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IndosatとTemasek

インドネシアでTEMASEKは携帯電話会社の持株比率を引き下げ判決(08年5月12日)

18.Indosat 売却問題がこじれ、政争の具に(2003年1月4日)

昨年末インドネシア政府は国営海外電話通信会社(上場)Indosat(PT Indonesia Satellite Corporation)の持ち株41.9%をシンガポールの国営通信会社(STT=Singapore Technologies Telemedia) に売却した。

売却金額は1株当たり12,950ルピアといわれ、市場価格の8,600ルピアよりも50.6%もの高値の取引であり、総額5.6兆ルピアであったといわれる 。この売却の結果インドネシア政府の持ち株はわずかに15%になる。

しかい実際国庫に入った額は5.2兆ルピアであったという説が出ている。差額の4,000億ルピアはグス・ドゥル前大統領にいわせればPDI-P(闘争民主党)の政治資金となって流れ込んだということである。おそらくこれは内部告発がなされた可能性がある。

しかし、最新情報(1月4日detik.com)によると総額608.414百万ドルのうち25百万ドルがCitibankのエスクロー(中立第3者保護預かり)口座に入ったまま、インドネシア銀行への送金が遅れていたとのことであり、もしそうだとすれば金銭的不正はラクサマナにはなかったことになる。

Indosatの株はSTTに売ったということであるが、実は直接の買い手はICL(Indonesian Communication Ltd)というタックス・ヘブン(低税金地域)のモリシアスにあるSPV(Special Purpose Vehicles=特殊目的企業)である。

ICLの素性についてはモリシアス政府は明らかにしないため、本当の買主は誰かはわからない。しかし、インドネシア政府はICLはSTTが100%所有しており問題ないといっている。

もともとインドネシア政府はIMFが何といおうと国営企業を悪徳華人資本家にだけは売りたくない事情がある。国民感情もそれを許さない。

インドネシアではスハルトのクローニーとして大もうけをした挙句、97・98年の経済危機に際して巨額資金をシンガポールなどに持ち出し(資本逃避)し、IBRA(インドネシア銀行再建庁)に差し押さえられている自分の企業を安値で買い戻すことを狙っている華人資本家は少なくない。

したがって、素性の正しくない買い手に保有資産を売らないという「大原則」を維持しているのである。そういう意味ではタックス・ヘブン地域にある企業には売るべきではなかったのである。これをやったことで政府は「痛くない(?)腹を探られる」ことになったのである。

前に売却したBCA(Bank Central Asia=サリム・グループの銀行)の買収相手先のFarallon Capital グループもモリシャスのSPVであるFarindo Holdings を使っている。このなかにサリム資本が入り込んでいないという保証はない。

これらの売却劇の舞台監督は国有企業担当相のラクサマナ・スカルディである。 ラクサマナにいわせれば2002年度の国家予算には6.5兆ルピアの国営企業売却が織り込まれており、しかも10月のバリ島爆弾事件で外資から敬遠されている環境下で努力してようやく買い手を見つけたということであろう。

国民協議会議長のアーミン・ライスは国営企業を外国人に売却することに原則的に反対する立場から直接名指しをしないまでもラクサマナを「外国資本の代理人」として批判した。これに激怒したラクサマナは アーミン・ライスを名誉毀損罪で警察に告発した。

しかし、ラクサマナの所属するPDI-Pの選挙資金(2004年の大統領選挙)に怪しげなマネーが流れたという噂が広まり、ラクサマナは苦境に立たされている。 アーミン・ライスは自ら大統領選挙に出馬する意向もあり、ここぞとばかり攻撃にでており、「ラクサマナを地の果てまでも追い詰める」といきまいている。

国営企業売却反対論者の先鋒であるクイック・キアン・ギー経済企画庁長官はなぜか沈黙を守っている。ことによるとPDI-Pに必要な資金が入ってきたためかも知れない(真相は藪の中)。

Indosatの従業員は売却反対運動を起こしており、大方の世論も彼らを支持している。Indosatの従業員には売却話の出る直前に前触れもなく1か月分の臨時ボーナスが支給され、ボーナス袋には「Transformation Incentive」(変革のためのインセンティブ)と書かれていたそうである。

シンガポールの国営企業管理会社タマセク(Temasek Holdings=社長はリー・シェン・ロン副首相夫人のホー・チン夫人=Ho Ching)がTelemedia 社とSingTel社を支配下においており、インドネシアにおいて既にPT Telekomunikasi Seluler(Telkomsel)の株式35%を所有している。同社はインドネシアの携帯電話の50%以上のシェアを保有している。

Indosat はTelemedia(シンガポール)によって株式の42%を所有されることになったが、インドネシアにおいては子会社PT Satelindoという第2位の携帯電話会社の親会社である。 ちなみに2001年末の3大携帯電話会社の加盟者数の社別内訳はTelkomsel=325万件、Satelindo=176万件、Excelcom=122万件である。

今回のIndosat買収により、シンガポール政府がインドネシアの携帯電話市場に広範な顔出しができる形になる。しかし、インドネシア政府の考え方は、現在圧倒的な携帯電話市場を支配しているTelkomselに対し て依然65%の株式を所有しておりシンガポールに支配されることはない。

さらにIndosat(Satelindo)が有力な競争相手として成長(シンガポールの力を借りて)してくれば、競争が激化し、かえって電話料金が下がるのではないかということである。

長距離電話会社としてのIndosatは経営的には苦戦している。というのはIndosatの長距離電話の営業実績は2001年には682.8百万分で前年にくらべ7.5%も落ち込んでいる。それはVoIP(Voice over Internet Protocol)に食われているためであるという。

実際携帯電話の競争の結果、料金が下がるかどうかはわからない。ちなみに現在インドネシアでは固定電話は650万回線あり、人口220百万人として100人当たり3本にすぎず、一方携帯電話は2001年末には657万セット、2002年末には1000万セットと急増している。

ところが問題はそれにとどまらない。というのはシンガポールのTemasek Holdingsの株式の5.6%をなんとサリム・グループが所有しているのである。最近、インドネシア政府はサリム・グループに対して融和路線を打ち出している。

サリムの中国情報はインドネシア政府にとっても役に立つということのようである。サリムの復権までメガワティ政権が本当にやれるのか、あるいはやるつもりがあるのか疑問である。

このサリム復権シナリオはおそらくメガワティの夫タウフィク・キエマスとラクサマナが描いたものかもしれない。それは多分2004年の選挙資金対策であろう。しかし、国民にそれがバレれば選挙資金は足りたが選挙に負けるということになりかねない。

一方、PDI-Pと組んでいると考えられているゴルカルはスハルトの次男バンバン・トリハトモジョが資金的バック・アップをおこない、勢力(バンバンの)拡大をはかっているという。

ゴルカル自身も党首アクバル・タンジュンが汚職事件で有罪判決を受け、控訴中であるがPDI-Pの失点に助けられて国民の人気を挽回しつつあるという。 ゴルカルの人気が回復すればPDI-Pとの関係は冷却化する可能性がある。

前大統領のグス・ドゥルは「これから必要なのは社会革命である」と称してPDI-Pが失ったスローガンを横取りして、再起を図っている。

メガワティはアチェの独立派との休戦合意以外はスティヨソ・ジャカルタ知事の再選問題、ラフマン検事総長の汚職見逃し問題 、最近の一連の公共料金の値上げ(補助金撤廃)など国民の目に見える形での失点が多すぎる。 だからといってメガワティが直ちに次期大統領選で苦戦に陥るというわけではない。しかし、PDI-Pを取り巻く状況は日に日に悪化している。

今回のIndosat事件はインドネシアの政治歴史のうえで意外に大きな意味を持つ可能性も出てきた。

(03年6月27日) STTに630億ルピアの配当支払い

Indosatは2002年の純利益3,360億ルピアのうち、45%を株主に配当し、残り55%を投資資金として留保することを決定した。

1株当たりの配当金は146ルピアであり、株主のシンガポールのSTT(Singapore Technologies Telemedia)に対して630億ルピアの配当をおこなう。

なお、STTの投資総額は5.6兆ルピアであった。

⇒インドサット売却問題で検察庁はラクサマナを近く取り調べ(04年11月26日)

Detik(インターネット版、11月26日)によると、検察庁は近く、前の国営企業担当国務相ラクサマナ・スカルディを取り調べる方針であるという。

 

インドネシアでTEMASEKは携帯電話会社の持株比率を引き下げ判決(08年5月12日)

インドネシアの中央ジャカルタ地方裁判所はシンガポールの政府系投資会社テマセク(TEMASEK)がインドネシアで所有する携帯電話会社(PT. TelkomselPT.Indosat)の持株比率が高すぎ「独禁法」に抵触するとして、1年以内に持株比率を2分の1に引き下げるようにとの判決を下した。

同時にTEMASEKは150億ルピア(≒1億7千万円)の罰金の支払いを命じられた。

しかしながら、裁判所は公正取引委員会(KPPU)からの携帯電話料金の15%引き下げ要求をを却下した。

これに対しTEMASEKは高裁に控訴を検討すると述べている。また、TEMASEKの言い分では、同社は上記2社の直接の株主ではないと言うことである。

Singapore Telecomunications LTD.はインドネシアにおいてPT. Telkomselの株式35%を所有している。そのSingTelについてはTEMASEKが55%の株式を所有している。

また、TEMASEKSingapore Technologies Telmediaの株式を100%所有しており、同社はAsia Mobile Holdingsの株式を75%所有している。そのAsia Mobile HoldingsはインドネシアでPT.Indosatの株式を40%所有している。

いずれのケースもTEMASEKが実質的に支配している(100%所有ではないにせよ)会社がインドネシアの携帯電話会社の株式を大量に所有していてきわめて成長率の高い携帯電話市場を実質的に支配しているのは問題であると言うのがインドネシアの公正取引委員会の言い分である。

この件は、上に見るとおりメガワティ政権時代に国営企業の持株を大量に売却したことに端を発しており、「やり過ぎ」を指摘する声はインドネシアには高かった。TEMASEKも豊富な資金力を背景に強引にモノゴトを進めた嫌いがある。

これを控訴してもTEMASEKにはあまり勝ち目は期待できないであろう。勝てば勝ったでナニを言われるかわからないのがインドネシア国民のシンガポールに対する「国民感情」である。