ会社 集団(失礼?)にすら4兆円近い値段がついたのだから、日本の場合その数字は天文学的になるであろう。

それにしても、日本の高炉メーカーへの技術や設備やマンパワーに対する「市場の評価」とやらがこれまで低すぎた。それは、不勉強なマスメ・ディアにも責任があるかも知れないが、実は最大の責任者は鉄鋼企業の経営者自身であったということが言えよう。

また、ミタルはソモソモ巨額資金をどこから借り入れているのだろうかという疑問が当然沸いてくる。それは自社株の発行と言うホリエモン的錬金術もあるあろうが、ヘッジ・ファンドもかなり貸し込んでいることは間違いであろう。

日本の金融機関や投資家はこの手のやり口に案外引っかかりやすい、「ワキノアマサ」があるから要注意である。