| 監督として、初めて周星馳の名前がクレジットされた記念すべき「國產凌凌漆」。数々の試行錯誤の末に作られた本作にも削除されたシーンが存在します。今回はタイトルや吳國敬による挿入歌の違いに加え、エンドロールや予告編から周星馳が考えていたアイディアを探りたいと思います。 |
| 香港版 | 台湾版 |
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| 「國產凌凌漆」 | 「凌凌漆大戰金鎗客」 |
| 香港版のタイトルの意味は「国産007」です。この「国産」は中国側から見ての意味なため、日本側から見た「和製」の意味とは異なります。「凌凌漆」は最初の「凌」が苗字で「凌漆」が名前なのですが、続けると「零零七」と同音なため、スパイ映画「007」のコードネームと同じだと言うギャグです。 台湾版の方は「007 VS 黄金銃を持つ男」の意味になります。こちらは「007 黄金銃を持つ男」(原題:The Man With A Golden Gun)の台湾題「鐵金剛大戰金槍客」のパロディとなっています。 同音が多くある中、当て字として「凌凌漆」が選ばれたのは「凌凌」に「寒々とした様子」、そして、「漆」に「(うるしのように)黒い、暗い」と言う意味がある事から「クールで陰のあるスパイ」をイメージしたのだと推測できます。また、周星馳が母親・凌寶兒の苗字から取った可能性も高いでしょう。 |
| ここからは香港版の予告編、エンドロールで使われたシーン、現存するスチールなどから当初、周星馳が思い描いていた「國產凌凌漆」の物語が、どんな形だったのかを推測していきます。基本的に映画の流れに沿って紹介しているため、様々な資料が混在する事を先にお伝えしておきます。 |
| こちらは予告編にある凌凌漆(周星馳)がドライマティーニを飲むシーンです。本編と異なり、凌凌漆が初めからエプロンのポケットに手を入れたまま、グラスを持ち上げています。そこがNGになったとも考えられますが、カメラが距離を詰めている事から、当初は凌凌漆のクールさを存分に見せるため、グラスを持つまでのシーンも長く撮られており、グラスを持つ所から、このカットに切り替える予定で撮ったのではないかと推測できます。なお、このシーンは約3秒しか残っていません。 |
| こちらはスチールでのみ残っている物で、達聞西(羅家英)が合言葉である項羽の詩「垓下歌」を詠んだ事で、浸っていた世界から現実に戻った凌凌漆がグラスを落としています。 多分、このシーンは現場で撮られており、本編にあるアップになったグラスが落ちる前に入るはずだったのでしょう。しかし、テンポを重視して、未採用となったのだと推測できます。 ちなみに映画での「垓下歌」は途中で達聞西が「阿漆か?」と声をかけた事で途切れましたが、全文は次の通りです。
…この意味も以下に記しますが、最初の二文の途中までは実際は非常に有能なのに、10年も肉屋として待機させられている悲しき凌凌漆の実情を的確に表しているのでした。 |
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| 私の力は山をも動かすほど強く、その気は、この世を覆いつくすほどだと言うのに、 時勢は私に不利であり、(愛馬の)騅も進もうとしない。騅が進もうとしないのを、 どうする事もできない。(愛人の)虞姬よ、虞姬よ。そなたの事を一体、どうすれば良いのか。 |

| こちらもスチールでのみ残っている物で、三角公園で凌凌漆と会う李香琴(袁詠儀)の表情が本編と違っています。当初は李香琴が警戒心を持たれないように笑顔で近づく予定だったのではないかと思うのですが、周星馳が現場で「帽子を脱いだ凌凌漆が挨拶するシーン」を思いついたため、李香琴が潰れた髪型を笑うシーンをリハーサルなしで撮って、本編で採用したように思えます。 |

| こちらはエンドロールにある、凌凌漆が李香琴の家で自分が落とした「健牌」(KENT)の吸い殻を発見する前に入る予定だったシーンです。セクシー女優のように凌凌漆が腰や胸を突き出す仕草を行い、李香琴に見せています。凌凌漆の性格上、これが本気なのかギャグなのかは不明ですが、中華圏では「凌凌漆が体でS字を描くように踊り、李香琴を誘惑するシーン」と言われていました。 ちなみに台湾版では凌凌漆のタバコが地元の銘柄「長壽」(LONG LIFE)に変えられています。こちらは蔣中正(蔣介石)の70歳を祝って命名された物なのですが…、何だか矛盾と揶揄を感じます。 加えて、吸い殻を発見した凌凌漆の問いに李香琴は「吸わない。」としか言わないのですが、中文字幕は「不吸,幹嘛?」(吸わない。どうして?)となっています。…当初の台詞の名残でしょうか? |
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| 凌凌漆の動きに李香琴が笑っています。…が、次の瞬間、彼女の顔から笑い消えています。ここは李力持のカットの声がかかったため、袁詠儀が素に戻ったように見えますが、凌凌漆の一言が彼女を怒らせるシーンだったのではないかと思います。動きに合わせて凌凌漆が下品なギャグを放った確率は高そうですが、あまりの急な変化から、この時点で李香蘭が売国奴だと言うに話を凌凌漆が口にした可能性もあるかもしれません。音声が現存していれば、ぜひ聞きたい所です。 |

| 続くシーンでは李香琴が親指を立てて、「Good」を示したため、凌凌漆が照れたようにしています。表情が見えないため、あきれて「もう十分」と言っているようにも思えますが、真意は不明です。なお、一連のシーンは約13秒あるのですが、冗長を嫌う周星馳は本編に組み込みませんでした。 |
| あらすじ |
| 有史以来、最大の恐竜の骨が中国で発見された。しかし、頭骨は事もあろうに何者かに盗まれてしまった。警備を担当していたスパイも殺されたが、死ぬ間際に強盗は手に黄金銃を持っていると言う事だけが、わかったと言う。すでに頭骨は香港に密輸され、黒社会に売られる準備が行われている事を調査した当局は、凌凌漆(周星馳)を特派員として香港に行かせ、黄金銃を持つ男の行方を捜査し、悪事を止めて、頭骨を持ち帰らせようとする。すぐに凌凌漆は揃えた秘密武器を持って香港に行き、任務を遂行。当局は香港に駐在するスパイ・李香琴(袁詠儀)を手配し、凌凌漆の補佐をさせた。李香琴は凌凌漆に対して非常に冷淡で、軽口を叩いたりしないのだが、凌凌漆は不思議に思うあまり、李香琴に対して興味を持ち、あの手この手で李香琴を笑わせ、楽しませた。凌凌漆と李香琴は情報提供者と約束し、デパートで会った時、意外な事に凶暴な強盗が武器で宝石店の宝石を強奪している所に遭遇する。情報提供者も強盗に殺されてしまうのであった…。 |
| こちらは台湾版VCDのパッケージに書かれた映画のあらすじの翻訳です。色を変えた部分が本編と異なる事から企画段階の物なのではないかと推測できます。そもそも、本編で凌凌漆がデパートに行った理由は語られていませんが、周星馳は元から流れの関係で湖南省の強盗(曾守明)を登場させるつもりだった気がしてならず、巻き込まれた情報提供者が殺されて凌凌漆が反撃する部分に強い理由をつけようとした結果、德仔と父親(梁小熊)が出る脚本に変えたようにも思えます。 ちなみに香港版と台湾版では、強盗たちと凌凌漆の出身の地域が異なっています。
実は、これらの出身地は当時の犯罪者に関係する物なのです。香港版の方は1970年~1980年初頭、湖南省出身の犯罪者グループ「湖南幫」が隣接する廣東省を経由して香港に密入国し、ガソリンスタンドやタクシーなどから現金を強奪していた事件を風刺しています。そして、「草頭鄉」は韻を踏んでいる「草頭王」(土地に住む匪賊のボス、つまりは曾守明の役。)を暗示しているのでした。 台湾版の方は1980年1月、山東省出身の李師科が台北で警察を殺して銃を奪い、1982年4月に、その銃で銀行強盗を行った事件を風刺しています。ただ、李師科は濰坊市の昌樂縣出身なため、その後に続く濟南市が1928年に日本軍と、タバコの話でも登場した蔣中正が率いる國民革命軍との武力衝突事件である「五三惨案」(濟南事件)の事を暗示している可能性も考えられるのでした。 |
| こちらもエンドロールにあるシーンです。周星馳は繰り返しのギャグを得意としていますが、凌凌漆が「喼神」で賴有為(梁克遜)の屋敷に潜入するも失敗するパターンが、もう一つありました。遠くへ飛び過ぎた凌凌漆が屋敷の裏口の前へ戻るためにタクシーを使用し、料金を支払わせています。 |
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| 「喼神」(台湾版では「箱神」)を設置し、その上に乗った凌凌漆がリモコンのボタンを押します。 |
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| 再度、カメラが足元を映した後、垂直に飛び上がる凌凌漆。その様子を李香琴が見ています。 |
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| 手を広げて飛ぶシーンは凌凌漆の手の動きや煙の出方などから、本編と同じ物が使われているようです。しかし、これ以外のシーンは本編と一見、似ているようで、同じ物は使われていません。 |
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| 空を見上げ、飛んで行った凌凌漆を待つ李香琴。そこへタクシーが到着し、右手で「すまん!すまん!」と言う感じのジェスチャーをする凌凌漆が下りて来たかと思うと、すぐに彼女にお金の催促をします。気が立っている李香琴はお金を叩きつけるように渡し、凌凌漆は支払いを済ませます。 ここは屋敷への潜入だけでなく、德仔の香典に続く凌凌漆の文無しを伺わせる部分も含んでいるため、本編に組み込んでも良かったのでないでしょうか。なお、一連のシーンは約20秒あります。 |
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| こちらは予告編にある、屋敷のプールの前で水着の美女たちに囲まれた凌凌漆がタバコに火をつけた後、銃を手に持ってポーズを決めるシーンです。約17秒あり、当初は突如、現れた奇抜な凌凌漆を珍しがった美女たちが、彼に記念撮影を求める流れだったのではないかと思っています。 多分、凌凌漆が跳ねる女性の胸を見ながら李香琴に状況を伝えるシーンの前に入る予定で、ここで彼が言う無厘頭な「すごく危険だ!ここの客は誰もが凶悪な顔つきをしている。しかし、非常に和やかで親しみやすい。」の台詞には何となく、この削除シーンの名残が見えるような気がします。 |