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インドネシアの通商


136. インドネシアが中国製品の輸出中継基地に(06年4月7日)



121. インドネシアの産業界はASEAN-中国のFTAに反対(05年7月22日)

日本ではASEANと中国のFTA(自由貿易協定)が順調に進んでおり、日本は「バスに乗り遅れる」といった60数年前を思い出させるような見出しの報道や解説が飛び交っている。日本人の精神構造は昔も今もさほど変わっていないのかと落胆させられる

しかし、私はASEAN-中国のFTAなどというものが、そう簡単に筋書き通り運ぶはずはないと主張してきた。タイがタクシン首相の肝いりで始めた「中ータイの農産品の先行自由化」ですら、タイの農民に重大な被害を与えてきたことは既に見たとおりである。

案の定、インドネシアにおいてもここに来て、急に国内製造業者からASEAN-中国のFTAに対する反対論が急激に高まっている。

インドネシア・エレクトロニクス製造業協会(GABEL)のラフマット・ゴーベル(Rachmat Gobel)会長はFTA交渉には業界としてはほんのちょっとしかかかわらせて貰えなかったと政府主導のやり方に強い不満を表明している。

また、多くの産業界は政府が一体何をしようとしているのか糸口さえつかめないと述べている。インドネシア政府も「自由化は良いことだ」ぐらいのアメリカ仕立ての安っぽい経済学教科書以上の深い認識は持っていなかった可能性がある。フィリピンも同様である。

インドネシア繊維協会(API)のベニー・ストリスノ(Benny Strisno)会長も商業省は「中国とのFTAの内容について業界との連絡を密にし、その影響を速やかに業界に示唆すべきである。繊維業界としてはFTAに対処しなければならないことは承知しているが、正しい知識無しには何も対策の立てようがない」と語っている。

ベニーは2002年11月4日にプノンペンで中国側と交わされた「ASEANと中国との包括的経済協力に関する枠組み合意」にいたる交渉内容について十分な説明を受けていないといっている。

一方において商業省は民間側からの提案に基づいて協定をおこなったと説明しているが、それは明らかにおかしいというのが彼の言い分である。しかし、反対の声を上げるタイミングをインドネシアの繊維業界は失していた。今問題に気がつたなどというのはあまりにのんきな話しである。

政府は繊維業界が多くの労働者を雇用していることから、業界の保護に意を用いるべきであると述べている。これに対し商業省は業界は自由化に備えよとしかいっていない。(www.thejakartapost.com/ 7月21日参照)

確かに、ASEAN-中国のFTAは2010年には関税をゼロにするというような急ピッチの自由化が決められている。しかし、例外品目の取り決めなど詳細はこれからの話しである。という意味で多少の逃げ道は残されている。

だが、この交渉自体、タイとシンガポールの親中国の2カ国(華人枢軸ともいうべき)の主導で進められてきたことも事実で、これが今の構想どおりに進めば、中国との競合製品が多ASEAN諸国の工業は大打撃を受けることは最初から明らかだったはずである。

「Win-win solution(みんなが幸せ)」などというタクシンの言辞につられたのであろう。そのツケの大きさにASEAN諸国は今後大いに泣かされることは間違いないであろう。それはタイとても例外ではない。

今までは、ASEANからの対中輸出は多かったが、それは半導体や電子部品の輸出によるところが大きかった。しかし、中国での部品類の自給率が高まれば、中国に輸出する物は極度に減り、中国製の商品がASEANに大量に流れ込む。

東南アジアが中国にまともに輸出できるものはゴムや木材や天然ガスといった一次産品中心になってしまう。一方、中国製の安価な電気機器、オートバイをはじめ衣類などが東南アジアの市場にあふれかえることは目に見えており、既に一部は甚大な被害を受けつつある。

ASEANの対中貿易バランスは極度に悪化することもさることながら、各国の工業化に急ブレーキがかかることは間違いない。フィリピンやインドネシアはついに工業化が大して進まないまま21世紀を終わることになりかねない。タイの自動車産業ですら安閑としてはいられなくなる。

ASEAN諸国は一体どうするつもりなのであろうか?結局、大混乱の末、各国は中国と個別に話し合いをおこない適当に処理されていくことにならざるをえない。

協定は骨抜きにされるか破棄される以外にASEANとしては逃げ道がなくなる。もちろん、「東アジアの域内協力」などという美辞麗句は現実のまえに吹き飛んでしまう。ASEANが中国と個別にFTAなどやるのは邪道であり、WTOという大きな枠組みの中で生かしてもらうほかない。


86.インドネシアの通商政策

86-1. 中国とのFTAで398品目を保護対象に指定(04年11月1日)

さる10月22日マレーシアでの事務レベルの交渉でASEANと中国はFTAについての取り決めを行い、先行6カ国とは2010年までに、後発4カ国(ベトナム、ラオス、カンボジア、ビルマ)とは2015年までにほとんどの品目(約3,900)の関税を撤廃することにしたと大々的に報じられた。

正式には11月にラオスのビエンチャンで開催されるASEAN-中国サミットで調印される運びである。

ASEAN内部でも必ずしも歩調の合わないこの手の話が中国とやれるのかというのは、日本の「狂信的FTA教信者である一部の学者、ジャーナリスト」以外は誰しも思う素朴な疑問である。彼らは信念の人であって決して「素朴な疑問」などという下品なものは持たないらしい。

インドネシアにとっては、自国の経済にあまり自身を持っておらず、またナショナリズムにもこだわりもあり、正直にも早速398品目に及ぶ、制限品目(sensitive)リストを提示したものである。

インドネシア当局者によるとこのリストは多すぎて、はじめの取りきめの範囲を逸脱するものであると認めている。

348品目の「制限品目」には、主な分野として自動車とエレクトロニクス(部品を含む)であるが、繊維製品や化学製品もいくつかは含まれる。これらの品目の多くは外資や華人資本が生産している品目であろう。

さらに50品目の「高度制限品目」の中には米、砂糖、大豆、トウモロコシその他いくつかの食料品が含まれる。その中心はインドネシアの農民がかかわっている品目であろう。

上記の3,900品目については「トラック1」と称して2010年には最終的に関税をゼロにするが、一部は2005年1月から実行される。490品目については「トラック2」と称して2012年までには「自由化」される。

現在、ASEANと中国の間で取引されている品目は5,250に上るといわれている。

タイは早期収穫パッケージ(EHP=Early Harvest Package)と称して農産品(タイのFTA参照)を行ったが、中国からの農産品が大量にタイに流れ込み、大混乱をきたしている。

ASEAN-中国のFTAの音頭取りはタイとシンガポールであり、両国とも政治・経済の実験は華人が握っている。ほかの国はその辺の問題点を腹の底では意識している。

ただし、マレーシア、インドネシア、フィリピンも華人が経済の実権のかなりの部分を握っていることには変わりはない。

特にタイは華人意識の強いタクシン政権(前の民主党政権はそういう感じは皆無であった)が進める対中FTAだけにタイ国内からも不協和音が出てくる可能性は強い。

 

⇒中国はパーム・オイルや木製品・紙などを制限品目に指定(04年11月4日)

中国側は自国の食用油の生産を守るために、CPO(Crude Palm Oil=パーム・オイル)を制限品国に指定してきた。これはインドネシアとマレーシアが世界の2大生産国である。

それ以外にも木製品や紙製品を制限品目に加えているという。ただし、木材についてはウエルカムの方針である。中国のこれらの制限品目は実はインドネシアがもっとも大量に中国に輸出している品目である。

このようなインドネシアにとってのもっとも売りたい製品が制限されてはFTAなどといっても実態が薄いものになることは明白である。しかし、これは中国にとっての本音でもある。中国の農業は脆弱な要素を多く抱えているのである。

中国は全体で259品目の制限品目を指定しているという。中国も大国にしては「何でもいらっしゃい」というわけにはいかないものらしい。


136. インドネシアが中国製品の輸出中継基地に(06年4月7日)

ファ−ミ・イドリス(Fahmi Idris)工業相はインドネシアに最近、密輸入がふえていおり、その多くは中国企業が貿易摩擦で規制を受けている欧米への再輸出に利用されていると注意を促している。

欧米への再輸出品目は主に靴と繊維製品である。欧米では「原産地証明」を輸入に際し要求するが、インドネシアの役所はワイロをもらえば簡単に「原産地証明」を発給するという。そのため中国企業とインドネシア華人が組んで、 不正な再輸出をおこなっているという。

そのとばっちりを受けて真面目にやっているインドネシアの国内業者までが欧米から最近、疑惑の目を向けられているとイドリス工業相は述べた。

また、エレクトロニクス製品もインドネシア国内市場向けに密輸で中国からかなり入ってきており、それが国内のメーカーを脅かしていることは言うまでもない。

インドネシアの法律では密輸の罪は比較的軽く、捕まっても罰金刑のみであり、多くは役人にワイロをつかませて「無罪放免」になっているケースが少なくないというのは公然の秘密である。

イドリス工業相は密輸についても「禁固刑」を適用すべく近く法改正を考えるといっている。

(http://www.thejakartapost.com/ 06年4月7日付けインターネット版参照)