ファイト・バック・トゥ・スクール3 台湾版 ~第二章~

本編から削除されたシーンの紹介は前章で終了となります。ここからはギャグや珍しい物を中心に香港版とは異なる、台湾版で独自に変えられた國語の台詞に注目していきたいと思います。

黎Sirが名乗る人物

台湾版

香港版 周星星:一日中、自分を「ダーティーハリー」のクリント・イーストウッドだと名乗っている。
台湾版 周星星:一日中、自分を「ダイ・ハード」のブルース・ウィリスだと名乗っている。

台湾版はクリント・イーストウッドでないと黎Sirのオフィスに飾られたポスターとの繋がりがなくなります。ちなみに香港版の英語字幕も台湾版と同じくブルース・ウィリスになっているのでした。

周星星はカニバサミの達人

台湾版

香港版 周星星:「鬼仔無影手」に「九陰白骨腳」も数十年の技量がある。
台湾版 周星星:「奪命剪刀腳」に「降龍十八掌」も数十年の技量がある。

香港版の「鬼仔無影手」は「ドランク・モンキー 酔拳」(原題:醉拳)で閻鐵心(黃正利)が使う技、「九陰白骨腳」は金庸の小説「射鵰英雄傳」の梅超風が使う「九陰白骨爪」から来ているようです。

台湾版の「奪命剪刀腳」(命を奪うカニバサミ。香港名は「奪命鉸剪腳」。)は「逃學威龍」で周星星が使い、「賭俠II之上海灘賭聖」でも周星祖(周星馳)が使っていました。「降龍十八掌」も同じく「射鵰英雄傳」に登場する技ですが、「武狀元蘇乞兒」でも蘇察哈爾燦(周星馳)が使っています。

ここで「降龍十八掌」の名称が出ると直前に黎Sirに懇願する周星星が自分の事を「憐れな蘇乞兒」と言うシーンに上手く繋がりますし、前章でも触れた回し蹴りの「神龍擺尾」(「降龍十八掌」の技の一つ)が後半に登場するのは、ここで伏線を張ったとも考えられます。…何はともあれ、このように別作品よりも他の周星馳映画に触れる台湾版の方が個人的には取っつきやすさを感じます。

湯茱廸の名前の間違い

台湾版

香港版 黎Sir:あなたが劏豬櫈…じゃなかった!湯茱廸ですよね?
台湾版 黎Sir:あなたが湯豬皮…じゃなかった!湯茱廸ですよね?

香港版の「劏豬櫈」は「屠殺用の豚のベンチ」の事ですが、死を避けきれない場所に豚を強引に命令して行かせる事から転じて「夫を尻に敷く」「夫と相性が悪い」の意味があります。台湾版の「湯豬皮」は「豚の皮を煮込んだスープ」の意味ですので、香港版より失言の度合いは低いです。どちらも「湯茱廸」と発音が似ている事が言い間違えのギャグになっていますが、日本語字幕版では表現が難しいため取り上げず、吹替版では「シャロン・ストーン」と言いかける形を取っています。

ちなみに英語字幕では…、

香港版 黎Sir:あなたがJelly Tong。…いや、Judy Tongですね?
台湾版 黎Sir:あなたがChasty Tang。…いや、と言いますか、Judy Tangですね?

…と言う風に香港版が似た英語名を出していたのに対し、台湾版では「Chesty」(胸が大きい)に似た英語名を出す事で本作のジャンルの一つと言えるエロティックさを強調しているように思えます。

日本の使用人・便所紙子の名前

台湾版

香港版 湯茱廸:呢卷廁子は私たちの日本の使用人よ!

周星星:はぁっ!?この巻いているのが便所の紙だって!?

香港版で朱咪咪が演じる使用人の名前は「呢卷廁子」です。「呢卷」は「この巻いた物」の意味で、日本人女性に多い「~子」に合わせた「廁子」は「廁紙」(便所紙)と同音なため、周星星は結われた彼女の髷の事をトイレットペーパーだと言っているのかと勘違いしています。ちなみに香港版の英語字幕では「Toilet Paper」に似せた「Toiletpapa」と言う非常に面白い名前を使っているのでした。

これに対し、台湾版では…、

台湾版 湯茱廸:彼女は私たちの日本の使用人・磨坊廁子よ。

周星星:「茅房廁紙」(便所の紙)だって?

…と言う風に、ギャグに合わせるため、使用人の名前は「茅房廁紙」(mao2 fang2 ce4 zhi3)に良く似た発音の「磨坊廁子」(mo2 fang2 ce4 zi3)に変えています。ちなみに英語字幕では「Noriko」となっており、これは「廁」の字に含まれる「則」(のり)から来ているのでしょうが、残念な事に「廁」は日本語で「のり」と読まないのでした…。しかし、日本人要素を英語字幕に含めた点は上手いです。

余談ですが、香港版では新年に訪れた黎Sirに首を絞められそうになった周星星が、名前だけ登場する使用人の「阿四」にお茶を出すように頼みますが、台湾版では「磨坊廁子」に頼みます。

弟同然の飼い犬の名前は周星馳?

台湾版



周星星:Dolly!Dolly!Dolly!…David、Peter、Maria、Rose、Gigo!
     ジョルジオ・アルマーニ!Valentino(ヴァレンティノ)!
     Franciano(フランシアーノ)!王晶!吳孟達!陳嘉上!

(犬に咬まれる周星星。そして、夕食のシーンになる。)

周星星:あの犬は殺処分すべきだ!

湯茱廸:あの犬の名前はDollyよ!あなたは名前を忘れちゃったの?

周星星:おい!俺は奴を何度もDollyだと呼んだぞ!

湯茱廸:「Dollyよ」なのよ!「Dollyだ」じゃないわ!つまり、「よ」の字で言い争っているの。

香港版は周星星が英語の名前を叫んでいる途中に急にイタリアのファッションブランドの名前を出しますが、Valentinoの後に「弗爛事安奴」(Franciano)と言っていました。これはイタリア語で「フランシアン語」の意味です。この言葉の登場に深い意味があるのかは不明ですが、単に勢いに乗って韻を踏んだだけにも思えます。続いて登場する3人は「逃學威龍」に深く関わる監督と俳優です。(なお、日本語吹替版で「Franciano」は同じくブランドの「フェラガモ」の名称に変えられています。)

あえて日本語で表現した「Dollyよ」と「Dollyだ」の部分ですが、原語では「Dolly囉」と「Dolly啦」です。粵語の辞書によると「囉」は「~じゃないか。」と言うように話の中での解決を表す語気を示しており、「啦」は「~だね。」と言うように現在の事態に関する事を表す語気を示しているとの事です。

ちなみに英語字幕は「Dolly囉」→「Dolly羅」→「Dolly Law」と進化させ、これを犬のフルネームとし、周星星は苗字の「Law」を言わなかったから通じなかった事になっています。日本語字幕や日本語吹替版では「Dollyよ」と「Dollyだ」では通じにくいので、この英語字幕から翻訳を行っていました。

これに対し、台湾版では次のようになっています。



周星星:媚妞(美しい女)!媚妞!媚妞!…傻妞(馬鹿女)!胖妞(デブ女)!老妞(老けた女)!
     馬妞(マー・ニウ)!俏妞(おしゃれな女)!小妞(女の子)!
     恬妞(ティエン・ニウ)!萬梓良!吳孟達!王晶!周星馳!

(犬に咬まれる周星星。そして、夕食のシーンになる。)

周星星:あの犬は、さっさと安楽死させるべきだ!

湯茱廸:あの犬の名前は「媚妞」(mei4 niu1)よ!あなたは名前を忘れちゃったの?

周星星:おい!俺は奴を何度も「媚溜」(mei4 liu1)と呼んだぞ!

湯茱廸:「媚妞」の「妞」なのよ!「溜」じゃないわ!その「溜」の字が違っているの!

まずは「女」を意味する「妞」が数多く登場しています。最初は女性を馬鹿にしたような言葉が多かったのに対し、だんだんと、犬が迫って来ている事から「俏妞」などと褒め始める所が笑えます。

また、「馬妞」は台湾の女優である馬維欣がテレビ番組の司会を行う際に使用する芸名です。なぜか突然、人名を出して笑わせた所で次に香港でも活躍している女優の恬妞の名前を出し、続けて本作公開の前年(1992年)に彼女の伴侶となった萬梓良の名前を出し、畳みかけるように吳孟達、王晶と「逃學威龍」に関わる俳優と監督を出した所で、とどめの一撃に自分自身の名前を出すと言う一連の流れは「他來自江湖」も頭によぎらせる事から、本当に見事としか言いようがありません。

そして、犬への呼びかけが通じなかった理由が、実は周星星の発音が訛っていたと言う事になっていますが、「媚溜」は「美人で(肌が)すべすべ」の意味です。さらに台湾版の英語字幕での名前は「Charming」が正しく、周星星は「Charmy」と呼んでいた事になっています。しかし、初めて会った犬の名前を偶然にも最初に当てる周星星には驚きます。これこそが第七感の力なのでしょうか。

黎Sirは黎明?それとも李小龍?

台湾版

香港版 黎Sir:私が黎Sirじゃない?私をレオン・ライだと思っていませんよね?
台湾版 黎Sir:当然です。それとも、私がブルース・リーだとでも?

こちらは英語字幕からの紹介です。電話を受けた黎Sir(台湾版は「黎警司」)は香港版も台湾版も同じ苗字の俳優・黎明の名前を出しているのですが、香港版の英語字幕が正しく「Leon Lai」と翻訳されているのに対し、台湾版の英語字幕は「Bruce Lee」となっているのです。これは「黎Sir」の香港版の英語字幕が「Officer Lai」なのに対し、台湾版の英語字幕が「Mr.Lee」となっているからなのですが、英語字幕を読む外国人には国際スターの方が笑えると判断したからかもしれません。

車…ではなく、エレベーターが急停止

台湾版

香港版 周星星:クソガキが!むやみに道路に立ちやがって!轢き殺すぞ!
台湾版 周星星:馬鹿野郎!何で、むやみにエレベーターのボタンを押しているんだ?死ね!

エレベーターで降りているのに車を運転している感覚で急ぐ無厘頭なシーンですが、香港版の停止しても現実に戻れていない事が伝わる台詞が素晴らしく、周星星の焦りと緊張が強く伝わります。台湾版は現実的ですが、倫理的な問題を考慮した結果、変えた可能性が高そうですね…。

悶えるのは自分の足の臭さ

台湾版

香港版 周星星:アイヤー!足がつった!あっ!あっ!あっ!あっ!
台湾版 周星星:アイヤー!俺の足は何でこんなに臭いんだ?臭くて死にそうだ!ああっ!

足で筆や箸を持つ伏線が回収された、足で拳銃を撃つシーンですが、香港版は単純に面白くないと判断されたのか、台湾版では周星星は足の匂いに苦しんでいると言う風に変えられています。

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