サンダードラゴン 台湾版 ~第八章~

小説版「流氓差婆」



こちらは数々の香港映画のストーリーを小説の形で紹介する雑誌「電影小說畫報」に「流氓差婆」が取り上げられた際の表紙の一部です。そもそも、「流氓差婆」は公開終了(1989年12月以降)から「雌雄雙辣」の公開開始(1991年1月)までの期間、つまり1990年内にソフト化がされていない可能性が強いため、この当時の劇場でのみ見る事ができた達筆なタイトルは非常に貴重と言えます。

そして、14ページに渡る小説は「來自江湖」で見られたシーンも描写されていましたが、小説の形式にした事で一部の表現が変えられていたり、映像にして10秒ほどのシーンやアクションを細かく描写する必要性もないため、当然の事ながら「流氓差婆」の全貌を掴むまでには至っていません。しかし、新たに浮上して来た疑問点もあるため、次に、それらを紹介したいと思います。

その1:「流氓差婆」に冒頭はなかった?

小説「流氓差婆」:1ページ目
①父の志を受け継ぐ。

 馮愛南は一人の若き女性警察官であり、一人のCIDである。彼女は年齢は若くとも、その完成された表情と態度は、すでに「彼女は多くの事を経験した」と言う事を人々に伝えている。
 愛南の父親もCIDであったが、麻薬密売のボス・四面佛を追撃していた際、四面佛に殺されて死んだのだ。そのため、愛南は父の志を受け継ぎ、警察官の世界に身を投じた後、麻薬密売を取り締まり、さらに全力を注いでいた。

上は小説の冒頭を翻訳した物ですが、「彼女は多くの事を経験した」だけでは映画のように現場でドジだった馮愛南が人質となったせいで父親が四面佛に殺された事までは読者にわかりません。

さらに1ページ目の挿絵として使われた「銃の練習をする馮愛南」の上に書かれた説明には「馮愛南は父の志を受け継ぎ、女性警察官になった。」とありました。映画では物語の最初から警察官だったため「流氓差婆」の冒頭は公開時に削除された可能性があるかもしれないと思ったのです。

このように考えると元の「流氓差婆」は本当に「來自江湖」と同じ流れであり、単に全編の音声が広東語でタイトルに小説の表紙にある字体が登場する物だったのかもしれません。
その2:小説には一切、登場しない小龍

映画では仕事が終わった後に榮仔の家に行った賢仔が、四面佛の手下・小龍に銃で脅されるシーンがありましたが、小説では小龍が登場せず、その出番を四面佛が兼ねているのです。

小説「流氓差婆」:7~8ページ目
④友情を打ち出す

 四面佛は肥七の手下を買収し、阿賢を手下の家に引っ張り、阿賢に肥七の行方を言うように強要した。阿賢が言いたがらなかったため、四面佛は、その手下を殺して阿賢を脅す。その上、阿賢の右足に銃を一発、撃ち込むと、痛がる阿賢は狂ったように大声を上げ、叫ぶ事を止めない。しかし、やはり肥七の行方を言いたがらなかった。
 四面佛が阿賢を痛めつけようとしている時、愛南が突然、現れた。
 「相手の不意を突き、相手の不備を突いて攻撃。」愛南の二丁拳銃が一斉に放たれる。しばらくすると四面佛の手下は、ほとんど全員が殺され、傷を負った四面佛だけが残り、命からがら逃げて行った。
 愛南は阿賢を連れ、阿珍が住んでいた場所まで来た。

小説の脅すシーンが、このように表現されているだけでなく、他の描写を見ても老虎狗を殺したり、肥七を連れて行った事も小説版は四面佛が行った事になっています。ただし、挿絵として登場する画像の人物は小龍であり、説明では四面佛として紹介されていると言う不思議な所もありました。



しかし、例外があり、上の挿絵として使われた画像が8ページ目にあります。この本物の四面佛が賢仔を人質として誰かに話しかけるシーンは映画本編になく、賢仔の服装から榮仔の家で脅されるシーンにあった物ではないかと思っています。当初は小龍を出さない脚本だったのでしょうか。

その2:ラストはハッピーエンド

小説「流氓差婆」:14ページ目
 阿賢は近づいて愛南を助け起こし、清潔な場所を探して座った。阿賢は愛南の傷口を手当しながら言う…
 「俺が早々と来ていたから無事だったんだ。今回、君は俺に食事を奢るべきだよ。」
 「私があんたに奢る?あんたが奢る約束なんじゃないの?」愛南は呆然とする。
 「君が俺を助けてくれていたら、当然、『俺が奢る』って言ったさ。今は俺が君を救っただろう。君が奢るべきじゃないのかい?」
 愛南は体中に痛みがあっても堪えきれず、うつむいて笑った。

―The End―

映画のハッピーエンド版のような唐突な終わり方でもなく、バッドエンド版のような死と言う辛さもなく、賢仔らしさを残したまま、非常に良い所で終わっています。これを見た後では「流氓差婆」の終わり方は食事に関する台詞を残したハッピーエンド版に編集されたのかとも考えてしまいます。

主要人物たちの名称の違い

俳優名
(日本での通称)
中文字幕
英語字幕
日本語字幕
日本語吹替
周星馳
(チャウ・シンチー)
小賢
Sui Yien
イン
吳君如
(サンドラ・ン)
馮愛南
Fong Ngoinam(Fong Ngainam)
フォン・オイラム
南姐
Nam Tse
ラム姉
(吹替ではラム姉、ラムお姉)
柏安妮
(パッ・オンネイ)
莫少珍
Mo suitsan
チャン
亞娟
Ahmei(Ahmai)
チャンさん
林小樓
(リン・シャオロウ)
鄭麗琛
Tsin Laisum
サム
胡楓
(ウー・フォン)
大叔
Uncle
おじさん
修哥
Sao Ko
警部
劉鎮偉
(ジェフ・ラウ)
劉震衛
MR.JEFF LAU
タイガー
(吹替ではタイガー警視)
老虎狗
Lofukao
方剛
(フォン・ゴン)
豹子頭
Chan Leung
パンサー
四面佛
Sheiminfa
陳諒
Chan Leung
成奎安
(シン・フイオン)
肥七
Feitsat
セブン
七哥
Tsat Ko
セブン兄貴
(吹替ではセブンさん)

「阿珍」の誤字である「亞娟」は仕方がないとしても、同音によるギャグなど特殊な事情がない限り、「哥」(兄貴)や「姐」(姉貴)の英語字幕を「Ko」「Tse」と訳すと理解に繋がらないような感じです。

四面佛こと陳諒は馮植洪が冒頭で「豹子頭」(豹のような顔をした奴)と言った事から日本語字幕では「パンサー」でした。「老虎狗」は「ブルドッグ」と訳されると思っていましたが、「パンサー」に合わせたのか、彼も馮愛南を追い詰める凶暴なイメージを優先した結果、文字の一部から「タイガー」になった背景がありそうです。ちなみに「四面佛」(別名:大梵天王)はタイの4つの顔を持つ仏像の事ですが、陳諒が四面佛と呼ばれるのは麻薬密売の関係でタイとの繋がりが強いからでしょう。(ただし、「來自江湖」のパッケージの裏に書かれた「あらすじ」には「タイ人・四面佛」とあります。)

「Thunder Cop」の謎

「流氓差婆」の英語題は「Thunder Cops II」ですが、パート1である「Thunder Cops」に該当する作品は「チャイニーズ・ゴースト 香港の幻」(原題:猛鬼大廈)です。こちらは劉鎮偉が吳君如や柏安妮と共に撮ったとは言え、物語に繋がりはありません。香港映画は製作や出演者が同じ場合、姉妹編の扱いでパート2を名乗る事があるため「流氓差婆」は「Thunder Cops II」となったようです。

なお、「猛鬼大廈」は「Operation Pink Squad 2:The Hunted Tower」と言う、もう一つの英語題も持っており、このパート1に該当するのは「機動女戦士 ハリケーン・コップ」(原題:霸王女福星)です。(さすがに「流氓差婆」をシリーズとして「Operation Pink Squad 3」と呼ぶ事はありませんでした。)

台湾版は「Thunder Cops」!?

さて、上の粗い画像は「來自江湖」のビデオパッケージの一部を拡大した物ですが、右上に注目すると「Thunder Cops」と書かれてあるのです。「猛鬼大廈」の英語題は「Operation Pink Squad 2」の方が広く知られているため、以前は「來自江湖」を含むオリジナル版を「Thunder Cops」と呼び、改編版を「Thunder Cops II」と呼んでいると思ったのですが、これは「II」を付け忘れただけでしょう。

「流氓差婆」と「雌雄雙辣」の別名

タイトル 意味
原題 流氓差婆 チンピラ女刑事
改編題 雌雄雙辣 辛辣な2人の男女
英語題 Thunder Cops II 威喝刑事2
台湾題 來自江湖 ヤクザの世界から来た
流氓警花 チンピラ女刑事
雌雄雙辣 辛辣な2人の男女
大陸題 流氓差婆 チンピラ女刑事
来自江湖 ヤクザの世界から来た
雌雄双辣 辛辣な2人の男女
雌雄杀星 犯人を殺す男女
贼公差婆 The Thief and Police Woman 泥棒男と女刑事
飞凤狂龙 飛ぶ女(鳳凰)と猛烈な男(龍)
韓国題 流氓差婆 チンピラ女刑事
유맹차파 チンピラ女刑事
雌雄雙血 血気盛んな2人の男女
자웅쌍혈 血気盛んな2人の男女
ベトナム題 Lưu Manh Sái Bà チンピラ女刑事
Lai Tự Giang Hồ ヤクザの世界から来た
Thư Hùng Song Lạt 辛辣な2人の男女
タイ題 อยากฟัดต้องวัดดวง 戦いに賭けるしかない
その他 Thunder Cops 威喝刑事
邦題 サンダードラゴン 威喝する龍

パッケージやメニュー画面に「流氓差婆」と表記される大陸版DVDが存在しますが、本編で登場するタイトルは「雌雄雙辣」となっているため、購入時には注意が必要です。なお、香港以外で「流氓差婆」のタイトルで公開された地域はないらしく、韓国やベトナムで「流氓差婆」と呼ばれている理由は「雌雄雙辣」の改編前の別題として扱われているだけで、公開の記録は残っていません。

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