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インドネシアのエネルギー問題
石油値上げ反対運動広がる(08年5月27日)
08年6月に石油製品値上げで年末には2桁インフレ(08年5月8日)
53-9.⇒中国協力の発電所建設、融資条件が折り合わず(07年12月5日)
53-10. インフラ投資会議で36の電力発電所建設計画発表、原発も(06年11月3日)
53-9.中国と42.6億ドルのエネルギー関連投資協定(06年10月29日)
53-0.インドネシアの03年の原油生産は109万バーレル/日(03年8月27日)
ブディオノ財務相の説明によると、 インドネシアの2003年の原油生産は109万バーレル/日にとどまる見通しとなった。これは当初見通しの123万バーレルを下回るものであり、OPECの割り当て生産量131.7万バーレルをも大きく下回る。
ただし、予算上の価格は1バーレル当たり22ドルで織り込んでいたが、実績は27.9ドルになる見込みであるという。
減産の原因は最近の新しい油田開発が遅れていたことにあり、残された可採埋蔵量は既に10年分にしか過ぎない。
石油製品については輸入超過である。また石油精製用に原油を輸入している。その数字は今回発表されなかったがトータルで石油は今のところ何とか純輸出になっていることは間違いない。
53-1.このままでは10年後には石油の純輸入国に(04年1月12日)
インドネシアはこのまま新規の油田の発見も無く、国民が石油を消費し続けるならば10年後には石油の純輸入国に転落するであるとBP Migas(石油ガスの上流部門の管理組織)の会長であるラフマット・スディブヨ(Rachmat Sudibyo)は語った。
ラフマットのいうには、インドネシアは現状の生産(108.1万バーレル/日)を維持していくためには毎年4〜5億バーレルの新しい油田の発見がなされねばならない。
2003年末の可採埋蔵量は97.5億バーレルに過ぎず、これだけでは20年間分の生産量にしか対応できない。
インドネシアの石油生産の70%は燃料として使用されており、その量は03年は5,470万キロ・リットルであった。
エネルギー・鉱業省のエネルギー情報センターによれば燃料補助金を削減しはじめたら燃料油の消費の伸びが鈍化し始めた。
すなわち、1997年の通貨危機前の3年間は毎年10%の割合で燃料油の消費が伸び続けたが、補助金削減を始めたところ7%の伸びにまで落ちてきた。
今年は燃料油の補助金として14.5兆ルピアの予算を計上している。昨年は予算は13.2兆ルピアであったが、実績は26.02兆ルピアを要している。
もし、補助金を最小レベルにまで削減できれば、燃料油の消費の伸びは5%程度で収まるであろうと当局は語っているが、「最小レベル」とは何を指すかは述べなかった。
ラフマットは国民が天然ガスをもっと使えれば燃料油の節約になると語った。インドネシアは現在天然ガスを年間3兆立方フィート生産している。そのうち、国内消費は35%に過ぎず、65%は輸出に回されている。
インドネシアは年間3000万トンのLNG(液化天然ガス)を輸出している。これは世界で最大規模である。(以上はジャカルタ・ポスト、04年1月11日号の記事による)
インドネシアの国民は日常の食事の支度に主にケロシン(軽油)を使用しているが、インドネシアで販売されている燃料油が格安なため(補助金がついているため)、それがかなり密輸出されてきた。
現在も密輸出が続いているかどうかは明らかではないが、補助金の削減は政府としてもやらざるをえないが、今年は選挙の年なので手をつけられないということであろう。
53-2. オーストラリア、サントス社が大油田発見(05年1月25日)
FT(Interne版、1月24日)などの伝えるところによると、オーストラリアの大手石油・天然ガス会社であるサントス(Santos)社はジャワの東海上のJeruk2油田で2億5千万boe(バーレル相当)〜5億boeの可採埋蔵量を持つといわれる大規模油田を発見した。
これが実際の生産に入れば、数年先にはインドネシアは再び、原油の純輸出国になる。現在、サントス社はJeruk1油田で日産7,500バーレルの原油生産を行っている。
Santos社はオーストラリア第3位の石油会社で04年の売上高は15億オーストラリア・ドル(約1200億円)であり、生産量は4,710万boeであった。
53-3. 平均29%の燃料値上げに踏み切る(05年3月1日)
インドネシア政府は3月1日から平均29%の燃料値上げに踏み切った。ただし、一般家庭と中小企業向けのケロシン(軽油)については値上げを保留している。
プルノモ(Purnomo Yusgianto)エネルギー鉱業資源相はケロシンの価格はリッターあたり700ルピア(8円)に据え置いているが、市場価格は2,790ルピア(31円)である。ただし、産業用は1,800ルピアから2,200ルピアに引き上げた。これでも市場価格の約80%である。とコメントしている。
ガソリンは1,810⇒2,400ルピアへ(市場価格2,870ルピア=32円)
ディーゼル燃料油(自動車用)は1,650⇒2,100ルピア(市場価格2,700ルピア)、産業用ディーゼル油は1,650⇒2,200ルピアと値上げ幅を小さくしている。
バンカー・オイルは1,580⇒2,300ルピア(市場価格どおり)
プルノモは「原油価格を1バーレル35ドルとして計算しても、燃料油の国家財政からの補助金は年間60兆ルピア=約6,760億円にも達する。インドネシア国内価格が安いので、密輸出するものもいる。補助金は貧しい人々へのものだが、悪用して金儲けのタネにされている」などと語った。
今回の補助金削減によって燃料関係の補助金は40兆ルピアにまで減るが、それでも国家予算の10%を占めている。
今回も、一般家庭用ケロシンを700ルピアに据え置いたことは一般庶民の反発を恐れてのことだが、市場価格との大きなギャップが存在する以上、この価格差は汚職や不正行為のタネになり続けることは間違いない。
今回の値上げによって政府は20.3兆ルピア(2,285億円)の補助金が節約されるとしている。そのうち10.5兆ルピアを貧困層を対象とする福祉・教育関係の補助金等に振り替えるということを言明している。
これに既に予算が認められている貧困層対策費の7兆3000億ルピアを加えた合計17兆8000億ルピアの内訳は以下の通りである。
対象 | 金額 |
960万人の学生・生徒 | 5兆6,400億ルピア |
26,737村落のインフラ整備 |
3兆ルピア |
860万人に対する米価補助 | 5兆4,400億ルピア |
3,610万人に対する医療費補助 | 2兆1,700億ルピア |
社会サービス | 6,500億ルピア |
22万5千戸の低コスト住宅建設 | 6,000億ルピア |
零細金融への利子補給 | 2,000億ルピア |
家族計画補助 | 1,000億ルピア |
合計 | 17兆8,000億ルピア |
これに対し、アーミン・ライスは政府はどういう貧困層を対象にしているのか不明であるとしている。また、貧困層は誰で、どこにいるのかすら正確にはつかめておらず、実効性には疑問が呈されている。
インドネシアの石油(原油と石油製品)の貿易収支は05年1Qは13.7億ドルの赤字であったとユスフ・アヌワール財務相が明らかにした。05年3月分の赤字は6億4220万ドルであった。
これはインドネシアの石油生産が消費(精製を含め)に追いつかなくなったためと、金額が膨らんだのは原油価格の高騰によるところが大きい。ちなみに2004年の石油の貿易収支は37.3億ドルの赤字であった。
しかし、天然ガスの輸出が76.9億ドルあるため、石油・天然ガス(ミガス)の合計では39.6億ドルの黒字になっているという計算である。インドネシアの経済成長にともなって石油製品(ガソリンやケロシンなど)の消費が増えてきたといのが石油貿易収支の赤字の原因であることは確かである。
しかし、ケロシン(軽油)は一般庶民が日常の生活で使っているものであり、膨大な補助金を政府は支出している。ということは国際価格から見て異常に安い国内価格になっている。それを密輸出 してカネ儲けをしている輩がいるのである。
それにはプルタミナの職員も協力していると言われている。だから、補助金を減らして国際価格に近づけてしまえば、インドネシアの石油製品の「国内需要」は可なり減るであろうといわれている。変な話である。
コメについても同様である。補助金をつけた安いコメを密輸出しているのである。これは補助金をつけないか、補助金の額を少なくすれば一度に解決する問題である。
インドネシアの国家財政が負担している石油関連の補助金は39.8兆ルピア(約4,540億円)ある。それも05年3月に政府が補助金を29%カットした後の数字である。それ以前は年間約60兆ルピアの補助金が支出されていた。
05年 3月にはケロシンの元売価格の値上げはなかった(リターあたり8円)が、実際の市場価格は2,790ルピア(31円)と中間の業者が操作できる値幅が大きい。結局は他の重油などとの価格のバランスが図られ値上げになってしまう。プルタミナの出し値が安ければ儲かるのは中間業者である。
価格の値上げは庶民の生活を圧迫することは間違いないが、本当に貧しい人への対策は別な手段で講じればよいのである。多額の補助金はインドネシアでも日本(農業)でもロクな結果を生まない。
ちなみに、インドネシアの原油生産は05年は日産112万5千バーレルを予定しているという。04年は107万5千バーレルであったから少しは増えている。新たな油田開発を行えばもっと増えることは間違いない し、その可能性はある。
53-5. 原油価格の値上がりが財政に大打撃ー再度の値上げは必至(05年8月9日)
原油市場価格が依然高騰を続け、8月8日(月)には1バーレルあたり64ドルという空前の高値となった。いまや石油製品の純輸入国の立場に立ったインドネシアは膨大な補助金支出になやまされ、近々補助金の再度の削減と石油製品価格の再値上げが必至の状態になっている。
これは中国も同じ事情で、中国政府は政府の「価格コントロール」を大幅に緩め、大幅な値上げを容認することで、需要の減少を期待している。
インドネシアの場合は、05年3月1日付で石油製品の値上げを行った(上記53-3)。しかし、政府の財政補助金により、石油値上げの影響を消費者に直結させないような政策的配慮が可なりなされてきて、国家財政に占める補助金の額(14.6%)は依然大きなものがある。
しかし、原油生産は目標の112.5万bpd(バーレル/日)に対して05年1〜6月の実績は109万bpd(-3.1%)に過ぎず、経済成長率(目下約年率6%)に伴う、石油製品の消費量は5,960万キロ・リッターと政府目標を10%も上回っている。
したがって、石油輸出は減る一方で石油の輸入(主に中東からの原油)は増える一方である。ロー・サルファー(低硫黄)の原油を輸出して、ハイ・サルファーの原油を輸入するという方針で輸出は続けているが、05年1〜6月の輸出は18.5兆ルピア(19億ドル)に過ぎず、年間目標の85.6兆ルピアの21.6%にしか達していない。
一方、石油製品の政府の補助金は既に40兆ルピアを使い切ってしまい、年間では112兆ルピア(財務省は130兆ルピアという見方を最近はしているという)にまで膨らむ見通しであるという。政府の予算の79兆ルピアを大きく超過するのは最早避けられない。
政府予算のうち、非税歳入(石油・天然ガスの輸出も含む)の実績はは計画の76.5%の120兆ルピアしか見込めない。その結果、税収入が予算どおりにいっても歳入総額は516兆ルピアである。一方、歳出は542.2兆ルピアが見込まれ、26.2兆ルピアの赤字となる見通しである。これはGDPの約1%に相当する。
石油製品の値上がりは電力料金にも影響し、産業界から強い抵抗があるが、最早、背に腹は代えられぬ状態にきている。
特にケロシン油は貧困層の生活必需品であるとして、前回値上げを見送られたが、ケロシンの密輸(他の石油製品も含め)は後を絶たず、政府の補助金が密輸業者の懐に取り込まれてしまうという、なんとも馬鹿げた現象もあり、補助金は削減して、貧困者には別途の社会保障政策を適用する方が合理的であろう。(実際の政策はそういう方向に進んだ)
補助金をなくすとインドネシアの産業界が「国際競争力」を失うなどという議論が後を絶たないが、石油製品の価格だけが国際競争力を決めるわけではない。今回の原油価格の高騰により各国政府とも「補助金削減」に動かざるをえず、インドネシア政府も汚職の源泉ともなっている石油の補助金は大幅に見直されるべきときに来ている。
日本政府なども財政赤字の割には補助金行政が大好きでるから、他国のことはあまり言えないが。
53-6. 石油製品価格一挙に126%アップ(05年10月1日)
インドネシア政府はかねて10月1日から石油製品価格の値上げを予告していたが、上げ幅は50%ぐらいという大方の予想を覆して、一挙に平均126%という大幅な値上げに踏み切った。それを公表したのは9月30日夜10時(現地時間)であった。
特に、日常一般家庭で煮炊きに使われているケロシン(軽油は)1リットル当たり従来700ルピアだったものが2,000ルピア(22円)と約3倍になった。また、ガソリンは2,400ルピアから4,500ルピア(50円)となった。
ディーゼル油は2,100ルピアから4,300ルピア(47円)へと倍増した。他の品目も大幅に値上げされ、平均126%アップとなったという。これでも国際 価格よりは可なり安い。
これによって、国家財政上の重荷(3分の1)になっていた石油補助金を一挙に軽減させることが政府の狙いであることは言うまでもない。これによって、財政の自由度が大幅に改善され、かつ石油の密輸やヤミ販売という犯罪・汚職もかなり減ることが予想される。
議会も政府の石油補助金の上限を設定(87億ドル)することについては合意している。
問題は国民の反応である。日経新聞の記事によれば石油価格の引き上げで過去2回政権がつぶれていると書いてある。
1998年のスハルト政権崩壊のキッカケを作ったのは石油製品価格の値上げ反対運動が暴動化したためであり、また、2003年にメガワティ政権が値上げに失敗し、その後国民的人気が落ちて2004年の選挙では敗北したというのである。
確かに、国民のデモは「石油製品の値上げ反対」として発生したものであるが、それがゆえに政権崩壊(交代)したものではない。それに先立つ悪政・愚政や汚職などに対する国民の反発が石油値上げをキッカケに起こたのである。
スハルト政権を、理由は良くわからないが、最後の最後まで擁護し続けてきた日経新聞としては「石油値上げがマズかった(他はそれほどでもなかった)」といいたいのであろうが、それは的外れといわざるをえない。
今回は、インドネシア国内でも石油製品値上げに対する国民の合意もかなり期待できるものと考えられる。政権をひっくり返すような大暴動は起きないであろう。
それは石油の国際価格が異常に高騰しているということ、補助金が国家財政にとって過大な負担となっていること、割安な石油価格が密輸事件など不正の温床になっていることなどが国民にあるていど理解されてきているからである。
また、1日2ドル以下の収入しかない貧民層には別途、生活補助金が支給されるなどの対策がとられることになっている。そのほうが経済政策としてはまともである。一律の補助金では、もっとも補助金を多く受け取るのは事業主などの富裕層になってしまうからである。
日本でも補助金で肥え太っている人がいかに多いことか。彼らが小泉政権の「構造改革」の最大の支持者であることはいうまでもない。補助金行政を縮小・廃止していくことこそが「構造改革の本丸」であり、郵政の民営化は「間接的効果」しか期待できない(それもあるかないかはわからない)。
補助金に相当する金額は原則として、社会的弱者救済に直接向けるというのが本筋であろう。
無制限な「自由競争」を行い「弱肉強食」の経済社会を作っていくことが「経済の活性化」ではない。そういう経済が仮に「活性化」しても国民は幸せにはなれない。弱者は絶望の日々を送らざるをえないハメに追い込まれる。自殺者も増える道理である。
(参考)アジア諸国の石油燃料価格(1ドル/リッター)
ガソリン | ディーゼル | |
インドネシ(旧) | 0.24 | 0.22 |
(新) | 0.45 | 0.43 |
シンガポール | 1.00 | 0.70 |
マレーシア | 0.43 | 0.34 |
タイ | 0.62 | 0.55 |
中国 | 0.51 | 0.50 |
⇒街頭での反対運動は盛り上がらず、議会内で主力政党が反対(05年10月2日)
一挙に126%の石油製品の値上げにもかかわらず、目下のところ該当での反対運動はさほどの盛り上がりをみせていない。ジャカルタでは1万7千人の警察を主体とする警備体制を敷いていたが、肩透かしの格好であった。
一方、野党は闘争民主党(メガワティ前大統領が党首)、PKB(グス・ドゥル元大統領率いる)、に加えヒダヤト・ヌル・ワヒド国民協議会議長が率いるPKS(Prosperous Justice Party=正義福祉党)もが値上げ幅が大きすぎるとして反対を表明した。
また、いまやユスフ・カラ副大統領に乗っ取られたゴルカルまでもがジャカルタの事務所では「石油値上げ反対」のプラカードを掲げているという。そうでもいわないと次回選挙でゴルカルは大敗をする危険がある。
しかし、これらの政党が大衆を動員してまで反対運動を盛り上げる力は持っていない。反対をしているというのは単なるジェスチャーにしか過ぎないという見方もできる。石油製品価格はインドネシア政府にとってはまさに「改革の本丸」であり、日本の郵政民営化とは重みがまったく異なる。
53-7.プルタミナが政府補助金を400億円水増し請求?(05年10月11日)
インドネシア会計検査院(院長アヌワール・ナスチオン(Anwar Nastion前インドネシア銀行副総裁))は石油公社プルタミナが2004年に3兆6440億ルピア(1ドル≒1万ルピア)日本円換算約400億円にも上る補助金の水増し申請(マーク・アップ)を政府にしていたと国会に報告した。
金額についてはプルタミナが認めた部分が9,360.5億ルピアで残りの2兆7080億ルピアについては見解の相違があるとし、検査院と論争している最中であるということであるが、巨額の不正請求がプルタミナによってなされたことは間違いない。
この金額がプルタミナの職員の懐に直接はいったということではないが、補助金がプルタミナという企業体に過大に支払われたことは大いに問題である。もちろん不正経理の温床となり、別の意味でプルタミナの経理のずさんさや不正疑惑にもつながりかねない。
これを知った国会議員は今回値上げをした補助金削減の対象数字が大きく狂っている(当初の補助金総額、年間110〜130兆ルピアの3%前後に当たる)のは問題であるとして、今後議会内でいっそう値上げ反対論が強まることが予想される。
国民の多くもいままでと違って黙っているはずがない。
(Tempo, Kompas インドネシア語、インターネット版、10月10日付参照、)
53-8.04年の石油補助金は9.7兆ルピアが消えてしまった(05年10月14日)
会計検査院の発表によると、2004年に支出された石油製品の補助金80兆4000億ルピア(約9,100億円)のうち9兆7000億ルピア(約1,100億円)が密輸などによって空費させられたという。
もちろん、それ以外に、「補助金」は「弱者対策」というよりは金持ち階級により多く向けられた結果にもなった。それは特に、プレミアム・ガソリンへの補助金がそれに当たる。
また、補助金それ自体が「上の53-7」に見るように石油公社プルタミナによって3兆6400億ルピアも過大に請求されていた。
9兆7000億ルピアの損失という数字は、インドネシア大学の「経済社会研究所」(LPEM-UI)がおこなった試算の結果である。
LPEM-UIは390万キロリッターのディーゼル油(価格にして4兆5000億ルピア)が密輸出されたと試算している。また、ケロシン(軽油)については170万キロリッター(価格にして3兆5000億ルピア)が低所得家庭に届く前に、どこかに消えてしまったという。
ケロシンは融通性があるので、他の石油製品に混入されて売られてしまったと見ている。
53-9.中国と42.6億ドルのエネルギー関連投資協定(06年10月29日)
インドネシアと中国は35.6億ドル〜42.6億ドルのエネルギー関連相互投資協定を10月28日に上海で締結した。(WSJ06年10月29日インターネット版)
協定書にはプルノモ(Purnomo Yusgiantoro)エネルギー・天然資源相と中国の国家発展・改革委員会の馬凱(Ma Kai)主任が署名した。ユドヨノ大統領も上海で開催されているインドネシアー中国エネルギー・フォーラムに出席して おり調印式に立ち会った。
インドネシアー中国のエネルギー・フォーラムは2002年にバリ島で開かれ継続している。
協定の主な内容は
@6億8700万ドルの石炭ベースの化学プラントを南スラウェシに建設する。インドネシア側はPT Sumber Gas Sakti Prima社と中国側はChengda Engineering Corp. 他が参加する。
A3億ドルの鉄鉱石プロジェクトを西ジャワのスカブミで実施する。参加するのはPT Ciracap Sumber Primaと中国側はYunnan Geology and Resources。
B1億7000万ドルのPT Bosowana Energi と中国側はChengda Energy Corp. が南スラウェシに発電所を建設する。
C3億ドルと10億ドルの石炭化学プラントを中国の雲南省に建設し、インドネシア側はPT Antarniaga Nusantara Indonesia、中国側は雲南化学産業集団と中国国民化学エンジニアリング集団が参加する。
D21億ドルを投じて南スマトラのBangko Tengahに発電所を建設する。インドネシア側はPT Tambang Batu Bara Bukit Asam (BBB JK)とPerusahaan Listrik Negara( PLN=国営配電公社)、中国側はChina Huadian Corp.が参加する。
E中国オフショア石油公社(CNOOC)とインドネシアエネルギー・天然資源省が150万ドルで共同研究プロジェゥト(内容は明示されず)を設立する。
これらのプロジェクトには直接石油・天然ガスの開発プロジェクトは含まれてはいないが、こうした協定を通じて両国のエネルギー問題での協力体制を強化する ことをねらいとしている。
⇒中国協力の発電所建設、融資条件が折り合わず(07年12月5日)
インドネシアの週刊誌テンポ(07年12月04〜10日号)によれば中国が建設を進めている西ジャワ・バンテン地区の石炭火力発電所が、既に一部着工されているにもかかわらずインドネシア側と中国の銀行との融資条件が折り合わず、工期の延期や借入先の変更など混乱をきたしているという。
この計画は315MWX3基の石炭火力発電所を中国のDongfang Electric Corporationが中心になって建設を進めつつあるプロジェクトであり、3年後には完成させる契約で用地の整備などが開始された。
この話しはユスフ・カラ副大統領が06年4月に訪中した際に基本的な話し合いがおこなわれ、インドネシア電力供給公社(PLN)が中国側と覚書を交わしたものである。
その話しの骨子は中国側は1MW当たり70万ドル(国際相場は100万ドル)という格安の価格で建設することと、工期は30〜36ヶ月、資機材などについては安い輸出金利を適用することなどを約束したという。
しかし、その後18ヶ月間にわたりPLNと中国の複数の銀行との融資の交渉が完全に行き詰ってしまった。
中国銀行、中国開発銀行、中国輸出銀行などとの交渉で、中国側は金利についてはLIBOR(LondonInterbank Offered Rate)プラス1.20%という高金利を主張して一歩も引かず、しかもインドネシア政府の保証を要求しているという。
また、中国の信用保証機関のSinosureはインドネシア政府のフル・ギャランティーを要求しているほか、30年間の石炭供給保証も要求しているという。特に石炭の30年間の供給保証というのは言うべくして困難であろう。
幸いPLNは20億ドルの公社債を発行しており当面の初期工事の資金には事欠かないという。しかし、石炭焚き発電所プロジェクト(PLTU)は10ヶ所あり、20億ドルの資金では全体の15〜20%しかまかなえず、その他の発電所の建設資金を含め大規模な融資の公開入札をおこなうことにした。
既に一部は実施されており、Citiグループ、Barcays グループ、HSBC(香港上海銀行)グループなどが落札し、地元の大手銀行もこれに加わっている。
現在PLNとしては25,000MWの発電能力を有しており、その30%は石油焚きであるという。石油焚きの電力コストは1kWh当たり1,900ルピア(≒22.5円)に対し、石炭焚きは350ルピア(≒4.13円)という5分の1であるという。石炭火力発電化は緊急の課題であることはいうまでもない。
中国側が融資条件で折り合わなかったことにより、インドネシアの発電所建設計画は中国の優位性が一挙に崩れた観は否めない。
53-10. インフラ投資会議で36の電力発電所建設計画発表、原発も(06年11月3日)
インドネシアは政府主催でインフラ建設会議(Infrastructure Conference and Exhibition=通称インフラサミット)なるものが11月1〜3日の3日間開催 されている。当初は05年11月に開催される予定であったが06年2月に延期され、ようやく今回の開催の運びとなった。
ユドヨノ大統領は今後3年間に1年220億ドルの投資が必要であると述べているがインドネシアの実態では到底そこまでは無理である。
その中で、109件総額191億ドルのプロジェクトをインドネシア政府が提案している。これには高速道路、港湾、通信、配水、エネルギーなどいわゆるインフラに関する主要なプロジェクトが網羅的にが含まれている。
政府の出資は1部にとどまり外資を含む民間が「コマーシャル・ベース」でとりくんでほしいというのがインドネシア政府の希望である。
特に、エネルギーについてはプルノモ(Purnomo)エネルギー・鉱物資源相は36件の発電設備建設計画を発表した。投資金額は全体で45億2700万ドルに達する。
このうち30件はジャワ島とバリ島以外の場所に建設される。プルノモはこれらのプロジェクトには国内および中国の投資家が興味を示してくれるであろうと語った。
発電設備以外では12件のガス・パイプ・ラインの計画を明らかにした。建設費の総額は28億5500万ドルを見込んでいる。
また、プラノモは2010年までにインドネシア初の原子力発電所(1000KW)の建設をスタートさせ、2017年までに完成させたいと語った。これについては2007年入札をおこないたいとのことである。
ユドヨノ大統領は外国からの投資が今後のインドネシア経済の発展を支えるとして「投資環境」の改善に努力すると入っているが、一握りの人々を除いてインドネシアの政治家、官僚、裁判官などの「意識改革」がほとんど伴っていないのが現状である。
各国からの善意のアチェの援助資金さえ20%以上が悪徳官僚や軍人らに横取りされたと伝えられる。アリ・シュワブなどが津波事件直後から「外国人は早くアチェから出て行け」と絶叫していたはずである。
司法はトミー・スハルトの早期釈放事件(高裁判事を殺害してたった4年の刑期で釈放)に見られるごとくデタラメとしか言いようがない。
インドネシア人のエリートの意識改革がない限り、インドネシアの発展に対する将来展望は暗いといわざるを得ない。
08年6月に石油製品値上げで年末には2桁インフレ(08年5月8日)
インドネシア政府は国際的石油価格の急騰を受けて08年6月から最大30%の石油製品値上げを発表した。プレミアム・ガソリンは1リットル当たり4,700ルピア⇒6,000ルピア(≒68円)+28%、ディーゼル油は4,300ルピア⇒5,500ルピア+28%、ケロシン油(軽油)は2,000ルピア⇒2,500ルピア+25%となる。
これらはいわば卸売価格で、実際のガソリンスタンドの価格は5月1日からPertamax(レギュラー・クラス)が8,300ルピア⇒8,750ルピア(≒99円)、Pertamax Plus(ハイオク)が8,600ルピア⇒9,000ルピアへと既に値上がりしている。
インドネシアのインフレ率は08年4月の段階で前年同月比8.96%上昇しており、石油製品の30%の値上げだけでインフレ率を1%は押し上げるといわれている。それ以外に穀物の価格上昇もあり(インドネシアは今年はコメの輸入はゼロで済むといわれている)どう考えても年末には10%以上のインフレは避けられないであろう。
また、 インドネシア政府は2008年度の財政赤字がGDPの3.1%に相当する103億ドルに達する見込みであり、外国からの借り入れ29億ドルを見込んでおり、世銀には12億ドル、アジア開銀には11億ドル、日本のJBICに9億ドルの借り入れを要請することにしたという。
インドネシアの目下の救いはパーム油、石炭などの1次産品の国際価格の上昇と需要増加で貿易収支面の黒字幅が拡大するため、ルピアが安定しており、輸入インフレがさほど大きな要素とはならない点である。
08年1〜3月の輸出は336億ドルと前年同期の255億ドルを31.8%も上回った。そのうち、石油・天然ガス(ミガス)が73億ドルと61.8%の増加であった。ノン・ミガス(非石油天然ガス)は262億ドルと24.83%像であった。
輸入も294億ドルと前年同期比で88%もあがっている。輸入品のうち石油関係の価格増が響いている。ただし、貿易黒字は42億ドルある。
インフレ率の2桁上昇はインフォーマル・セクターで働く低所得層の生活を直撃し、社会的・政治的不安定の原因となることは事実で、これが経済全体に悪影響を及ぼすことは間違いない。
ジャカルタの一般市民の生活を直撃してる問題として、交通事情の悪化や、水問題も深刻さを増しており、要注意である。生活が困窮している人々は着実に増えており、彼らの不満 は火山のマグマのように地下にエネルギーを蓄えており、どういう形で爆発するか予断を許さない。
石油値上げ反対運動広がる(08年5月27日)
ユドヨノ政権が発足してから3度目になる今回(5月23日実施)の石油製品値上げで、インドネシア国内にかつてない反対運動が盛り上がってきた。
特に学生の反対運動が激しさを増しているが、青年運動グループ(Youth Muvement Network)や農漁民団体(Fishers and
Farmers Awakening Front)や貧困層の団体組織などが次々に反対運動をおこなっている。
政党もグス・ドゥル率いるPKB(国民覚醒党)が真っ先に反対を表明し、保守系イスラム政党のPPP(開発統一党)は石油値上げが効力を発する前に連合与党から脱退すると表明している。
イスラム急進派の新興勢力PKSはユドヨノ大統領を議会に呼んで値上げについての直接説明を求める動議を提出する構えである。
ユフス・カラ副大統領率いるゴルカル内部にもこのままではゴルカルとして来年の総選挙(4月と6月)は闘えないとして値上げ反対を表明する党員が増えているという。
ユスフ・カラは値上げの責任をユドヨノ大統領に押し付けるがごとき発言が目立っていると言う。
最近の石油製品の値上げ状況(ルピア/リッター)
プレミアム | レギュラー | 軽油 | |
01年 6月1日 | 1,450 | 900 | 510 |
02年1月17日 | 1,550 | 1,150 | 600 |
05年1月1日 | 1,810 | 1,650 | 600 |
05年3月1日 | 2,400 | 2100 | 700 |
05年10月1日 | 4,500 | 4,300 | 2,000 |
06年5月23日 | 6,000 | 5,500 | 2,500 |