ロイヤル・トランプ 台湾版 ~第七章~
「開心做齣戲」のカラオケ版

さて、続けてエンドクレジットに関する話なのですが、台湾版のエンドクレジットには二重三重に驚かされました。香港映画のエンドクレジットは「劇終」が下から上がり、画面の中央で止まると主題歌が流れていても突然、画面が暗くなり、歌も止まって映画が終了する事が多々あります。

「新鹿鼎記」ではエンドクレジットで黃霑が歌う「開心做齣戲」の國語版が流れているのですが、歌の1番が終わりそうになり、「劇終」も中央に来たので「そろそろ、映像が停止するだろう。」と私は思いました。しかし、歌はそのまま2番へ進み、「劇終」は中央で止まったままだったのです。

さらに少しすると「劇終」の文字が突如、画面から消えてしまいました。それでも黃霑の歌は続き、ついに歌詞の最後まで進んだので「いよいよ終わりだろう。」と思ったのですが、それも束の間で間髪を入れずに、次は「開心做齣戲」のインストゥルメンタル・バージョンが流れ出したのです…。

インストゥルメンタルが終わると、さすがに三度目の正直で本当に映画も終了となったのですが、これも実は王晶が狙った、周星馳的であり韋小寶的な「予測不可能」な演出だったのでしょうか。

「開心做齣戲」の歌詞翻訳

名曲「開心做齣戲」の広東語版は実は香港でCD化されていませんが、台湾では滾石唱片から発売された「滾石九大天王之十二齣好戲」や「天下大亂 花木蘭之楊佩佩大戰金庸戲劇主題曲」のCDに國語版が収録されています。しかし、なぜかアレンジされ、速度や黃霑の歌い方が違うのです。雷頌德が編曲を行ったのですが、個人的にオリジナル版の方が力強さがあるように思えますね。そう思うと、編曲前でフルバージョンでカラオケ付きの台湾版のエンドクレジットは貴重です。

ちなみに任賢齊が2006年に出したCD「老地方」に収録されている「戲迷」には「開心做齣戲」の「要快活時我開心找快活去」(讓我們找開心快活去)のフレーズを彷彿とさせるメロディがあります。この曲には石班瑜の声も収録されているので、本作を意識している事は間違いありませんね。

それでは、以下に2つのバージョンの「開心做齣戲」の歌詞の翻訳を掲載します。



「開心做齣戲」
(楽しく芝居をしよう)

歌:黃霑/作詞:黃霑/作曲:胡偉立/編曲:雷頌德(※國語版のみ)
粵語版




*
是對是錯是傻暫且不理 用笑用歌聲傳我傳奇
是非事實何必問 快拋開恩怨去嬉戲
是人是我不管咁多 開心去演齣戲

要快活時我開心找快活去 要快樂時你開心搵吓樂趣
我哋做人最不羈 一切像遊戲 笑住做人最不羈 一切像嬉戲 *
醒醉之間發顛發夢假假真真都不過一齣戲

問我 是正是邪未肯理 任你用愛用情你歡喜
是非事實胡加渾 快拋開一切去嬉戲
是狂是放不管咁多開心去演齣戲

* ~ * 繰り返し
醒醉之間發顛發夢假假真真 開心去演齣戲

* ~ * 繰り返し
醒醉之間發顛發夢假假真真都不過一齣戲
醒醉之間發顛發夢假假真真 開心去演齣戲





*
正しさ・間違い・愚かさは、しばらく相手にしない。笑いや歌声を使って、俺の物語を伝えよう。
善悪や事実など、何で聞く必要がある?さっさと恩や仇を投げ捨てて、戯れようじゃないか。
人の事や俺の事など、そんな多くの事に構わず、楽しく(人生と言う名の)芝居を演じよう。

陽気が欲しい時、俺は楽しく陽気を探しに行く。愉快が欲しい時、君は楽しく喜びを捜すんだ。
俺たちは人間らしくするから、この上なく自由に振る舞うのさ。すべては遊びのような物。
笑うのを止めて人間らしくするから、この上なく自由に振る舞うのさ。すべては戯れのような物。*
酔って目が覚める間に発狂し、夢に虚実が現れたのも、すべて一幕の芝居に過ぎないんだ。

「まだ、正しさと邪(よこしま)を相手にしようとしていないのか?」と俺は聞かれるんだ。
君に任せるさ。愛を使ったり、情を使ったり、君の好きなようにしてくれ。善悪や事実に、
いい加減さとデタラメを加えよう。さっさと恩や仇を投げ捨てて、戯れようじゃないか。
人の高慢さや人の自由など、そんな多くの事に構わず、楽しく芝居を演じよう。

* ~ * 繰り返し
酔って目が覚める間に発狂し、夢に虚実が現れたけど、楽しく芝居を演じよう。

* ~ * 繰り返し
酔って目が覚める間に発狂し、夢に虚実が現れたのも、すべて一幕の芝居に過ぎないんだ。
酔って目が覚める間に発狂し、夢に虚実が現れたけど、楽しく芝居を演じよう。
國語版




*
是對是錯且不管你 笑聲歌聲傳我傳奇
管不了是是非非 那恩恩怨怨啥把戲
做人管不了這許多 不過是一齣戲

讓我們找開心快活去 讓我們尋開心快樂去
快樂的人生一切是遊戲 歡樂的人生是我和你
笑一聲醉醒之間 難得糊塗 開心做一齣戲 *

是正是邪不處理 要愛要情隨便你
管不了是是非非 那恩恩怨怨啥道理
做人管不了這許多 不過是一齣戲

* ~ * 繰り返し×3
笑一聲醉醒之間 難得糊塗 開心做一齣戲





*
正しさも間違いも、しばらく君には関係ない。笑い声や歌声で、俺の物語を伝えよう。
善悪なんかは構いきれない。ならば、恩や仇なんかは、何を企んでいるのやら。
人間らしくするには、そんな多くの事に構いきれない。これは一幕の芝居に過ぎないんだ。

俺たちで楽しさと陽気を探しに行こう。俺たちで楽しさと愉快を捜しに行こう。
愉快な人生とは、すべて遊びなんだ。喜びの人生とは、俺と君なんだ。
笑ったら、酔って目が覚める間に思いも寄らず、ぼんやりしたけど、楽しく芝居をしよう。*

正しさも邪(よこしま)も処理しない。愛や情が必要なら、君で勝手にしてくれ。
善悪なんかは構いきれない。ならば、恩や仇なんかは、何の道理があるのやら。
人間らしくするには、そんな多くの事に構いきれない。これは一幕の芝居に過ぎないんだ。

* ~ * 繰り返し×3
笑ったら、酔って目が覚める間に思いも寄らず、ぼんやりしたけど、楽しく芝居をしよう。

台湾版はクレジットの一部がカット

「鹿鼎記」のエンドクレジットには以下の3バージョンがあるようです。

地域 背景の映像 クレジットの位置 音声
香港 赤い着物の龍兒 右寄り 粵語
大陸 赤い着物の龍兒 中央 國語
台湾 ダイジェストとNG 中央 國語

赤い着物の龍兒の顔にクレジットが重ならないよう、右寄りになっている香港版を見慣れていた私にはクレジットが中央の位置にあり、彼女が登場しない台湾版は珍しかったです。しかし、大陸版と思われる物は、龍兒は登場するのにクレジットが中央になっていると言う物でした。

香港の初公開版はPEPSIの協賛があり、クレジットされている人物も詳細に掲載されています。当時、「永盛電影公司」で映画の裏方として働いていた周星馳の妹・周星霞のクレジットも香港版にしかありません。せっかくですので台湾版から名前を削られた方を以下に紹介したいと思います。

替身: 李  睴 - (スタントダブル) --------- 第一組助攝: 莊仕君 - (第1班撮影補佐)
黃信釣 第一組燈光: 周偉權 (第1班照明)
甄健偉 第二組助攝: 劉榮輝 (第2班撮影補佐)
武師: 黃劍斌 (スタントマン) 第二組燈光: 鄺延和 (第2班照明)
黃偉亮 鄺延樹
黃劍偉 第二組助燈: 譚健強 (第2班照明補佐)
陳少華 道具: 黃延威 (道具)
程國樑 助道: 賴冠林 (道具補佐)
吳彰鵬 化妝: 文潤玲 (メイク)
黃德仁 髪型: 仇小梅 (ヘアメイク)
馮偉倫 溫玉梅
袁錦輝 服裝管理: 文潤楣 (服装管理)
陳志成 楊錦珍
副導演: 鄧慶民 (副監督) 劇務: 梁北華 (現場管理)
鄭子偉 馮志偉
執行製片: 王雅琳 (執行製作) 事務: 符芳雄 (事務)
助理製片: 周星霞 (製作補佐) 場務: 鄒義訓 (現場作業)
助理美術: 簡華安 (美術補佐) 茶水: 梁  煥 (お茶出し)
徐炳文 羅麗香
助理服裝: 利碧君 (服装補佐) 交通: 劉  睴 (交通)
歐陽霞 剪接: 全  志 (編集)
音樂: 胡偉立 (音楽)
對白: 丁  羽 (アフレコ)

ですが、逆に香港版になく、台湾版(クレジット中央版)にしか掲載されていない物もあるのです。台湾版の「對白」(アフレコ)を担当した陳明陽、「特技指導」(SFX指導)の丁遠大と鄧為鈺の2名、同じく「特技指導」で関わった「新視覺特技工作室有限公司」の名前は香港版にはありません。

主要人物たちの名称の違い

俳優名 役名(小説の読み) 粵語版英語字幕 國語版英語字幕 日本語字幕
周星馳 韋小寶(い・しょうほう) Wilson Bond Wei-Shew-Bao ウェイ・シャオパオ
吳孟達 海大富(かい・だいふ) Hoi Tai Fu Hai-Da-Fu ハイ・ターフー
陳百祥 多隆(トルン) Duran Dun-Lung トー・ロン
邱淑貞 建寧(けんねい) Kin-ning Jian-Ning チェンニン
吳君如 韋春花(い・しゅんか) Wai Chun Fa Wei-Chun-Hua ウェイ・チュンホア
劉松仁 陳近南(ちん・きんなん) Chan Kan Nam Chang Chin Nan チェン・チンナン
徐錦江 鰲拜(オーバイ) O'Brian Ao-Bye アオ・バイ
- 索尼(ソニン) Sony Sony ソニー

個人的に「韋小寶」は広東語で「ワイ・シウポウ」と呼びたい所ですが、DVD版の日本語字幕は國語版の英語字幕を元にして翻訳を行っているようなので「ウェイ・シャオパオ」になっています。

また、香港版の英語字幕では「Wilson Bond」となっていますが、これは元イギリスの首相であったJames Harold Wilsonの「Wilson」と、「007」のJames Bondの「Bond」から来ていると言う説が強いようです。この2人と韋小寶の共通点は「政治に関わる」と「出世」、それから「潜入捜査」でしょうか。

同じく「鰲拜」の「O'Brian」と言う英語名は、1892年3月11日から1894年4月30日までの約2年間、イギリス領土であった香港政府の輔政司(今で言う「香港特別行政區政務司司長」)を務めていたGeorge Thomas Michael O'Brien(中文名:柯布連)の「O'Brien」から来ているようです。ちなみに灣仔區の「柯布連道」(O'Brien Road)は、George Thomas Michael O'Brienを記念した道路です。

「多隆」の「Duran」も過去に同じ名前の政治家がいないか探しましたが、発見できませんでした。上の2人も含め、英語名を持つ者は広東語の役名に何となく近い物が使われているようですね。なお、香港版DVDの英語字幕では最も広東語に近い「Duo Long」と言う表記も登場しています。

さらに輔政大臣の「索尼」は満州語の「Sonin」やピンインの「suo3 ni2」から取れば良さそうですが、香港版も台湾版も英語字幕では「Sony」になっており、どうしても電機メーカーが頭をかすめます。そんな中、2009年には「台灣新力」(Sony Taiwan)が正式に「台灣索尼」に名称を変更したため、ネットで「周星馳の『鹿鼎記』は会社さえも認めさせる影響力がある。」と騒がれた事もありました。

他の名称の違い

別の単語で表現している英語字幕が面白かったため、一部の名称を表にまとめてみました。

名称 粵語版英語字幕 國語版英語字幕 日本語字幕
天地會 Heaven & Earth Society Tien-Dee Association(TDA) 天地会
麗春院 Lai Chun Brothel Li'Chun House 麗春院
青木堂堂主 Leader of Greenwood Branch Greenwood party chief 青木堂堂主
周堂主 Chow Chief Jou チョウ(チョー)
反清復明 Rebel Ching and resume Ming Anti-Ching,For-Ming 反清復明
四十二章經 The Book of 42 Chapters 42 Chapter Classics 四十二章経
小桂子 Kid Kwai Kuei クェイ
小春子 Kid Chun Chun チュン
化骨綿掌 Bone dissolves soft palm De bone palm 化骨綿掌
穿心龍爪手 Heart-fetching dragon hand Heart pierceing hand 心臓づかみ
揸波龍爪手
抓奶龍爪手
Tits-fetching dragon hand
(Dragon hand)
Breast-catching hand
(Catch breast Dragon Hand)
オッパイづかみ
神龍教 Dragon Sect Dragon Gang 神龍教
五毒散 Poison Powder bag 五毒散
金蛇纏獅手
金蛇纏絲手
Snake hand Snake hand 金蛇巻獅手
神龍刺 Dragon prick Dragon throng -
關二哥 Brother Kwan Guan 関羽
十三太保 Thirteen Warriors 13 bodyguard -
金鐘罩 Golden-bell Protection Golden cover -
天蠶絲 Silk Silk 絹の帯
金毛獅王 Golden-hair lion queen Golden Hair Lion King 金髪
天蠶寶甲 An armour of heavenly silkworm Silk vest 弾を通さない鎧
聖女 The divine lady The holy girl 聖女
鹿鼎公 Sir Deer-Tripot The Lu-Ding "Duke" 鹿鼎公

興行成績に関する考察

タイトル 地域 上映期間 上映日数 興行収入
鹿鼎記 香港 1992年7月30日~9月16日 49日 40,862,831HKドル(約6億4,800万円)
新鹿鼎記 台湾 1992年6月27日~7月24日 28日 61,612,230TWドル(約3億0300万円)
※興行収入の日本円は1992年当時のレート(香港ドル:15.87円/台湾ドル:4.92円)から算出しています。

実は本作の公開は香港より33日も早いのでした。さらに香港では興行収入の面で「審死官」「家有囍事」に敗れてしまったのですが、台湾ではそれらの成績を上回っているのです。

興行成績一覧
(1992年の周星馳映画のみ)
香港
順位 タイトル 興行収入
1 審死官 49,884,734HKドル
2 家有囍事 48,992,188HKドル
3 鹿鼎記 40,862,831HKドル
4 武狀元蘇乞兒 38,622,449HKドル
5 鹿鼎記II 神龍教 36,583,964HKドル
6 逃學威龍2 31,635,680HKドル
7 漫畫威龍 22,946,994HKドル
台湾
順位 タイトル 興行収入
1 新鹿鼎記 61,612,230TWドル
2 新鹿鼎記II 神龍教 54,420,230TWドル
3 武狀元蘇乞兒 48,880,640TWドル
4 逃學威龍2 34,200,012TWドル
5 威龍闖天關(審死官) 27,013,000TWドル
6 家有囍事 15,564,220TWドル
7 摩登武聖(漫畫威龍) 11,822,860TWドル

台湾での興行成績が良かった理由となるキーワードは「時代劇」「石班瑜」「上映時間」でしょうか。これらから逆に他の作品が本作に敗れてしまった原因を考えてみたいと思います。

その1:時代劇

まず、時代劇ブーム真っ最中で話題性のある金庸原作の映画版が台湾で売れないはずはないので、それについての説明は割愛させていただきますが、ここで注目すべきなのはキーワードを裏返せば「現代劇ではない」と言う事ですね。実は「家有囍事」のような現代コメディは広東語やローカルなギャグも多いため、やはり地元の香港人向けに作られており、どうしても台湾人には言葉の面白さが薄れてしまった所が敗因かもしれません。

その2:石班瑜

次は本作に石班瑜の吹き替えが採用されている点です。実は1992年に台湾で公開された周星馳映画の中で石班瑜の吹き替えではない作品は「威龍闖天關」と「家有囍事」だけなのでした。石班瑜の声と台詞回しでなければ出せない面白さがなかったのは、彼の声に慣れている台湾人にとっては堪えたのかもしれませんね。

その3:上映時間

最後は上映時間の問題です。これは香港と台湾の収益の得方の違いが関係しているのでした。当時の香港では映画のテンポを重視して編集した90分前後の物が主流となっており、上映時間を短くする事で一日の上映回数を増やして収益を多くしていたのです。しかし、当時の台湾では上映時間の長さに比例してチケットの料金が高くなっていました。そのため、収益を上げるにはシーンを削らず、本編のダイジェストやNG集を入れた方が良いのです。

この事から考えると、「新鹿鼎記」と「威龍闖天關」の上映日数はどちらも28日間なのですが、上映時間は「新鹿鼎記」の方が長いので、やはり興行収入に差が出たのだと思えます。

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