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対シンガポール関係
18.Indosat 売却問題がこじれ、政争の具に(2003年1月4日)
⇒インドネシアでTEMASEKは携帯電話会社の持株比率を引き下げ判決(08年5月12日)
159.インドネシア、シンガポールとの防衛協力と犯人引渡し協定とを締結せず(07年9月19日)
150.砂も石も、対シンガポール禁輸(07年3月5日)
60. シンガポールのタマセク、インドネシアの主要民間銀行支配を目指す(04年2月11日)
29. シンガポールの対インドネシア貿易統計非公表問題(03年6月12日)
本日付のジャカルタ・ポストに突然この問題が記事になって表れた。貿易立国ともいうべきシンガポールは対インドネシア貿易の統計数字を発表してこなかったのである。一方、インドネシア側は対シンガポール貿易統計を公表してきた。
こういう問題をほじくり返すと、シンガポール政府筋のご機嫌を損じるのではないかという危惧からか、この問題を正面きって取り上げたアジア経済学者というものを筆者はほとんど知らない。
下手なことをいうとブラック・リストに載せられシンガポールへの入国拒否にあうかもしれないという心配からか、事実そのものを知らなかったかのどちらかであろう。筆者は恥ずかしながら前者である。
それが、本日のジャカルタ・ポストに「汚職追放のためにはシンガポール政府の協力が欠かせない」という趣旨の生地が現れたのでびっくり仰天というところである。まさに、これは「歴史的記事」である。
インドネシア大学経済学部の経済社会研究所のファティブ(Chatib)氏は「シンガポール側の統計があれば、もし2国間の数字にギャップがあれば、密輸やアンダー・インボイス(低価格・過少申告)をインドネシア政府は確かめられる」と述べた。
リニ・スワンディ通商産業相とハッサン・ウイラジュダ外相も6月10日の記者会見でシンガポールが対インドネシア貿易の統計を公表したがらないことを非難した。
ハッサン外相はインドネシア政府としては1973年から、シンガポール政府に貿易統計の詳細を公表するように要求してきたが、拒否されたと語った。ただし、シンガポール政府としては大括りの数字はインドネシア政府には通知していたらしい。
シンガポール政府は最近2国間貿易の外交文書を送り、そのなかで公式の場でこの問題に触れることも拒否する旨の注釈をつけていたといわれる。
ところが、2002年の統計によると下表のようにとんでもない大きなギャップがあることが判明した。
表-3
非石油製品 | 非石油製品 | 差異 | ||
シンガポールからの輸出 | 52.5億ドル | インドネシアの輸入 | 24.4億ドル | 28.1億ドル |
シンガポールの輸入 | 74.1億ドル | インドネシアからの輸出 | 46.8億ドル | 27.3億ドル |
貿易バランス | -21.6億ドル | +22.4億ドル |
おそらく輸出はFOB,輸入はCIFであり、輸入の数字が多めに出ることと、輸出入のタイム・ラグを考慮しても差異があまりに大きすぎる。ちなみにインドネシアはシンガポールにとって香港、中国、日本、米国、マレーシアに次ぐ6番目の相手国だったのである。
この数字が事実とすればインドネシア政府は巨額の輸入関税を取り損ねていたことになる。同じ、ASEAN加盟国の間でこのような現実があったことは驚きである。「地域統合論礼賛論」の危うさもこれをみれば明らかである。
両国の事態改善のための話し合いはどうもシンガポール側の消極姿勢でなかなか前に進まないようである。もし、そうだとすればシンガポール政府は自国の企業家の「不正貿易行為」を支援しているという非難を免れないであろう。
もちろん、これにはインドネシアの関税担当官の汚職も大いに関係はある。
いずれにせよ、たとえ2国間の問題ではあっても、透明性のある数字の公開は当然であろう。この点、ジャカルタ・ポストの社説は「統計の非公開を頼んだのはスハルト政権であり」非がインドネシア政府側にあるという論調になっている。これも変な話である。
⇒シンガポールが貿易統計公開−インドネシア側は不満(04年1月26日)
シンガポール政府はようやくインドネシアとの貿易統計を公開したが、インドネシア当局は詳細が不備で、シンガポールの業者の「密輸」の実態が依然として隠蔽されたままであると述べている。
特に、貿易統計コードがインドネシア側と一致していないほか、商品ごとの2002年と03年の比較ができないとしている。
まt、インドネシア政府は40億ドル相当の商品がシンガポールに密輸されていると推測している。
シンガポール政府発表のインドネシアとの2003年貿易量=輸入;145億S(シンガポール)ドル、輸出;117億Sドル
シンガポールの主要輸入品目;コンピュータ部品、通信機器、石油製品
主な輸出品;電機機器・部品、石油製品、通信機器。
⇒シンガポールの貿易統計にインドネシア側は疑念抱く(04年2月11日)
シンガポール政府が最近公表したインドネシアの2003年の貿易データはインドネシア側が把握している数字よりも依然大きな差があるとインドネシア側は疑念を表明している。
シンガポール側の統計によればインドネシアへの輸出は69億ドル、輸入は86億ドルであった。ところがインドネシアの中央統計局の把握している数字ではシンガポールへのノンミガス(非石油・天然ガス)の輸出は47億ドル、輸入は16億ドルであった。
インドネシア大学経済学部のチャティブ・バスリ(Chatib Basri)氏はこの差は「密貿易」によるものであろうと述べている。
この際、どちらの数字がおかしいかは議論の余地があるが、インドネシア側は密貿易(輸出にも税金がかかる場合がある。また、インドネシア政府に知られたくない貿易もある=補助金つきの軽油、米など)の現場になっていることは間違いない。
おそらく、シンガポール政府としては業者から出てきた数字をそのまま集計した可能性が高いであろう。
表29,シンガポール発表の対インドネシア貿易(2003年、100万米ドル)
輸入 | 輸出 | |
Makanan(食料品) | 426.7 | 75.4 |
Minuman dan tembakau(飲料・タバコ) | 67.6 | 13.1 |
Bahan mentah(原材料) | 263.5 | 75.9 |
Mineral fuels(鉱物燃料) | 994.5 | 1,228.9 |
Kimia(化学品) | 305.6 | 887.7 |
Barang olahan(加工製品) | 710.3 | 313.9 |
Mesin dan peralatan(機械・設備) | 4,629.7 | 3,991.8 |
Aneka barang olahan(その他加工品) | 925.1 | 249.2 |
Aneka transaksi lainnya(その他) | 280.1 | 81.9 |
合計 | 8,607.27 | 6,926.8 |
資料出所;http://bisnis.com/ 04年2月11日
60. シンガポールのタマセク、インドネシアの主要民間銀行支配を目指す(04年2月11日)
シンガポールの国営持ち株投資会社タマセク(Tamasek Holding)はインドネシアの有力銀行BNI(#48 BIIの記事参照)の51%の株式(IBRA所有)の買収に成功する可能性が高まっているという。
そのことに対する危機感が現在の経営陣や議会にも高まり、改めてメガワティ大統領やラクサマナ国営企業担当相の政治姿勢が問われる可能性が出てきた。
タマセクは既にバンク・ダナモンとバンク・インターナショナル・インドネシアを実質的に支配下に置き、さらにバンク・ネガラ・インドネシアも買収しようとしている。
またインドサットの買収にも成功し、インドネシアの通信事業や金融機関の良い部分を押さえようとしているという非難が出てきている。
確かに、今までの一連のIBRA資産の売却方針をみればシンガポールのタマセクに優良部分が優先的に売却されてきたことは間違いない。
07年2月はじめからインドネシア政府はシンガポールに埋め立てよう土砂の輸出禁止を実施している。シンガポールは国土が少ないため、埋め立てによって海岸を拡張しているが、その埋め立て用にインドネシア領リアウ諸島の海砂を輸入していた。
海岸線が拡大することによってシンガポールとインドネシアの国境の線引きで紛争を生じるほか、インドネシア海域の環境問題にも影響し、漁民から漁獲が減るなどの苦情が出ていた。
さらに、地方政府が砂の密輸を行い役人が私服を肥やすスキャンダルも後を絶たなかった。
これらの禍根を断ち切るためにインドネシア政府はシンガポールへの土砂の輸出を一切禁止したのである。
しかし、インドネシア政府の狙いは別なところにあると見られえいる。
現在インドネシア政府はシンガポールに対し「犯人引渡し条約」を締結するように迫っている。これに対し、シンガポール政府は口先では了解したとしながらも一向に実行する気配がない。この条約に署名させるのがインドネシア政府の狙いだという。
歴史的にインドネシアで汚職や持ち逃げなどの犯罪者(その大部分は華僑・華人)がシンガポールに逃げ込み、インドネシアとしては彼らを逮捕することも取調べをおこなうことも出来ない。
具体的にはSukanto Tanto(サリムが失脚した現在インドネシア最大の金持といわれる)、Sjamusul Nursalim, Liem Sioe Lion(サリム・グループの創始者)、Eka Tjipita Widjaja(シナルマス・グループの創始者)、Bambang Sutrisno, Agus Anwar, Lidia Muchtar, Pauline Maria Lumoaなどの名前が雑誌テンポに上がっている。
シンガポール在住の大金持5万5千人中、1万8千人がインドネシア人(華僑・華人がほとんど)であるといわれている。彼等は高級マンション(コンドミニアム)や広壮な住宅に住んでいる。彼らの資産は870億米ドル(≒10兆4000億円といわれる膨大なものであり、その多くが何らかの不正(汚職や脱税やサギ)とかかわっていると見られている。
シンガポール政府はこれらの華人の大金持ちの隠れ家を提供しているというのがインドネシア側の見方である。彼らはインドネシアで荒稼ぎしたカネをシンガポールに持ち込み、そこで資金を運用し、また不動産投資をおこなうなどしてシンガポール経済の支えともなっているのである。
特にひどかったのは1997年98年の通貨・経済危機の時であった。
おいそれと彼らをインドネシアの司直の手には引き渡せないというのがシンガポールの立場であろう。
一方、インドネシア政府は自国の投資環境改善のためにも汚職撲滅が必要であるとして最近かなり熱心に取り組んでいるが、しばしば華人が絡んでおり、彼らに追求の手を伸ばそうとすると、既にシンガポールに逃亡していたという話しが後を絶たない。
これを打開しようとしたのが両国の「犯人引き渡し条約」である。業を煮やしたインドネシア政府はシンガポールの泣き所の砂の輸出を禁止し圧力をかける作戦に出たというのが今回の真相である。
ところが最近インドネシア政府は砂ばかりではなく「花崗岩」の輸出も禁止する措置に出たという。公式には「花崗岩の禁措置はおこなっていない」というのがインドネシア政府の言い方だが、花崗岩を積んだバージの出港を差し止められているという。
これによってシンガポールの建設業界はかなり打撃を蒙る可能性がある。
(ジャカルタ・ポスト、07年2月26日、テンポ07年3月5日他参照)
159.インドネシア、シンガポールとの防衛協力と犯人引渡し協定とを締結せず(07年9月19日)
インドネシア議会の国防委員会は先にシンガポールと調印したDCA(Defence CoorporationAgreement=防衛協力協定)と犯人引渡し協定(Extradition Agreement)とを批准しないことを政府に答申した。
この2つの協定はセットになっていて、「犯人引渡し協定」はインドネシアで犯罪(汚職と公金サギが多い)を犯したインドネシア人(華人が多い)を逮捕してインドネシア側に引き渡すという長年のインドネシア政府の希望に沿った協定である。
しかし、シンガポールはこの協定と引き換えに、シンガポール軍の演習にインドネシアの領海を使わせるDCAを結ぼうと持ちかけ、この2つの協定をセットにして先ごろユドヨノ大統領とシンガポールのリー・シェンロン首相が協定書をバリ島で調印した。
しかし、その後明らかになったことはインドネシアの特定領海を年間半分ほど毎日砲撃演習などで使うというものであった。これに対してインドネシア政府は余りに度が過ぎていると強く反発し、インドネシア議会も批准に難色を示していた。
インドネシア議会の国防委員会は検討の結果、シンガポールとのDCAは承認できないと9月17日(月)に政府に申し入れた。
あきれたことにシンガポール政府は犯人引渡し協定はまだ批准できないがDCAについてのみ批准したということをインドネシア政府に通告してきた。ジュオノ国防相は余りに虫のいいシンガポール政府の言い分に怒りを隠せないといったところである。
シンガポール政府は「犯人引渡し協定」も追って批准するとは言ってきているようであるがそれが何時になるかは分からない。
大体、シンガポール政府が「犯人引き渡し協定」に批准したからといって、それでインドネシア政府の思惑通りにインドネシア華僑の逃亡犯が逮捕され引き渡されるなどと考えるほうがおかしいのである。
シンガポール警察が動けば情報を察知した「犯人」は香港や中国やカナダに高飛びするに決まっているではないか。
そもそもシンガポールは悪事を犯した華僑に隠れ家を提供してきたいわば「サンクチュアリ(安全地帯)」なのである。それが歴史的事実である。だからインドネシアで財を成した華僑はシンガポールの不動産をセッセと買いあさるのである。
シンガポール政府が欲しいのは「軍事演習海域の確保」である。しかし、シンガポールの演習計画を聞いて腰を抜かさんばかりに驚いたのはインドネシア軍である。いずれにせよ、これはいかにインドネシア政府がコケにされているかを物語る哀れをもよおす事件である。
18.Indosat 売却問題がこじれ、政争の具に(2003年1月4日)
昨年末インドネシア政府は国営海外電話通信会社(上場)Indosat(PT Indonesia Satellite Corporation)の持ち株41.9%をシンガポールの国営通信会社(STT=Singapore Technologies Telemedia) に売却した。
売却金額は1株当たり12,950ルピアといわれ、市場価格の8,600ルピアよりも50.6%もの高値の取引であり、総額5.6兆ルピアであったといわれる 。この売却の結果インドネシア政府の持ち株はわずかに15%になる。
しかい実際国庫に入った額は5.2兆ルピアであったという説が出ている。差額の4,000億ルピアはグス・ドゥル前大統領にいわせればPDI-P(闘争民主党)の政治資金となって流れ込んだということである。おそらくこれは内部告発がなされた可能性がある。
しかし、最新情報(1月4日detik.com)によると総額608.414百万ドルのうち25百万ドルがCitibankのエスクロー(中立第3者保護預かり)口座に入ったまま、インドネシア銀行への送金が遅れていたとのことであり、もしそうだとすれば金銭的不正はラクサマナにはなかったことになる。
Indosatの株はSTTに売ったということであるが、実は直接の買い手はICL(Indonesian Communication Ltd)というタックス・ヘブン(低税金地域)のモリシアスにあるSPV(Special Purpose Vehicles=特殊目的企業)である。
ICLの素性についてはモリシアス政府は明らかにしないため、本当の買主は誰かはわからない。しかし、インドネシア政府はICLはSTTが100%所有しており問題ないといっている。
もともとインドネシア政府はIMFが何といおうと国営企業を悪徳華人資本家にだけは売りたくない事情がある。国民感情もそれを許さない。
インドネシアではスハルトのクローニーとして大もうけをした挙句、97・98年の経済危機に際して巨額資金をシンガポールなどに持ち出し(資本逃避)し、IBRA(インドネシア銀行再建庁)に差し押さえられている自分の企業を安値で買い戻すことを狙っている華人資本家は少なくない。
したがって、素性の正しくない買い手に保有資産を売らないという「大原則」を維持しているのである。そういう意味ではタックス・ヘブン地域にある企業には売るべきではなかったのである。これをやったことで政府は「痛くない(?)腹を探られる」ことになったのである。
前に売却したBCA(Bank Central Asia=サリム・グループの銀行)の買収相手先のFarallon Capital グループもモリシャスのSPVであるFarindo Holdings を使っている。このなかにサリム資本が入り込んでいないという保証はない。
これらの売却劇の舞台監督は国有企業担当相のラクサマナ・スカルディである。 ラクサマナにいわせれば2002年度の国家予算には6.5兆ルピアの国営企業売却が織り込まれており、しかも10月のバリ島爆弾事件で外資から敬遠されている環境下で努力してようやく買い手を見つけたということであろう。
国民協議会議長のアーミン・ライスは国営企業を外国人に売却することに原則的に反対する立場から直接名指しをしないまでもラクサマナを「外国資本の代理人」として批判した。これに激怒したラクサマナは アーミン・ライスを名誉毀損罪で警察に告発した。
しかし、ラクサマナの所属するPDI-Pの選挙資金(2004年の大統領選挙)に怪しげなマネーが流れたという噂が広まり、ラクサマナは苦境に立たされている。 アーミン・ライスは自ら大統領選挙に出馬する意向もあり、ここぞとばかり攻撃にでており、「ラクサマナを地の果てまでも追い詰める」といきまいている。
国営企業売却反対論者の先鋒であるクイック・キアン・ギー経済企画庁長官はなぜか沈黙を守っている。ことによるとPDI-Pに必要な資金が入ってきたためかも知れない(真相は藪の中)。
Indosatの従業員は売却反対運動を起こしており、大方の世論も彼らを支持している。Indosatの従業員には売却話の出る直前に前触れもなく1か月分の臨時ボーナスが支給され、ボーナス袋には「Transformation Incentive」(変革のためのインセンティブ)と書かれていたそうである。
シンガポールの国営企業管理会社タマセク(Temasek Holdings=社長はリー・シェン・ロン副首相夫人のホー・チン夫人=Ho Ching)がTelemedia 社とSingTel社を支配下においており、インドネシアにおいて既にPT Telekomunikasi Seluler(Telkomsel)の株式35%を所有している。同社はインドネシアの携帯電話の50%以上のシェアを保有している。
Indosat はTelemedia(シンガポール)によって株式の42%を所有されることになったが、インドネシアにおいては子会社PT Satelindoという第2位の携帯電話会社の親会社である。 ちなみに2001年末の3大携帯電話会社の加盟者数の社別内訳はTelkomsel=325万件、Satelindo=176万件、Excelcom=122万件である。
今回のIndosat買収により、シンガポール政府がインドネシアの携帯電話市場に広範な顔出しができる形になる。しかし、インドネシア政府の考え方は、現在圧倒的な携帯電話市場を支配しているTelkomselに対し て依然65%の株式を所有しておりシンガポールに支配されることはない。
さらにIndosat(Satelindo)が有力な競争相手として成長(シンガポールの力を借りて)してくれば、競争が激化し、かえって電話料金が下がるのではないかということである。
長距離電話会社としてのIndosatは経営的には苦戦している。というのはIndosatの長距離電話の営業実績は2001年には682.8百万分で前年にくらべ7.5%も落ち込んでいる。それはVoIP(Voice over Internet Protocol)に食われているためであるという。
実際携帯電話の競争の結果、料金が下がるかどうかはわからない。ちなみに現在インドネシアでは固定電話は650万回線あり、人口220百万人として100人当たり3本にすぎず、一方携帯電話は2001年末には657万セット、2002年末には1000万セットと急増している。
ところが問題はそれにとどまらない。というのはシンガポールのTemasek Holdingsの株式の5.6%をなんとサリム・グループが所有しているのである。最近、インドネシア政府はサリム・グループに対して融和路線を打ち出している。
サリムの中国情報はインドネシア政府にとっても役に立つということのようである。サリムの復権までメガワティ政権が本当にやれるのか、あるいはやるつもりがあるのか疑問である。
このサリム復権シナリオはおそらくメガワティの夫タウフィク・キエマスとラクサマナが描いたものかもしれない。それは多分2004年の選挙資金対策であろう。しかし、国民にそれがバレれば選挙資金は足りたが選挙に負けるということになりかねない。
一方、PDI-Pと組んでいると考えられているゴルカルはスハルトの次男バンバン・トリハトモジョが資金的バック・アップをおこない、勢力(バンバンの)拡大をはかっているという。
ゴルカル自身も党首アクバル・タンジュンが汚職事件で有罪判決を受け、控訴中であるがPDI-Pの失点に助けられて国民の人気を挽回しつつあるという。 ゴルカルの人気が回復すればPDI-Pとの関係は冷却化する可能性がある。
前大統領のグス・ドゥルは「これから必要なのは社会革命である」と称してPDI-Pが失ったスローガンを横取りして、再起を図っている。
メガワティはアチェの独立派との休戦合意以外はスティヨソ・ジャカルタ知事の再選問題、ラフマン検事総長の汚職見逃し問題 、最近の一連の公共料金の値上げ(補助金撤廃)など国民の目に見える形での失点が多すぎる。 だからといってメガワティが直ちに次期大統領選で苦戦に陥るというわけではない。しかし、PDI-Pを取り巻く状況は日に日に悪化している。
今回のIndosat事件はインドネシアの政治歴史のうえで意外に大きな意味を持つ可能性も出てきた。
(03年6月27日) STTに630億ルピアの配当支払い
Indosatは2002年の純利益3,360億ルピアのうち、45%を株主に配当し、残り55%を投資資金として留保することを決定した。
1株当たりの配当金は146ルピアであり、株主のシンガポールのSTT(Singapore Technologies Telemedia)に対して630億ルピアの配当をおこなう。
なお、STTの投資総額は5.6兆ルピアであった。
⇒インドサット売却問題で検察庁はラクサマナを近く取り調べ(04年11月26日)
Detik(インターネット版、11月26日)によると、検察庁は近く、前の国営企業担当国務相ラクサマナ・スカルディを取り調べる方針であるという。
⇒インドネシアでTEMASEKは携帯電話会社の持株比率を引き下げ判決(08年5月12日)
インドネシアの中央ジャカルタ地方裁判所はシンガポールの政府系投資会社テマセク(TEMASEK)がインドネシアで所有する携帯電話会社(PT. TelkomselとPT.Indosat)の持株比率が高すぎ「独禁法」に抵触するとして、1年以内に持株比率を2分の1に引き下げるようにとの判決を下した。
同時にTEMASEKは150億ルピア(≒1億7千万円)の罰金の支払いを命じられた。
しかしながら、裁判所は公正取引委員会(KPPU)からの携帯電話料金の15%引き下げ要求をを却下した。
これに対しTEMASEKは高裁に控訴を検討すると述べている。また、TEMASEKの言い分では、同社は上記2社の直接の株主ではないと言うことである。
Singapore Telecomunications LTD.はインドネシアにおいてPT. Telkomselの株式35%を所有している。そのSingTelについてはTEMASEKが55%の株式を所有している。
また、TEMASEKはSingapore Technologies Telmediaの株式を100%所有しており、同社はAsia Mobile Holdingsの株式を75%所有している。そのAsia Mobile HoldingsはインドネシアでPT.Indosatの株式を40%所有している。
いずれのケースもTEMASEKが実質的に支配している(100%所有ではないにせよ)会社がインドネシアの携帯電話会社の株式を大量に所有していてきわめて成長率の高い携帯電話市場を実質的に支配しているのは問題であると言うのがインドネシアの公正取引委員会の言い分である。
この件は、上に見るとおりメガワティ政権時代に国営企業の持株を大量に売却したことに端を発しており、「やり過ぎ」を指摘する声はインドネシアには高かった。TEMASEKも豊富な資金力を背景に強引にモノゴトを進めた嫌いがある。
これを控訴してもTEMASEKにはあまり勝ち目は期待できないであろう。勝てば勝ったでナニを言われるかわからないのがインドネシア国民のシンガポールに対する「国民感情」である。