カンフーハッスル 大陸版 ~第二章~

大陸版の比較は前章で終了となります。ここからは現存するスチールや未使用シーンなどから当初、周星馳が思い描いていた「功夫」の物語が、どんな形だったのかを推測していきます。基本的に映画の流れに沿って紹介しているため、様々な資料が混在する事を先にお伝えしておきます。

理髪店で難癖をつける阿星

こちらはNGシーンからです。本編よりも阿星が理髪師に難癖をつける際の台詞が長いのですが、吸っていたタバコの灰が上半身裸の阿骨(林子聰)にかかったのを払ったため、採用しませんでした。阿骨の胸にある斧の入れ墨(偽物)を突然、見せる事でインパクトを与えようと思ったのを機に彼にコートを着せ、さらに台詞も短めにしたのだと推測できます。以下に台詞を翻訳しました。



(タバコを吸って待つ阿星。理髪師は阿骨の首の周りにパウダーをつける。)

阿  星:何をしている?

理髪師:切り終わりました!5毛(約7.5円)のお恵みをいただきます。

阿  星:おい!もみあげの長さが違うな。

(理髪師は、ものさしを使って長さを確認する。)

理髪師:両方とも、ちょうど2インチ(約5cm)です!

阿  星:境目が曲がっている。

理髪師:わかりました。

(理髪師は三角定規を使って確認する。)

理髪師:ぴったり、90度です。

阿  星:もういい。お前は何が言いたいんだ?

理髪師:すごく、きれいに切れたって事です!

(理髪師は自信を持って答える。)

この後、元々は本編で阿星が言う「誰がこんなに、きれいに切れと言った?」の台詞に繋がる予定だったと思います。 NGシーンや未公開シーンは現在、DVDの特典映像で見れますが、発売前は香港の劇場公開時に2枚のチケットを同時に購入するともらえるVCDで確認する事ができました。

「隆泰號糧油白米」で爆竹を?



こちらはスチールでのみ残っている物で、住民との決闘を取り消した直後の阿星が「隆泰號糧油白米」の前にいます。阿星の左手は穀物の入った壺に隠れて見えませんが、当初は包租婆が来る前に、この店で爆竹を取り出し、住民に脅しをかけるシーンを考えていたのかもしれません。

また、日本版DVDにも収録された「『功夫』電影製作特輯」には阿星が殴られた衝撃で店の卓に体ごと突っ込んで壺や算盤を落とした後、包租婆に頭を掴まれて地面に倒れ、何度も殴られるシーンのメイキング映像があり、こちらは薬代をせがむ前に入る物だったのではないかと思います。

スチールの上着を見て思い出しましたが、「功夫」の2005年度版カレンダーでは、映画の服裝指導を担当した陳顧方が「物語の始まりの星仔は貧しくて服が買えませんでした。そのため、彼の服は盗んで来た物です。」と語っていて、本作に関わったスタッフが作る緻密な設定に驚いた物でした。

食べながら街を歩く少年時代の阿星



この少年時代の阿星(阮昊天)が謎の乞丐(袁祥仁)に呼び止められる直前のシーンもスチールでのみ残っています。靴磨きの合間に買ったのか、左手に紙に包まれた食べ物を持ち、それを頬張っているため、本編の阿星が振り返った際に咀嚼している理由がわかります。じんわりとフェードインする編集などを見る限り、阿星と乞丐のシーンは、かなり削除されているようにも思えます。

緊張で便意を催す阿星(1ページ目)

次はDVD「功夫 全新特別版」に付属した冊子「功夫電影對白 第一本」の中にあるストーリーボード(絵コンテ)からです。こちらには阿星が包租婆を殺すためにナイフを投げるも失敗するシーンの当初の案が収録されていました。以下に絵と共に書かれたメモの翻訳を紹介したいと思います。



☆阿星と阿骨の2人はコソコソと壁をよじ登り、通路まで行く。



☆共に通路に居座る。



☆阿星は頭を突き出して覗く。



☆2人は会話し、阿星は殺気を起こすと、すぐに便意を催す状態になると言う話題になる。
☆阿星は「この機会に、それを克服しつつ、仕事をやるんだ!」とナイフを取り出す。



☆阿星は勇気を奮い起こし、さっと弧を描いて切る。

本編にはない豬籠城寨の裏からの潜入や阿星の心理状態、決意などが細かく描写されています。緊張の名残として本編では阿星がナイフを投げる前に息を長く吐き出すシーンがありました。

尻を押さえたせいでナイフが失速(2ページ目)



☆阿星は突然の便意を我慢できなくなり、左手で尻を押さえる。



☆ナイフは投げたが失速してしまう。ナイフは飛んで、粱(はり)にぶつかる。



☆ナイフは跳ね返って、阿星の右肩に刺さる。
☆両手で尻を押さえる阿星はナイフを見る。さっと階段の間に入り、隠れる。
☆包租婆も、こちらを見て、怪しく思う。



☆阿星が苦しむ中、阿骨が状況を聞く。



☆阿星が答える。
☆阿骨は、彼よりも自分がやれると示し、ナイフ状の物を持つ。

尻を押さえるシーンがありますが、基本的には本編と同じです。本編でナイフが刺さった阿星に阿骨が緊張感なく「どうして?」と言い、阿星が「何が『どうして?』だ。」と答えるギャグのシーンは現場で生まれた物なのでしょう。当初は阿骨が自らナイフを投げる気になる流れだったようですね。

ぐったりした阿星は大便が漏れそう(3ページ目)



☆阿骨が飛ばすと意外な事にコントロールを誤り、階段の間に入る。



☆刀は阿星の左肩に刺さる。
☆カメラはトラックして路地に入る。



☆困惑した阿骨も階段の間に入って隠れる。
☆阿星は、ぐったりした様子で階段の近くを這っている。



☆阿骨が状況を聞くと、阿星は「ちょっと、めまいがする。」と答える。
阿骨が「どうしたら良い?」と聞くと、
阿星は「まずは帰って、(投げる)練習をしてからにしよう。」と答える。

☆阿骨は阿星を見てから、ナイフを見ると「ダメだ。」と言う。
阿骨は、すぐにナイフを取り出し、



弧を描いて、大便が漏れそうな阿星に刺すと、
「見た所、あんたは今、こうなってしまった。
  俺が代わりに復讐する。すぐに飛び出すぞ。」と言う。

☆阿星が刺された後、阿骨を撮る。阿骨は依然として語る。

阿星にナイフを刺した責任もありますが、阿骨は本編よりも包租婆を殺そうとする気が強く、男気がある感じに描かれています。本編では阿星との対比で優しい性格に描かれているのでしょうか。

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