美亞製“広州殺人事件”差替版

「九品芝麻官(白面包青天)」は1994年3月31日の香港公開から約9年8ヶ月と言う長い年月を経て、2003年11月28日に「広州殺人事件」のタイトルで、やっと日本版DVDが発売する事となりました。

日本版の発売以前に、私は香港の「美亞鐳射影碟有限公司」が発売したバージョンを見ていたのですが、美亞版の構成が「普通」だと思っていた私は日本版を見た瞬間、美亞版で削除されているシーンの登場に驚きました。ここでは日本版と美亞版の違いについて比較をしたいと思います。

月夜の願いは何?

映画が始まると月を見ている少年時代の包龍星が登場します。実は日本版と美亞版では冒頭から編集が違うため、ここは見たバージョンによって後の印象が大きく変わります。シーンの順番を以下にまとめました。

日本版 美亞版
1 包龍星が「月がきれいだな。」と言う。 1 包龍星が「月がきれいだな。」と言う。
2 母親が「願い事をすると叶うわ。」と言う。 2 母親が「願い事をすると叶うわ。」と言う。
3 「将来は立派な役人になれますように。」と
包龍星は願をかける。
3 「将来は立派な役人になれますように。」と
包龍星は願をかける。
4 母親が夫の職業の事を言い包龍星を怒る。 - -
5 悪人が父親に賄賂を渡すシーンになる。 - -
6 「金に汚い役人でも良いからなりたい。」と
包龍星は願をかけ直す。
- -
7 廃れた法廷所が映し出される。 4 廃れた法廷所が映し出される。

美亞版だけを見ると、包龍星は元々、純粋に立派な役人になろうと思っていたのに何かが間違って汚職役人になってしまったと言う感じになりますが、日本版を見ると本心ではなかったのかもしれませんが、一応、自ら願っていた事がわかります。

タイトルの登場

日本版 美亞版

幼い頃の「願かけ」が終わると、あたかも汚職役人に成長した今の腐った心を表現してくれているかのように汚く廃れきった法廷所の映像が登場します。この時に出演者の名前も一緒に出るのですが、ここにも微妙な違いがありました。

日本版の文字色は「赤色」で名前も画面からはみ出る事なく表示されますが、美亞版の文字色は「白色」で画面をトリミングしたサイズが小さいせいか、端にあった名前は半分、切れたままで表示されてしまうのです。さらに朝日が昇り続ける日本版に比べ、美亞版の朝日は途中で静止します。

別れを惜しむ相手

旅の途中で雑技団の兄妹と知り合った包龍星(周星馳)。しかし、吳廣得(梁榮忠)と吳好緹(鍾麗緹)との別れの日が来ました。ここも編集が違うため、見たバージョンによって印象が変わります。

日本版 美亞版
1 「浮気はするな。」と包龍星と吳好緹が言い合う。 1 「浮気はするな。」と包龍星と吳好緹が言い合う。
2 包龍星が向こうを見ると、吳廣得と有為(吳孟達)が別れを惜しんでいる。彼らに近づいた包龍星は話を聞き、有為に「行くぞ。」と声をかける。 - -
3 有為は左へ、吳廣得は右へ移動する。 2 有為は左へ、吳廣得は右へ移動する。
4 吳廣得に駆け寄った吳好緹は包龍星に「また会える?」と聞く。包龍星は「来年の春、花が咲く頃にまた会える。」と言って去る。 3 吳廣得に駆け寄った吳好緹は包龍星に「また会える?」と聞く。包龍星は「来年の春、花が咲く頃にまた会える。」と言って去る。
5 「妊娠していたら…。」と男なのに言う吳廣得を吳好緹が殴る。 - -
6 包龍星は「奥さんは元気?」と有為に聞き、有為は走り出す。 - -
7 「尚書府」が映し出される。 4 「尚書府」が映し出される。

吳好緹が「また会える?」と言う時、吳廣得は悲しんでいますが、美亞版だけを見ると彼が有為との別れを惜しんでいるではなく、包龍星との別れを惜しんでいると言う印象が残ってしまいます。

絶技炸裂

龜婆(苑瓊丹)の言葉の速さと威力をマスターした包龍星。文句を言われて怒った龜婆が仲間を連れて、包龍星に挑むシーンも違っています。

日本版 美亞版
1 イスに座った包龍星を女たちが囲み、ぐるぐると回りだす。龜婆が声をかけると包龍星も口を開いて、戦いが始まる。 1 イスに座った包龍星を女たちが囲み、ぐるぐると回りだす。龜婆が声をかけると包龍星も口を開いて、戦いが始まる。
2 包龍星が自分の両目を指で引っ張る。 2 包龍星が自分の両目を指で引っ張る。
3 目から文字が飛び出し、女たちを攻撃する。 - -
4 あまりの威力に女たちが全員、倒れる。 3 あまりの威力に女たちが全員、倒れる。
5 ゆっくりと立ち上がった包龍星は襲いかかる別の女たちも次々と倒す。 - -
6 包龍星が黃飛鴻のポーズを決めると看板の文字は「嗌交王」に変わっている。 4 包龍星が黃飛鴻のポーズを決めると看板の文字は「吵架王」に変わっている。

日本版 美亞版

日本版では包龍星の目から「西」「門」などの文字が飛び出してきます。美亞版では目を引っ張る時、それらの文字は合成されていません。

日本版 美亞版

飛び出る文字は「門」「西」「能」「小」の4つがあるのですが、門構えの中に他の3つの文字を入れると、すべて卑猥な俗語を意味する漢字になるのです。門構えに「西」は女性器を、門構えに「能」は男性器を、門構えに「小」は犯すの意味になります。

日本版 美亞版
文字は「嗌交王」。 文字は「吵架王」。

「嗌交王」と「吵架王」はどちらも「口げんか王」の意味です。「嗌交」は香港で多く使われるようですし、先ほどの俗語の漢字は粵語の文字なので、多分、日本版は香港劇場公開版で、美亞版は台湾向けなのだと思います。ここは微妙に周星馳のポーズが違っている所も注目するべき点かもしれません。ちなみに、このシーンで流れる「將軍令」の曲は日本版の方が長いです。

密かな黃一山のファン向け

さて、ここまで見るとシーンが短い美亞版より日本版の方が良いと言う事になってしまいます。しかし、ここから先は周星馳映画の常連・黃一山や盧雄の密かなファンには朗報と言えるでしょう。

実は美亞版は包龍星が皇帝(黃一山)に娼館・鳳來樓で叩頭した後のシーンから、なぜかシーンの一部が撮り直してあり、使われている部分が違うのです。ここは差し替えとなっているので、物語の流れは同じなのですが不思議な事に音声は悪く、一部の中文字幕がなくなっています。

日本版 美亞版

皇帝が「実は朕も近頃の天気の異常を見た。」と言うシーン。美亞版は草花が生い茂る所から玉座まで、水師提督の常昆(谷峰)と尚書大人(盧雄)が歩きながら話しています。

日本版 美亞版

下を向いている日本版に比べ、常昆と尚書大人の表情を多く確認可能なのが美亞版です。

日本版 美亞版

ファンにとっては振り向く皇帝とアップの皇帝、どちらが良いでしょうか?

日本版 美亞版

日本版は常昆と尚書大人のアップが確認できますが、美亞版は全体が確認できるアングルです。

日本版 美亞版
包龍星と雷豹の後姿。 2人を横から見た様子。

包龍星と雷豹(徐錦江)の2人が召喚されるシーンはアングルも周囲の人数も違います。

日本版 美亞版

同じく龜婆の登場シーンの時もアングルは上と同じ感じです。なお、皇帝の「挨拶はいい。」と言う台詞は美亞版にはありません。

日本版 美亞版

似たようなシーンですが、こちらも背景と演技が違っています。撮り直しの理由はフィルム管理が曖昧で、編集時にこのシーンが見当たらなかったからでしょうか?そして、撮り直し後に前の物が見つかったため、結果的に2つのバージョンが完成したのかもしれません。

日本版 美亞版

尚書大人のいる場所も違っています。

日本版 美亞版
左に常昆、右に尚書大人。 左に尚書大人、右に常昆。

皇帝が短剣の標的になるのを止めるシーンでは背景どころか、2人の立ち位置までも変わっています。この後、再審をするかを決める際、皇帝の代わりにリンゴを頭に乗せた尚書大人が標的になるのですが、このシーンも日本版と美亞版では微妙に編集が違います。

日本版 美亞版
1 「目隠しをしたいのです。」と包龍星が言う。 1 「目隠しをしたいのです。」と包龍星が言う。
2 「普段からそうなのか?」と皇帝が言う。 2 尚書大人が悲鳴を上げる。
3 「血が苦手でして。」と包龍星が言う。 3 「普段からそうなのか?」と皇帝が言う。
4 尚書大人が悲鳴を上げる。 4 「血が苦手でして。」と包龍星が言う。
5 「許す。」と皇帝が言う。 5 「許す。」と皇帝が言う。
6 包龍星が目隠しをする。 6 包龍星が目隠しをする。

どちらも似たような感じに思えますが、「目隠し」と聞いただけで、すぐに驚く美亞版の方は尚書大人の情けなさが出ていて面白いと思います。

一品が皇帝に女を斡旋

話は進み、皇帝から「一品」に封じられた包龍星が喜んだ後から雷豹が戚秦氏(張敏)の処刑を止めるために馬を走らせるシーンまでの間に、美亞版には日本版にはない2人だけの会話が約8秒間、存在します。偶然にも仲良くなった2人の会話の内容を以下に翻訳してみました。



包龍星:陛下、本当にありがとうございました。

皇  帝:手伝いはやり尽くした。夜食を頼むぞ。

包龍星:鳳來樓に行きましょうよ。

皇  帝:やったー!

手を叩いて喜ぶ皇帝が可愛く撮れていましたが、話の内容は…。彼の言う「夜食」と言うのは隠語で「夜の相手の女性」の事でしょう。皇帝の抜け目のなさが面白いのに削除された事が残念です。

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