サンダードラゴン 台湾版 ~第一章~

コメディエンヌの印象が強い吳君如が父親を殺した犯人を追い詰める刑事を演じた「流氓差婆」。本作は現在、改編版「雌雄雙辣」だけがDVD化されており、オリジナル版を見る事はできません。さらに「雌雄雙辣」にも、いくつかのバージョンがあり、削除されているシーンに違いがあるのです。今回は「流氓差婆」に最も近い台湾版「來自江湖」の紹介を中心に、その謎に迫って行きます。

「流氓差婆」と「雌雄雙辣」

タイトル 地域 上映期間 興行収入 備考
流氓差婆 香港 1989年11月18日~12月06日 5,624,622HKドル オリジナル版
來自江湖 台湾 1990年03月08日~03月21日 1,387,080TWドル 「流氓差婆」の台湾版
雌雄雙辣 香港 1991年01月 2,716,940HKドル 「流氓差婆」の改編版

元々、「流氓差婆」は1989年に公開されましたが、翌年に周星馳が主演し、同じく劉鎮偉が監督した「賭聖」が大ヒットした事にあやかり、1991年に「雌雄雙辣」のタイトルで再度、公開されました。改題された以外、「雌雄雙辣」が「流氓差婆」と違っている所は一部のシーンを削除する事により、スピーディー化を図った点と映画の終わり方です。(これらについては後に解説を行います。)

なお、タイトルが吳君如の演じる馮愛南の強気な性格を表した「流氓差婆」(チンピラ女刑事)から「雌雄雙辣」(辛辣な2人の男女)に変わったのは、この作品を吳君如の単独主演作の扱いではなく、もう一人の主人公・賢仔を演じる周星馳によるダブル主演作だと強調しているからでしょう。

冒頭のシーンは追加撮影?

台湾版に高雄は登場せず。

「雌雄雙辣」の冒頭にある「捜査に首を突っ込んだ結果、麻薬組織のボス・四面佛(方剛)に父親の馮植洪(高雄)を殺された馮愛南が四面佛への復讐を誓い、猛特訓で変わる」までのシーンは改編に当たって追加撮影されたと言う説がありますが、これは「流氓差婆」に元々あった物のようです。

違和感が残る点
1 台湾版「來自江湖」には冒頭のシーンがなく、製作スタッフのクレジットから始まる。
2 「雌雄雙辣」の香港版VCDは冒頭のシーンに焼き付けられた中文字幕がない。
3 「雌雄雙辣」で冒頭の吳君如と方剛の國語吹替と以後を比べると声優が違っている。

上記の点から何かありそうだと想像しがちですが、冒頭のシーンがない「來自江湖」にもエンドロールに高雄の名前が残っている事から、台湾版が、この部分を削除していただけだと考えられます。

タイトルの登場

香港版VCD 香港版DVD
鮮明な白色で「雌雄雙辣」。 フィルムが傷んで変色?

なぜか香港版DVDのタイトルが茶色になっている事に驚きました。実は香港版DVDもVCDも同じく潤程娛樂發行有限公司から発売されていますが、マスターとした原版が異なっているのです。

台湾版VHS 日本版DVD
「江湖」の字体に拘った理由は…。 突然、英語題が登場。

「流氓差婆」の「差婆」は広東語なため、台湾人向けに改題する事は多いのですが、1989年に周星馳が出演したドラマ「他來自江湖」に名称、字体を似せた事から便乗感が拭えなくもありません。そして、公開から15年以上の時を経て発売した日本版DVDは予想を裏切る英語題だったのです。

その他、タイトルの表示前にも違いが見られます。例えば香港版VCDは製作スタッフの名前が画面の右に表示される時、同時に左下に出るはずの英語の表示がありません。また、香港版DVDや日本版DVDにはないのですが、「來自江湖」と香港版VCDには「編劇・導演:劉鎮偉」と表示された後、中盤にある面通しのため、馮愛南が数人と共に歩かされるシーンが入っているのです。

受付に八つ当たりする莫少珍

タイトルが登場した後、「雌雄雙辣」では「工商大旅店」の看板の一部がアップで映り、部屋の中で莫少珍(柏安妮)が麻薬を打つために駆血帯で腕を縛るシーンになるのですが、「來自江湖」では莫少珍が腕を縛る前に馮愛南に挑発され、受付に八つ当たりするシーンが27秒ほどあるのです。



(「工商大旅店」の受付・蝦頭が居眠りする中、209号室から莫少珍の声が聞こえて来る。)

莫少珍:ずっと前に私が言ったじゃないの。
     「この案件は私も確実にできないし、四面佛こと陳諒と関係があるの?」って。
     あんたは死んでも信じないから、きっと捜査しに行くんでしょうけど。



(正面の部屋から男女が出て来る。男は部屋の鍵を受付の前に置き、後ろから来た女は、
(吸っていたタバコを受付の横にある灰皿に捨てる。居眠り中の蝦頭は気付いていない。)

莫少珍:あっ!今、それが違うって気付いたわ。その責任を私に押し付けるのね。

馮愛南:ふんっ!この麻薬中毒が!
     金が必要な時、あんたは何もできない奴なんだな!ああっ?どう?

(馮愛南の挑発に苛立った莫少珍は、ドアを開けて蝦頭に八つ当たりをする。)



莫少珍:蝦頭!待ちくたびれて死にそうよ!お茶を淹れてと言ったのに、
     淹れるのに、こんなに長い時間がかかるなんて!

(莫少珍がドアを閉めた後、カメラがドアの隙間から中を映すと彼女はイスに座ろうとしていた。)

このように、ここでは馮愛南と莫少珍の関係、売春婦も出入りする「工商大旅店」の水準、莫少珍の精神的な不安定さが見えるのでした。この後、莫少珍が腕を縛ろうとするシーンになります。

席を外した莫少珍

莫少珍の部屋に来た榮仔と賢仔。「雌雄雙辣」では肥七(成奎安)が話の前に莫少珍に席を外すよう指示し、彼の「話せ!」で榮仔の話が始まるのですが、「來自江湖」では部屋の外へ出た莫少珍が蝦頭に話しかけ、後に彼女がコーラを飲んでいる理由に繋がるシーンが10秒ほどあるのです。



(部屋を出た莫少珍はドアを閉め、蝦頭の所へ行く。)



莫少珍:ねえ、蝦頭。炭酸ジュースを持って来てよ。

蝦  頭:さっき、俺を罵ったばかりなのに!

莫少珍:えへへへ!あんたをからかっただけじゃない。急いでよ!

(莫少珍は手を伸ばし、蝦頭の右頬を軽く叩く。)

結局、コーラを渡した蝦頭は莫少珍に甘いようです。そして、この後は肥七が「話せ!」と言うシーンになります。ちなみに香港版の中文字幕が間違っている事により、それを元に作られた「來自江湖」も日本版DVDも部屋をノックした直後の榮仔の台詞は賢仔が言っている事になっています。

兄の言葉に涙を流す賢仔

麻薬を買わないよう、賢仔の恋人に警告をする肥七。「雌雄雙辣」では「次にお前が麻薬に触れたと俺が知ったら、手を切り落とすからな!わかったか!」と言われた彼女が返事をした後、画面は電話が鳴るシーンへと切り替わるのですが、「來自江湖」では肥七の警告が32秒ほど続くのです。



肥  七:お前がこの遊びに触れる事を、俺の弟が嫌がっているって、
     はっきりわかっているんなら、触れるんじゃねえ!

女  仔:うっうっ…。

肥  七:お前は馬鹿なのかよ!良い事は覚えないで、麻薬をやる事を覚えやがって!

女  仔:うっうっうっ…。



(その様子を無言で見ている莫少珍。)

肥  七:お前の顔は悪くない。まだ、今は他の奴からの需要がある。
     だが、女が年を取って容貌が老けた時、誰がお前を欲しがるってんだ!?

(麻薬による老化スピードの恐ろしさを伝える肥七。)

女  仔:うっうっうっ…。



肥  七:考えてみろ!俺の話は間違っているか?

女  仔:うっうっ…。

肥  七:…二言も話せば泣くのか。



(嫌な事を忘れるかのようにコーラを飲む莫少珍。)

肥  七:言っておくがな、お前は俺の弟に対して、きちんと向き合え。
     人前で彼を「びっこ」と呼ぶんじゃないぞ!



(この時、クローゼットの中に隠れていた馮愛南は隙間から、ある物を見ていた。)



(それは、足の悪い自分の事を心配する兄の言葉を聞いて泣く賢仔の姿であった。)

肥  七:これ以上、お前が弟を「びっこ」と呼ぶのを俺に聞かせたら、
     俺はお前の足を殴って折るからな!わかったか!?

女  仔:わかりました!七哥…!

肥  七:泣く!泣く!泣く!まるで姚蘇蓉みたいだ!
     さっぱり、わからんな。弟はお前のどこを気に入ったんだ?

(姚蘇蓉は1960年代の歌手。「盈淚歌后」と呼ばれるように涙に満ちた歌声に定評がある。)

荒っぽくも賢仔を気にかける肥七、本当は自分も麻薬に溺れる前に止めてもらいたかったと賢仔の彼女に自分を投影するような感じの莫少珍、そして、終盤にある「俺にとって、彼は小さい頃から俺を育ててくれた兄さんなんだ。」の台詞に強みを持たせる賢仔の涙など非常に良いシーンばかりですが、なぜか改編版では削除されているのでした。この後、電話が鳴るシーンになります。

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